スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

16 / 17
業務:他社連携 場所:夜の窓辺

 

 

 4月=日

 起きたら夕方だった。どうやら今日の朝から昼までずっと寝ていたらしい。

 やはりネットサービスを突貫工事したのが良くなかったのだろう。

 久々にスヤスヤ出来たが、確認した所管理人はまだ寝れてなかった。

 

 どうやら私が寝た後どこかでバズったようで、今話題の新規ブラウザとしてネットに自信のある連中から攻撃と解析をされているらしい。

 その辺りはなんでもない様だが、三つの最新鋭技術を売りにしている所がコチラと交渉しようして、無下していいか分からないまま話を聞き続け……そうして眠れないようだった。

 

 交代して調べたので以下に主張を記す。

 

 

 Jump Railway GATE総括部門/跳び越える鉄道社

 転移ポータルを管理する国鉄会社。その中でも全体を管理する所。

 日本全土の要地を繋げており、高速化していく現代を支えている。

 

 提案内容:御社が提供するネットサービスとの技術連携。

 意図の要約:其方のanomaly技術(恐らく遷遺者を利用した技術)は確認した。当社のものと合わせればより国が豊かになると考え、技術交流と資金援助を提案する。

 

 

 Strangeness Restoration社/異常性復旧社

 株式市場や世間一般の認知は見受けられなかった。

 調査した結果、民間会社に扮したアメリカ軍人とスパイの傭兵会社で、現実に現れ安定した異相牢の拡張と利用が確認された。

 

 提案:Level(恐らく異相牢のこと)内部での安定した通信が出来たので技術提供を要請したい。

 意図:見返りに資金と人員を提供し、コチラでの一部の異相牢の調査も可能と言っていたが、最終的に自社に取り込むのを確認した。

 

 

 神國研究会

 ネットや一部地域での熱血とした活動が確認される宗教研究団体。

 いずれ神が住まう國があの世から現れると主張している。終末思想を持つ集団。

 

 提案:神力器(恐らくスキルのこと)の売買の禁止の強要。世界の滅びを早めるという警告。

 意図:スキルによるダンジョンの誘発を防ぐという言葉のままの物。上二つと同様に本拠地に直接確認した所、各地の消えた歴史の違和感から異相牢と情報嵐を突き止めていた。力は無いが、最も真相には近いと言える。

 

 

 以上。交渉はある程度粘ってから断り、その間に営業を仕掛ける事にする。

 ネットの方が話題になっているなら無秩序に広める方が早いと踏んだ為だ。

 商品は其々に合った情報と力を用意。よし、姿を現そう。

 

 

 売ってきた。

 或る街に蔓延る夜の遷遺者は厄介だったが、別人格も利用し全て一夜の出来事で終わった。

 結果は後から分かるだろう。

 今新たに判明した事としては、私は銃弾を「眠らせて」無力化出来る事だけだ。

 

 夜の遷遺者はコインにしてないものの、利点が窓越しに望んだ場所に行けるだけならルーペを使っても支障はないように見える。

 オマケの死者の記憶が残留して生まれた裏の街がどれだけ役に立つか、検討の後に処遇を決める事にした。

 

 

 

 ……今、こんな時間に新たな交渉相手が現れた。

 寝る前に記載しておく。

 

 

 イセカイゲェムメーカー(株)

 一般的なゲームソフトメーカーの一つ。コアなファンが多いと評判。

 私でも知る作品としては

 CMで見たソシャゲ「エラ・タペストリー 〜幻話の時織姫〜」

 昔に私もやった物であれば「不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャ」

 Ms.鹿田が話していたものであれば「プリンセス・魔法少女メーカー」

 里親の父がやっていた小学生の夏休み系の「僕の怪奇譚」

 死んだ家族がやっていたステラテジーに似た「dystopia」

 

 が挙げられる。私の周囲には俗に言う「コアなファン」が多い傾向にあった。

 

 提案:本物のVRゲームを作れそうなのであなたの技術をゲームに使わせて下さい。後、あなたの技術の特許申請、やって無かったのであなた方名義で終わらせておきました。後ほどご確認ください。

 

 意図は確認してないが、特に害も無さそうなので許可を出した。中身を調べるのは禁止、貸し出すのはVR関連のみ、弄るのはコチラが指定したパラメータの調整のみとする。

 

 ではお休みなさい。

 

 

‭┫

 

 

 4月」日

 管理人に頼まれていた奥様の様子の確認に向かった。

 先日の寝る直前にしたゲーム関係は……やったものは仕方ないのでそのままにしておく。代わりの特許申請を始めに未来でも見えないと不自然な点があるが、ゲーム開発は時間が掛かるもの。

 後に回してもさほど問題は起きないだろう。今は桜笛教だ。

 

 

 マダムが12歳程度の少女の姿にまで若返っていた。なんでさ。

 

