……あん? モノズキがいたもんだ。
5月♪日 ・ヌルイ スキル屋バックヤード
「店長、今日からスキル屋は長期休暇。いっぱいダラダラしよう」
「あ、5日前からそんな感じはしてたけど…やっぱり?」
あの日バイトになって、すぐに店員にまでなってくれた彼女は、想像を遥かに超えるやる気の持ち主だった。
「全ての
こうなるとスキルを売り過ぎて歩調が乱れる方が問題。数年は何もしなくても生活出来る貯金はあるし、一旦休業した方がいい」
「すごいねぇ。もう君が店長じゃない?」
「やだ。店長のスキルがどんな反応を示すか分からない。最悪合体するかも。断固拒否」
「そんな拒絶することなくない?」
神秘的な印象は商品開発が口から出て来た時点で無くなりました。
可愛い女の子の見た目はなんか増えた次の日から消えて、今となっては黒いモヤとほんのり紳士的で透明な輪郭線だけで。
そこまでは別にそんな事もあるかなって流せたけど、彼女はどんどん成長して、いつの間にか私以上のスキル専門家にまでなりました。
正直世間知らずな雰囲気で騙されてたけど、この子の本質はとっても働き者の頑張り屋さんなんだと思います。
彼女に会って満足しちゃった私と違って、どこまでも、どこまでも進んで、自分のやりたいことをやり遂げようとしてるんです。
多分、何処か楽しんでる面もあるんだと思います。この仕事をそう思ってくれてるのはなんだか複雑だけど、誘った側の人間としては、嬉しかったり。
「そういえばその口調は素の君? それとも仮面?」
「不明。9才のまま成長しない訳もないから、素というよりリラックスして若干幼児退行してるだけかも」
「その見た目と声でだらけられるとシュールだねぇ」
「悪人っぽい自覚はある」
彼女にはハッキリした自分がありません。自信がないと言い換えてもいいかも。
人と話す時はいつもその人が欲しがってる反応を返すし、見た目や流れに合わせて話してばっかり。
私と出会った時も育ての親が作った虚像を演じていたのですから、これはもう筋金どころか鉄骨入りです。
だから今の彼女が私に合わせてるのか、それともそう演じてるのかは分かりません。
話してくれた彼女の身の上話を思えば、多分やりたくてそうしてる訳じゃないってのは分かります。寧ろ、彼女はどんな時でも揺るがない自分というものに憧れてすら持っていそうだと、私は勝手に印象を持ってたりします。
「それで、いつまで休む? 1週間? それとも一ヶ月?」
「"三年"」
「……ほぇ?」
だからこそ……彼女の口からそんな言葉が飛び出た時、私は本当にビックリして、手に持っていたかき氷を落としてしまうくらいに驚いてしまいました。
「三年休む。色んなものの都合を考えた結果。何もしない訳じゃない。スキルを売らないってだけで、色んな場所に行く予定」
「あ…あーそうだよねー! ビックリしたなぁもう!」
「バカンスに行く。色んな場所に行って全力で楽しむ」
「ちょちょちょ急にどうちゃったのさ! 何か悪い物でも食べたりした!?」
「ヌルイ店長も行く。大丈夫。ここに封印されてても何とかする方法はある」
「へえ!?」
「…なるほど、VRかぁ」
「これなら店長も色んな場所に行けるでしょ?」
一面に広がった青々として穏やかな丘に駆け回る風が私の髪を擽ります。
現実の夏なんてすっかり忘れてしまいそうな、電子で創り上げた理想的で美しい自然が、私の前に広がっていました。
それはまるで私の為に用意されたようで、私には何よりも変え難いものに
────────────────────────
「あれ? な
に
が
?
」
Time exchange
1h=1min
25920h=18dey
ご機嫌よう、Ms.モモ。
『……ふはぁ。健気な事だな? 0.8人前と0.2人前、合わせて1人の人生3年分たぁな。そんなに大事か? こんな風一つで吹き飛びゆく脆い世界がよ』
本日はお越し頂き感謝を。
一般論からして普通に大事でしょうから、知恵を与えに来てくださり感謝します。
『ふぅ……どこで聞きつけたんだか。その為だけに俺なんてちっぽけな奴を頼るなんてな?
