ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか   作:親父

5 / 5
たくさんの評価やお気に入り登録、コメントありがとうございます!


第五話 背負う強さ

 アイズを伴って降り立った第5層。そこは、初心者冒険者にとっては最初の壁となる場所だ。だが、今のヘスティアファミリアには、その「壁」を物理的に粉砕しかねない怪物がいる。

 

 「……やっぱり、おかしい」

 

 道中、アイズは何度も小さく呟いていた。

 

 白ひげは、一切の武器を抜いていない。ただ、悠然と通路の真ん中を歩いている。それだけで、壁の穴から飛び出そうとしたウォー・シャドウが、その覇気に当てられて、穴の中で失神し、ボトボトと地面に落ちていくのだ。

 

 「あ、改めて見てもやっぱりすごい光景だ....」

 

 ベルが呟く。

 

 「グララララ!!この程度の雑魚を相手にするのは時間の無駄だからな」

 

 ベルが戦々恐々と魔石を回収する中、突如として迷宮の空気が一変した。

 

 「……っ!」

 

 アイズがいち早く剣を抜き、ベルを背後に隠す。

 

 通路の先、暗闇から現れたのは、本来この階層には存在しないはずの異常事態——【強化種】の群れだった。

 

 十数体の大型魔物が、異様な殺気を放ちながら迫る。アイズが風を纏おうとした瞬間、白ひげがその前に大きな手を出した。

 

 「小娘、下がってろと言ったはずだ。……ベル、よく見ておけ」

 

 白ひげは一歩、踏み出す。

 

 「俺にとってのファミリアってやつを教えてやる」

 

 迫り来る魔物を前に、白ひげは静かだが地響きのような声で告げる。

 

 「俺にとって、この『ファミリア』ってのは、ただの所属じゃねェ。……守るべき家族だ。……こいつらが腹一杯食えて、安心して眠れる場所を作る。そのためなら、俺はこの世界のルールごと、叩き伏せてやる」

 

 そう言った白ひげは巨大な薙刀「むら雲切」に振動の力をまとい始めた。

 

 「天下無双!!」

 

 「……ギィッ……!?」

 

 魔物たちは、悲鳴を上げる間もなかった。

 

 強化種の硬い外皮も、再生能力も関係ない。振動は魔物の体組織を内側から粉砕し、さらに背後の頑強な岩壁ごと、数百メートル先まで通路を「更地」に変えた。

 

 静寂が戻った通路で、アイズは震える手で剣を鞘に収めた。

 

 彼女が求めてきた「力」。それは、魔法を研鑽し、レベルを上げ、技術を極めた先に得られるものだと思っていた。

だが、目の前の男の力は、そのどれにも当てはまらない。

 

 「……あなたは、どうしてそんなに迷いがないの?」

 

 アイズの問いは、切実だった。

 

 「守りたいものが多ければ、足が止まるはず。……背負うものが重ければ、剣は鈍るはずなのに」

 

 白ひげは、粉塵の舞う通路の先を見つめたまま、静かに笑った。

 

 「逆だ、小娘。……一人で立ってる奴の足なんてのは、ちょっとした嵐で簡単に折れちまう。……だがな、後ろに守るべきガキどもがいて、そいつらが俺の服の裾を握りしめてる。……そうなると、膝ってのは、何があっても地面につけられねェんだ」

 

 白ひげは振り向き、呆然としているベルの頭を大きな手で乱暴に撫でた。

 

 「ベル。お前が強くなりてェのは、誰のためだ?」

 

 「……それは……」

 

 ベルは、隣に立つアイズを見、そして自分を受け入れてくれた女神(ヘスティア)を思い浮かべた。 

 

 「……僕は……みんなと、笑っていたいから。……神様や、ニューゲートさん、アイズさんを守れるくらい、強くなりたいです!」

 

 「グララララ!! いい答えだ!」

 

 白ひげは満足そうに笑い、そしてベルとアイズに向き直った。

 

 「だがな、小娘、ベル……自分一人の力で全て守れると思うなよ。まだお前ェらはハナッタレのガキどもだ。誰かを頼り、誰かに頼られる『覚悟』をつけろ。それが強さに繋がることもある。」

