スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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狂わす悪魔

 

 

「みかん? あー…あの子のこと?」

 

「あぁ1番前の席の…昔? さぁ…」

 

「高校生には見えないよな。話しかけない理由?……背景だったから…?」

 

 起きてみんなにみかんとお友達になったと話題に出したら、なぜか前と全然違う答えが返ってきた。

 

「おかしいでしょ! だって昨日は口を揃えて知らない知らないって大合唱だったじゃん!」

「そう言われても…昨日はなんかそういう流れだったから?」

「みんなで混乱だぁ」

「そうそう、変な自己紹介だったししょうがないじゃん」

「それにしたってだよ!」

 

 あの日はとことん変な日だった。

 みかんが居るのに気付いて、話したらあっという間に時間が過ぎて、みかんが悪魔みたいに見えた。

 不思議で蠱惑的で、でも何処か放って置けない不思議な子。

 あれで高校生なのは何かしら法律に反してるとしか思えないんだよ、冷静に考えてもさぁ!

 

「なのに休んでるのは何故! 昨日の今日は来る流れじゃん!」

「あ、ほらクッシも流れで生きてるじゃん。そういうもんだって」

「変だったよねぇ、二人でジッと見つめ合ってて」

「ぐぁ〜そう見えるか〜!」

 

 体調不良は仕方ないとはいえ、このもどかしく思う気持ちは抑えられない。

 折角仲良くなれそうなら最初に一気に行きたいじゃん? これはそういうやつだよ。

 

「でも、私らみかんのこと全然知らないよね。えっと、いつからあの子居たっけ?」

「確か小3くらいだよぉ」

「それだよ! 実質幼馴染なのに関わりなさ過ぎるもん! これじゃあいざ昔話する時気まずくなっちゃう!」

「しなきゃいいじゃん」

「やだ! もっと仲良くなりたいから!」

 

 この街は普通と比べて小ぢんまりとした田舎だからか、小中高の選択は1つか2つになる。

 そして私は誰とでも仲良くなるタイプだから、この街では他人の方が少ない。

 そんな私がずっと隣に居たのに何も知らないなんてあってはいけないのだ。

 

「決めました、私は今から半分犯罪なことをします」

「おお」

「おおじゃねえやめとけって」

 

 他と比べて扱いが悪いとか、そういう相手に自分は嫌われてると思わせるような事をしてはならない。

 それに彼女自身に気になることが多過ぎる!

 ホント匂わせやめてよね、私のブレーキが壊れるから。壊れた!

 

「先生から住所聞き出して近隣の皆様と雑談します」

「クッシ分かってるかー?今すげーキモいこと言ったぞー?」

「ひゅぅストーカー」

「うわひどい!」

 

 このままじゃ夜も眠れないぞ!

 私は悪い子だ。だけどみかんも悪いんだ、今日休まれたらこうするしかなくなっちゃうじゃん。

 人となりを学びにGOー!

 

 

 〒 ・放課後

 

 

「ここだけの話なんだけど……あそこの子って拾い子なのよ」

 

 だから仕方ないと私は自分に言い訳して、安易に自分の(人脈)を利用して。

 私は、土足で踏み込んではいけない場所に迷い込んでしまった。

 

「えっと、それは」

「あ、しーっね!しー! 私が言ったって言わないでよ? 櫛ちゃんだから教えてるんだから!」

「お話、ありがとうございました。ちょっと用事が…」

「待ちなさい、此処からが面白いんだから!」

「あ、えっと」

 

 噂好き、探りたがり、そんな人と仲良くなって気になることを聞き出す。

 難しい事じゃない。私にとってはちょっと話してるだけで出来る事。

 これが初めての試みだけど、薄らと出来る確信があった。だからやる機会が訪れた時、やらない選択を選ばなかった。

 

「ここだけの話ね? あそこの夫婦って年寄りでしょ? 仲が悪い訳じゃないんだけど、子供が一人も産まれなくてねぇ。あの子が来る直前はかなーり険悪だった。

 だけど七年前だったかしら、道端に死にそうなガキが転がってたんだけど、誰も目もくれやしない。みーんな幽霊か何かだと思ったんでしょうね、あの子気味が悪いから。

 だけど夫婦は拾ったのよ、この際子供ならなんでも良かったんじゃない? なんなら他人の子でも。

 その証拠に丁度拾う瞬間を見ちゃったんだけど、その時あの夫婦、なんて言ったと思う?

