スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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業務:スキル販売 場所:或る街

 

 

 4月+日

 今日、スキル屋のバイトをした。

 もしかすれば昨日だったかも知れないが、私には分からない。

 

 

 取り敢えず、女の胸がエロいという世の道理をプレイボールの表紙を見て理解したのは、

 間違いなく今日の朝、弁当を買いにコンビニに立ち寄った7時15分の事だ。

 

 

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 どんな店でも開業したという報告とどんな店かの広告が必要なのだろう。

 スキル屋も例には漏れなかったようで、私は60枚のスキルコインを仕事用に支給された革製のアタッシュケースに入れて営業に出た。

 高校生のバイトにやらせる仕事ではないが、店長は諸事情で店から出られないと言う。自前のスキルのせいなようで、流石にスキルを合体改造出来る分のデメリットは有ったらしい。

 となれば私が営業に出るのは道理か。売買其の物は店長のスキルが自動的に行うので、私がやるのは力が必要か尋ね渡すだけとなる。

 

 注意点として、私の場合は後から支払ったが、これはあくまで本店に来た場合のみ行える処理らしい。

 外で売る際に相手の手持ち以上の品を渡すと「無形の価値」を取ってしまうようだ。

 店長が確認した例としては運、信頼関係、思想。

 何が取られるかは「不足代金と釣り合った何か」。丁度釣り合う物を選ぶらしい。

 原理は不明だがなんとも機械的な動作である。

 

 

 60個のスキルを渡されたが、営業目標としては1週間以内に三枚、つまり最小単位で一人。

 基本はネット広告、ネット通販でやるのを考えているという。

 しかしそれでは本店に客が来れる足掛かりがない。

 なので近所にはあまり治安が乱れない程度に最低20件を全て売るのを目標に、ゆっくり進める方針に決まった。

 

 つまり、今の私の肩にはスキルの採取と営業、二つの業務が乗っているのが真実となる。

 バイトの範疇を超えてるのでサボりたいが、一件は取らないとサボりと見なされるだろう。

 仕方ないので授業をサボって力に飢えた人を探して見たところ、屋上でフェンスを乗り越えている男子を見つけた。

 

 営業を仕掛けようとした所飛び降りたので、地味に練習していたサキュ羽の飛行で確保。

 

 「雨形(むさくい)」「異形(むさべつ)」「外道(ぶれいこう)」を売り捌くのに成功した。

 私には営業の才能がある。

 

 代わりに時間は午後と夕方を飛ばして夜になっていた。

 本来それだけ費やす必要があったらしい。相手の精神面を過剰に求め過ぎたようだ。

 

 突然だが、私は実親が死んだ日以来1日が24時間ではなくなっている。

 理由は分からない。ただ、私の人生にはこのような変化が度々訪れたりする。

 

 前までは記憶障害か、雲が分厚く隠れて時間経過ぎ分かりづらくなった影響によるアハ体験だと考えていたが、良い機会なのでスキル採取をした。

 変なのが原因かはこれでわかる。

 

 その結果一体から2つのスキルを獲得した。残り5枚。消費ペースからして更に十枚の補填が必要だろう。

 採取は私の生活を便利にする要素が含まれていると今回の件で確信した。

 

 だが取らなくても良いものをルーペ越しに見ないよう注意する必要もあるとも確信した。

 これは人以外の力を無差別に取ってしまうので余計な喧嘩を売る危険性がある。

 

 

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 記録No.4 『加速する父』

 観察1 推定15時間 何も感じない空間

・対象は普段私の死んだ実の父に似た容姿をしている。

・半透明で鏡にのみ映り、時折魚にも虫にも見える姿を垣間見せる。

・普段の姿は模倣にも感じる。

・触れることは出来ず、音は発さない。

・対象を観察している間時間が停止した。止まっている間は思考のみが可能だった。

・対象に思考が存在する事はこれまでの生活で常に認識していた。私がこれの望んだ行動から外れた動きは全て「無かった事になる」

・停止した空間では動けない為、結果的にルーペを長時間使用する状態が維持された。

・時間が動き出した後、これまで見たことのない「黒いコイン」が2つ残った。

 

 能力1

・時間のスキップ、スキップされた時間に私の存在は確認出来なかった。

・また、対象は奪った時間を使用することで私が実現可能な結果を取り寄せていた。

・この二つの力は同時に行使され、私の視点では「常にやるべき事が終わった瞬間に到達し続けている」事になる。どうやら記憶障害では無かったらしい。

・凡そ特定対象に束縛的思考を持つキンクリと考えていい。能力は常に行使されていたようだ。

・以上の観測には鏡を組み込んだ撮影機を製作し利用していた。これに関しても私自身の視点では分かったという結果だけ渡されたものだ。

 

 感想

・あの日以来1日は5分に収まっていた為、24時間ある1日は楽しみだ。

・私の時間感覚としては大体9日以来か。

・久々に眠くなってきた。

 

 

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 4月<日

 久しぶりに失敗した。

 これまでNo.4の影響で全て成功する結果に辿り着いていたらしいのだが、今日は自分の意思で行うとはどういうことか実感した。

 ハタから見れば変化はないだろうが。

 

 具体的には歯磨きで粉を出しすぎたり、文字を書き間違えたり、ものを落としたりした。

 オートからマニュアルに変わると言えばいいか。

 正しいやり方は身体に馴染んでても、脳が上手く指示出来ない。だがその内これ以上のことが出来そうに思う。

 現に前よりも性欲と食欲は感じなくなったし、人の顔と名前は直ぐに覚えられたし、サキュ無しで50mを6秒台で走れた。私の方が強い。

 

