スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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業務:閉店/廃業 場所:スキル屋

 

 

 12月26日

 私は今、数少ない私物である綿と布切れを懐に、満月の昇るなんでもないススキ穂漂う原っぱに佇んで日記を書いている。

 立ち去った地にはかつて死んだ者達が何もかも、あの嵐から連なる全てを忘却し、蘇ったその身を何でもない普通の日々へ還元している。

 私の私。1番最初の、かつて無くした小さな私自身さえ、私を置いてそこにいる。自分がもう1人居る気分だが、どちらかといえば偽物は私の方になるのだろうか。

 この姿を見て私が私だと信じる者は居ないだろうから。

 

 全て神が蘇ったが故に到達した終着点だ。

 

 

 今日に至るまで様々なことがあったが、ここまで途方ない時間のゆとりができたのは今日が初めてだろうか。

 こうなるに至った全てを書き連ねるに従って何処から再開すべきか、書き加えるべきか考えると、やはり店長の死からやっていくべきと思う。

 

 故に随分と昔の記録になるが、そこから書いていく。

 

 

‭┫

 

 

 5月12日。

 あの日店長が死んだと書いたが、正確には私が殺したものだった。

 別に恨んでたりした訳でも、店長が実はとんでもない元凶であった訳でも、それが何か途方もない利益になるからでもない。

 では何が理由だったかと言えば、強いて言えば「太陽が眩しかったから」に他ならない。

 

 

 あの日、私はスキルの加工で安全に使う為のストッパー付きを制作した。

 店長はそれを一頻り褒め、それから風呂に向かうと言って脱衣所に行った。

 私は少し伸びをして、まだ夕焼けが見える時間だったので軽く外に出たのを覚えている。

 

 案の定マイゴの異相牢、夕焼けの怪物が出てきたので、私はいつも通り退散させる為に手元にあるルーペを翳した。

 既に殆どの力を吸い取っている相手だったから、いつの間にかこの影の怪物はそうするだけでのろのろと退散するようになり、それがここ最近の日常だった。

 

 なのに、怪物はのろのろと、いつもと違ってスキル屋の入り口を塞いできた。

 いつもと違う動きだったが、人を要素で構築されるのが遷遺者なのでそういうこともあると私は眺めていた。

 そうして怪物とのんびり夕焼けを見ていると、突然風呂場の窓が開き、そこに丁度……雲に隠れていた夕陽が当たった。

 

 怪物は夕陽を目にしてひとを追いかける。

 どれだけ遅くとも触れれば死ぬタイプの遷遺者だ。ゆっくり手を伸ばし始めたのを見て、私は反射的にサキュの「夢」に収納していた銃を取り出し発砲した。SR社からちゃっかり貰ったものだ。

 初動の遅いルーペよりも確実に殺せると踏んでの判断だった。

 

 その際に夕陽が一瞬一際に光って私の視界を遮った。

 

 怪物は無事銃弾が貫き死亡した。

 同時に、怪物を貫通した3つの弾丸は弾道にいた店長の脳天、心臓、右肺を撃ち抜いた。

 影の怪物に丁度店長が隠れていたこと。私の視界が一瞬眩んだこと。そもそも銃の扱いには慣れてないこと。

 

 それとは一切関係なく、店長に追撃の三発を撃ち込みトドメを刺したのが死因だった。

 

 店長は思いの外硬くしぶとかった。こうなっては楽に死なせた方がいいかと追撃したが、今にして思えば助けられる方法はあったように思える。

 それでも私はあそこで殺しただろう。普通に考えてあれで死なない人はおらず、それが正しい行いであるからだ。

 超常的な力で四肢を取られるのとは訳が違う。銃には銃の普通が存在していたが故の行いだった。

 

 その後は死体を天日干しにしてスキル加工がし易いようにした。

 加工し、数珠のような形状のアイテムにして、新たな店長として就任した。

 

 管理人やフクイチには銃声から疑いを掛けられたが、その後の災害で直ぐに有耶無耶になる事になる。

 

 

‭┫

 

 

 5月13日。

 この日は地獄の釜が開く厄日だった。かつての災害、嵐の再来。

 欠けた記憶がこれほど刺激されたのはこの日を他にして存在しないだろう。

 既に各地で開いていたとはいえ、身近に感じるのはこの日だった。

 

 最初に嵐は我が身を穿ち、人を穿ち、物屋を穿ち、概念を穿った。

 砂に変わり、水に変わり、塵となり、分け隔て無く欠片とも要素とも言える形にした。

 これが本来の異相牢の出現による挙動だ。

 

