スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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業務:ホテル運営 場所:不特定の怪談・2F〜5F

 

 

 4月$-1日

 今日が°日が不明なので$日を増やす事にした。

 本日の主な業務は223名を収容したホテルの運営、増員された遠征班への販売とスキルのチュートリアル。透明人間の指示となる。

 細かいのを含めればホテルの点検、見回り、異相牢の解析など多岐に渡る。

 身体があと8つほど足りない気がするが仕方ない。全て管理していこう。

 

 案の定朝から出て来たゴミや洗濯物が膨大な量となった。

 夢や透明人間から回した人員で回したが、途中で血迷った末に夢と血を混ぜた眷属(暫定名称)を創れるようにならなければ過労死待った無しだっただろう。

 ほら行け、コウモリ、魚、犬、猫、石ころ、ヒゲ、帽子、ドレス。姿が固定なのに違和感があるが、今はどんな手も借りたいのだ。

 

 シェフの子、痣涙(あざなみ)(きょう)がスキル達者でなければ食堂はパンクしていたに違いない。バイキング形式を採用したのは英断だったと言える。

 彼女に売ったC「食卓軍師(パーリーフードゥ)」は1師団を養える食料の調達と現地での料理に特化したスキル。スキル其の物に小規模だが時間の進みが早い異相牢……食料生産用の農園と港が有り、そこから採れる作物や肉は常に産地直送、新鮮さの暴力で旨みを確保する。

 

 その上で料理に限定した念能力が加わるのだ。戦闘においては質量の暴力か敢えて腐らせた食べ物を利用した毒くらいだが、料理に関しては味以外の全てで最高品質に仕上げられている。

 店長も伊達にこれ一本で食べていこうとしているだけはあるだろう。

 

 その暴力的な数と支配領域を普通は1人で管理できないというのを見落として無ければ、本当に手放しで賞賛出来た。農園での採取と栽培、漁などが自力で、トラクターや船などの道具もないとか第一次産業エアプビチビチ郎という他にない。

 

 私が夢を経由し補助をしたのもあるが、それでもスキルに自動的に諸々を管理させる拡張を行えたのは彼女の一心不乱の努力によるものだ。

 今日の食卓が豪華なのが全て彼女の努力の成果とあれば、一連の最初から最後まで付き添った私がどれだけ感動しているか、この賞賛振りから察して頂きたいものである。

 透明人間達だってとても感動していた。そんなに不安そうにしなくてもこれらは社員無料なので幾らでも食べていい。そう言うだけで喜ぶのだから食事は偉大だ。

 

 要するに、1日振りの食事は大変美味しかった。とても感動した。

 すごいぞ痣涙、いけいけ痣涙、給料は弾ませるので期待してて欲しい。後日ご自宅にお届けに行くとしよう。

 

 

‭┫

 

 

 兎も角。

 先日の夜の間、夢の中でメンタルケアを行ったおかげか客人は総じて元気を取り戻していた。

 喜ばしいが、こうも均一にトラウマが治ってるとやった側でも気味が悪く感じる。

 しかし消沈していじける時間も無いのだ。遠征隊を作り救助者を増やすのは自由だが、コチラとしてもこれだけの人手を遊ばせる余裕もない。

 

 地下を早急に調べる必要があるからだ。

 出口だとは思うが、完全に時間が停止し、見える範囲だけ屋上をそのまま持って来ただけな可能性だって、望んだ景色を映す異相牢だって有り得る。

 確かめるにはアチラの事はアチラで対処させ、観察する時間を多く捻出しなければ。

 

 一先ず先日に見た限り、ルーペに反応は見られなかった。見える範囲に遷遺者は居ないのは確定している。

 実験として砂を落としたが境界面で停止した。見た目こそガラスがあるみたいに停止したが、棒で押し込めばそのまま沈み、押し込む感覚は空気のそれ。やはり「時間は止まってる」が最も感覚的に合っている。

 

 ……どっち側が?

