ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか   作:親父

2 / 7
白ひげ書くの楽しいけど難しい


第2話 家族と怪物

 廃協会の中は、ひどく静かだった。崩れた天井から差し込む光が、埃を浮かび上がらせている。

 

 その中心に——少年が一人。

 

 ベル・クラネル は、短剣を握ったまま振り向いた。

 

「だ、誰ですか……!?」

 

 入口を塞ぐように立つ、巨大な影。

 

「…ずいぶんボロいじゃねェか」

 

 低く響く声と共に、男が中へ入ってくる。

 

 床が軋み、空気が重くなる。

 

「ひっ……!」

 

 ベルの足が一歩下がる。

 

(無理だ……)

 

 本能がそう叫んでいた。

 

「おい、小僧」

 

「は、はいっ!」

 

「お前もファミリアってやつの一員か?」

 

「え……?あ、いや……」

 

 言葉に詰まるベル。

 

 その様子を見て、男は鼻を鳴らした。

 

「落ち着け。取って食いやしねェよ」

 

「…………」

 

 だが警戒は解けない。

 

 白ひげは、そんなベルを見下ろして——

 

「弱ェな」

 

「……っ!!」

 

 突き刺さる一言。

 

 ベルの拳が震える。

 

「お前、自分でも分かってる顔してやがる」

 

「そ、それは……!」

 

 言い返せない。

 

 その時——

 

「ちょっと待ったぁぁぁ!!」

 

 バンッ!!と勢いよく扉が開いた。

 

「はぁ、はぁ……やっと追いついた……!」

 

 小柄な少女——ヘスティア が、肩で息をしながら飛び込んでくる。

 

「ベルくん大丈夫!?変な人に絡まれてない!?」

 

「神様!?」

 

 ベルが駆け寄る。

 

 その背後で、白ひげがゆっくり視線を落とした。

 

「……騒がしい小娘だな」

 

「キミこそだよ!!」

 

 ビシッと指を差すヘスティア。

 

「いきなりベルくんに何してるのさ!?」

 

「何って……ちょいと話してただけだ」

 

「絶対ウソだ!!圧かけてたでしょ今!!」

 

「グララララ……バレたか」

 

 笑う白ひげ。

 

 だが威圧は消えない。

 

 ヘスティアはベルの前に立つ。

 

「この子はボクの家族だ!勝手に試すな!」

 

 その言葉に——

 

 白ひげの目がわずかに細まる。

 

「家族、ねェ……」

 

 ぽつりと呟く。

 

「そうだよ!!」

 

 ヘスティアは胸を張る。

 

「ベルくんは、ボクの大事な眷族なんだから!」

 

 ベルは少し驚いた顔をするが、すぐに頷く。

 

「……はい!」

 

 その様子を見て、白ひげはふっと息を吐いた。

 

「……悪かねェ」

 

「え?」

 

「守るって顔してやがる」

 

 ヘスティアは一瞬きょとんとして——

 

「当然でしょ!!」

 

 と、言い返す。

 

 白ひげはニヤリと笑う。

 

「気に入った」

 

 そして、再びベルを見る。

 

「で、小僧」

 

「は、はい!」

 

「さっきの続きだ」

 

「え……?」

 

 ヘスティアが割って入る。

 

「続きって何さ!?」

 

「英雄の話だ」

 

「……!」

 

 ベルの目が見開く。

 

 白ひげは一歩踏み出す。

 

 空気が、重くなる。

 

「やめろってば!!」

 

 ヘスティアが止めようとするが——

 

「下がってな、小娘」

 

 低い声。

 

「こいつの覚悟を見る」

 

 その言葉に、ヘスティアは歯を食いしばる。

 

「……ベルくん」

 

「はい」

 

「無理だと思ったら、逃げていいからね」

 

 優しい声。

 

 だがベルは首を振る。

 

「……逃げません」

 

 白ひげの口元が歪む。

 

「いい返事だ」

 

 ——ドンッ!!

 

 見えない圧が、空間を押し潰す。

 

「うっ……!!」

 

 ベルの膝が揺れる。

 

 だが——

 

 ベルは倒れない。

 

 歯を食いしばり、立ち続ける。

 

「はぁ……っ……!!」

 

 数秒。

 

 永遠のような時間。

 

 やがて——

 

 ふっと圧が消えた。

 

 ベルはその場に崩れ落ちる。

 

「ベルくん!!大丈夫かい?ケガは!?」

 

ヘスティアが駆け寄る。

 

「だ、大丈夫です……」

 

 息を切らしながらも、顔を上げる。

 

 白ひげは腕を組んでいた。

 

「合格だ」

 

「合格……?」

 

「あァ。逃げなかった」

 

 ヘスティアが睨む。

 

「だからってやりすぎだよ!!」

 

「グララララ……悪ィな」

 

 全く悪びれていない。

 

 だがその目は、どこか満足そうだった。

 

「いいか小僧」

 

 白ひげが低く言う。

 

「英雄ってのはな……守りてェもんを全部背負う覚悟がある奴だ」

 

 ベルは黙って聞く。

 

「その小娘も含めてな」

 

「……!」

 

 ヘスティアが少し驚いた顔をする。

 

「失いたくねェなら、強くなれ」

 

 静かな言葉、そこには大海賊として長い人生を送ってきた白ひげだからこその重さがあった。

 

 ベルは強く頷く。

 

「はい!!」

 

