その髪は白。雪が溶け込んだような白銀だった。
髪は鳳初と同じ切られ方をしていた。
その右目は閉じられている。しかし左目の金色から容易に
金であるのだろう、と考えられた。
腰には金色の柄に赤い柄巻のされた刀を差している。
その雰囲気は優しさと厳しさを混ぜ込んだ、兄のような雰囲気だ。
立ち振る舞いにも隙がなく、ただ強いと本能に訴えかける気迫がある。
そのままゆっくりと歩きながら大和撫子のような女性の後ろに歩いていく。
そして、その臀部に手を添えた。
「ひゃう!?」
「よう大和、今日もいいケツしてるな。」
「死ね!」「ヘモグロフェリン!?」
今日も彼、「白金 王狐(しらかね おうこ)」の鎮守府は平和である。
「提督、仕事はちゃんとやってください。」
「終わってる、大和。確認してもいいぞ。」
「....はぁ、いいです。提督はそこら辺はきっちりしてますから。」
ため息を吐きながら大和はそういう。
それを見た王狐は愉快そうに笑いながら刀の手入れを始めた。
よく見ると薄く赤いその刃が光を受けて鈍い赤銀の光を放つ。
王狐と呼ばれたその刀は一瞬だけ輝きを増したように見えた。
その刃を見つめる白金の表情は真剣そのものだ。
(こうやって真面目な顔してると格好いいのになぁ....)
「.....絶対、折れてはならない、か....」
「?」
珍しくため息をはく白金、その様子に大和は小首を傾げることしか
出来なかった。刀を綺麗な、洗練された動作で鞘に納める。
その仕草だけで絵になるのは彼が刀を芸術的に魅せる程に使いこなせるからだろう。
大和の視線に気づいたのか見つめ返すように大和を見る。
気恥ずかしくなったのか大和はプイ、と顔を逸らした。
小首を傾げてから海を見る。
やはりというべきか流石というべきか。
研究所を破壊して以来色んな所から攻撃を受けてしまう。
そう、今正に沢山の銃口が此方を向いているのだ。
大和が気づき、艦装を向ける刹那、その瞬間に引き金が
引かれ、銃弾が飛び交う、筈だった。
「白金流.......鷲」
執務室の開け放たれた窓から弧を描くように赤い剣閃が通る。
銃口、銃身、そしてその人間の腕、首が飛ぶ。
血液が溢れ、飛び散るその中で刀を構え直す姿は正に冷徹な白だった。
瞬間つむじ風のように赤い剣閃が銃口を、銃身を、その体を通る。
それから一瞬遅れてその斬られた全てがズルリと斜めにずれた。
「白金流....桜」
まるで降り注ぐ花びらのように血液が舞う。
それと大和が砲身を向けたのは同時だった。
撃ち込む前に終わっていた戦いに大和はその実力を再確認する。
そして、その顔を見て顔を赤く染めた。
凛々しく、気高く、そして何者も寄せ付けない程の気迫。
大和はこの鎮守府で一番最初に来た艦娘だった。
色々なことがあって、自分が轟沈しかけて。
そんなときに彼が助けてくれたのだ。
ボロボロになった体、硝煙の匂い。
金剛さんも、時雨ちゃんも、皆が疲弊していた。
容赦なく撃たれる魚雷、艦載機の爆撃。砲撃の雨。
私が、ここに残るしかなかった。
「金剛さん、皆を連れて逃げて下さい。」
「でも、大和さんが危ないデース!早く一緒に...!」
「全員で逃げたら、誰があの攻撃の矛先を逸らすというの!?
....大丈夫、私は沈みませんよ、提督の相棒ですもの。」
「....!」
金剛さんは唇を噛みしめてから反転し、皆を連れて撤退し始めた。
それを見てから前を向く。そして艦載機に狙いをつけて砲撃を何度も撃ち込んだ。
それでも空襲は止まらず落ちてくる。
それを避ければ砲撃、魚雷。数分も経たない内に体は動かなくなった。
砲身が此方に狙いを定める。
そうして、銃爆が響き渡った。
甲高い金属音と共に。
目の前を覆う影。
鈍く輝く赤い刀、深海悽艦のフラグシップ同様に黄金の
オーラを纏い金色の瞳を揺らめかせていた。
提督だ。
来てくれた嬉しさよりもあの危険に対する恐怖が先に来る。
「提督...逃げて!あれはも「大和に....」
「大和に何をしたァアアアァアアアア!」
目を見開き、口を大きく開け放ち、覇気と殺気の放出しながらの
絶叫にも似た咆哮。それは威厳に満ち溢れた大きな妖狐。
白面金毛九尾の狐のようだった。
「ファーストプロテクト、ディサピア!セカンドプロテクト、ディサピア!
