スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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業務:スキル採取 場所:マイゴ幹線路

 

 

 3月☆日

 よっぽどの事を起きなければ生涯何か書き留める様な趣味とは無縁の人生を送るものだと考えていたが、人類の中でも上から数えて五桁の内に入りそうなよっぽどの体験と出会いをしたので、これからの日々を記録する事にする。

 

 

 今日、私はサキュバスになった。

 

 

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 始めに断っておくが、私は産まれついての女である。

 実親が死んだが里親には恵まれ、平々凡々に育った。

 前髪を中心から左右に分け、髪を緩く二つに纏めて前に垂らし、

 どこの集団にも馴染めずに、手持ち無沙汰に好きでも嫌いでもない本を片隅で読んだり、

 校庭で散歩したり、校内を当てもなくうろつく背の低い女が入れば、

 それは限りなく私にそっくりな人だろう。

 

 そこに放課後に知らない土地を散歩しては手作りの地図を作ったり、

 側から見てゴミを拾ってはお宝だと内心ニヤつき、

 自分の部屋でぬいぐるみ相手に1日の出来事を話してたなら、

 それは私だ。間違いなく。

 

 

 今日は高校二年に上がる間の春休みだった。

 大量の宿題はなく、新学期の準備一つで済む日。

 手作りの地図ノート、黒赤2本のボールペン、700mlの麦茶、ビニール袋、折り畳み傘、コンパスと大きめのバッグ、財布とか色々。

 大きく成長する未来に期待した大きめの私服とチェック柄のキャスケット帽子。

 いつも通り、多少過剰なくらいの準備をしてやる事といえば、決まって里親から命じられたお使いだ。

 

 この街は実親と共に暮らしていた街と違い、道が複雑に入り組んでいる。

 小学の間はある程度発展して停滞した田舎で暮らした身としては、未だ道を覚えるのは苦心する、

 都市開発がガンガンと進み道の変わる忙しない場所だ。

 中学に一度丸1日わんわん泣きながら遭難して以来、私は更新の遅いネットのマップに頼らず常に自作の地図を片手に街を覚えることを覚えた。

 ここは偶に圏外になる場所があるから。多分通信設備も工事が忙しないのだろう。

 

 そして今日は帰る時、いつも使っている道がどれも封鎖されていたから、完全未知な道を進む事になった。

 午後工事ならそういう張り紙を分かりやすく出して欲しい。

 

 この街で暮らすに当たって、こういう時はいつも緊張する。

 帰り道を失うと本当に心細くなるし、夜になると四方八方の家がこの街大人気の「和」なチルい音楽でパーリーする。

 何度か聴いてる内に耳コピできるようになったので、いつか誰かに自慢しようと思う。

 

 

 今日は特に家に繋がる道が分からず、夕焼けが差し掛かる時間までもつれ込んだ。

 こうなると市の放送がてーててーてってなり始める。大体5時を知らせるアレだ。

 走るのは面倒だが、夜になるのはもっと面倒くさい。

 明かりになるのは重たくて普段持ち歩かないから、夜は真っ暗になる。

 

 仕方ないので駆け足で地図埋めをしていると、変な店を見かけたので入店した。

 看板もなく店員も居ない。なのに商品は色とりどりなコインのおもちゃの山。

 興味を惹かれたので一声掛けてから適当に手にして、日当たりが良いのかやけに眩しいから、夕焼けにかざした。

 

 私はサキュバスになっていた。

 

 正確にはコウモリの羽が背中と頭部から生え、牙が生え、眼が赤くなり、黒く細長く先端が菱形の尻尾が生えた。

 暇な時クラスの男子高校生の会話から聴いていた特徴と大体合致するので、サキュバスだろう。

 

 そうして面白いおもちゃだと羽をばさばさしていると店主が出てきた。

 怒られた。おもちゃではなく何かしらの消耗品らしい。

 Dがどうの言って嘆いていた。多分高級品を使ったのだろう。つまり万円モノ。

 

 使ったのは不慮の事故だったので謝った。

 なんで使ったのかと聞かれたので、「空が眩しかったから」と言った。

 何故かなんだコイツという顔をされたが、取り敢えず私は賠償をしなければならないと考え、お詫びにバイトか何かできないか尋ねた。

 お小遣いもバイトもしてない私は大金を持ち合わておらず、里親に迷惑をかけるのも申し訳無かった為だ。

 

 そうして幾つかの質問に答えた後、私は「ヌルイのスキル屋」の店員として働く事になった。

 超能力…スキルの販売、加工、採取、相談……超パワーに関する何でも屋らしい。

 明らかに超常でオカルトな話だが、私がサキュになってるので事実なのだろう。

 

 具体的に何をするかは後日聞く事にする。

 今日はサキュの特徴を出し引きする訓練を店長に付けさせられて忙しかったからだ。

 

 不安は残るが、順番に解消していきたいと思う。

 

 

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 3月¥日

 早朝からスキル屋のバイトに行き、不定期業務を受け取った。

 業務内容は「スキル採取」

 超常の相手からその力の一端を採る仕事らしい。

 専用のルーペに似た採取道具、収納器具、10円サイズの透明なコインを10枚渡された。

 採り方はものによって違うらしいが、大体理解が肝心だと言っていた。

 深く理解するほど沢山採れるらしい。

 

 こんなものがあるなら私に宿った力を取り戻せないかと思ったが、人の身体に定着したのは無理なんだそうだ。

 私が手にしたのは仮名「D」。商品名も付けてない未加工品だとか。

 