 

 アイズは、自分の胸に手を当てた。

 

 いつも一人で強くなろうと、自分を追い込んできた。だが、この巨大な男の背中に並んでいると、不思議と「一人ではない」という感覚が、冷えていた心に熱を灯していく。

 

 「……少しだけ、わかった気がする。……お父さん」

 

 「だから、お父さんじゃねェと言ってるだろうが……。まァいい、行くぞベル。これだけ暴れりゃ、今夜は特上の酒が飲めるはずだ」

 

 「はい! ニューゲートさん!」

 

________________________________________________

 

 ダンジョンでの「異常事態」の報告を受け、ギルド内が騒然とする中、ヘスティア・ファミリアの一行は地上へと帰還していた。

 

 ベルの背負い袋には、第一層から第十層までの魔石が溢れんばかりに詰め込まれている。

 

 「グラララ! ベル、今日は大漁じゃねェか。ヘスティアに美味いもんでも買っていってやれ」

 

 「はい! ニューゲートさん! これなら、みんなが満足できるだけのご飯を買えそうです!」

 

 アイズもまた、どこか憑き物が落ちたような穏やかな顔で、二人の後ろを歩いていた。

 

 だが、その平穏を破ったのは、鋭い嘲笑と、野獣のような殺気だった。

 

 「――おいおい、何だぁ? そのマヌケなツラは」

 

 ギルドのホールに、一際ガラの悪い声が響く。

 

 そこに立っていたのは、【凶狼】ベート・ローガ。ロキ・ファミリアの主力であり、実力主義を地で行くレベル5の冒険者だ。

 

 彼は、アイズが「弱小ファミリア」の、しかも「得体の知れない巨漢」と共にいるのが気に入らないらしく、苛立ちを隠そうともせずに近づいてきた。

 

 「アイズ、テメェ何しけてんだ。ギルドの調査ってのは、こんなデカブツとピクニックすることだったのか?」

 

 「ベート、やめて」

 

 「うるせェ! ギルドの調査ってのは、こんなゴミの介護をすることじゃねェはずだ!」

 

 ベートの視線が白ひげを射抜く。レベル1の癖にやけにでかい図体。彼にはそれが図体だけの雑魚に見えていた

 

 「おい、オッサン。テメェだ。どこの馬の骨か知らねェが、アイズの隣に立っていいのは『強ェ奴』だけだ。テメェみてェな出来損ないは、ダンジョンの肥やしがお似合いなんだよ!」

 

 ベートが地を蹴った。レベル5の超速が、ギルド内の空気を爆ぜさせる。

 

「消えな、雑魚!!」

 

 ドガァァァン!!

 

 猛烈な衝撃音が響き、周囲の冒険者たちが悲鳴を上げる。ベートの右足は、寸分の狂いもなく白ひげの脇腹を捉えていた。レベル5の全霊を込めた蹴り――並の冒険者なら内臓ごと粉砕される一撃。

 

 だが。

 

 「……何ッ……!?」

 

 ベートの顔が、驚愕に歪む。

 

 蹴り込んだ足から伝わってくる感触は、肉のそれではない。まるで「山」を蹴ったような、絶望的な不動。

 

 白ひげは、避けもしなければ、防御もしていなかった。

 

 二百六十と七の太刀、百と五十二の銃弾、四十と六の砲弾を受けてなお倒れなかった「金剛の肉体」。レベル5の蹴撃ごときでは、彼の歩みを止めることすら叶わない。

 

 「……なんだァ?」

 

 地響きのような声が、ベートの頭上から降る。

 

 「今のが『挨拶』か? 随分と、軽い足音じゃねェか」

 

 「テメェ……!!」

 

 ベートが距離をとろうとした瞬間、白ひげが動き始めた。

ただの、右拳。大気を、空間を、そして理を握りつぶすような一撃。

 

 「が、は......ッ!?」

 

 白ひげの拳がベートの胸元に、触れるか触れないかの距離で叩きつけられた。

 

 パキィィィィィィンッ!!!