 それが10秒程度。それから欠けた要素は他世界の観測光に影響され「再現体」として再構築される。

 6…いや、当時は3年経ったから9年前か。これは私の時と今回で最も異なる相違点だった。世界が再構築され、新たな世界の形を作ったのだ。

 これが大きなヒントになった。

 

 世界を観測する技術を用いれば、世界と世界の衝突で発生する情報嵐は望んだ形を取る可能性がある。

 つまり、「自分で自分達を観測させれば嵐を乗り越えられる」。

 観測による影響を敢えて強め、自分達を固定化するのだ。

 謂わゆる「認知で世界を固定する」……「異相牢が洞察によって起きる変化に近い」。

 

 どうやら世界と世界の狭間は「観測」と「印象」がよほど大切らしい。

 なのでそういうスキルを作成し、汎用化し、アイテムとして、力として編み出した。

 お陰で後日起きた本格的な情報嵐を生き残れたのだから、この直下型情報嵐は良い体験だったと言える。

 

 

 そして……再現体に関しては全ての些細を省略する。

 何処かの世界にあった誰か、何かだ。一々気にしていたらキリがないのだから、仕方ない。

 店長が遺したルーペとコインで全て対処出来た。これはその程度のものだ。

 様々な言葉を弄し、様々な形の強者がいたが、生まれて数分程度の存在を気にしても無駄だろう。

 端的に言ってどうでもよかった。だから殺した。

 

 後は…そうだ、上位者か。

 彼らはモザイクと黒い毛糸で作った悪魔の手という印象を受ける形だった。埃っぽいと言っても良い。

 触れれば一発アウトと考え対処した。苦戦したが、スキルと私は別存在というのに気付いてからは人格と相打ちさせて痛い目にあってもらった。丁度、殺しきれるだけの人格が居て助かったと思う。

 

 有識者曰く、私に運命のブレは無いらしい。

 なので私が殺せばその時間が絶対の終わりになると踏んでの追い返しだった。

 結果として、世界がどれだけ悪い方に進んでもこうして達成出来たので正解だったのだろう。

 

 

‭┫

 

 

 5月14日。

 この日は汎用スキルをネットに放出した。主なターゲットは海外であったが、念のため用意した金銭以外の食料などの方が交換対象として人気だったのは予想外だった。

 ルーペやコインを更に使い易くして買えるようにしたお陰か、無事に異相牢や遷遺者、再現体は全て打ち勝てた。

 彼らの尽力がなければ私たちは絶滅していた事だろう。

 

 そうそう、昔にスキルを売ったホルダー達だが、生憎私は彼らを助けてやれなかった。

 各地を巡るのに手一杯だったし、彼らは彼らの戦いの果てに死んだとしか言いようがない。私が預かり知らぬ所で死んだ人が殆どだったし。

 全員何か思うことがあるだろう。やり損ねた事、悔いも沢山あった事だろう。

 しかし全員、天運が最悪な中で最善を尽くした。最終的に200人余り生き残ったのは彼らのおかげに寄る所が大きい。

 私1人だけでは、きっと私しか助けられなかっただろうから。

 

 

 5月15日

 社員の二人に関しては本当に不幸な事故だった。的確に眼の前に認識汚染で殺すタイプの遷遺者が出てきて死なない人の方が少ない。初見殺しというヤツだ。私が生き残れたのは外出していたからで、同じ場所に居たらきっと私も死んでいた事だろう。

 

 そして、10秒程度では到底収まらない嵐がやってきた。

 私やネットで耐性装備を買った人は生き残ったが、それ以外はこれで死んだ。生き残った者も、日本の地を踏めなかったものは何処とも知れぬ奈落に落ちた。

 

 文字通り宇宙も地球も太陽も、世界全土を巻き込んだ大嵐だった。

 

 これは後日研究して知った事だが、観測装置は情報嵐の台風の目とも言える空間を引き寄せるらしい。日本以外が分解されてもここだけ大部分が残ったのはそのおかげである。

 

 

 ……これは三年間が跳ぶ前から、異相牢と現実の接続時期を直接調べた私だけ知っていた事だが。

 

 仮にどれだけ準備を重ねても、この状態になるのは避けられなかった。

 これまでの異相牢は肉片だ。しかし神は均等にバラバラに爆散したわけではなくて、一部を溶かし、最大限異世界人を載せた部分が残るように分離した。

 故に胴体や頭部とか、そういう部分はかなり元の形で残っていた。

 

