スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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業務:情報整理 対象:不特定の怪談・1F〜5F

 

 

 4月$-2日

 本日は客が騒がしい日となった。

 別に異相牢から逃げ出せる道が発表された訳ではなく、ましてやみんなが役に立ちたいとスキルを志願した訳でもない。

 

 ホテルで人が死んだ。

 この異相牢に来てからはさして珍しくもない出来事に、人々は阿鼻叫喚の恐怖に叩き込まれる事態へと発展した。

 トラウマがぶり返した、根拠のない安全信仰が崩れた、単純にこれが初めて見る人の死だった…。

 

 理由は様々だがなんであれ、最悪なのは殺された時間と手口だろう。

 「みんな集まってるエントランス」で「誰かの手によってシャンデリアに頭部のない死体が飾られた」のだから。

 お陰で余計な仕事を増やされた。殺人か遷遺者の能力に引っ掛かったか、優先して調査しなければならない。

 そして分かったのは、異相牢に居続けた結果であろうということ。

 

 赤地坂の協力の元ホテル付近の地中に頭部のみの状態で、思い込みで窒息し掛けていた被害者を発見。

 頭部だけで生存可能となり、内部を綿に似た糸に置換された存在に変化していた。容態としては情報嵐で要素が組み変わった状態に近い。無機物なので呼吸は必要ない…というより肺が無くて出来ない筈だが行えている。

 彼自身の知能や記憶は、本日の午後に彼の知人らの協力によって多少の低下傾向を確認した。

 尚、胴体は完全に肉の死体であり、蛆の卵を確認してからは先日死んだ遠征隊の1人の隣で冷凍保存している。

 

 暫定的に「人形(ぬい)化」と呼称。

 発見時はかつて情報嵐で起きた人体の「液状化」と同じ印象を受けた。

 どうやらタイムリミットが存在しているようだ。

 

 判明した情報を一部秘匿し伝達した。不用意な混乱を避ける為、タイムリミットの件は隠す事にする。

 問題なのは本当のことを話しても信じない人が一定数居た事。

 

「この中に殺人鬼が居る」

 

 そんな疑心が発芽し、急速に成長している事だった。

 

 

 混乱が収まる頃には現場はめちゃくちゃになっていた。

 シャンデリアから取り出そうとした人、血迷って外に逃げ出した人、泣いて蹲る人…反応は多種多様だが、反応をまとめれば「なんでこんな事になったか説明しろ」となる。

 しかし私も知らないので、客にはそれを伝えて場を収めて貰った。混乱が起きても怪我人だけで済んで幸いである。

 

 ここ以外で安全な場所と言ったら東のループ位な物。

 食事が提供されるのもシェフを用意した当店のみ。夜間の安全も当店限定だ。

 その為誰もホテルを出ようとはしなかったが、その気運の土壌は発生したように見える。

 

 スマホが圏外で暇だったり、眼の前に集中するしかやることがないのもあるだろう。

 現代的な通信機器はないが、ネットに触れて育った学生は想定以上に考えの変化、適応が早い。

 今日だけでスキルの確認に来た人は数知れず、新たに4名の購入者すら現れた。

 

 C「莫大な爆弾(マインダストリー)

 C「進退検査(サーチ・マッピング)

 C「背水に盾(ダメージレース)

 C「善意に及ばず(ダークヒーロー)

 

 攻撃役、自動マッピング兼動くものや殺傷力のあるものの探知と帰り道の記憶、傷つく程反射率が上がるタンカー、肉体が死んだ代わりの動ける(肉体)

 最後に関しては頭部だけになった被害者だ。常時変身形態になれるスキルを応用し動ける身体を手にしていた。どうやら頭部だけになっても立ち直れるタイプの、中々図太い人のようだ。

 

 そして弱体化コインの存在も次第に認知され売り切れた。

 値段も安く、コチラは早々に私の分を除き完売。お客人同士の転売や譲渡、もしもの時の切り札として、知人友人らと共有しているグループも散見された。

 

 獲得したチームの傾向としては初日に商品を全て確認した者が大半であり、自主的に外に出ようとするもの、ホテルが崩壊した時の為の保険に持つチームに分けられる。

 コインが遷遺者への有効な手立てなのが広まるにつれ獲得したチームの発言権は高まるだろう。

 事実、夕方にはある程度上下関係が構築され始めていた。

 

 本日のホテルに居た客人の様子は以上となる。

 遠征隊の方はスキルを使用して岩や竜巻の討伐に挑戦し敗北。仮眷属がホテルまで抱えて逃げる結果となった。

 スキルホルダーは増えている。しかし戦闘に応用するにはもう少しばかり時間が必要だ。

 倫理観もさる事ながら、生身で戦うのは盤上遊戯やスポーツと勝手が違う。

 転がってコチラを殺そうとする高さ5mはある岩の威圧感に臆さない人は少ないのだ。

 

 

 それに比べれば透明人間の方はまちまちと、特に西の九龍城では大きな成果と言えるものを挙げられてると思う。

 

