4月〒日
昨日、思い出したく無い記憶を全て掘り返されたので休んだ。
目覚めて直ぐに書き殴り、それ以降記憶があやふやだ。
今まで目を逸らして現在を享受していたが、思い出した以上記憶を整理する必要がある。
私の名前はみかんだ。苗字はない。正確には入れる枠がない。
里親が居るので彼らの名前があてがわれるのが正しいのだろうが、入れた途端霞と消える。
名乗っても相手に認識されないのは確認済みだ。
年齢は9か17。または23。これは異世界の人のものだ。
実の父と母が居て、その上でこの世界と異世界人のハーフ。
めちゃくちゃだが、これが異世界がこの世界に降りるという意味だ。
全てがゲームのステータス画面の様に細分化され、洗濯機みたいにグルグルとかき乱して再構築する。
当然そんな事になれば人はまともな姿にはなれない。大抵は塵芥……店長が言うG以下のスキルになる。なってた。
私が生き残ったのは偶然地下深くの施設に居て、あまり自分の要素が飛んで行かなくて、異世界人の血を偶然貰って急速に適応したから。
父の容姿はNo.4に、それ以外の心とか色々は何処かに。母も同様に。
何が無くて、何が余計にあるのか、自分でも見当が付かない。
少なくとも私はお嬢様で無かったから、別の誰かさんから上品さを貰ったのは間違いない。
それから観察力。恐らく三身合体だ。
後、存在感辺りは間違いなく無い。
私はこんなところ。
見た目はあまり変わってない。眼は元々茶色だったけど。
嵐が起きる直前は変な噂がいっぱいあったから、きっとあちこちで異相牢が繋がってたのだろう。
どのくらいでアウトかは不明だが、そうなる前に異相牢を消し去るのが望ましい。
その為には未だ繋がってない、または繋がっている異相牢の削除、それらが出来る手段、人材の確保が推奨される。
その為も手段には幸いにも兆しがある。スキルだ。
遷遺者には二通りいる。
あの災害で散り、偶然遷遺者として成立した者。
異相牢に居て異世界からやって来る者。
どっちにしろ死ね以外の言葉は私が自殺しますと言っているようなもの。
消せるなら可能な限り消し去ってしまうのが良い。
大体まとめられただろうか。
どうあれ、これを防ぐ為にやるべき事はスキル販売とスキル採取だろう。
販売は災害を乗り越えられる人を増やせる。採取は災害を遠退けられる。
と思う。可能性は高い。
書き忘れた。
スキルを持ってれば災害を乗り越えられると判断する理由は、似た様な事例を見たから。
天井が剥がれて私に被さった父と母が情報の粉に変わって嵐の中に消える中、防御膜を展開するスキルと思われる力を持った人が、父と母に変わってギリギリまで私を守ってくれたのだ。
名前も知らない彼が唯一の情報源なのは心元ないが、スキルにも同様の、一定の効果は見込めると踏んでいる。
無理だとしても、いつか異相牢を消す戦力になると思う次第だ。
4月^日
学校で鹿田が友人になった。コチラに踏み込む覚悟が出来たらしい。何のことだろうか。
今日はコインの補填と営業の報告、午後の店番を行った。
スキル加工を行う間の代わりだ。店はこの街でも辺鄙な場所にある。
誰も来ないとは思うが、それは無人や休業にする理由にはならない。
暇なので店を見回った。
前と違い商品のコインには名前と内容が振り分けられ、私のように不用意に使われないよう包装されている。一見だとお土産の菓子を包む紙だが、商品名を見れば違うと分かるだろう。
店長曰く名称のセンスで売り上げが変わる界隈だから、名前にはかなり気を遣ったらしい。
店長一人しか居ない商売に界隈があるかどうかは議論が残るが。
ただ「怪力」と言うより「
敢えて汎用性を捨てて条件付けるのもコツだとも言っていた。
限定する事で出力を上げる加工も施してあると。
結局どちらもEクラスというオチではあったが、汎用性と最大出力が違う。
店長なりに企業努力している点は認めなければならない。
そういえばネット販売で一つ売れたらしい。めでたいと言った。
上の話をした際に聞いたが店長は少しずつ口コミで増やしたいらしい。
商品の性質上リピーターの概念が無く、寧ろ秘匿する方向に自然と人の思考が向かうのにどうやって口コミが成されるかは疑問だ。
大抵、こういう力は少数のグループで内側に閉じこもさせる魔力がある。
マ法を使うマ力じゃない。魔性、ミ力という意味のマ力だ。
対策が必要だろう。早いほど望ましい。
具体策としては宗教的団体を始めとする集団を拡大させる動機。
スキルが広がる流れの源水にいる以上、スキル其の物にそういう性質を持たせるのが手っ取り早い。
本店を特定され襲撃されるリスクはあるが、そんなことで足を止める理由にはならない。
商品の求人力は給料の要らない広告塔の数と同じだ。
通常はレビュー、口コミ、SNS、人が広めたいと思わせるのが王道。
対してスキルは個人に宿る力、私からすれば予防接種に当たる。
これを商品の区分で分けるならば、プロテインやスポーツ器具といった物や整形を始めとしたメディカルなサービスだ。
現在は個人的に使えるスキルの販売、つまり美容クリニックに相当する。
医者の資格やその後の健康の保証を一切しない点も含めれば私達は闇美容クリニックだろう。
非効率だ。売りつける対象が減るとしても買いにくる母数を増やさなければならない。
高利多売、商売の理想だが詐欺の理想でもある。
結果的にそうなるだろうが、仕組みとしてはスキル其の物に店長の売買を組み込ませる。
ネズミ講、マルチうんちゃら、ジョイント型。
試作の検証が必要だろう。店長を言いくるめて商品開発をさせる必要がある。
