スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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業務:アフターケア 場所:どこの公園

 

 

 4月*日

 芸術家の所に行ったが会わなかった。どうやらスキルの中に篭ってるらしい。

 彼は彫刻家だ。一つの作品を作るにも時間がかかる。その上スキルという新しい素材を弄る訳だから……鋭意制作中という事だろう。

 

 3Dプリンタや工場の精密さ、手で掘る意味や現代的な社会やコンセプトとか、聞きかじるだけでも多くの悩みを感じ取れるのが現代の芸術家という人種だ。

 「夢」を伝って会いに行ってもよかったが、最低限言うべき話を書き連ねて彼の寝床に置くだけに留めた。

 

 ついでに彼がスキル内に構築した美術館を観て回った。

 どうやら「生きた彫刻」に挑戦しているらしい。

 展示室で生活しているドラゴンやユニコーンにフェニックスの彫刻を始め、いつか観た夜に独りでに動く博物館の映画のようだ。

 中には途中からコツを掴んだのか、鳴き声や生き物の温かさだって再現した物もある。

 

 芸術家はこんなの二番煎じだし科学で同じ事は出来ると隅に追いやっていたみたいだが……私からすれば十分お金は取れると思う。

 指輪物語を太祖とした幻想的なアトラクションとしては十分だ。

 

 頑丈で、美術品自体が自分を保守し、動かす電気代も必要ない。

 神秘的だし、現実以上に鑑賞者には体験を与えられる。子供達は大興奮間違いなし。

 

 具体的には……真に迫ったユニコーンに乗って野原を駆け回ったり。

 ドラゴンを討伐する勇敢な騎士になったり、あの豪勢な鎧の騎士団でチェスが出来ればそれだけでハリポタだ。

 というかハリポタの完全再現が出来てるのだから無限に楽しいに決まってるし金になるに決まってた。

 

 芸術家は自分らしくないと彼らを追いやったが……見た目は勿論様々な素材を駆使して拘り抜いた触感、生態、鳴き声、反応……どれを取っても、この作品達は「己の美」を理解して私に魅せてきた点を含めて、彼らは立派な「役者(アクター)」だ。

 彫刻という静寂にある躍動の美と対極ではあるが、サーカスや映像美は十分現代に通じるレベル。シンプルにコレが公表されないのが勿体無い。

 AIなんてものがある世の中だが、彼らの「生きている」事の表現力には叶うまい。芸術家が最も拘った部分がそこなのだから。

 

 何より、個人的に彼らが経験を積んで学習出来るのか気になった。

 折角なので件のアプリを仕込む為にもネット環境を整えておこう。

 機材は…金のある店長に用意して貰おう。人型の彫刻もあるみたいだし使えるでしょ。

 最低限ネットの使い方を教えて、動画を撮るかどうするかは彼らに任せる事にする。

 芸術家には……言わないでいいか。今はこれまでの習作を元に素敵な服で着飾った少女の制作に挑戦しているようだし、邪魔しては悪い。

 モチーフや演出の為の殴り書きの計算やメモや設計図も有ったが、初見の楽しみの為に見ずに帰った。

 

 お姫様役なんて幾らでも需要あるし、彼女が完成するのが楽しみだ。

 今は世間の注目を浴びる用意をしつつ、見守る事にしよう。

 

 その為に芸術家は人である事を捨てた様だし、きっと素晴らしい作品になるだろう。

 

 

‭┫

 

 

 スキルは身体と心、両方が揃って始めて使えるらしい。

 心は脳にあり、スキルは全身に染み渡る。

 脳だけでは器の大きさが足りず、身体だけでは使う者が居ない。

 魂や存在とか、そういう概念はスキルを扱う際は忘れた方がいいそうだ。

 信念や言い回しとして使うなら兎も角、スキルは何処までも物理であるらしい。

 

 私はこれまで今までスキルはある程度そういうものとして扱ったが、店長からみれば全て理屈と現象の組み合わせなのだろう。

 だとすれば人間以外が持つと遷遺者になるのはどういう事だろう。店長は理解しているようだが、その説明はどうも私の理解の外にある。

 

 専門用語が多いわけでは無い。大体は既存の単語だ。

 分からないのは、例えばAがBと合わさりCとなるという文が「確信が限界突破して現実に現れる」……というものだからだ。

 確信が限界突破する…? 現実に現れる…?

 

 つまり信じる力が現実を塗りつぶし自分の世界観を本物にする固有結界みたいなものかと聞いても、違うらしい。

 現実はそのままに質量を伴った信仰がスキルとかなんとか。

 一念込めて剣を振ってたら、気付けば斬撃が飛んでたとかそういう話…?

 

 違うらしい。現実の理屈ではなく、スキルはスキルの理屈だからそのまま解釈していいとか。

 ふむ……ふむ?

 

 確信が限界突破して現実に現れる…?

 だから人間以外は遷遺者になる…?

 やっぱり心が現実を上書きするとかそういう話では?