 

 客観的に仮説を考え直した。その結果、止まってるのはこちら側である方が自然という結論に至った。

 遷遺者や異相牢はまだまだ分からない事ばかりだが、これらが外部に強く影響を出すような事態が起こればそれはもう情報嵐(あの時の災害)の段階。

 災害の形が一つと限らないのが恐ろしく感じるが、犬の子は犬。ここまで対極的な違いが発生するとは思えない。何より、この災害は嵐や台風に似ている。

 

 思うにこれはその前段階、嵐の前の静寂と同じものではないだろうか。

 その後に起きる嵐の為に風が集まるように……上手い比喩が思い付かなかったので端的に書くと、今は時間か空間かあらゆる力(ニュートン)かは知らないが溜めてる段階なので時間が動いてないという仮説だ。

 不思議だ、現実側が時間を奪われて止まってるという説明になった。

 

 もっと省略すれば「処理落ち説」。

 不思議だ、真逆の仮説が提唱された。

 

 だがこっちも有り得ない話ではないので、両方を含む説にしよう。

 なんであれ、なんかどっちか止まってそうのは間違い無い。

 

 仮にこの仮説が正しいとこのまま脱出するとそのまま災害が起きる。

 なので出る前に異相牢を破壊しこの世から消し去ってしまおうというのが、今の私のやりたい事。

 

 杞憂ならそれまでだが、5つ繋がった大規模な異相牢というのを排除してからの方が安心だ。最低でも東西南北の異相牢を消し去ってしまえー。

 

 それが調べて辿り着いた行動指針という訳だ。

 不思議だ、遠征隊が他人事じゃなくなった。

 

 どうやら仕事で疲れてるようだ。

 夢の中でも客人のトラウマのケアに奔走していたのがよく無かったに違いない。

 奔走したおかげか知らないがやってる内に「夢」が補充されていた。なので私は夢の中でも働いていたと言えるだろう。つまり休めてない。

 

 なので引き続き労働に励むとしよう。パフォーマンスの低下は休む理由にはならない。

 解決策の眷属(仮)は私が其々に指示しなければ動かない。私からみれば肉体が9つに増えたようなものだ。全ての身体の構造が違う都合上、今の私には違和感のない程度にらしく振る舞う程度しかできないし……。

 

 そもそも一切のノウハウが無い現実が目の前に聳え立っていた。

 お客様、当店にWi-Fiとコインランドリーのサービスは御座いません。

 あるのは飯、寝床、スキルだけです。スキル要りますか?

 なに、なんで皆んなこんな急に元気に? ホテル業の基本として心と身体をしっかり休ませたからですね。

 

 我々は雰囲気でホテルを営業している。

 取り敢えず遠征には仮の眷属を1人連れ出させる。これが私の投資だ。

 だが1人が限界だ。業務的に。分かったら迅速に帰還するように。出来たならちょっとしたサービスだってしてあげよう。

 

 さて……今のうちに残りでお店を回せられる様慣れていこうか。

 

 

‭┫

 

 

 私の大体の時間はこうして仕事に消えていく。

 しかしずっとホテル業ばかりでもなく、その中には透明人間への指示……遠征隊とは別の、私個人の探索班が4つある。

 

 主な業務は東西南北の異相牢に別れて地図を制作しつつ、異相牢を解体する手がかりを集めること。指示系統として眷属(仮)を4体配属させ、万が一の場合は仮眷属を囮に透明人間を逃す方針だ。

 

 中途目標としては本当に厄介な遷遺者を見つけ、記録を付け弱体化させること。

 遠征隊は勿論頼もしいとは思っているが、そちらは主に中心地。

 荒野を調べる為に使いたい。客人が店の中で死ぬのは評判に関わりそうだから。

 

 

 そんな訳で本日は先日のドタバタも一段落付いた事もあり、透明な探索班を送り出した。

 一班5名、指示役兼囮の仮眷属を含めれば六名。透明人間はほぼフルで投入した。

 其々の班でそれはもう面倒なものを目撃し続けたが、それらをまとめたいと思う。

 

 

 北・凸凹

 先日死体を回収した場所だが、早速異相牢同士の時間差で本体と囮でラグが発生した。

 夜側の加速より昼の遅延の方が指示役としてはありがたいので昼側を主に探索。

 その結果を記録する。

 