 代わりと言ってはなんだが、サキュの特徴を出さなくても他者に気付かれるようになった。

 No.4が消えたのが理由なのかは不明だが、過去について訊ねると相手にちゃんと記憶があるように見受けられる。

 

 つまり「知らない人」から「クラスでいつも一人だった子」くらいには人に認知されるようになったわけだ。

 ふむ、これが「飛ばされた時間に私の存在は居なかった」と日記に書かれた理由か。

 確かにそこに私は居なかったらしい。

 

 昨日授業をサボった理由を今更聞かれたりもした。

 反省文は事前に書いたものを出しておいた。

 

 

 1日が果てしなく長い。

 そんな感想は置いておくとして、今日は放課後に遅くまで街を散策した。

 散歩が楽しかったのもあるが、途中変な像を作っている変人に遭遇したのが原因だ。

 聞けば現代アートらしい。超現実がどうとか言っていた。

 

 芸術家志望とは分かったので営業した。超現実というスキルが丁度合ったからだ。

 

・「超現実派(シュルレアリスム)

・「無地の画展(キャンバス)

・『夢見る泡色(ドリームアワー)

 Cを二つ、Bを一つ。私には営業の才能がある。

 

 実際に自分の手で何かをするのは楽しく感じる。

 このバイトがもしや闇に属するものかも知れないとは多少感じるが、正直私はその辺りは心配していない。

 

 態々悪人になりに行く人は居ないだろうし、一人で大それた事が出来る筈もないからだ。

 それにこの世には変なのが沢山いる。記録上未だ5体にしか会ってないが、どれも私を殺す気ならば簡単に殺せそうなものの方が多かった。

 店長も売る力は厳選しているだろうしね。普通ならそうするだろうから。

 

 何より、当たり前に世界は強靭で頑丈で無常だ。

 この力……スキルだか神秘だか異世界の欠片だか知らないが、その程度で崩れるとは思えない。

 

 人間の生贄一つで滅びが決まる筈もない。

 奇跡は起きないが理不尽な破綻もない。

 全てが道理と過程で定まり妥当になる。

 

 だから私が経験する話なんて何処にでもあるだろう。

 きっとそうに違いない。私は普通なのだから。

 

 

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 4月「日

 私の心は小学三年生だったあの時から9日しか過ぎていない。

 しかし知識は間違いなく高校二年であり、経験も同様だ。

 これは間違いなく事実だが、対して肉体はどうだろうか。

 

 飛ばされた時間に私の肉体が止まっていれば9才の身体、老化していれば17才だ。

 6才差は若者には大きく、私からすれば人生の3分の2に当たる時間だ。

 

 どう検証するか悩んだが、どちらにせよ身体検査の結果は変わらない。

 私は歳の割に背が低く、小動物扱いは変えられない。

 苦痛よ、お前はいつも私と共に横たわるが故、私はついにお前を尊敬するに至った。

 そのまま(くつう)死にたまえ。力動山不殺何故時代。

 

 

 今日か昨日か分からないが、夢を伝って変なのの片鱗を掴んだ。

 サキュは夢の支配者としての側面を持つ。

 夢で自我を整える感覚を掴むのに時間を使ったが、漸く上手く情報を持って帰れた。

 夢の物と言うと語弊があるが、現実に持ってきたのだ。物的証拠として十分だろう。

 

 その結果変なの全般の正体を多少掴めたので、私は彼らを「遷遺者(せんいしゃ)」と呼ぶ事に決めた。

 画数が多く面倒な文字だが、これほど彼らに合う名前は無いだろう。

 

 同時にスキルを個人的に「後遺症(スキル)」とあてがう事にした。

 一連の現象を知れば皆が正しいと言うだろう。

 

 

 結論から言えば、悪いものじゃない。はた迷惑なものだった。

 彼らが異世界のものであると店長の推察は合っていた。

 その上で付け加えるなら、遷遺者は時間が経つと共により多く現実に出てくる性質がある。

 

 ダンジョン、私的には「異相牢(ダンジョン)」と評したい。

 簡単に言えばあそこは彼らが現実に出てくるまでの宿だ。

 彼らが居た空間を再現し、あそこに居る限り彼らは同じ状態を保つ。殺すだけでは消せない。

 例外なのは店長のコインだろう、アレは存在其の物を格納する。

 

 何故彼らが、そんなものが。

 その答えはまだわからない。

 私が現実に持って帰ったのは首謀者と思われる異世界の神の日記、その切れ端だ。

 あちらの産物に「適応した能力(スキル)」のサキュを使って異相牢を幾つも渡り、手にした。

 私がやったのはそれだけであり、そこに推測を混ぜたく無い。

 

 だが経験とこの情報から「これらの現象が何を引き起こすか」は理解している。

 

 私が9歳だった時に起きた、一つの街、故郷全ての()()()()()()()

 どの放送機関にも残らず、過去が消えて記録から消えて記憶からも消えた27万6039人余って過去に住んでいた先祖の皆々様。

 

 店長がいうこの街に漂う数多のGクラス以下のスキル。

 人間がその原型として消えた災害。

 現実に異世界が混ざる事象。

 置換。略奪。進行。分散。

 

 言うなれば「過剰な幻想適応(オーバースライド)

 

 私だけが生き残った異世界と現実のあらゆる要素が分解され、混ざり合い、合体し、噛み合わずに崩壊する。

 

 助かる道は、「予防(予めスキルを得る)」か、「適応(遷遺者になる)」か。

 はたまた奇跡を重ねて私の様に人に成るか。

 

 

 そんな最低最悪の、結末だ。

 

 

 

 

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