「"
「……………!! 貴様っ!!」
(……許せ息子達。とんでもねェバカを残しちまった……おれはここまでだ。お前達には全てを貰った。感謝している。さらばだ、息子達……………!!!)
「……し……死んでやがる……………立ったまま!!」
「……………うぅ!」
「そ、そんな……………オヤジィ……!!」
『『『オヤジィィィイイイイイーーーっっ!!!!』』』
―――“白ひげ”死す!!!
死してなおその体屈する事なく―――頭部半分を失うも敵を薙ぎ倒すその姿、まさに“怪物”。
この戦闘によって受けた刀傷、実に―――二百六十と七太刀。
受けた銃弾百と五十二発。
受けた砲弾四十と六発。
―――さりとて、その誇り高き後ろ姿には……あるいはその海賊人生に―――
―――一切の“逃げ傷”なし!!!
享年七十二歳。かつてこの海で“海賊王”と渡り合った男……………!!
白ひげ海賊団船長“大海賊”エドワード・ニューゲート―――通称“白ひげ”
マリンフォード湾岸にて勃発した白ひげの海賊艦隊VS海軍本部及び王下七武海連合軍による頂上決戦にて……………死亡。
こうして混沌渦巻く群雄割拠の海賊の時代を駆け抜け、生きながら“伝説”となった彼の生涯は幕を下ろした……
…………筈だった。
「…ここはいったい何処なんだ?俺はたしかにあの時死んだはずだ」
気がつけば彼は、見知らぬ街の路地裏に立っていた。
失った筈の心臓の鼓動を感じる。先程までに感じていた走るような激痛も、赤犬の攻撃により失っていた顔の右半分も、それどころか敵から受けた攻撃の跡までもが綺麗に無くなっていた。
更に驚くことに彼の姿はライバルである海賊王ロジャーや海軍の英雄ガープなどと数えきれない程の殺し合いをしていた頃の全盛期の姿に若返っていた。
「どうなってやがる……?」
大海賊として様々な経験を積んできた白ひげとてさすがにこの状況は理解が及ばず、ただただ困惑の表情を浮かべるだけだった。
「何かしらの悪魔の実の能力でここへ飛ばされちまったってェのか?こりゃあ」
この場にずっといても仕方がないので辺りを探索してみようとしたその時、騒がしい足音と共に、一人の少女が路地裏に入り込んできた。
「ハァ、ハァ……! もう、あいつら、しつこいんだから! 眷族(ファミリア)もいないボクを捕まえてどうしようっていうんだ!」
背の低い、青いリボンが特徴的な黒髪の少女。彼女は背後に迫る追手から逃れるように角を曲がり、そこで立ちふさがる「巨大な壁」にぶつかった。
正確には、壁ではない。それは人間を遥かに超越した巨躯を持つ、一人の男だった。
「……騒がしい小娘だ、次からは前を見て走るんだな」
地響きのような低い声が頭上から降ってくる。少女——女神ヘスティアは、恐る恐る顔を上げた。
そこには、威圧感の塊のような巨漢が立っていた。燃えるような鋭い眼光、そして何より目を引くのは、三日月のように反り返った立派な白い髭。
「ひ……っ!? な、なんだい、キミは……!? 人間……いや、巨人の眷族か? でも、神の恩恵(ファルナ)の気配が全くしないぞ……?」
ヘスティアが驚愕に目を見開いていると、路地裏の入り口から柄の悪い冒険者たちが武器を手に現れた。
「おい、ちびっ子女神! 逃げんじゃねえよ。弱小ファミリアの主なら、大人しく俺たちの条件を飲んで——」
男たちの言葉が止まった。彼らの視線が、ヘスティアの背後に立つ「白ひげ」に注がれたからだ。
「おい……なんだあのデカいのは……」
「聞いたことねえぞ、こんな冒険者。所属はどこだ?」
「おいハナッタレども、ガキ一人に随分とみっともねェ真似してるじゃねェか」
「あ、あんだと!?どけよ、このデカブツ!ぶち殺されたいのか!」
「なんだァ俺とやろうってのか?」
ギロッ!!