・地形…凸凹と書いたが、正確にはブロックで構成されたサンドボックスゲーム…マイクラに近い。壁は正確に90°。凹の底も凸の高さも均一に構成されている。普通の床と合わせて三段階の高さしかこの異相牢には存在しないようだ。

   …人工物としても合理性を見出せないからか、ずっとここで過ごしていると不安に駆られる感情に苛まれ、透明人間も同様の傾向が発生した。

   …しかも、体育館と融合している割には地面に色取り取りな線がないので酷く殺風景だ。もっと線を書くのを推奨したい。シルバーとか。

   …我慢出来ないので囮を構成する血と夢で線を引いた所、近くの凸凹が変動し線が消えた。…はてはこの地形、元々真っ平の状態から元々書かれてた線に反応して変化した後の地形では? つまり…これもしやパズル? 異世界にある何かのパズルと混ざったのでは?

 

   …そう考えた所、地形はひたすら大きな体育館に変わり、手元には小さなパズルが残った。パズル自体は50分で解けた。

   …透明人間に渡した所3分で解かれた。何故だろう、何も言われなかったのにバカにされた気がする。こいつぅ…。

 

・水溜…凹の方に溜まった透明な水。恐らく異世界側の要素なのだろうが、元の姿が分からない。何回も汲んだが水量に変化はなく、地面に撒いた水は床の中に消え、バケツの中からも次第に消えていった。

   …そこまで検証した辺りで異相牢が大きな体育館に変わった。水はパズルの中にあり、何をしても動かないお邪魔マスであると判明した。私に50分を費やさせたこのクソ邪魔マスを私は許せそうにない。

 

・ポストと郵便受け…遷遺者。

 全てのポストと郵便受けで一つであり、手紙にはスキルの欠片…分解された人間の欠片が張り付いていた。太陽と同様に地形が大きな体育館になっても変わらず存在していたので遷遺者と確定。

 

 「近くにある対象について書かれた内容を対象から分離させる」力を有している可能性が高く、文字の書かれた物体を近付けるのは推奨できない。

 

 例:「私の髪の毛10本」と書いた紙を持ちながら囮を近づけた所、本体の頭部に痛みが走り、記載された紙に髪の毛が融合した状態でポストに吸い込まれた。

 その後、暫くしてポストからこの紙が封筒に包まれて排出、郵便受けが受け取った後に開くと、紙と融合した髪の毛は「情報嵐で分解された時と同様の状態」に変化していた。

 

・太陽…遷遺者。

 近付くと時間が遅くなり、離れると時間が加速する太陽。

 どれだけ経っても動かず、太陽自身も自らの力の影響を受けていると思われる。

 

 これ以上の北の観察は後日に回す事にする。

 

 

 西・九龍城

 時間と空間に異常はないが、建築物は規則性なく構造を変え続けた。

 沢山の教室が組み合わさっているが、生活跡が生々しく残っている。

 既に生徒の反応はなく、助けられなかった者は全員死んだようだ。

 元は都市のスラム街、それも高層の建築物が丸ごとスラムになった物なのだろう。

 ……既にここに飛ばされた学生の誰かが同じ考え・印象を抱いていたのか、変化は見られない。

 どうやらもう一段階深く見破る必要があるらしい。

 

・移動教室…現実でも異世界にとっても不自然な要素と言えば、1番は部屋其の物が動き構造を変えている点だろう。お陰で何度か迷いかけたが、これまでの迷子経験が功を奏し帰還自体は安定していた。

     …変化に巻き込まれて潰されかけた。目の前の壁が突然迫る感覚は何とも言い難いが、酷く痛かったのは確かだ。深く考えるには向いてない場所だと痛感されられた。

 

・ゾンビ…遷遺者。

 人と言うより獣人のゾンビ。学生のゾンビも居たが、それも次第に獣人に変わっていった。

 獣に変わるゾンビ菌と言うより、「ゾンビ獣人を再現する要素として取り込まれた」と言うべきだろう。

 近くに居ても我々は感染しなかったが、学生や本体は分からない。噛まれるだけなら何とかなるだろうが、空気感染ならばそもそも入らせない方がいい。

 