 

 「私達の子供だ」

 

 だってー! 変よねぇ!? 普通死にそうなガキが居てもそんな事言う? 思う?

 クスリでもやってたんじゃない? な訳ないか!おっほほほほ!

 でもね櫛ちゃん、私がこの流れは普通にいい話を、悪いように言ってるのは、隣人として夫婦を知っているからよ。アイツらいつも素っ気ないし、偶に猫や犬の死体が近くで転がってるもの。で、暫く経つと死体は何処かに消えている。保健所とか回収業者が来たなんて話は無かったのによ!?

 いっつもだんまりで何を考えてるんだか。最近ニュースでやってた無敵の人って言うの? アレと関わるのは良くないからやめておきなさい? これ、おばちゃんの老婆心だから!」

 

「えっと…肝に免じて置きます。あの、そろそろ時間とか大丈夫ですか?」

 

「あ、いけない!こんなに話しちゃってたか!

 またね櫛ちゃん、今度よかったらウチに上がってもいいわよー!

 ウチ、旦那が金持ちで余裕あるから!」

 

 曖昧に手を振って別れ、会話を反芻し整理する。

 マシンガントークとはこの事だろう。あの人の主観ばかりだが、そこから読み取れるみかんちゃんの情報はかなりセンシティブなものだった。

 

「うぅーん…私が知っていい事じゃない…」

 

 例え幼馴染でも本人の口以外から知ってはいけない類いのものだ。

 迷い込んだと言うより、迷い込まされた気分だが、頭を悩ませる情報に踏み込んだのは事実。

 私は案の定罪悪感とどう扱うかで迷い、結局禁句を幾つか設定して頭の隅に追いやることになった。

 

「切り替え! 家庭には踏み込まないで学校の付き合いに徹するべし!」

 

 取り敢えず今日は訪問はしない方が良いよね。

 どんな顔を合わせれば良いかというのもあるが、普通に昨日知り合った人が家に来るのはホラー過ぎる!

 退散退散! 丁寧に関係を進めます!

 

 

 ^ ・朝

 

 

「おはよう、みかん! 体調大丈夫?」

「おはよう、Ms.鹿田。ご覧の通りかな」

「うーん…すっごい悪夢を見て気疲れしたって顔だね!」

「御名答」

「フッ関わる覚悟が出来てるからね!」

 

「……? そう、好きにするといい」

 

 そんな訳で翌日、私は挨拶から少しずつにじり寄る方針に決定した。

 身の上が身の上だ。内心でどんなハリネズミを飼っているか分からないし、これまでずっと触れてこなかった過去がある。

 此処から仲を詰めるのは難関だが、だからこそ燃えるものが私の中には有った。

 つまりやる気ムンムンってこと!

 

「そういえばみかんって国数理社のどれが得意なの?」

「それ以外なら体育」

「惜しい!四択だ!」

「どれも70点以上、90点以下で安定しているから。選ぶのは難しいね」

「えー全部得意ってことじゃん! すごいなぁ、私なんて勉強会の教えられる側だし」

「卑下する必要はないよ。頼れる人が居る方が立派だから」

「お゛っ、今のは胸にキタよ! この褒め上手さんめ!」

「それほどじゃない。そろそろ授業だ」

 

 少しずつ……。

 

「小さいのにすごい速い…! 小さな暗殺者(リトルアサシン)…!」

「私は差しより先行が得意だから、暗殺者は二つ名として不適格になる」

「ぐぬぬ…精進します!」

 

「あれで仲良くないは嘘じゃない?」

「エグいよねぇ。ボケの応酬だし」

「でもマジ速いよな。しかもずっと速い」

「50のノリで持久走やるのもエグだよねぇ…気のせいじゃなきゃさぁ、みかん後半加速してなかった?」

「やー…気のせいでしょ、流石に」

 

 少しずつ……!

 

「みかんってずっとコンビニ弁当だよね、自分で買ってるの?」

「うん。最安値」

「値段が基準なんだ。あんなに走っててお腹減らない?」

「空腹には耐性がある」

「あー! ちょっと今オカズ分けたくなる症候群になっちまったぁ!みかん受け取ってくれぇー!」

「Ms.鹿田の弁当は鹿田個人が食べ切るのに最適化されている。分け与える余裕の無い相手から受け取るものはない」

「もしかして私今年下扱いされた?」

「御名答」

「やめろよぉ〜! みかんが姉の振る舞いするのは過去がエグいからぁ!」

「……?」

 

 距離を縮めて行けば! 友達になってるものさ!