 どうやっても宇宙が消え去る規模の情報嵐は起きるし、星は大部分を消失する。

 かつて無くした観測技術でも取り戻せれば良かったが、それは9年前の情報嵐で取り戻せなくなった。

 作り方がわからないのではない。そんなものとっくの昔に見つけている。でなければその手のスキルが創れる訳がない。

 

 作っても消滅するのだ。

 

 これまで書いても消えていったインクのように、言っても消え去る私の名前の様に、同じ手が使えない状況だったからだ。

 スキルでは星を助ける規模までいかない。星の表面は可能でも、そこまで残ると重力も残る。そうなると地面が崩落して終わりだ。星単位で全員助ける道は初めから無く、日本本土サイズだけ遺し重力から解放されるしか無かった。

 

 少数精鋭か、星一つか。そして星の方は初めから不可能。

 だから、私は見殺しにした。

 最低限の人だけ生き残り、神の蘇生という選択だけを唯一の灯火に進む事にした。

 私1人だけ生き残ることを前提に、他にも生きてくれる人が居ればいいと足掻いた。

 

 

‭┫

 

 

 それから。

 私は悪魔ですらない人間未満の身体で研究を重ねた。

 不幸中の幸いと言うか、要素として殆どが分解されたこの身体は食事も睡眠も、何もかも必要としない。

 本来なら思考すら出来ないのが普通だが、私は唯一絶対の、このために行う全てを普通と言える指針がある。

 

「みんなが笑顔で過ごせたらいいな」

 

 それだけ。今となっては誰の夢かもわからないが、私はつい最近まで夢の精霊(サキュバス)だった。

 誰かの夢を叶えてあげるのが普通の存在だった。

 

 ならどれだけボロっちくてもやるのが普通だろう。

 どれだけ思考が鈍くても、朧げな情報しか紡げなくても、私にはまだD因子の残骸と言える力が扱える。私を私と思い出させるぬいぐるみがある。

 

 だから動ける。動いた。出来た。私の勝ちだった。

 

 

 時間感覚が朧げなので果たして何年経ったか不明だが、完成した頃には50cm程度の土くれと、そこに立つ私以外にいなかった。

 誰かが崩れ去る土地の中心に私を置いたのだろう。誰かは知らないが、その賭けも勝ちであるようだった。

 

【我が…我がー…教…うん。

 よくぞ、よくぞ成し遂げました】

 

 何も無い場所で、蘇り私と相対した神が最初に言った言葉だった。

 以下に会話を記録する。

 

 

「‭─‬‭─ごきげ んよう Mr.てんちょう。

 なが い な がい おねむ り で した ね」

 

【朽ちて尚成し遂げた偉業、大義でした。あらゆる困難があったでしょう。

 しかし…あまり言葉を重ねられる様子でも御座いませんね。

 故に願いを。私が救済を与えられる奇跡の言葉を】

 

「みんな え がお で すごせ る よう に。

 スキル 屋 さい ごの ぎょうむ を」

 

【‭→Order accepted.3・2・1・(end).

 Rider System ON. █[複雑な音が発生した]█ Are You Ready?】

 

「… G  O」

 

 

 記録終了。

 確かに乗り物の神だが、まさかあそこまで仮面な作品みたいな待機音を聞く事になるとは思わなかった。恐らく同じノリで教徒を丸ごと載せてこの世界に来たのかと思うと複雑な気持ちになる。

 かなり概念的な神である様なので、そういうのも包括しているだけかも知れないが。

 

 ともあれ、こうしてGOサインが出された神は世界の狭間に消えた筈の2つの世界の須くをかき集め、改めて一つの世界として復活させた。

 文字通り神話であり、ある種の5分前仮説でもあり、今私が居るこの世界がかつて滅んだ世界の続きにも、二つの世界を親として要素を継いだだけの新世界にも思える。

 

 

 しかしこの世界でそんな事を考える者は居ないだろう。全て無かった事になり、歴史も未来も溢れかえっている。

 そう考えるのは私が2つの世界の要素が完璧に組み立てられた筈の世界から零れ落ちた者であるからだ。

 完全に組み合わさったのに何故溢れたか。

 

 素直に考えて、私は再現体なのだろう。

 それも、2つの世界から外れた何かの要素で作られた…何か?

