スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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業務:スキル制作 場所:バックヤード

 

 

 4月→日 サキュ

 今日は店長と一緒にスキル制作をした。想定より遥かに難しかったが、完成したスキルを見ると達成感とあり大変良い経験になった感覚がある。

 筋が良いと褒められたがまだまだだ。

 店長がどれだけスキル制作の高みに居るか、安全ストッパーを設けるのがどれだけ難易度が高いか、パークスキルがどれだけの無茶振りか理解に及んだ。しかし今後を考えれば大量の創り手が必須なのだ。いずれ機械で量産できるよう、やり方をマスターするべきだろう。

 それがスキル化した被災者を助ける方法を見つける事に繋がる筈だ。

 

 

 先日、不幸な行き違いで人魚の私が独立した。

 正確には人魚の私のフリをした、遷遺者に取り込まれた嵐の被災者が、「小鳥遊みかん」の立場を私から買い取った…のだが。

 

 ややこしい。

 なのでこの際この方の事情は放っておき変化だけ書く。

 

・私は「みかん」の立場を売ったので表社会の立場を無くした。

・なので今後スキル屋の店員として生きる事になる。

・「小鳥遊みかん」の役が私じゃなくこの方になったので、「小鳥遊みかん」とフルネームがちゃんと残るようになった。

 

 それだけだ。要は一生この道を生きるというだけの話。

 その内独立して自分の店を持ちたいものだ。先祖が丸ごと消え去ってるので苗字は無理だが、店には私の名前を付けたいと思う。

 

 まぁ、現時点だと私は「みかん」ですらない名無しの権兵衛、リアン、ウーティス、ノーネームな存在なのだが。本名は言っても書いても消えるから使えないのだ。特に苗字は偽名すら無理と来た。

 最近は「悪魔」と呼ばれてるし、この際名前を沢山集めても良いかも知れない。

 気分としては鎖ジャラジャラファッションだ。

 

 

 休憩時間に管理人の所に向かった。

 フクイチから情報嵐が起きる前の過去を聞く為だ。

 長い話になるが、取り敢えずこの前提は最初に書く事にする。

 

 

 19XX年(正確な年月をフクイチは知らなかった)、世界は別世界の観測に成功したッ!

 異世界の発展した技術を参考に出来る人類は急速に発展し、20XX(書いても消えるので後半は記載不可)年、人類は栄華の極みに到達していたッッ!

 

 

 フクイチが勤めていたあのゲーム会社は異世界を見る施設があったらしい。

 異相牢ではない。完全な別世界で、この世界を攻めて来る世界も観測していた。

 いや、寧ろあの世界がここにやって来たのは観測を認識したからだろう…とも。

 

 この観測は見られる側にはかなり分かりやすい物であるらしい。

 行った異世界には必ず見た側の痕跡…例えば自分達の技術や名称や理念、場合によっては類似した性格の存在が残るんだとか。とはいえ、大抵は科学技術の発想を、相手にちょっとした閃きとして齎す程度らしい。

 だからと言って自分達だけのせいではないとか。そもそも自分達はゲーム会社で、異世界を見るのは世間一般で普通の技術だったと。

 

 このゲーム会社はゲームのネタ探しの為にかなり本格的な設備を使っていたようだが、他にもっと立派な物を使っていた国や研究施設はあったし、民間にも天体望遠鏡のノリで「異世界望遠鏡」を代表にそういう商品が玩具として流通していたんだとか。世も末だね。

 

 問題は、世界の狭間を揺蕩う神の船をどこかの研究者が見つけてしまったこと。

 これまで神を名乗る存在はあらゆる世界で確認されて来たが、世界の外に歩み出せる程の上位的な存在はこれが始めてだった。

 論文は直ぐに広まり、追証として各地でかの船を観測した。

 

 そして見られるのに気付かれた。

 

 船ははっきりとした意思でこちらに向かい始めた。

 最初こそ混乱はあったが、人類は最終的に歓迎する方向でまとまった。

 もしもの準備をしつつ、かの船の来訪は世界的に良い物として扱われた。

 世界同士がぶつかって発生する消滅事象…「情報嵐」は知っていたが、まさか神が世界の一部を抉り取って来てるとは思ってなかったとか。

 