ほんとに大したことないんぜ? あの嵐と地震の地獄で、変な連中のせいでVRの世界でちまちま他人様の時間を奪いながら生きてるだけの根無しの花。吸い殻の煙と灰でしかない残骸だ』
ですが、私の知らないことを知っている。
『……ま、そうだな。人の意思が何に宿ってたって可笑しくない世界になっちまった。
俺もとっくに人の身を外れて、最近じゃ時間が鳴らすこの音に耳を傾けりゃ大抵のことは分かる様になった。その内人である事も忘れるだろうな? 精霊や妖精みたいになって、そんでこの世界に溶けて消える』
あなたはモモです。時間泥棒のモモ。そう名付けられた。
かつての情報嵐が発生した各地の、不幸にも地震が同時に発生した北街の市民。
そんな噂の冒頭からVRの都市伝説なんてものが広まって、私の耳に入った。
気付けば時間が飛ぶように消えた。そこで大人が着るコートを来た、煙みたいに揺れる灰の女の子と話した。白い花を蜜を吸うように、タバコを咥えるようにくるりと巻いて煙を吹かす。
最初は避難してきた被災者の1人だと考えましたが、それにしては噂に色々な知識を撒いていた。
私も知らないような、眉唾か判断付かない話を。
『それでゆっくり準備して休めそうな3年を丸々売り飛ばすのかよ。キマッてんな。
ま、俺としちゃありがたいけどな。おかげで18日分正気でいられる時間が増えた』
そろそろ本題を。いい加減、あなたが過ごすこのセピア色の世界から去りたくなってきた。
『慣れれば風情だぜ? ふぅ……先ず、この世界じゃお前の言う現実と異世界の法則がある。
これは正しいが全てじゃない。正確にはぶつかって生じる「情報嵐の法則」って3つめがある。
どんな世界でも世界がぶつかり合えば発生する、共通する法則だ。
これが何を示すかと言えば、世界は更に途方もない「何か」の中にある空間でしかないってこと。
星を包む銀河、銀河を包む宇宙、宇宙を包む世界、世界を包む何か。お前達が言う嵐はここに当たる。つまり俺たちの物理法則や異世界の文理法則じゃ到底太刀打ち出来ない絶対の理だ』
ふむ、上位の法則。スキルや遷遺者はこの法則の副産物だと?
『酸化物って言えば正しい。風船がぶつかって中身が溢れる時、必ず空気に触れる。
スキルや遷遺者を始め、それら全てを構築する
この反応ってのは本当に空気とそっくりだ。時間が経てば何でも錆びるし、燃えやすい。
だからこの法則の何かの神になろうとすれば、大抵火か錆の神になる……と、これはお前には必要ない情報か』
誰と間違えたか存じませんが、私はスキル屋です。
『悪い、昔…いや未来に俺に会いに来た神様志願者がな……ああすまん。時間の説明が面倒な身の上でさ。俺は俺が時間を買える誰かの元に勝手に持ってかれる。過去も未来も滅茶苦茶に人と会うから説明が面倒なんだ』
大丈夫です。続けて。
『ほんと悪い……ええとそうだ。
つまりこの法則の影響を受けたものは、同じ法則の物でしか変化を与えられない。
そして一度でも触れればいずれ世界は錆び付き、燃えて消える。
異相牢を消し去っても、世界中に散布されたパーツに触れた以上、100年もしない内にそうなる訳だ』
つまり異世界の問題の先に避けられない錆びて燃える滅びがあると。
スキルを持った者は特にそうなると。
『その通り。だが何とか出来ない訳じゃない。幸運にもお前らは神の残骸が世界に降り注ぐ。
世界と世界の狭間、世界を覆う何かを平気な顔して渡れる神様の死体が。
これを使えば避けられる問題だ。これを教えるのはちとずるっこいが、実は何とか出来る』
何故ずるなのですか?
『この答えを知る方法がカンニング以外にないからさ。実験するにゃチャンスもないしな。
普通出来んぜ? 俺みたいになんでも聞けば答えてくれる存在がいる奴なんて』
なるほど。実際思ったよりすごい話が飛び出て私も驚いてますからね。
『おう、感情なんてとっくにないのによく言うよな。普通の反応ってやつを真似てるだけなのによ。
ま、あんたの店長のスキルで異相牢から肉片を買えばいいのさ。スキルを作る神の力と純粋さのパーツから産まれた存在だ。死んだ肉片を延命させるにゃ充分。場合によっちゃ蘇るだろうな、神が。
そうすりゃ神も同じ過ちは犯さない。復活の結果より強くなって上手いこと異世界人を寄越した上に汚染除去もしてくれる』
あの神を蘇らせる必要があると。
店長の件はあっさり聞けていいものじゃない気はしますが、時間は何でも知っていると言う事ですかね。
『そりゃ時間だからな。万物に流れてるんだから万物くらいは知ってるさ。
後は…ぷぁ……ん?あー時系列的に…ああやっぱそうか。大抵の事は神の復活で何とかなるが、もっと手前の話も必要みたいだな。
お前このままだと死ぬから人狼と吸血鬼の自分は取り戻しとけ。
やり方は殺すだけでいい。そうすりゃ変に独立もせず一つに纏まる。
後、気が向くなら店長は今のうちに殺せ。そんで店長の全てを契約で買うんだ。死者は0円、全部お前の物になる。そうすりゃ未来のブレもなく絶対みんな助かる幹に進められるし、お前だってヌルイの立場と姿を手に入れられる。今のままじゃ不便だろ?