 くらえ! トドメの一撃!

 

「ねぇ、みかんは都会に行ったことある?」

「ない」

「え〜!勿体無い! なら今度の休日一緒に行こうよ。

 私、大体は遊び尽くしてるし何処でも案内出来るから!」

 

 それまでずっと適当に話していたみかんと目が合った。

 初めて、彼女から個人として興味を持たれたのを眼の煌めきで理解したのだ。

 

「水族館」

「おっけー朝9時駅前西口科学像に集合ね! へへ、友達との約束だよ!」

「……友達」

「一緒に遊び行くのが友達じゃなきゃなにさ! 小指、はい約束! 待ってるからねー!」

 

 恐らく、彼女にとって初めての友人が私だ。

 友達は沢山作ってきたが、彼女の背景を思えばより気合いが入るというもの。

 

「浮気者ぉ」

「そ、そういうのじゃないし!」

「でも友達を恋人に置き換えたらクズの部類だわな」

「だから〜ぁ!」

 

 元の席に戻ると、二人から辛口の評価を頂いた。

 仕方ないよね。気軽に見てる訳じゃないけど、手強い相手に思わずワクワクしちゃうのは。

 

 これから彼女がどうやって笑うのか、どんな関係になるか考えるだけで私まで楽しくなる。

 関係の作り方がだらしないと言われたら言い訳のしようもない。

 だけど人の恋心を弄んでる訳じゃないし、私は全然良い人の部類だろう。

 良い子と悪い子、都合よく使い分けて行こうぜ!

 

「明日、楽しみだなぁ」

 

 

 ♪ ・休日

 

 

 東京行きのワープゲートを抜けて港区までバスで揺れる。

 私が住む街から東京まで、一昔前なら3時間は必要だった道も、今では30分で水族館だ。

 

 ブ‭─‬‭─ン

 

「どう? 初めてワープした感想は」

「他にも私の知らない、こんな超技術があるか気になったかな」

「うーん…そうだなぁ、スマホと水素自動車とー…最近だとAIとか!」

「…そっか」

 

 そういうみかんは何処か安堵したような、呆れにも不安そうにも見える顔にだった。

 複雑な感情を表情だけでは読み切れず、思わず訪ねる。

 

「それ、どんな感情?」

 

「未来への希望、かな。

 行こう、人混みに溺れない内に」

 

 何となく分かるような、分からない答えだった。

 

 

 水族館はかなり手応えを感じるものだった。

 一緒にフードコーナーで食べたり、一面がガラス張りの海中公園をバラバラに散策したりして、最後にイルカのショーを見て、上手く距離感を寄って離して、前よりも近寄れた感覚がある。

 

「ざぶーん」

「映えるわーこれ」

 

「うわぁ! もうバシャバシャだぁ!」

「彼女は仕事熱心だね。私達を濡らすのが仕事だと分かってるんだ」

 

 唯一、イルカショーでは前の席だったから、イルカに何度か水を掛けられたのが不満点かな。

 もっとしっかり彼女の顔を見ていたかったのに、これじゃあイルカの方に目線を持っていかないと不自然になる。

 イルカのみーちゃんめぇ…やめろ! キューキュー笑われるとつい許しちゃうだろ!

 

契約成立(チャレンジスタート)

 

 そうやって視線を逸らした瞬間、彼女は何の前触れもなくそう言った。

 

「…何をしたの?」

「見てて」

「答えて!」

 

 嫌な予感がした。漠然とした、このままでは良くないことが起きる確信。

 慌ててみかんの方を見て、思わず息を呑んだ。

 

「確認」

 

 今まで見たことがない、冷徹で、薄情で、臆病で、慎重さと大胆さを併せ持った決意を固めた眼。

 モルモットを見ている研究者と言えば近いだろうか。

 人が変わったように、みかんはイルカを瞬きもせず観察していた。

 

「あれは…!?」

 

 変化は直ぐに訪れた。

 イルカの身体がどんどん文字に変わり崩れて、頭上に居座ったピンク色の光る何かを中心にして新たな形に変化していく。

 