 単純に、そんな芸当ができる存在を見たことが無かったから。

 

 結果はご察しの通り。

 神を見ていた各地の観測地を中心に一斉に情報嵐が起きた。

 準備も、準備した過去と一緒に消えたので殆ど意味を成さず、この星の主要都市を始め、個人的に観測していた人がいた街も殆ど終わりを迎えた。

 東京が無事だったのは、地震などでこの観測機器が壊れた際の何らか災害を警戒し、首都での観測を全面禁止にしていたからだ。フクイチ曰く、讃えるべきは当時就任していた、妄想癖の激しい総理大臣だとか。

 

 ともあれ、それが6年前に起きたこと。

 数多の名前、人物、歴史、数字の日付け、過ちの記憶……途方もなく様々なものを奪い去った嵐の。

 

 私の街で、それ以外の沢山の場所で発生した嵐に至るまでの顛末である。

 

 

‭┫

 

 

 事情は分かったが、神側もこうなると知らなかった様子なのがなんとも悲しい話だ。

 あれ以来神が書いた日記を少しずつ集めているが、侵略の意思があったとはいえ、自分達が受け入れられるなら、話し合いで解決したいという言葉もある。

 

 もしかすれば、少しでも何かが違えば、私たちは平和で、穏便に、少し風変わりな隣人が増えるだけで済んでいたかも知れない。

 

 だがそうはならなかった。

 ならば今できることを全力でやるだけだ。

 過去を知りスキル屋なんて情報嵐で人の要素が空気中に溢れてる事前提の存在がより謎になったが、恐らく私以上に何らかの奇跡が噛み合わさって生えて来たのだろう。

 現実と異世界、どっち側にもそれらしい前身の存在が居ないんだから、そうやって出来たと考える事にする。

 

 

 それはそうと管理人のブラウザアプリだが、本日めでたく正規版…?がリリースされた。

 これまではベータ版だったが、本日から「skiller」は……「スキャラー」ということになる。

 スキャラーだ。英語は綴りを間違えそうなのでこれからはカタカナで書く。

 前に振り仮名を添えて日記に書いた気もするが、特に書いて無かったので気のせいだった。んー?書いた気がしたのだが……。

 

 ともあれ、バグ取りを始めに一通り実装したいものは実装したのでver.1.00リリースだ。これを正規版と呼んで良いかは知らないが、取り敢えず正規版と呼ぶ。

 

 ユーザーの評価もまずまずであり、悪い話は今のところ確認されてない。

 管理人も背伸びをしているし、ゲームの方がメインと言われてはいるが悪いことじゃないだろう。

 明日にはポータルとも繋がるのだ。交通状況をリアルタイムで……防いでるとはいえ仮に異相牢への遭難者がいれば自動的に発見し位置が常に反映される。もしあるとすれば海外のポータルから遭難した人だろう。私が夢を伝って片っ端から通信装置を置いて成立している捜索網だ。スマホを頼りに電波が強い方へ向かえばそこが安全地帯。通信装置の傍らで私の救援を待てるようになる。

 緊急時の食料も毎晩異相牢に順次アーモンド水とトマト缶を置いて回ってるのでかなり待てる仕様だ。代金は勿論スキルのご利用サービスとして経費で落とした。

 

 ポータルの混雑と言えばほぼ車の交通と人の混雑と同義だが……欲しい人は欲しいだろう。私は要らない。だが車のナビは欲しがるだろう。その辺りのシステム連携も行うことにする。

 人だろうとナビのAIだろうと使ってくれれば抑制範囲は広がるのだ。車の10割は無理でも半分でもこのブラウザを利用してくれれば日本全土は安泰。自然と現れる異相牢の相手だけで済みスキルを武器に戦える。

 

 本当なら銃火器で応対出来るならそれが1番だが……SR社での経験を踏まえれば有効とはいかないだろう。概念的な攻撃をされたらひとたまりも無い。

 その内遷移者になるかもとはいえ明確に有効な武器だ。未だ遷遺者を殺せた試しはないが、チュートリアルで数々のスキルを使った感じで言えばB以上なら行けそうな感覚はある。