元々女神になりゃそれまでの記憶も消えるのがヌルイ店長って過程だ。蝶になる前の蛹の殻。羽化を手伝えばどうせ捨てられるもの。今のうちに再利用したって良いだろう』
なるほど、検討しておきます。
やることはないでしょうが。
『やらないと言うか。まあどう言ったっていい。どうせお前は賽とは無縁の空虚だ。
揺らぐ中身がない空っぽな存在。ゲームで言えばプレイヤーじゃなくギミックや絶対に起きるイベントの化身。NPC。必ず同じ返答をする蓄積された情報、AI。今を動く過去。いつか皮の元になった中身も救われるといいな?
精々頑張れよ。その決まりきった歩みで世界救ってみろ。
──時間は不平等に見てるからよ』
「
────────────────────────
お
き
てるの?」
……ん? あれ、ん?
「今何が起きたの? なんか、すっごく無為に時間が過ぎ去った気がするんだけど……」
「遷遺者かな……うわ、3年過ぎてる」
「はえ? ん?……はぁ?」
「残念ながらバカンスは終わりです。時間が飛ばされたからには業務再開。出遅れた分を急いで取り戻しましょう」
気が付けばバカンスが始まり、終わっていた。
何を言ってるか分からないかも知れないけど、私も何を言ってるか分からなかった。
催眠とか超スピードとかチャチな物じゃ断じてない…もっと恐ろしい物を味わう事になりました。
許さない…流石にこれは許せないよ…遷遺者ぁ〜!
「ん? この手紙はMs.モモの…ああ、伝え忘れが有ったのですね。
……ほう? 煽りでしたか」
私の後ろで彼女が紙を細かく破いていたけど、そんなのは気にならなかった。
憎いよぉ…憎いよ〜!!
モモの手紙
悪い、これは連中に見えないように伝える必要があったんだ。
この世界は様々な世界を観測してただろ?
その影響でこの世界の影響が向かうに伝わるのは知ってるよな。
実はな、そのせいでこの世界は今色んな世界に観測されてんだ。
そりゃそうだ、基本的に科学の発展の閃きが与えられるなら、その数だけ観測技術だって渡らなきゃ可笑しい。観測技術に辿り着いた世界の科学を齎してるんだから。深淵覗けばってやつだ。
だからこの世界には今まで見てきた色んな世界の影響を今、受けている。遷遺者は特にその影響が反映され易い。
スキルホルダーや異相牢もそうだ。覗かれてる時間と一緒に影響は強くなる。
気を付けろよ、影響を受けた連中にじゃない。覗いてる連中にだ。
俺はそのせいでいつか何処かの世界の誰かの…こんな身体になったが。
観測してる連中にはこっちの物を盗める連中がいる。俺の街はそのせいで神が蘇ろうと要素がそもそも無いから蘇らない。
異世界の神だの上位種だの世界の意思だの…連中に盗まれないようにす……あ、何故か日記だけ見てる奴は忘れろ。影響も感想が手紙として出るだけのカスだから。一応な。一応。
嵐と共に地震が起きたら気を付けろ。よーく目を凝らさないと連れ去られるぞ。
髪の毛一つだって渡すなよ。お前は絶対に逃げ切ろよ。
お前は揺れない。賽を振らずに最高最善に到達できる。そんなお前が失敗するとしたらこれだ。
奴らは常に揺れる。絶えず賽を振り、何なら過去の結果すら振って変えてしまう。
見られてる限り、最高の未来に到達しても無かった事になる。
唯一、空虚だからこそ絶対不変のお前の歩みだけは変えられない。
だからお前が騙し抜け。
最後に。色々悪口言ったのは謝る。ごめんね。
連中に興味を無くさせる為の調整だった。ごめん、言い訳した。
俺は絶対に助からないけど、お前はみんな助けてやれよ。
勝手な願いだけど、頼んだ。