やった。明日の朝に試作品が渡される手筈となった。
4月♪日
休日だったので鹿田達と誘われるまま遊びに行った。
東京の港区、水族館となる。
この街は日本でも北の方だが、いつの間にかJRは日本の遠出をどこでも5分で行けるものにしていた。
なんでも二年前に"転移ポータル"が実用化されたからとか。嘘こけ。
ルーペで覗いた所反応があった。有ったが、コインにはならなかった。
ルーペは少しでも一部でも本体を捉える必要がある。
この場合は本体ではなく、その力が及んだ物体。
遷遺者や
聞けば大体6年前に論文と実証装置が発表され、その時は新聞やテレビで連日放送されていたそうだ。
SNSが本格化する前に実用化されるとは立派な心掛けだ。
これに気付かなかった店長に私は節穴の烙印を押した。
私も知らなかったが、今までの私はそもそもテレビも新聞も見ず人とも関わらなかった。
遠出をする筈もなく1日があっという間に過ぎる日々だった。
多少の流行は受動喫煙で知っているが、普通の人と比べ疎い自覚がある。
便利だが留意すべきだろう。こんな物が有ったと。
水族館は楽しかったが、東京の人の多さは脳髄に響くものだった。
臭いで鼻水が止まらず、常に気分の悪い満腹感を感じた。
なんと言えばいいのか。活気があり余って口を開けばそれだけで何かを口を詰め込まれてる感覚と言えばいいか。
端的に言えば空気がゲロの味だった。
代わりに精を摂る感覚は強制的に理解させられたので、今後意識的に摂らない様になれれば問題ない。
どんな上等なワインも泥水と混ぜればと言う。あれはそういうものだった。
水族館内部は比較的穏やかだったのは幸いだろう。
試験的に水族館のイルカにスキルを与えた。
人以外にどの様に作用するかの観察となる。
店長には既に聞いているが、実際に見ると分かる事もあると考えた。
結果は聞いた通り、遷遺者になった。
ルーペで再回収して戻したが、私から見れば完全には戻ってないように見える。
具体的には回収後のイルカには高い知性を感じられた。
スキルは人間の要素の集合であり、ルーペの回収は段階的に行われる。
収集過程は「吸い取る」に近く、全て取ろうと完全に回収出来るわけではなく、立体物に掃除機をかけているのに近い。
スキルを動物に渡して吸い取るとスキルは劣化し、一部が動物に残留する訳だ。
要素として人は知性が大部分を占める。この結果はある種順当なものだろう。
試した責任として定期的に状態を観に来る事にする。
遊んでいる間の余暇に試作品のスキルを売った。
相手は公園で途方に暮れていたスーツ姿の中年、会社をクビになった男だった。
「
毎日ランダムに提示される命令を熟す事で報酬を得られるスキルだ。
イルカ相手に試しで渡したスキルでもあり、その影響で命令の生成部分が欠けているのを確認した。
代わりに何処からか情報を受信して生成しているので動作には問題は無いだろう。電波か何かを拾っていると推測される。
元は人間なだけあり、余裕を持たせた部分が上手く代用の動きを創り出しているようだ。
人体が消えた臓器を別の部位が担当しているのに近い。
命令を熟すのは自分である必要はなく、受け取る意思を見せた人数分命令は発行される。
報酬は命令の難易度に比例して良くなる。
具体的にどう良くなるか、どんな報酬かは店長も分からない。
初めての試みだった為、創るに当たって大部分にランダム性、遊びを設ける必要があったからだ。
どうあれ、これが上手く動けば単体のスキルが複数人に対して適用される先駆けになるだろう。
彼には是非とも頑張って頂きたい。
今。
今日の夜の日記を書いている今の話だが。
サキュの夢の力の応用で文字の念写…ギリ念写と言える…が可能となった。
夢の中にペンと日記を持っていき、浅い明晰夢の状態で日記を念力で書く。
浅く明晰夢になると現実で動きながら夢の世界で活動可能となる。
後は現実に持って帰れば楽々完成だ。
夢の中では私は具体的にイメージ出来る範疇で超常的な力が使える。その応用だ。
人力では時間をかけ過ぎるキライのある行いはこっちでやる事にしよう。
書いてて指が痛かったのでこれから楽になるのは嬉しい限りだ。
ついでに夢の中で幾つかの服とおもちゃと石を組み合わせてブリーチやクラバット、飾りの宝石といった仕事服を制作した。
私の夢はイメージ不足で無から創造は出来ないが、実体験から現実のものを分解し組み直すのは出来る。
夢の世界に置けばいつでも着替えられるし、これまでの様な制服に私服を被さって誤魔化す必要が無くなるのは望ましい。アレは我ながら無理があった。
見た目が幼い分、服には気を遣うのが淑女。斯くあるべしだ。
不思議な力を売る者としても、これからは信用され易くなるに違いない。
4月$日
ある程度売れたので、一度最初に売った人達の様子を確認する事にした。
学生と芸術家のことだ。
売った者として、私には最低限死なない様にする義務がある。
あれから最低限、手元にあるスキルと売ったスキルの詳細は把握した。
概要だけなら本店にあるものも全て確認済み。
やり方を学べば応用が効くのもサキュの力で認知している。
仮に自滅しかねないなら指導、説明するだけの知識があると判断した。
機は熟した。早速二人の下に向かおう。
雨も降ってきたし、傘とコートも必要になりそうだ。
早着替えの練習も済ませた。全ての準備は整ったと言って差し支えない。
鹿田に刃を向けられた。
私は混乱を振り撒く悪魔らしい。
ふむ、ならばあなたの日常と私の非日常で戦争を始めようか。