 だがスキルはBから遷遺者化が加速する節がある。1日でも早いストッパーの開発が急かされる。

 

 

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 5月☆日

 月が変わったが私がやることに変わりはない。スキル制作の特訓だ。

 今日はCまでなら安定して作れるようになり、Bも素材が良ければ出来るようになった。

 店長が独学でやってた時より爆速で成長しているらしいが、まだまだ必要な領域には足りて無い。

 

 

 それはそうと昨日どこかに行ってた人狼と吸血鬼が帰って来た。

 どうも一日中手が離せない仕事をこなして来たらしい。

 学校の件を聞かれたので売却とだけ通達した。ぬいに関してはぬいはみかんの部屋のいつもの場所にあるし、あそこは寮生活だ。戻ってくるまではぬいに使わせてもいいだろう。居場所はその間に作っておくとしよう。昔からの付き合いだ。良い部屋を用意しなければ。

 

 

 ……改めて断っておくが、ソシャゲキャラのドレス嬢のグッズである、あのぬいぐるみに不思議な力は宿ってしない。

 存在するのは過去に拾い、今日まで私が寝る前に話しかけ、寝る際に常に共にしたという事実だけだ。そこには最も長く傍らに置いた物という結果だけであり、私にはそれをした実感は薄い。

 情報嵐を乗り越えた人形なので普通はない余分な要素が引っ付いているかも知れないが、私にとってこのぬいぐるみは普通の女の子らしさを、元々そういう存在だった事を忘れない為の要素でしか無かった。

 

 ゲームで言うセーブポイント。

 私にとってこのぬいぐるみはそういう存在である。絶対に必要だが、強い愛着があるわけでは無い。場合によっては無視することもある程度のもの。

 無論例えだ。ぬいぐるみ自体は普通の人形だ。私の価値観としてそう扱っているに過ぎない。

 「みかん」の要素ではなく、「スキル屋」の要素ではなく、「D因子」スキルの要素でもない。

 

 あの日、あの時、溶け崩れる身体を引き摺りながら、忘却と朦朧で薄れる意識の中で残った数少ない「私」の要素であるから、そう扱っている。

 

 もっと単純な言い方をしよう。

 

 2人の私に改めて説明して、ゴミ箱に捨てられた怒りがぶり返してきた。

 

 スキルの要素から派生した私2人には理解が及んでいないようだが、「私」が主軸であるサキュの私はかなり怒り心頭だ。おこだよ。

 地団駄の一つや二つ踏んで殴りに行きたい。だがそれは普通の女の子らしくないので我慢しておく。淑女足らんとするのが普通の女子であるからだ。

 

 手紙の方は…まぁいいや。日記を書いてからなんか小鳥遊家のポストに入っていた紙だし。

 あれだ。マイゴ版とある学校のポストの遷遺者みたいな奴だ。一応保管しているが、それだけの物である。

 それに中身も見てないのだから愛着も湧く訳がない。見て何か起きるタイプだと怖いから。

 捨てたら悪いことが起きそうなのもある。野晒しは悪いのでレターに入れて封をし、更にドロップ缶に入れてるのだ。この作業中の気分は祠に疫病神を封印する陰陽師に近い。

 偽人魚が乱暴に扱ったのが気が気でなかったが、今の所何もなく安心である。新たに2通増えたが、異常な増え方でもしない限り同じ処理を続けていこう。

 

 一先ず、今日は気分転換にスキャラーのゲームをやった。

 VRは専用の機体がないので出来ないかと思ったが、スキャラーのアプリを利用したらそれだけで入れた。

 ヘルメットもゴーグルもコンタクトも使わずにアプリ一つでVRが出来るとは…思ったより改善著しいが、完全にVR業界に喧嘩を売ってる仕組みだ。その上五感も再現されているのだから、さすがスキル。無法だ。

 

 身体に電流を流して接続しているらしい。サイバーパンクというより魔法と言える。

 バトル系は五感のフィードバックが現実以上なせいか、楽しいよりトラウマや恐怖が勝る欠点があるから実装してないらしい。

 変わりにVRチャット空間のサイバーな街並みや大自然を再現したマップを散歩でき、現実でできることはここでも出来る仕様であるようだ。

 その上で拡張現実。現実以上のことは当然出来るらしい。作った側だが、実際に体験すると案外圧倒された。

 