 ともあれ、教祖は前に『桜鯨の笛(バレイア・ローザ)』を売った、クビになったサラリーマンだった。

 本人に事情を伺った所退職させられ私と会った後にスキルを使用。

 普通にスキルの命令に従っていたら奇数な縁で信者を得られ、次第に今の立場になったとの事。

 最初は困惑していたが、何をすればいいか途方に暮れた人達の助けになれて段々生き甲斐も感じてきたらしい。

 宗教になったのも命令による物だという。

 

 教徒は首に桜色の笛を下げて持っており、これを鳴らすことで自分に啓示…命令を受信しているようだ。

 基本的に命令の達成が報酬と直結しており、ランダムな命令を達成して無から報酬を出す…というより、命令の達成自体が本人にとっていい事に繋がる仕組みであるらしい。

 本来の仕様からの変化からしてスキルの拡張……と言うより、別要素の為に報酬内容を切り詰めてこうなったようだ。

 

 ではどの要素が拡張されているか。

 どうやら彼らの持つ笛其の物のようだ。

 命令の達成に準じて笛も大きく複雑になり、最初はホイッスルでも次第に犬笛、オカリナ、と変化していく。

 教祖は持って居なかったが、本人は手に持てる大きさに無いので祈りの部屋に置いているらしい。

 誰でも見れるというので見せて貰ったが、どうにもパイプオルガンに成る途中であるようだ。

 成長速度を見るに、教祖以外…全教徒の命令達成も反映されているのだろう。

 

 折角なので音の調律をしておいた。

 私を構成する8人格の内、誰の技能かは知らないが…出来るものは出来るので良いだろう。

 今後の成長を見越し、歪になりそうな要素の削り出しと欲しい場所のパイプの継ぎ足しに掃除、それからお手入れのマニュアルも提示しておく。

 

 スキルで創られた楽器だろうと点検は必要だろう。

 思い出せないが、この手が成長する楽器の扱いに慣れていたので、その感覚を辿ってやり方を記載した。

 夢の中で教祖に宿るスキルの力の流れを確認したし、教祖の様子確認はこれで良いだろう。

 

 

 さて、そろそろ聖女の方を聞き取るか。

 

 どうやって昨日の今日でそうなったか不明だが、どうやら教祖と奥様のスキルがマリアージュした結果みたいだ。

 伊達に信じる力が強いだけはあるのか、奥様は基本的に安定した高出力を叩き出せる。

 スキルの使い手として他と頭ひとつ抜けて適正があるのだ。その上確信こそ肝要なスキルを扱っているのだから始末に終えない。

 

 相性が良さそうだと売った側が言うのもなんであるが、死んでなければ治せるのはやや反則気味だ。

 即効性には欠けるとはいえ持続回復力…対象に与えた効果の維持時間が凄まじい。

 指一本生える回復力が平均して8時間は継続しているのだ。

 健康であれば都合良く回復が止まるようにしているリミッターを外せば五倍は延びるだろう。

 

 その上、彼女は対象をどれだけ愛してるかに応じて持続時間を増える拡張を行った様子が見受けられる。

 

 であれば…管理人にかけられた回復の持続時間は月単位でもおかしくはない。

 こうなると「加護」や「祝福」と言っても差し支えないだろう。

 どうにも愛対応の拡張に合わせて人の脳で出力する筈の愛の感情をスキルでも行って、限界を超えたようだし……流石に奥様が今世界がどう見えているか末恐ろしく感じてきた。

 

 人の脳とスキルの両輪で愛情を出力してるのだ。

 多幸感や博愛精神で性格が変わってもおかしくは無いだろう。

 見た目が変わったのは…人の身を超えた愛を得た結果ではありそうだが、あまり良い物では無さそうだ。

 

 愛情という情報で積み重ねた時間が押し出された可能性が高い。

 

 スキルも遷遺者も情報嵐も、根本は全て同じものだ。

 ならばスキルが出力する「愛情」という要素が、それを受け止める人の要素を押し流すのは道理だろう。

 文字通り身体は愛で出来ている訳だ。物質で言えばオキシトシン、ドーパミン、セロトニンである。

 若返ったのではなく、老いるまで蓄積した情報が消えたのだ。

 ならば奥様はもう「聖女」という要素…種族…遷遺者と化している最中なのでは?

 

 もちろん推測だ。違うかも知れない。

 違うかも知れないので検証する事にした。

 

 遷遺者ならルーペでスキルを回収できる。イルカで実験した時と同じ原理だ。

 しかしただ回収するだけでは散らばった奥様の要素は取り戻せないので、バイトとして利用出来る範疇の、店長のスキル効果を利用し人としての要素を回収する事にする。

 

 勿論そんな事が手軽で出来たら真っ先に私は実の両親を戻すが、今回のやり方は実に限定的な好条件が揃ってそうだったので試みた検証だ。今後同じ条件が揃うなら再現は可能だろう。

 

 先ず、奥様は聖女として活動している間、啓示に従い換気もされてない二重扉で密封された部屋に居た。その上出入りには扉を閉めてから20分待機し、お互いの空気が混ざらないよう配慮が成されていた。

 