 ‭─‬‭─‭─‬‭─‭─‬‭─‭─‬‭─‬・・・・ォ

 

 変わった姿は鯨に似ていて、オカリナや三葉虫にも似ている不思議な生物だった。

 笛みたいに甲高く、けれど混ざり合いハーモニーとなった音が、私の脳に響き反響する。

 

「いたっ‭─‬‭─⁉︎」

 

 

鹿田へ 隣人を追跡しろ。期日は日が暮れるまで

 

 

「なに…これ?」

 

回収(ルーペ)

 

 思ってもみなかった……それこそ私なら一緒考えもしない思考が、脳裏に浮かぶ。

 言い逃れようのない犯罪で、私なりに敷いていた一線をギリギリ超える手口。

 きっとあの鯨のせいだ。普通だったら気の迷いだと忘れていただろう思考。

 

「…………」

 

 気付けば鯨は消えてイルカは元に戻っていた。

 きっと彼女の仕業だろう。誰もが茫然とし、しかし現実味のない一連の流れを白昼夢と思い元通りになっていく中、一人だけコインを見つめる君が。

 

「……そういえば今日は現地解散だからさ。良ければ駅まで送るけど、どう?」

「一人で帰りたい。人混みを乗り越えるのは得難い経験になるから」

「分かった、そうしよう」

 

 今、私の隣人は君だけで、私が自分の日常を壊す手段(はんざい)を使うには十分な相手だった。

 好奇心が、常に私を支配していた友情主義を遂に上回ったから。

 

「もし、そこの紳士の方(ジェントルマン)。お昼からずっと居ましたが、そんな今を打破したくはありせんか?」

「……きみは…誰だい?」

 

「しがない売人(プッシャー)ですよ‭─‬‭─"本物の悪魔の"という枕詞が付きますが…ね」

 

 そして私は見た。

 君が悪魔の姿に変わるのを。絶望した人を奈落に突き落とさんとするのを。

 

「……人じゃ、ないんだ。じゃあ、過去も何も、全部……うそ?」

 

 私はその事実に耐え切れなくて、気付かれない内にその場を後にした。

 

「そんなの…そんなの…!」

 

 悪魔で、不思議な力を売っていて、突然現れた過去がある。

 それはつまり、友情も何もかも置いて倒すべき敵である可能性があるのではないか?

 

「あり得ない話じゃ…ない……!」

 

 ぐるぐると考えがまとまらず、結局最後には本人に聞くというありきたりな結論になった。

 そうだ、何事も最初が肝心なんだ。まだ始まってないなら、ここから一気に彼女を説得すれば…。

 

「まだ、友達になるチャンスがある…!」

 

 ああそうだ、相手は悪魔で、最高に悪い奴なんだ。

 だったら、そんな相手と友達になれれば、それはなんてロマンチックで滾る相手なんだろう!!

 

 それなら、それなら、それなら……!

 

 

 $ ・授業中

 

 

《復讐だ》

 

 

 ……そんな、私の悪魔と友達になっちゃおう作戦は呆気なく崩れ去った。

 

《思い通りになると驕った奴、

 責任を他人へ放り捨てる奴、

 人の気を知ろうとしない奴、

 

 そんな連中に鉄槌を下す‭─‬‭─‭─‬なんて上っ面の正義はない。

 

 端的な動機だ。今から俺を貶めた連中全員殺すから、巻き込まれたい奴だけ残れ。

 怪物にして殺し合わせてやる。さあ分かったら雨雲から逃げろ、残り3分》

 

 自分を一切誤魔化さずに、ストレートにありったけの憎悪を振り撒く狂人の放送があったから。

 外では見たこともない怪物たちが学校を取り囲んでたから。

 

「……みかん…いや、混乱を振り撒く悪魔が。

 殺されたくなかったらこの雨の解決策を教えろ!」

 

 死が迫る恐怖、異常な事態、昨日眼に焼き付いた悪魔に変わる姿……。

 私はぐるぐる巡る頭の中身を選別もせずにぶちまけて、彼女が元凶だと指差して叫んでしまった。

 より混乱が増すだろう言葉を、私が振るえる最も強い力、クラス全員の私への信用を利用する形で。

 

「‭─‬‭─ならばお客様、財布の厚みは十分で?

 

 あなたが悪魔の姿へと変わった時、もう友達にはなれない確信が脳裏に募ったんだ。

 

 

 

 

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