 要するに観光である。食べ物も味がわかるので実に楽しめた。

 往来する人の表示数はデフォだと自動的に調整される。お陰で混雑とは無縁だ。

 久々に地図を手作業で作りつつあちこちを飛び回ったが、確かに高所を飛ぶ爽快感と地面との距離感による恐怖は現実よりも増幅されて感じられた。

 確かに、これで戦闘や喧嘩はトラウマになる。

 

 VRチャット空間…正式サーバー名「電工湾港」だが、ここはネオンの光が絢爛と光る夜と目覚ましい成長を続ける港区がモチーフだ。

 様々な人外魔境のユーザーアバターが行き交う光景は混沌其の物であり、そういうロールプレイを楽しむ人もいる。

 

 デフォのアバターは現実のユーザーと同じなのだが……「みかん」ではないほぼ素の私は特に見た目が無いので、ぼんやりとした悪魔の輪郭の中に高身長な紳士っぽい若干崩れた透明な線が浮かぶ見た目だ。風呂とか必要なのか疑問になってくる見た目である。

 これを見て現実も同じだとは思われないだろう。

 

 中身は女の子なのは譲らないが、何かしらはっきりとした役を被らないとこういう男っぽい人外になるのは個人的な不満である。その点「みかん」は元里親が都合の良い娘として、灰色の目をした美しい幼子と設定していたのは有り難かった。

 

 

 という訳でかなり楽しめた…が。

 そういえば今日はとある高の生徒が転学し、ポータルの整備がされている頃だったか。

 道理でなんか湾港が工事音で騒がしかった訳だ。

 明日からポータルは再開し、スキャラーは公共サービスと繋がった一種のネットインフラになる。

 こんな工事音なんて些細になるくらい騒がしくなるだろう。

 

 明日の楽しみができた所で、そろそろ眠ることにする。

 お休みなさい。

 

 

‭┫

 

 

 4月→日 人狼

 書いているのは5月☆日だが、報告としてこの日のことを記載する。

 5月☆日自体はスキル加工の経験を加速する為にサキュと吸血鬼と共に集中していたので省く事を事前も記載しておく。

 

 

 姫の館に侵入した私だが、そのまま入るのではなく事前に彼女の兄の皮を被って行った。

 そんな事すれば一発でバレると思われるかも知れないが、私は人狼だ。

 死者の皮を被り、本物と誤認させる力がある。例え女の子に変わり果てた兄本人が居ようと、本人でさえ私の方が本物だと思う程度の認識汚染だ。

 

 人狼の力は変装、変身、演技、認識干渉の4つの力を束ねたもの。満月を前にすると全てを暴かれはするが、逆に言えば死と満月以外で私は本物と見做される。

 なぜ生きてるか聞かれたら「後日発見され、別の病院に搬送されてた」なり「外に出そうとするお迎え」なり言えばいい。滑稽な嘘だが、そこにいる本物が言葉を本当だと思わせるからそれでいいのだ。

 

 なので普通に堂々と帰った訳だが、館の中は思ったより異常な事になってなかった。

 ダルマの姫が人形役としてかつて家族だった女の子3人のおままごとの道具にされていたくらいである。

 姫に会いに行く道中で凶暴な鼠や犬、トラップ山盛りのカラクリ屋敷、ガコガコ独りでに動くマネキンが有ったりしたが全て無視した。

 狼の嗅覚と皮に被った兄が思ったより優秀だったお陰である。さすが大学サッカーのエース、よく動く身体だった。

 

 途中家族3名のなれ果てと話す事になったが、どうやら道中のあれこれは才覚を与えられた家族のなれ果てが作ったものだったらしい。

 ペットブリーダー、建築家、人形技師。どうやら与える才覚は職業として選ぶ感じのようだ。

 

 それら全て突破したのは流石に人外仕草が過ぎたのか、何者か聞かれたので適当に「お迎え」と答えた。外に出るように立ち直るよう説得するのだから間違ってない。

 