 

 ……ああいや、やはりこの世界の物か。

 今思い至った。神の不完全さ疑うなら幾らでも理由はつけられるが、かの女神が完璧に組み立て直せるのは有識者が保証している。

 第三の外部の要素があるのも無いだろう。もしそうだったら私は世界の狭間の法則の感染者。世界が錆びたり燃えたりしないよう女神が排除している。

 そして、ここまで改変した女神が今更私に手を出さないなんて事もあるまい。

 

 そして小学3年生の私は私ではなく、ついでに異世界の紳士も私では無かった。

 

 ならば……私の本来の姿はこの手元にあるもので、この形で既に戻っているということ。

 唯一私の手元にあるのは。

 

 完全に戻らずバラバラになった、既にサ終したソシャゲキャラグッズの…ぬいぐるみ。

 

 今となってはボロボロの布と綿だけの人形が、唯一私と言える物だった。

 ……なんだ、それが私だったのか。

 

 

 

 

 

『こんにちは、アオバ』

 

 ……ご機嫌よう、店長。

 創造神がこんな所に居ても宜しいので?

 

『実は世界を創り直す際に幾らか格落ちしまして。もう私にかつての力はなく、精々星一つ滅ぼせるかどうか。ほっつき歩いても何も起きない程度の一般神です』

 

 そうですか。

 ……店長、私をただのぬいぐるみに戻さなかったのは何故ですか?

 

『逆ですよ。壊れてないのが変だったのです。

 そも、あなたはとある親御さんが、自分の子供の成長記録を作ろうと、極々小さなお手製異世界観測装置で、我が家を観測させていた記録媒体です』

 

 …なんのためにそんなことを?

 

『異世界観測装置が撮影媒体として優秀だったからじゃ無いですか? 観測範囲は自分の世界の一人娘だけですが、何処に居ても対象を追って記録され続けるのがこの技術ですからね』

 

 なんですかそれ。プライベートも何もありませんね。

 

『どうも大体100年人類と関わった技術みたいですからねぇ。それが当たり前だったのでしょう。

 事実、あなたもスキル屋をしてる間は気にして無いでしょう?』

 

 ………そうかも。

 何処に居ても目線が来るのが普通だった気がする。

 

『そういう物です。みんなやってたらそれが普通になります』

 

 そうですか。

 

『……アオバさんはそういう御身分でしたから、ずっと観てきた彼女を自分だと思い込んだんですね。そして彼女のちょっとした願いを本気で叶えてみせた。

 普通に拘ってたのは、アオバさんを作ったお父さんの願いですかね? 普通でいいから幸せに。

 まさか、それがこんな結果に繋がるとは誰も思って無かったでしょうが』

 

 まぁ……そうでしょうね。

 何故このように動いているかは不明ですが。

 

『産まれてからずっと観測してる記録ですよ? 客観的な映像でも、その積み重ねは殆ど本人です。ましてや、「この観測技術は見る側の影響を見た側に与えます」。未来に観て、過去が観られる。

 こんなの影響の無限循環です。その通路が自我を持たない筈がない』

 

 それは詭弁だ。私たちの世界では成り立たな……もしや、其方の?

 

『ええ、情報嵐は3つの法則が行き交う混沌。

 つまり"私の世界の法則もある"。第三の法則に目が行ってしまいますが、あなたを成り立たせたのはその詭弁で成立する世界。

 結論は始めに出ています。"異世界と現実に適合した存在"だと』

 

 ……推理小説でも読んでる気分ですね。

 それも随分と…出来の悪い。

 

『それで、"認めますか"? あなたはそんな出来の悪い詭弁で成り立つ存在だと。

 認めればただのぬいぐるみと記録媒体に戻ります。しなければ、ずっとその幽霊状態です』

 

 それがあなた達の法則ですか……なるほど。

 ステキだが手荒でおっかない。初めて死の気配を感じました。

 

『答えは? 証拠は突き付ける誰かがいないと成り立たない。

 しかしあなたは誰にも認識される事はなく、その本質を見破る情報を持つ者はこの世界に居ない。

 唯一かも知れない死ねる機会を今、与えました。好きに選ぶように』

 

 ……いえ、まだやるべきことがあるので、"認めません"。

 

『その心は』

 

 ただのカメラに心はありませんよ。

 あるのは、「まだあの子の生涯を見送れてない」という未達の業務です。

 

『そうですか。ではご自由に。ああ、オマケで動き易い身体を与えましょう。

 ではあなたの望み通り、笑顔が多い世界をご堪能下さい』

 

 ご配慮に感謝を。はい、それではもう暫く。

 気が合いましたらまた会いましょう。

 

 

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