 ゾンビの治療に成功し聞き取り調査を行えたからだ。

 

 手順としてはゾンビを北の凸凹に誘導、事前に「ゾンビと病死。飢えと渇き。嘘と誤魔化しと黙秘」と書いた紙を貼り付けたゾンビをポストへと誘導。

 ルーペを用いずに対象を…北の異相牢に居る間ではあったが…生前の状態を戻せた。

 

 対象から要素を抜き取る遷遺者を利用し、要らない物、余計なものだけの抜き取りに成功したのだ。

 その結果正式にこの現象が異世界側の侵略行為…より正確には多数存在する神々の一柱によって行われたものと確定し、他複数の情報の入手に成功。

 

 対象の神の名の発音を日本語に直すと「アウペラ・ホカ」

 「乗り越える方舟」という意味を持つ獣人の女神であり、

 他種族との絶滅戦争に瀕した獣人が祈った末に、

 全ての獣人と共に他の世界へと渡りに来た神。

 

 降り立とうとしたこの世界の物理法則に触れた際に、この世界に存在を融解させて死んだ神であるようだった。

 

 つまりこの世界は神の生存に適さない。

 なんでも死に際の叫び声は全獣人に聞こえてたようで、水素と塩素…海が神にとってダメだったと聞いたそうだ。

 つまり神はナメクジ。

 

 では完全に消えたかといえばそうでも無く、私が異相牢と呼ぶ空間が死に際に獣人を入れて投げた神の肉片。

 神は自らバラバラになる事で全身が世界に溶けるのを防いだとか。

 つまり情報嵐とは、この世界に溶け出した異相牢(神の肉片)が暴れ回っているから起きる…?

 

 …なるほど。

 

「"異相牢とは死に際まで信者を活かそうとする「アウペラ・ホカ」神其の物"なんだ」

 

 非常に湾曲な表現だったので端的にまとめて呟いた所、北の異相牢は次第に普通の体育館と飛び立った血肉に変わり、獣人はたちまち息苦しそうに死んだ。

 同時に現実に触れたポストと太陽の遷遺者もまた融解して死亡し、私は慌てて透明人間と共に荒野に逃走。

 荒野に入ってからも融解は最後まで行われたが、現実のものに戻った体育館の部分は時間が止まっていた。

 地下の屋上と同じになった。

 

 

 仮説だが、神の御心を暴き宣言したのがトドメとなったのではないだろうか。

 

 言葉には神秘という概念がある。

 様々な意味を持つが、その中には「誰も知らないからこそ成立する」という意味もある。

 相手は異世界だ。物理法則ではない原理で成り立つ者が居てもおかしくはない。

 

 思うに、異世界の神は「神秘」で成り立っているのではないか?

 そして神秘は、その神秘が剥がれるようなもの(今回なら私の言葉)に直接触れると消えてしまう。

 ただし、心に留める内…仮に本なら開かれない内…は他に影響を与えない。

 後、証拠を得た上での確信も大事だろう。

 出なければ今頃あれだけの暇な学生がいる荒野が現実に還ってないのは可笑しい。

 現代の物語に触れた者が暇なら、その手の考察をしてないとは到底思えないからだ。

 

 剽軽(ひょうきん)な原理だが、これは理系の…物理法則の世界で生きた者の感想でしかない。

 それで成立するなら、その世界ではこれが立派な科学だ。

 理系があるなら文系で成り立つ世界が有ってもおかしく無いという事だろう。

 0と1で表せる存在と言葉で表せる存在が、相違点なのでは?…と考える。

 

 

 ともあれ解決策は見つかった。

 異相牢は神が信徒を愛するが故のものと言えばいい。

 

 …と思ったが、他の異相牢でやっても変化は無かった。どうやら前回のゾンビから復活した獣人に値する「証拠」が必要なようだ。

 まあ、考察のみでそうなるなら異世界では簡単に人が死ぬ。何かしら防御策があるのだろう。

 今回の証拠……それから本当の姿の隠蔽もそういうものだと思われる。

 

 隠蔽を剥がし、神の愛の証拠を見つけ、異相牢に化けた神の肉体を元に戻す。

 それが私達のやるべき事だと暴けた。その異相牢に居た異世界難民は死ぬがまあいい。

 助ける方法はこの真相を知った他の誰かに任せる事にする。その為の努力はしよう。コチラに余裕ができてから。

 

 今の我々に異世界人を気遣う余裕はないと結論付けた。

 夢で確認した限り、他にも沢山異相牢はある。

 全滅までには心優しい誰かが助けるだろう。

 ただ、私は絶対に積極的に助けない。

 

 逆に、そっちが自らを助ける努力の邪魔もしない。

 それだけの話だ、祈り手(プレイヤー)居候(ケモノビト)

 

 

‭┫

 

 

 そういえば今日、私が取り込んだスキルの名前を決めた。

 突然であるが、そろそろ能力の全容を暴けた頃合いだと判断した為だ。

 向こうの世界の在り方も分かったのだ、今なら相応しい名前を与えられるだろう。

 