 全力で対抗された。

 最早じぶんが友愛か家族愛のどっちで動いてるかも分からないだろうに、懸命で全力だった。

 恐らく死んだ家族三人の姿に次々変わりながらお迎えと言ったのが悪かったのだろう。

 スキルを売った悪魔だとスマートに伝えたかったが、どうも死神と思われたらしい。

 シンプルに営業方法のミスだ。次の反省にしよう。

 

 とはいえ、桜笛教の聖女に頼めば一発で治るのが姫の四肢である。

 その為にも外に出すのは大前提。希望を持たせるくらいしなければアフターケアは完遂されない。

 対面の交渉は骨が折れたものの、最終的に一緒にあの世に行くと騙くらかして四肢を治した。

 スキルを売った元凶にこの説得は無理だった。

 

 そして寝ている間に女の子3人に交渉開始。スキルのことは夢だったとして彼女達はただの友人として接して貰う事に首を縦に振らせた。社会的な立場は情報嵐で色々欠けてる現代でそんなの幾らでも用意出来た。本当に、思ったより簡単だった。

 

 具体的には管理人に偽装させた。ネットに強いって、無敵だ。

 それから適当な病室の一室を無断で借りて、姫にこれまでの出来事は夢として処理。

 ある事ないこと吹き込み、これから親戚の子が一緒に住むという事にして家族の住まいはそのままに。

 小学校とかは管理人が戸籍のついでに準備していた。ふむ、管理人が裏社会のやり方を学んできている。頼もしいが暴走の懸念もありそうだ。

 

 そういう訳で一見何も変わってないが、姫の罪の意識だけは誤魔化す事に成功した。

 後は時間が風化させるのを祈ろう。これから義理の妹として過去の関係を隠して一緒に過ごす家族の心情は知らない。アフターケアはホルダーのみ対象だ。

 そこまで手が回らないからしかたない。全員元々いい年した大人なら難なく出来るだろう。

 

 

 以上、報告終了。

 

 

‭┫

 

 

 4月→日 吸血鬼

 5月初日は同上。

 出張報告を行う。

 

 

 結論から、デュラハンの彼は対処療法による解決に成功した。

 手順としてサキュから共有されたスキル制作技術を利用しルーペを改造。

 装着する事で常に遷遺者に変わった要素を自動的に吸い、スキルを元の形へと再配置するアイテムを制作。

 特定のスキルに特化した構造にする事で循環による劣化を防ぎ、装着している限り遷遺者になるのを防ぐことが可能となった。

 

 問題点としてはアイテムであること。スキルにストッパーがないので取り外している間は遷遺者化の進行が止められない点にある。

 その上循環器としては消耗が早く、凡そ15日が動作限界。戦闘などでスキルを全力稼働する場合新品を使い捨てなければならない。

 

 彼が当店へ定期的に来店し継続的な購入を行うならば問題はないが、知能低下後の彼では継続不良が発生する懸念有り。

 周囲のサポートがあれば問題ないが、新たな学校に行く身では遷遺者化の再発は時間の問題となる。

 

 しかし既に獲得された状態のスキルをコインやルーペから派生するアイテムを制作し干渉するの有用性は確認された。ここから発展させる価値はあると判断する。

 

 

 また、専用品の制作にほぼ一日中掛かり切りだったが、僅か時間の余裕が有ったので桜笛教のパイプオルガンの調律に出向いた。ポータルは使えない為東京まで2時間の飛行である。

 

 東京では「全長15km程度の桜色の鯨が空中遊泳している」異常事態を確認。

 対象の姿はイルカが実験体になった際の遷遺者と酷似しており、当時の私に教祖が遷遺者になったと危惧を感じさせた。

 

 対象…桜鯨(おうげい)は定期的な笛のような音を発生。

 また、港区全体にパイプオルガンの演奏が響いていた。

 

 調査した結果、街の住民は以下の症状が確認された。

・身体の一部が桜色に変色する。

・身体の何処か(首が最も多かった)に複数の笛穴の発生。

・エラ、背鰭、鱗、魚眼、粘液などの「魚人化」と呼称可能な変化。

 