 獣人の種類は多種多様だったが、主に兎と鼠が多く、稀にいる他のタイプは元々身なりが良かったように見えた。異世界では種族間の格差社会が有った可能性が高い。

 

 ルーペの反応は個別。全部まとめてスキルには出来ないので、基本的に避けるか殺すしかない。

 ただし戦うなら相応の犠牲は必要だ。試しに一戦交えたが、壁に押し潰されかけるまで殺し切れず、相手は平然と押し潰しから傷一つなく生還していたから。

 ギリギリまで戦闘していたので、残りの調査は後日となる。

 

 

 東・ループ

 階段と通路のみの迷宮らしい異相牢。ただし目印を起点に半径500mしかないループ空間。

 生徒は既に全員回収されてる点から分かる通り、西とは正反対の無害、無人、無遷遺者となる。

 異世界要素もループ要素しか確認出来ず、仮に私の臨時店が無ければここが拠点になっていただろう。

 普通の空間構造を無視したループ構造に心当たりも閃きなく、今回は地形の把握とポスターに稀に見られる鏡文字の記録のみとなった。

 ……合わせ鏡かと考えたが違うらしい。変化は見られなかった。

 

 

 南・地下道

 稀に配管から水蒸気が噴き出る地下道。

 気温は40°と暑く、灯りも古びた蛍光灯と心許ない。

 運悪く吹き出た蒸気を被ると火傷をしてしまうだろう。触れても火傷しそうだが。

 稀にある部屋は焼却炉か謎の設備。設備の形は安定せず、ふんわりとした「地下設備」という認識を具体化している感覚を覚える。

 生徒の反応はない。既に干からびたか、荒野に逃げたか。

 水を好む透明人間とは相性が悪く、透明人間は荒野との出入口周辺、仮眷属の私が単独で遠出をした。

 

・地形…これまでの異相牢と比べると明確に狭く、学校の一階層の半分程度。部屋は5つ、廊下はL字の先に袋小路が多く、仮に鬼ごっこが始まればかなりのケアレスミスを誘発させる事だろう。

   …部屋は焼却炉、施設A、B、C、 Dの5つ。等間隔に配置されており、曲がりの多い道では部屋を間違えかねない。

 

・施設A…遷遺者の副産物

 機械を真似て造られた人類知ったかぶり野郎の作品。

 そんな印象強く受ける、人が使うのに適さない配置がされていた。

 計量の文字や単位に見覚えは無く、合理性よりも絵面の良さが優先されていた。

 

・施設B…同上

 多分デッカい物差し。具体的に書けば、一見真っ黒に見えるひたすら細かいメモリがあった。

 相変わらず人間工学を無視したカスのデザインだが、物を固定し、測定する為の施設なのは伝わった。

 

・施設C…同上

 恐らく犬。正確には動物の骨格標本生成機。

 これまでと同様に人というより犬や猫の四足動物が使うのに適したデザイン。

 施設の目的は不明だが、人が入れそうな大きな試験管があった。

 

・施設D…遷遺者

 一見発電機かと思ったが、ワニに変形したので遷遺者。

 早速襲って来ようとはしていたが、部屋から出られない巨体だったので追いかけっこは無かった。

 特徴的な能力は見受けられず、水蒸気を噴出する機械のワニとしか言いようがない。

 これで小型化する自己進化をするなら脅威度は跳ね上がるが、それまでは遠めに観察するだけに留めよう。先に調べたいものがある。

 

 

 以上が本日の外部探索の成果となる。

 遠征隊の方は転がる岩にちょっかいを掛けて終わっていた。

 個人的に浅く広く異相牢を壊す手掛かりを集められたので、ここから1日一つのペースで解体して行きたい。勿論願望だ。

 明日も早……

 

 

 ……あ、書いてて気になるものが出来た。

 

 「何故私達はこの異相牢で東西南北を認識している」のだろうか。

 

 手元にあるコンパスはぐるぐると回っている。

 こんな異空間で地軸がある訳ないから当然に感じるが……それならこの方向感覚は?

 …恐らく荒野の手掛かりだろう。忘れないようにしなければ。

 

 きっと必要になる時が来る。

 

 

 

 

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