 情報嵐により分解された人間の「要素」は、物理的には極小の粉塵、又は結晶として存在する。

 まだ仮説の段階だが、これは現実と異世界の両方の法則が重なった状態であり、両方の影響を受け続ける状態である。

 

 その他2つの好条件の当店のスキル持ち、購入1週間以内であるのが何故好条件となるのかは省略するとして、やる事は契約によるクーリングオフ処理と夢の展開とルーペと空の使い捨てコインを同時に使用するだけだ。

 

 店長の購入履歴参照で人の要素を見つけ、本来の形へ戻るよう夢で満たした環境の暗示で誘導。

 人として余計なスキルと遷遺者要素はルーペと使い捨てコインで分離する作戦である。

 余裕があれば手作業で粉塵を正しく配置する事を試みたい。

 予想が正しければ奥様は元に戻りスキルは回収となる筈だ。

 

 

‭┫

 

 

 結果的に言えば成功し、失敗した。

 奥様は肝心の記憶だけは戻せたが肉体は12歳のまま。

 スキルは奥様の桜笛と連結し遷遺者に変貌。

 厄介な事にルーペとコインに耐性を得た遷遺者になった。

 容姿は奥様に似た…管理人の姉と言われれば納得出来る背丈と顔付きに、桜色の髪と海洋の様にハイライトが波打つ青い眼、首に笛の穴と同じ物があり、対象が立つ足元は波紋の影を等間隔に発生させ、ソシャゲの様なエセシスター服を纏い、首の笛から出す高音に意思を乗せて会話を行った。

 

 対象は自らを「聖人」、「試練(ネメシス)」と自称。

 桜笛教における神の意志に基づき行動する代行者と宣明。

 その後の取り調べにより教祖のスキルに紐付いた「召喚物」と名乗る。

 

 行動指針としては啓示を受け取ったはいい物の、その人には不可能な命令を代わりに行って報酬を与える代行人であるらしい。

 能力としては人の枷から外れた遷遺者出力で『新生せし信仰(リバースロウ)』を行使でき、全体的に超人的な性能を発揮した。

 その際の外部の悪影響は確認出来ず、どれくらいの出力で「世界を書き換えてしまう」か理解している反応を見せた。それらの行為に本能的嫌悪感を感じているらしい。

 

 教祖に「主人(マスター)」、奥様に「義母(マミー)」、私には「調律師《チューナー》」と呼称。

 教祖の持つスキルに対してどう呼ぶか問い詰めた所、特にはと発言し、誤魔化しの意図を発生させた。好きな動物の問いは間を置かずイルカと大声で挙手。性格、個体意志有りと確定。

 マスターと仰いでいるのは教祖ではなく彼のスキルである可能性が高い。

 

 

 どうあれ必要分スキル屋としてのサービスは行ったと判断。

 異世界人を除き初の対話意志を持った遷遺者ではあるが、存在としてはスキルによる召喚物…即ち付属品。

 これ以上は過度な干渉となるので引き下がる事とする。奥の手が使えない相手だが殺せる存在なのは確認したし、そもそも嵐を引き起こさない限り私の敵ではない。

 

 

‭┫

 

 

 家に帰る前に前に実験したイルカの様子を確認した。

 楽しいショーを見せてくれたので満足した。

 ついでにショーの後に知能テストを行ったが、既に中学生並に文字や言葉は理解出来ていた。

 今の生活に不満がないか聞いたが、偶に海で泳ぎたくなる以外に文句はないという。

 

 ふむ、彼女が実験体になったお陰でマダムが助かった面と無断で実験体にした負い目もある。

 動物に売れそうな商品も考えてみるとしよう。

 動物が扱っても遷遺者にならない程度に弱く、出世払いでなんとかなるコスパの品。

 難しいが、ペット向けの開発はアリか。試作品はこの子で試す事にする。

 

 取り敢えず本日は私の知っている童話を夢の中で読み聞かせた。

 色々な事に応用してはいるが、私の「夢」は本来未知の世界を見せる為にある。

 それが性欲に塗れてないだけだ。これまでで1番本来の使い方に準じてるだろう。

 

 南国のリゾート地に住んでる人の夢を幾つか拝借して繋ぎ合わせ、私もイルカに変身して一緒に泳いだり、彼女が人になった場合の姿を変えたり、童話を紙芝居で読んだりしてみた。

 一般的に楽しい夢と思える要素を詰め込んでみたが、彼女も楽しんでいたのでヨシとする。

 

 

 夢の終わる最後にもっと一緒にいる方法を尋ねられたが、人になってスキルを買えば確実に増えると返答した。スキルのサポートに度々訪問するからだ。

 しかし人が増えればこのサービスも手が回らなくなる。ネットでもリアルでも、ユーザーには相互に助け合うシステムを創らせる必要がある。つまりこの返答は不適切だったが…まあいいか。

 

 

 そういえば明日にでもなれば昨日売り払ったスキルや情報を受け入れられてる頃合いだろうか。

 昼の内に会いに行こう。最初は……最も理性的に対話を試みてたから混乱も少なそうなJRGとする。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。