 変異した住民に遷遺者の副産物としての反応は確認されなかった。

 聖人のコイン耐性、又は異世界人への変貌のどちらかであると推測される。

 

 

 その後は桜笛教の本拠地を向かい教祖と接触。

 対象は自身の笛であるパイプオルガンを弾き、会話は聖人が行った。

 

 以下、発言記録。

 

 

「ご機嫌よう、Mr.教照、Ms.試練(ネメシス)

「こんばんは、調律師(チューナー)。先程狼の彼が来られましたが、どうされました?」

「ほう、彼女が来たのはこうなる前で?」

「はい。急に手足の無い女の子を連れて来てビックリ。これを始める前だったので心臓もバクバクしちゃいました」

 

[3秒の沈黙]

 

「まさか、もう一度あなた方が来るとは思いませんでしたけどね?」

「これの詳細を伺っても?」

 

[2秒の沈黙]

 

「邪魔をしないなら」

「聞いてからですね」

 

[2秒の沈黙]

 

マスター(呼称対象→教祖のスキル)のご希望です。どうなるかは私にはさっぱり」

 

[さっぱりという発言は嘘。血の記憶からは辺り一帯に人工的な情報嵐の発生させ、人間と魚と哺乳類に限定した要素の分解と再結合であると読み取れた]

[また、発言者と繋がっているスキル側の意図も血の記憶から閲読。将来的に異世界人との融和を進める布石を打ちつつ、本命は特定のイルカを人間にする為の行いであると判明した]

 

「分かりました。あなたは表面の計画しか知らないらしい。真の目的に対しやり方が非効率的だ。他にも利点があるのは認めますが、不特定多数の精神的苦痛が見受けられ、死亡者も多い」

「はぁ…今の一瞬で何を理解したのですか?」

 

[血の滾りから聖人の戦闘意思が確認された]

 

「結論から。私は止めません」

「やはり戦っ!……は? 止めないんですか?」

「当店はお客様の活動を止めませんので。

 ですが一つ連絡を。死亡が懸念される人物に対し現場に立ち会った企業として救助活動をします。

 あなた方の妨害はしません。ですのでコチラの妨害はご遠慮を」

「え…えぇ…あ、はい。許可の啓示が出ました。私に同行しろとも。なので、はい。ご自由にどうぞ」

 

 以上、発言記録。

 

 

 その後は聖女を連れて「魚人化」…魚の要素が混ざった人間や逆に、人の要素が混ざった魚に対し臨床実験を開始。

 ルーペの不適用は「情報嵐」による遷遺者化が完全に進んでないからされなかったこと。

 私が嵐に巻き込まれなかったのは「吸血鬼」という人でも魚でも哺乳類でもない存在だったからである事。

 血を支配し、聖女の再生を行使させつつ遺伝と容姿の整形を行えば治療は容易と判明。

 

 異世界の要素が無いのが幸いしたか、人工情報嵐では目立った死者は発生しなかった。

 具体的な死人は警察達による後日確認になるが、体感三桁に収まった感覚がある。

 

 

 しかし今回の件でスキルは単独で「情報嵐」を発生させられると確定した。

 今回は桜笛教に依存した大規模集団を完成させる目的もあったと思われ、今後意思のあるスキルの販売は禁ずるべきだと提案する。

 

 加えて、ストッパーが設けられた後もネットのスキル販売は中止すべきだ。

 本格的に売り出すには時期が早く、このままではスキルの剣は異相牢に向かわず、自分達を切り裂きかねない。

 これまでのホルダーの様子を見るにスキルは短期間で急成長出来るもの。異相牢の被害が出てから発売するのが最も適した時期と陳言する。

 

 

‭┫

 

 

 報告は読んだ。

 進言は可決する。しかし、我々が見定め売る分には禁じない。

 そして成長速度の件は認めるが、いつ頃に頭打ちになるかで早期販売の時期は早める。

 また、VRによるシミュレーションでゲーム形式に訓練させる計画がどこまで上手くいくかも関わってくる。

 ハッキリと断言は出来ない。しかし異相牢の大量発生の時期次第で年単位の中止も認められる。

 

 以上。本文が確認でき次第吸血鬼はスキル加工に参加せよ。

 

 

 

 

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