「「ヒイィィィィィ!!」」
「チッ…戦う度胸もねェハナッタレどもが」
静寂の戻った路地裏ではヘスティアが腰を抜かしていた。
少女——ヘスティアは、目の前の巨躯から視線を外せなかった。
(……おかしい)
神である彼女には分かる。人間でも、亜人でもない。かといって魔物でもない。
“何にも属していない存在”。
それが、目の前の男——
エドワード・ニューゲートから感じられる違和感だった。
「……キミ、本当に何者だい」
さっきまでの軽さは消え、声には明確な警戒が混じっていた。
白ひげはゆっくりとヘスティアを見下ろす。
「俺か?おれァ“白ひげ”だ」
「そういう話じゃない。神の恩恵(ファルナ)が無いのに、その圧は異常だ。……正直に言うと、ちょっと怖い」
「グララララ……正直な小娘だ」
笑っている。だが威圧は消えない。
むしろ——濃くなる。
その瞬間。
「——そこまでだ」
路地裏の入り口から、新たな声が割って入った。数人の武装した男たち。だが先ほどのチンピラとは明らかに違う。統制が取れ、装備も洗練されている。
「ギルドの通報を受けて来た。未確認の大型存在が出現したとな」
彼らの視線は、完全に白ひげに固定されていた。
「……人型、だが……魔物か?」
「いや、魔力反応が妙だ……」
ざわつく隊列。
白ひげは鼻を鳴らした。
「さっきから好き放題言ってくれるじゃねェか」
一歩、踏み出す。
それだけで——空気が軋んだ。
「——構えろ!!」
リーダー格の男の声で、全員が一斉に武器を向ける。
その瞬間。
「やめろ!!」
甲高い声が響いた。
ヘスティアが、白ひげの前に立ちはだかる。
「この人は敵じゃない!!少なくとも、今は!!」
「ヘスティア神!?しかし——」
「責任はボクが持つ!!」
言い切った。
場が止まる。
白ひげは、その背中を見下ろしていた。
小さく、頼りない背中。
だが——逃げていない。
「……グララララ」
低く、笑う。
「面白れェじゃねェか、小娘」
そしてゆっくりと武装集団を見渡す。
「安心しな。おれァ、こんなとこで暴れる気はねェ」
「……本当か?」
「おう。今はな」
「“今は”だと……?」
ピリ、と緊張が走る。
だがその時、ヘスティアが振り返った。
「ねえ、キミ……さっき言ってたよね。行く宛が無いって」
「あァ」
「だったら……ボクのファミリアに来ないかい?」
空気が凍る。
ギルドの人間たちが一斉にヘスティアを見る。
「ヘスティア神、正気ですか!?その存在は明らかに——」
「分かってる!!」
遮る。
「分かってるけど……それでも」
一拍。
「この人、悪い人じゃない」
沈黙。
そして——
「家族、みてェなもんか?」
白ひげがぽつりと呟いた。
「え?」
「ファミリアってのは、家族みてェなもんなのか?」
ヘスティアは、少し驚いた顔をしてから——強く頷いた。
「うん!!そうだよ!!」
「……グラララララ!!」
白ひげが、腹の底から笑った。
空気が震える。
だが今度は、恐怖だけではない。
「俺を家族に誘うなんておもしれェじゃねェか」
ドン、と地面を踏みしめる。
「いいぜ、入ってやるよ、その“ファミリア”とやらによ」
「本当かい!?」
「おう。ただし——」
白ひげの目が細まる。
「つまらねェ真似はさせるなよ、小娘」
「……任せてよ」
ニヤリと笑うヘスティア。
その光景を、ギルドの男たちは黙って見ていた。
(とんでもないものを抱え込んだぞ……あの女神は)
誰かが、小さく呟いた。
こうして。
迷宮都市オラリオに——
“規格外”が、正式に居場所を得た。