 

 違うらしい。上書きじゃなくそうなったから現実なのだとか。

 これまでの否定ではなく順応、事実だからあるべくしてある。

 そうなのだから、そうなる。

 成立するから出来るのではなく、出来るから成立する。

 

 …………つまり出来ると仮定して実行し、実行したからこれは出来る事だと現実に認める?

 合ってるらしい。その仮定が確信だと。

 分かった、つまり詭弁染みた破綻した証明による書き換えか。

 

 確かに上書きではないらしい。上書きは過去が残るが、書き換えはこれまでの全ての歴史の記述まで変える作業だ。

 つまりそうだった事にする。ここでこうなるのが正しい世界のあり方だったとして世界の方に自分を合わせさせるのだ。

 

 傲慢が過ぎる

 

 世界と歴史をなんだと思ってるんだ?

 これ情報嵐で私の故郷が歴史諸共消えたのと同じ原理じゃないか。

 つまりスキルは極々小規模な情報嵐だと? ばーかばーか。

 しかもやり方自体が破綻した証明とか、絶対世界への負担エグいだろ。世界の寿命すり減って無いだろうな?

 

 ……と思ったが、どうやらこれはBクラス以上での理屈のようだ。

 それ以下は書き換えを行える程の出力が足りず、スキルを入れられた動物が死ぬだけらしい。

 B以上だって人間に入れた場合、人が元来与えられた教育や合理的思考、疑い深さなどがストッパーとなって書き換えまではいかないようだ。

 

 つまり変に理屈っぽいからスキルを1番低出力に扱える人間が、1番世界に負担を掛けないで済み、暴走もしないと。動物は逆に単純過ぎてスキルを壊す勢いのまま暴走させてしまうと。

 何故だろうか、理性と知性があるからスキルを扱えるという話なのに、裏事情を知ったせいで素直に喜べそうにない。

 ボールペンをベキッと思うように、当然出来ると信じる心が本来の力を発揮させる理屈でもあるのに、不思議だ。

 

 ともあれ、別人格がスキルを得るのは無理そうだ。

 仕方ないのでその後は暫く店長と1時間遊ぶ事にした。さっき撮っておいたファンタジー美術館を見せたかったからだ。夕日が来る前、余裕を持って帰れる程度に遊ぶとしよう。

 

 

‭┫

 

 

 帰り道、復讐の彼とバッタリ出会った。

 病院はどうしたかといえば、どうやら今更バツが悪くなって抜け出したらしい。

 殺し合った人、透明人間にして殺しの道具に使った人。なまじ顔を透明化して隠しバレなかった分、相当堪えてるようだった。

 

 近くの公園のベンチに座って話を聞いた所、あの後の顛末はこの様なものだったらしい。

 

 

「一年下の…アンタがスキルを売ったんだろうクラス…Bクラスだったか。

 アンタと別れた後、屋上にやって来て殺し合ったんだ。

 ……最初から殺し合ったわけじゃ無い。相手は最初に話し合いを選んだし、俺もそれに乗った。

 

 けど、向こうは俺が復讐を止める以外のゴールは認めてなくてさ、だから「雨人間」…ああ、俺の雨で透明になった連中な。

 半分以上は雨人間にしてさ、普通に戦えば勝ち目もないし、犯人じゃ無さそうだったし。

 そのまま足止めさせて、その間に俺は屋上から逃げた。これが復讐の始まりだって叫びながら。

 

 そしたらどうなったと思う?………出て来たんだよ、俺の家族を殺した奴が!!

 校舎の3階で会ってさ、コイツがホントクソを煮詰めた奴で……関係ない奴ら沢山殺した俺が言うのも何だけど、人の神経を逆撫でするのが上手い外道だった。

 そんで煽られて、俺は怒りのままに雨の槍を投げて……ん?ああ、上手い事手元で固めりゃ出来るぞ、圧縮した水だから金属くらいにゃ硬い。そんで触れれば一発アウトなのはそのままだ。

 

 まぁ……正直強かったよ。あっちがスキルを使う前にコッチはヘトヘトになってたし。

 ホント何あれ。アイツこそ怪物だろ。 天井に雨で作った手榴弾を貼り付けた教室に誘き寄せたのに、アイツ平気な顔でパイプ2本で捌き切りやがったし。もうアニメの超人だろあれ!

 ふざけんなよ…まじでさぁ…!

 

 …………クソ。

 

 ……ここまで俺は雨人間にはしても殺してなかったんだよ。

 アンタも屋上に来た時言ってたろ? 雨人間にしても治せる商品は用意してるって。だから俺も、使い潰さないようにしながら、申し訳ないけど協力して貰ってた。

 

 ‭─‬‭─アイツがやったんだ!!!!

 

 アイツ! 校舎を解体して! その上雨に針を紛らわせて! しかもあの針、刺された奴らの中にミミズみたいにくねらせながら侵入して、中身からズタズタにしたんだ! 雨人間も生徒も関係なく!

