蜘蛛子さんの休暇、スライムを添えて。   作:自称最悪の邪神

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ファーストコンタクトってやつですね

 バキッ!!

 

 やっっっば!

 ねえなんでこんな所にトッテモいい音の鳴る枝があるんですか?!

 

 咄嗟に斜め上程の所の木の枝に糸を射出し引き寄せることでその場から離脱する。

 直後、巨大な蟻は私のいた場所に向かって突進して来た。

 その図体に見合わず、だが虫らしい機敏な動きでの突進の威力はその質量も相まって凄まじい。

 木々をなぎ倒しながら獲物を探すその姿に、木の上で私は震え上がった。

 まーじで一般現代蜘蛛っ子が太刀打ちできる相手じゃないんですが。

 

 蟻はさっきまでその場にいた私の事をまだ探しているようで辺りをキョロキョロと見まわしている。

 早いとこココから離れないと。

 今避難している木や周りの木まで倒されて逃げ道を潰されたらたまったものではない。

 そうして蟻を観察しながら逃げる算段を立てていると、蟻と目が合ったような気がした。

 

 ……あ、ドーモ。

 同じ虫同士仲良くしましょうネ。

 ……ですよね蟻酸吐いてきますよね私なんて只のエサですよねー!

 コンチクショウ!

 

 私の乗っている木の枝に対して蟻が蟻酸をかけてくる。

 となりの木に飛び移って避ける。

 これは何処に向かって逃げればいいんだろう?

 いつまでもこうして逃げていられない。

 この蟻にも縄張りはあるだろう。

 その範囲を早いところ抜けられればいいんだけど、そこまで行けるだろうか?

 私の体力にも限界はある。

 というか体力は乏しいほうだ。

 今にも糸が出せなくなって力尽きてもおかしくない。

 

 そう思った瞬間、背筋を冷たいものが走る。

 

 何か来る。

 視界の端で、黒い影が弾けた。

 

 地面を蹴る音が一つ、二つ、三つ。

 重たいはずの質量が、風みたいに軽く森を裂いて走る。

 

 え、なにあれ速っ。

 

 漆黒の毛並みをした狼が、木々の間を滑るように駆け抜けてきた。

 しかも一匹じゃない。

 三、四……いや、もっといる。

 

 その先頭に

 

「っと、ビンゴっす。やっぱり巣穴近くにいたっすねー」

 

 軽い声。

 

 木の幹に背を預けるようにして立っているのは、緑色の肌の青年。

 丸い鼻に丸い顔。年は……見た目だけなら若い、人間で言えば二十歳前後くらい?

 手には短い刃物。

 小刀、ってやつか。

 

 え、誰。

 人間? にしては色がアレだし、でも魔物にしてはやたら人っぽいし。

 

 困惑している間にも、巨大な蟻は新手に気付いたらしい。

 私への執着を一瞬で切り替え、ギチギチと顎を鳴らして突進体勢に入る。

 

 あ、そっち行くんだ。

 いやまあそりゃそうか。

 デカい多いし食いでがあるの優先だよね。

 

「オイラたちが引き受けるっす。……あー、そこの白いのはそのまま上でじっとしてるといいっすよー」

 

 軽い。軽すぎる。

 いや待って、何その“近所の犬追い払う”くらいのテンション。

 

 相手、さっき私が必死こいて逃げてたやつなんですけど?

 

 蟻が突っ込む。

 地面が抉れる。

 木が軋む。

 その直線上にいた青年は

 

 

 消えた。

 

 

 え?

 と思った次の瞬間、蟻の頭上に青年はいた。

 

「よっと」

 

 軽い。

 二回目。

 小刀が、まるで紙でも切るみたいに、外殻の隙間に滑り込む。

 

 ギィィィィィィ!!

 

 耳障りな鳴き声。

 蟻が暴れる。

 でも青年はもうそこにいない。

 いつの間にか後方へ跳んでいる。

 代わりに、黒い狼たちが一斉に噛みついた。

 

 え、連携うっま。

 前脚に一匹、後脚に一匹。

 動きを止めるための配置がいやに的確。

 蟻が体勢を崩した、その一瞬。

 

「はい、ここっすね」

 

 再び、あの軽い声。

 首元。

 さっきと同じ“隙間”。

 今度は迷いなく、深く。

 

 ザクッ、と。

 

 あ、終わった。

 あっさりすぎるでしょ。

 さっきの私の命がけの鬼ごっこ、何だったの。

 

 巨体がぐらりと揺れて、ドシンと倒れる。

 森に、ようやく静寂が戻った。

 

「んー、サイズのわりに中身は普通っすね。巣も浅いっぽいし、増える前に潰して正解っす」

 

 青年は手についた何かを軽く払って、こちらを見上げた。

 ぱち、と目が合う。

 

 ……うん、完全に見られてる。

 

「で、そこの……白いやつ?」

 

 指さされた。私だ。そりゃそうだ。

 

「降りてこれるっすか? 話、聞きたいんすけど」

 

 えーと。

 

 どうしよう。

 この人(仮)、さっきのアレを“普通っすね”で処理するタイプなんですけど。

 

 でも、ここで逃げても別の蟻に会う未来しか見えない。

 私にはここがどこなのか、どうやったらこの森を抜けられるのか見当もつかない。

 

 うん、情報は正義。

 

 私は枝の上で一瞬だけ逡巡してから、糸を使ってするりと降りた。

 地面に着地する直前、反射的にアラクネ形態から人型へと切り替える。

 

 ふわり、と白い髪が揺れる。

 

「……お?」

 

 青年の眉が、ほんの少しだけ上がった。

 

 あ、しまった。

 やっちゃった感がじわじわ来る。

 もうちょっと早めに、っていうか気づかれる前に人型になっときゃよかった。

 木の枝の上での安定感を優先したばっかりに……

 警戒される? 

 されるよねこれ。

 

 沈黙、数秒。

 先に口を開いたのは、向こうだった。

 

「変わった魔物っすねー。まあいいや、敵意はなさそうっすし」

 

 軽いなオイ。

 それでいいのか本当に。

 

「オイラ、ゴブタっていうっす。パトロール中で、ここらの危険個体を間引きしてたとこっす」

 

 ……ゴブタ?

 

 ゴブリン、ってこと?

 え、私の知ってるゴブリンと顔面の方向性が違いすぎない?

 

 混乱が顔に出ていたのか、ゴブタは苦笑した。

 

「まあ細かい話は後っす。とりあえず、」

 

 ひらりと手を振ると、黒い狼の一匹がすっと隣に来る。

 金の瞳。艶のある漆黒の毛並み。静かな威圧感。

 

「ここ、あんまり安全じゃないっす。よかったら街まで来るっすか? リムル様に報告もしたいし」

 

 街!

 街があるのか!

 そりゃあね、そんな未開の地を旅行先として選ぶなんてありえないと思ってたのよ。

 いやぁ安心安心。

 よかったよかった。

 

 当たり前のことだけどね!!!

 

 

「……案内、お願いしてもいい?」

 

「了解っす。じゃ、ついて来るっすよ」

 

 くるりと背を向けて歩き出すゴブタ。

 その後ろを、黒い影たちが静かに囲む。

 私は一歩遅れて、その列に加わった。

 

 ……なんか、最初に思ったよりはまともっぽい? この“旅行先”。

 そうだといいな!!

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