 そんなものがなぜ店舗に。

 裏側の整理の為に一時避難してたと返答を貰った。

 詳細の分析も終わってないのにと小言も貰ったが、聞けば健康に害はないそうなので一安心である。

 先日から男性や女性の局部に視線が向く回数が増えたが、別状ないなら放置して構わないか。

 

 さて置き、世の中には不思議な存在が結構居るらしい。

 店長曰く「多分かつてこの世界に侵略を試みた異世界の残骸や何やら?」だそうだ。

 これは話半分に聞いておこう。

 

 これから完全未知の相手と相対するのは緊張しなくもないが、身近に心当たりがない訳でもない。

 店長は「そんな沢山身に覚えある事ある?」と言っていたが、あるのだから仕方ないだろう。

 

 現に、店から出て家に着くまでに3つのコインに色が着いた。

 サキュの特徴を得て以来、見えるようになった謎存在は超常のモノであったようだ。

 

 今日は一先ず、この三体について記録することに注力しよう。

 深い理解が肝要だと言っていたのだし、実践して確かめる段階だ。

 非常に疲れたが、有意義な結果になったと自負している。

 

 

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 共通

 ・力の採取については、発見、体験、記録、考察の四段階でコインの色が濃くなった。

 ・力を吸った対象は酷く弱ってるように見受けられた。

 ・行動の観察は力が採られた後の為、平常時の能力ではない事に留意。

 

 

 記録No.1 『透明綿魚』

 観察1

・9〜17時 晴れ、雲まばら、湿度低め。

・一見すると透明な空飛ぶ(たい)だが、接触すると深く手が沈み、繊維質のものに包まれる感触を体験した。

・核となる中心部位は確認出来ず、手に着いた綿が意図の感じられる動きで本体へ集合した事から、これ自体が小さな綿毛の集合?

・小魚が集まり大魚の擬態をするのに近いものを感じ取れる。

 

・段階的に刺激を与えたが、大きな反応は見せなかった。

・移動能力は低く、ほぼ停止している。風の影響を受けた様子は見られない。

・一部を魚から離すと、比較的早く元に戻っていった。

 

 能力1

・移動先の空間が歪み、新たな「道」が形成された。

・今まで経験したいつの間にか消えてる道はこの魚のせいかも知れない。

・経験則上、原因がこれなら形成された道は5〜9日で消える。

・その予想を元にもう時期消滅する道の個体を発見、観察したが、どうやらそこを移動する最中にだけ一定間の道を作るらしい。

・某青狸の通り抜けフープを数日単位で展開しているというのが直感的な感想となる。

 

 

 記録No.2 『停止観念』

 観察1

・10〜17時 他条件同様。

・通行止めの標識、工事中の看板、キープアウトテープ、掃除中の張り出し、大凡そういった「侵入禁止」の象徴的物体を模している。

・無機物で人工物。スキルを得た影響かそういうのが居ると認識した影響か、視線を外すとその象徴を変える。

 

・その変化を対象に伝えると、宙に浮かんで何処かへと去っていった。

・何度か繰り返した結果、行動原理はかくれんぼと同様である可能性が高い。

 

・強めに蹴り飛ばした結果、ポルターガイストのように浮かび明確な殺意を持って反撃した。

・その際視線を外さない限り擬態する物体が変化しなかった点から、自由意志で変化先を選ぶのは出来ないようだ。

・フラッシュライトを当てると3秒程度停止するので、その隙に逃げるのが得策だろう。

 

・30分置いて再び近付いたが攻撃されなかった。

・攻撃、逃亡、再接近を複数体に対し繰り返したが、何れも同様の反応を見せた。

・無防備に背後を晒しても反応は無かった。隠れる行為の優先順位が高いと見られる。

 

 能力1

・対象の背後へ移動する意思の減衰。

・浮遊。

・相対した者の「停止」の認識に沿った容姿変化。

 

 

 記録No.3 『夕焼けの影』

 観察1

・17〜18時 快晴、乾燥した空気、家近く。

・超常の存在か確かめる為、夕焼けの際に偶然居た人影への接近を試みた。

・対象は距離2m付近で活性化。距離ではなく、私が「実態がない」と確信した瞬間がトリガーだったように感じられる。

 

・その後夕焼けの終わる1時間、私に向かい接近を試み続けた。

・速度は最初50m7秒台の私より僅かに速く、後半に連れて加速していった。

・『停止観念』の後方への移動意思の減衰、侵入する気を無くす能力を複数回利用し逃亡に成功。

・影は主に壁に夕焼けの光に従って存在した。

・時間経過で影は次第に変容し、消滅する10分前には頭部を二つ、足を八つ、手を5m程伸ばせるようになっていた。

 

・実態として存在はせず、あくまで影のみ。追ってくる際に音は発生しなかった。私の影に触れた場合の影響は未知数であり、喜ばしい結果にはならないと推測される。

・室内まで追うか、翌日も私を追うかは不明。だが夕焼けに照らされてない間は私を見失っていた事から、遮光性を持たせた室内を用意すれば安全性を高められるだろう。

 

 能力1

・夕焼けによる感知。

・時間経過による影の形状変化。

・影を介した実物の破壊。

・高い敵意。

・1時間の活動制限。

 

 

 総評

 力を得る前はこれらの異常を異常と認識出来なかったことから、その手の辻褄合わせを行う存在がいる可能性が高い。

 翌日ヌルイ店長に相談し、仕事の流れが正しいか確認するべきだろう。

 それから、後どれくらいで補填になるか見積もりも行うとしよう。

 今日は疲れた。

 

 

 

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