 D「悪因子(デビック)

 

 店長の命名法則に従いつつ、デビルとヒロイックを掛け「悪魔的に振る舞う」という意味にした。

 つまり「悪役」である。

 

 向こうの世界は文字の世界。仮に文脈に沿って生きてるとすれば、悪魔は決まって悪役になるのでは無いだろうか。

 ならば複数の悪魔の欠片を手にし、複数の悪役を兼業出来る私は名俳優になれるに違いない。

 そういう意味も含めた「悪役」だ。

 

 これから異世界側の騒動は増える。スキルをばら撒いてるからこれは確定だ。

 そしてスキルホルダーが争えば異相牢が出張る。異世界人も含めれば何千万人かは死ぬだろう。

 

 それら全ての罪は背負うという気概も含めた。

 

 私は新たな私の登場を望まない。

 複数の悪役を1人が務められるなら、悲劇の数は一つでも少ない方がいい。

 

 

 ……とは言っても、所詮は自認小3のバイトが考えた夢物語。

 論ずるより証拠。神の愛たる異相牢もそう言っている。

 今は夜だがタイムリミットがあるのだ。兎に角見えて来た解決策にしがみついてみよう。

 失敗だったかどうかの判断は後知恵の入った学者にでも任せる事にする。

 

 

 しかしこの手段にしても問題がある。

 

 神の愛とはなんぞや?

 

 異世界人を護る手段。

 つまり隠蔽、崩壊を防ぐ防御策、異世界人を現実で生きていけるようにする現象。

 現象か。

 なら今回の場合「人形化」か?

 

 証拠としてどうすれば抑えられる?

 あの被害者を天にかざして言い張るか?

 今試したが無理だった。

 思うに、証拠の他にもそれを突き付ける相手が居るのではないだろうか。

 

 そう言えば私の存在其の物がある意味異世界人に対する神の愛では?

 情報嵐の液状化の生き残りだ。全身が異世界人な訳ではないが、一部は間違いなく異世界人のもの。いや、精神が無いから認められないか。

 

 やはり現物を抑えるしかないか?

 いや、相手は文系で成り立つ世界の住民で、肉体をバラバラにされて反論が出来ない。

 屁理屈捏ねて獣人に聞かせればチャンスはあるだろう。

 命を賭けた神学論戦となるが、例え相手がある程度の手慣れだろうと神父でもない一般人。

 他の生徒を連れて複数人で迫ればなんとか出来るかも知れない。

 

 若しくは、インタビューした彼の言葉通りにありったけの塩水を用意するか。

 最初にやって無理なら論戦をしよう。塩水が弱点なのは神が言った言葉。

 仮に現実の別の何かが致命的だったとしても、馬鹿正直に信者に伝えて真の弱点が広まるのは最も避けるべきだ。

 私なら嘘を信者に伝える事で、「塩水に触れてないから大丈夫」理論を信者に展開させる……。

 

 あ、そうか。そもそも相手はコチラの物理法則にそぐわ無い存在。

 なら物理的に損傷し死ぬのはこっちの理屈でしかなく、それはあっちの世界の死と同じとは限ら無い。

 論戦の敗北が死だとすれば、彼らにとって傷付けるのは相手に死んだことを認めさせる証拠作りに値する…?

 逆を言えば認めない限り彼らは絶対に死なない…体は壊れたままでも、認めない限り死なないのか?

 

 ならでっちあげは有効か。

 これまでの状況証拠を見るに、「相手に認めさせる」のが肝要とみた。

 

 一通り仮説は立てた。

 後は試すだけ。コチラの論法がどれだけ通じるかの舌戦の実践となる。

 

 感情論は勿論、論点ズラし、循環、すり替え、人格攻撃、狐借虎威、同調圧力、二択強要。

 偽証、黙秘、暴力、謀略、策略、悪計、奸計、奸謀。

 

 推察になるが、相手のそういう世界で生きた住民だ。これらの詭弁が飛び交う事だろう。

 その上言葉が通じなければ話し合う段階にも、相手を攻撃する事すら出来ない。

 怪物は喋らないという話は聞いたが、話が分からないから無敵な怪物は遷遺者くらいなものか。

 私は異世界の存在が混ざってるからか言葉は話せるが、知能のない相手には知能を与えて死を認めさせなければならない。

 その点、異世界の畜産業はどうやって屠殺していたか気にはなる…が、今は関係ない。

 

 ならルーペはかなり論より証拠側のスキルでは? これも今は関係ないか。

 いや、ルーペは論戦に応用出来るかも知れない。後で試そう。

 

 どうあれ、事前の準備もアドリブも大事な挑戦だ。

 (いま)の内に行こうと思ったが、今は理論武装や説破の用意が必要だろう。

 論戦は知恵比べ。実力行使に抵抗しながらだと生半可な突撃は死を招く。

 言葉が通じないなら、通じるように与える必要だってあるだろう。

 そのために必要なスキルは…幸い2人の候補者が居る。

 

 

 可能性は見えた。

 備えよう。

 

 

 

 

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