 

 大気がガラスのようにひび割れた。次の瞬間、ベートの体は紙屑のように跳ね飛ばされた。

 

 衝撃波はベートを一直線に吹き飛ばし、ギルドの分厚い石壁を突き破り、そのまま裏路地まで彼を「弾き飛ばした」。

 

 レベル5の戦士が、受け身を取ることすら許されず、ただの一撃で完全に沈黙した。

 

 静寂。

 

 あまりの光景に、ギルドにいた数百人の冒険者たちが、息をすることさえ忘れて固まっている。

 

 白ひげは、まるで塵でも払うかのように、ベートに蹴られた脇腹を大きな手で一拭きした。

 

 「俺に挑もうなんざ百年早ェよ、アホンダラ」

 

 「さァ帰るぞベル。今夜はあのワン公の分まで、最高に美味い酒を飲むぞ」

 

 「は、はい!! ニューゲートさん!!それではお疲れ様でした、アイズさん!」

 

 「うん、またね」

 

 こうして、オラリオの「常識」は、海賊王と渡り合った男の拳によって、文字通り粉砕された。

 

 翌朝、ギルドの壁に空いた大穴と共に、「白い髭の怪物」の名は、街中の神々の知るところとなる。

 

 

 

 

 




白ひげの技が少なすぎる( ;∀;)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。(作者:一般通過社会人)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ダンジョンで5年過ごした主人公がやらかす、ドタバタコメディ!(なお周りは曇る模様。)


総合評価:906/評価:6.75/連載:6話/更新日時:2026年05月13日(水) 20:29 小説情報

冷たい海賊は欲しいものを得られるのか(作者:Connect)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

 ▼ かつて世界最強と呼ばれていたロックス海賊団。▼船員にはロックスを筆頭に白ひげ、金獅子、ビッグ・マム、カイドウなどの大物がいた。▼ 彼等は己の野望のために集まり、ロックスに追随する。▼ 快進撃を進めていた彼等だが、ゴッドバレーという島にてロックス海賊団は壊滅してしまう。▼ 何が起きたのかはそこにいた者たちしか知らない。▼ ロックス海賊団である彼(・)も当…


総合評価:1754/評価:6.42/連載:56話/更新日時:2026年04月08日(水) 20:00 小説情報

80代のお爺ちゃん笑がダンジョンに来たらしい(作者:New_hehe)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

目覚めたら洞窟(ダンジョン)のなかだった▼外に出て異世界だと思ったお爺ちゃん笑はどうするのか!▼「これ元の世界に戻れんのかな」▼処女作です▼なんかもう何すればいいのかわからんっすね▼助けてください。▼あと思ってるより文章量少なかった。▼泣きそう。▼それと呪術からは虎杖以外出さないんで悪しからず。▼あと多分亀投稿。


総合評価:520/評価:8.44/連載:3話/更新日時:2026年04月08日(水) 21:49 小説情報

輝きたる君、その世界で何を思う?(作者:シュトレンベルク)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

人知を超越したるもの、その地に降り立つ。▼大いなる力の先に降り立つ何かの降誕に、世界は何を見るのか?▼その輝きを見てしまった者たちはどうなってしまうのか?▼それは誰にもわからない。▼これは超越者の物語。


総合評価:1288/評価:7.48/連載:14話/更新日時:2026年04月22日(水) 07:00 小説情報

忍界の英雄はオラリオで英雄になるのか!!(作者:もるさっさ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

▼ 第四次忍界大戦が終わり世界が平和になったかと思ったが、人々は尾獣を求めて争い始めた。▼ナルトは争いの原因がなくなれば平和になると思い、尾獣を己の体に取り込み、六道仙人の術によって忍界から姿を消し、オラリオで冒険を始めるのだった。▼初めて小説を書きます。▼誤字脱字が多いと思いますが、楽しく読んででもらえるように頑張ります!!▼誹謗中傷はやめてください。


総合評価:1524/評価:7.62/連載:21話/更新日時:2026年04月27日(月) 20:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>