 そんでなんて言ったと思う!?

 

 "お前のせいだ"

 

 なんだよそれ! やったのお前だろうが!

 お前が殺したんだろうが! お前が! お前ガァァ……!!! ゥゥ………ごめん、みんな…。

 

 

 悪魔、俺決めたよ。

 アイツは俺が殺す。アイツは、赤地坂は警察の偉いとこの娘みたいだから苦労すると思うけど…誰かがやらなきゃ、これからもっと沢山の被害が出ると思うから。

 

 ……や、別に、お前を恨んじゃねーよ。

 アイツが言ったんだが、アイツにスキルを売ったのはヌルイって悪魔だ。

 ミカンはこの世界の悪魔なんだろ? スキルを売るのが悪魔の生業なんだし、同じ悪魔だからって恨むのは筋違い。銃を売ったからって、銃を売る人を恨むのは違うって話だ。

 

 だから…応援しててくれ。それだけで十分だ」

 

 

 以上。

 頼まれたので応援したが…彼自身の幸福の為には遠い場所に離れるのが懸命に思える。

 …と考えたが、転移ポータルがある限りそれは叶わない夢か。

 

 何処にでも行けるとは、何処にも逃げ場がないのと同じだ。

 

 

‭┫

 

 

 4月×日

 今日気付いたが、私が毎日抱きながら寝ている人形と、別人格のMs.ドレスの容姿の類似点が多い。

 この人形は私があの嵐から逃げ出した日、いつの間にか抱いていたぬいぐるみだが…良い機会なのでなんのキャラクターが調べる事にした。

 

 その結果、二年前にサ終したソシャゲの一キャラだと判明した。

 なら何故Ms.ドレスと似ているかとなったので彼女自身に覚えている限りの来歴を語らせた所、こちらもソシャゲのWikiに書かれた設定と同じだった。

 彼女は衝撃を受けていたが、それは私もだ。

 

 もしかしてスマホに有ったソシャゲのキャラが一要素として分解され、それが偶然私の構成要素として人格に入り込んだりしたのか?

 あり得ない話ではない。何でも情報として分解するなら、そういう事があっても不思議ではないだろう。

 衝撃の真実だったが、お陰でMs.ドレスの名前が「アオバ・ソコロワ」であり没落した運輸会社の財閥の娘という設定があることが分かった。

 この作品のキャラのデフォとして銃の扱いが上手く、プレイアブルキャラとしては動けるタンク兼整備役、「臨戦列車」というコンテンツに向いたキャラ造形であったようだ。

 ストーリーにはちょくちょく出てくるし、ショップの店員としても出て来ている。

 なんであれ、生身の用意は不要なようで幸いである。

 

 だが不思議だ。彼女は名前は覚えてなくても、それ以外の殆どは覚えていた。

 私にはその様な記憶は無いのにも関わらず…である。

 元はどうあれ私の構成要素となったのだから、私がそれらを思い出せてもおかしく無い筈だ。

 

 仮説として私には「ジャンク要素」という、混ざってはいるが機能しない要素があると仮定した。

 「D因子」のサキュ以外の連中みたいなものだ。肉体的に現れず、潜在していて扱うのに一工夫がいる部分。スキルの店長が封印した荒魂に当たる要素もこれかも知れない。

 

 遺伝子の潜/顕と同じような理屈だ。

 遺伝子と違うのは、上手くやれば自分の力として引き出せそうな所か。

 

 

 そんな風に元は同じなだけあり似た部分が度々見られたが、本日は管理人と相談しつつアプリの構築と宣伝に務めた。

 最初は知識も何もなかったが、さすがはスキルと言うべきか。貰ったその日にプログラムを機械語でベタ打ち出来る程度まで仕上がっていた。お陰で質は申し分ない。

 

 そんな訳で早速利用者が増えつつあるブラウザアプリ「skiller」だが、スマホに限定せずパソコンやVRchatにも対応することにした。

 何故かと言えば、パソコンは単純にターゲットを増やす為。VRは管理人のスキルを最大限活かせそうな環境であるからだ。

 古いバージョンのパソコンやスマホでもスキルを利用した容量通信の軽量化で最新機並みのゲーム動作を保証できる様にしたのですぐ評判になるだろう。スキルを噛ませれば最新のAIも全然電力を必要としなくなるし、ついでに実装とする。

 

 VRは未だ視界を覆うタイプだが、脳に直でネットに繋げられるのが管理人のスキルだ。

 これを利用し、スキルの効果を分け与えられたVR利用者にいい感じに感覚を与える。

 急いだので多少雑な創りだが五感が再現されるのだ。喜ばない人はおるまい。後の改善は管理人の気分次第だ。

 

 

 本日はそんな所となる。適当に掲示板みたいなものもブラウザに追加したし、その内バズる事を祈るとしよう。スキルの購入は明日に回そう。…何故か見える朝日は無視。

 

 では、おやすみなさい。

 

 

 

 

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