 白ひげは、ゆっくりと天井を見上げる。

 

 崩れた教会、差し込む光。

 

「……妙な場所だ」

 

 ぽつりと呟く。

 

「海もねェ。風の匂いも違う」

 

 その言葉に、ヘスティアの表情が少し変わる。

 

「……やっぱり、キミこの世界の人間ではないんだね?」

 

「ああ…この世界の人間じゃねェな」

 

 あっさりと認めた。

 

 ベルが驚いて顔を上げる。

 

「えっ……!?」

 

「気づいてたのかい」

 

「まあな」

 

 白ひげは鼻を鳴らす。

 

「こんな世界、見たこともねェ」

 

 少しの沈黙。

 

 そして——

 

「なあ、小娘」

 

「なにさ」

 

「前に言ってたな」

 

 白ひげの視線が、ヘスティアに落ちる。

 

「“ファミリア”に入らねェかって」

 

「……!」

 

 空気が変わる。

 

 ベルも息を呑む。

 

「それがどうしたのさ」

 

 少しだけ警戒した声。

 

 白ひげは、ゆっくりと言う。

 

「その“恩恵”ってやつ」

 

「ファルナだよ」

 

「それを刻めば……この世界で戦えるようになるのか?」

 

 真っ直ぐな問いだった。

 

 ヘスティアは一瞬だけ考える。

 

「……普通はね」

 

「普通は?」

 

「キミは普通じゃない」

 

 即答だった。

 

「正直に言うと、どうなるか分からない」

 

 神ですら測れない存在。それが、目の前にいる。

 

 白ひげは——

 

 笑った。

 

「グララララ……上等じゃねェか」

 

「え?」

 

「分からねェ方が面白ェ」

 

 ヘスティアは呆れた顔になる。

 

「キミねぇ……」

 

「で?」

 

 白ひげが少し身をかがめる。

 

 その影が、ヘスティアを覆う。

 

「刻めるのか、刻めねェのか」

 

 一瞬の静寂。

 

 ヘスティアは——ニヤリと笑った。

 

「できるよ」

 

「……!」

 

「ボクを誰だと思ってるのさ」

 

 胸を張る。

 

「神様だよ?」

 

 その言葉に、白ひげは口元を歪めた。

 

「決まりだな」

 

 ベルが思わず声を上げる。

 

「ほ、本当に……!?」

 

「おう」

 

 白ひげはベルを見る。

 

「この世界で暴れるなら、ルールには乗っとくべきだろうが」

 

 その言葉は、妙に現実的だった。

 

「ただし——」

 

 ドン、と床を踏む。

 

 空気が震える。

 

「つまらねェ枷になるなら、ぶち壊すがな」

 

「やめてよ本当に!!」

 

 即ツッコミするヘスティア。

 

 だが、どこか嬉しそうでもあった。

 

「じゃあ決まりだね!」

 

 ぱん、と手を叩く。

 

「今日からキミは——」

 

 一拍。

 

「ボクのファミリアだ!」

 

 ベルの顔がぱっと明るくなる。

 

「よろしくお願いします!!」

 

 勢いよく頭を下げる。

 

 白ひげはそれを見て——

 

「グララララ……元気な小僧だ」

 

 少しだけ、柔らかい声で言った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 夜。

 

 廃協会の一室。

 

 ランプの灯りが、静かに揺れている。

 

「じゃあ、始めるよ」

 

 ヘスティアが真剣な表情になる。

 

 その前で、白ひげは上着を脱ぎ、背を向けた。

 

 鍛え上げられた肉体。

 

 ヘスティアが小さく呟く。

 

「あ、改めて見るとすごい肉体だ...」

 

 ベルも息を呑む。

 

 白ひげは何も言わない。

 

 ただ、静かに座っている。

 

 ヘスティアは指先を伸ばす。

 

「いくよ」

 

 そっと、背中に触れる。

 

 その瞬間——

 

「……!」

 

 ヘスティアの目が見開かれた。

 

「なにこれ……」

 

「どうしたんですか、神様!?」

 

「深すぎる……!」

 

 刻まれるはずの“器”。

 

 だがそれは——

 

 底が見えない。

 

「まるで……海みたいだ」

 

 白ひげが、ふっと笑う。

 

「海賊だからな」

 

「笑い事じゃないよ!!」

 

 だが、ヘスティアの口元も少し緩む。

 

「……いいよ」

 

「?」

 

「全部、刻んであげる」

 

 神の指が、静かに動く。

 

 光が走る。

 

 刻まれていく、“神の恩恵(ファルナ)”。

 

 その瞬間——

 

 空気が震えた。

 

 ベルが思わず後ずさる。

 

「な、なんだ……!?」

 

「……やっぱり」

 

 ヘスティアが呟く。

 

「普通じゃない」

 

 刻まれているのは、ただのステータスではない。

 

 それは——

 

“怪物”を、この世界に定義する行為。

 

 やがて、光が収まる。

 

「……終わったよ」

 

 白ひげが、ゆっくりと立ち上がる。

 

「どうだ」

 

「……見せるね」

 

 ヘスティアが震える手でステータスを確認する。

 

 そして——

 

「……は?」

 

 固まった。

 

「え?」

 

 ベルが覗き込む。

 

 次の瞬間。

 

「なにこれぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 廃協会に、ヘスティアの絶叫が響いた。

 

 白ひげは——

 

 ただ、楽しそうに笑っていた。

 

「グラララララ……!!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。