戦闘用回路接続、戦闘プログラム、三次元的演算システム起動!
感情連動型システム、イド、起動!
イデア・プロトタイプ......オーバーロード!!」
金色のオーラがその体を包む。
赤銀に輝く刀の煌めきが増し、美しく危険な揺らめきを魅せる。
堅く閉じられていた右目は金色の光を宿し、左目は白銀一色に染まっていた。
歯をむき出しに怒りを露わにして、黒い深海悽艦を睨んでいた。
息を吐く音が獣の吐息に聞こえる。カハアァァ....という音が響く。
深海悽艦はそれをみてケラケラと笑い、砲撃を開始した。
それに対して提督は刀を斜めに構えながら前に歩くだけだった。
砲弾がその眼前に現れる、と同時に斜めに崩れ、爆発する。
それを冷たい目で見つながらゆっくり歩く。
次は艦載機の爆撃が襲う。
爆撃の雨、それを歩きながら刀で受け流していく。
黄金の光を揺らしながら歩き、刀を鞘に収めた。
瞬間、水面から水の柱が立ち上がる。
しかし、それによる被害は無かった。
爆発する瞬間に横にズレることで避けているのだ。
柄に手をおいた瞬間、深海悽艦の腹に柄が突き刺さる。
そのまま刀の峰が振り上げられた。
「崇め跪け.....」
黄金の揺らめきが刃を象る。
叩きつけられた黄金の色が強まりはじめ、
黄金が九つの尾を引いた。
「さすれば気高く喰ろうてやろうぞ.....」
黄金の刃が上顎と下顎のように開く。
下顎が突き刺さり、それから上顎が閉じられた。
金色が散り、黄金の羽が舞い散る。
深海悽艦は吹き飛び転がる。気絶だけだろう。
その瞳は金色の光を揺らめかせながら呟いた。
「.....貴様は、失格だ。」
コートがはためき、金と銀の瞳が軌跡を残す。
右目がゆっくり閉じられた。
瞬間、咳をこみ、その場に膝をついた。
指の間から赤い液体が流れる。
「ガフッ.....ぐ...ぅ....」
「て....提督....!?」
「無事だったか?大和....!」
ヨロヨロと歩きながら大和に近づく。
その口の端からは赤い液体が流れ、水面に赤い波紋をつくる。
それでも笑ってみせる辺りやはり強いのだろう。
「提督、どうして私達にここまで命をかけれるんですか!?
私達は道具、いくらでも代わりはいるんです!
あなたは....一人しか...いないのに....うぅ...!」
「....お前は、お前以外に代わりはいない.....お前は、お前自身は
ここにしかいないッ!......悲しいことはいうな....!
それをいうっつーことは、俺と、俺の弟妹への、そして、
お前への侮辱だ.....ッ!」
大和の体が抱き寄せられる。
王狐の顔は血液と涙でグシャグシャだった。
掠れるような声が絞り出される。
「心配させやがって.....!大和ぉ....!
もう、居なくならないでくれ、誰にも、消えてほしくは...
お前に死んでほしくは....ないんだよぉ....!」
「提督....ごめん....なさいぃ.....!」
「提督。」
「おぅ?」
「私、さっきのレ級とに戦いでレベルが99になりました。」
「......
お前に、これを受け取ってほしい。」
大和が手を向ける。
その手をとり、その薬指に指輪をはめた。
綺麗なシルバーリングに金色のクリスタルがはめ込まれた指輪だ。
「俺は、お前が好きなんだ。大和。」
「私も、貴方が好きなのよ、王狐。」
「まったく、人のお尻なんか触っちゃって...!」
「怒るなよ、しょうがねぇじゃん可愛いんだもん。」
「その.....そういうのは、夜にお布団で....ね?」
赤くなりながらモジモジとする大和。
王狐もそれは予想外だったのか、顔を赤くした。
それをみた大和は少し唖然としてからニコリと微笑み、
王狐の腕に自分の腕を絡ませた。
「私は、ずっと貴方のそばで、頑張ります。
不束者ですが、末永く宜しくお願いします、ね?」