スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

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業務:臨時店長 場所:とある高校

 

 

 4月$日

 とある高校に三年生の青年がいた。

 普通の成績、普通の家庭、普通の性格。

 父と母、姉と妹がいたらしい。

 

 唯一他と大きく外れるのはイジメを受けていて、

 家族全員同じ学校の誰かに殺されて、

 警察にそれら殺人の犯人に仕立て上げられた点か。

 

 それ以外は普通であり、家族の後を追い、ついでに腹いせとして母校で自殺しようとする程度の精神の持ち主だ。

 スキルの売り手としてそんな過去はおすすめの商品を選ぶ程度にしか役に立たない。

 後は、生きる目的として私の存在を加えさせただけ。

 個人的に生きる目的には復讐以外にも必要だからやった。

 

 

 今日はそんな彼がスキルを使い復讐する日だ。

 店員ではなく同じ高校に通う生徒としても説得したからか「今日は来るな」という旨の手紙がポストにあったが、別に休む動機にはならないので来た。

 

 なにせ、彼の話によればスキルに関係なく警察に深い伝手のある殺人嗜好の学生が居る。

 そんなのがいる限り、休めば彼がスキルを使用した上で死にかねない。

 それは売り手としてダメだ。

 

 そんな訳で傘やレインコートで対策を万全にして来た。

 彼に渡した3つのスキルは「雨を降らし、雨に触れた者を人外に変え、人格を堕とす」。

 

 全部併せて要約すれば「魔族に変わる雨を降らす」魔法(スキル)だ。

 

 同族も狩ろうとする葬送のそれになると考えれば明瞭だろうか。

 不可逆であり、肉体に少しでも直接触れれば後は時間の問題となる。

 逆に言えば服越しなら幾ら濡れようと問題はない。対策は容易な部類だ。

 

 ただし雨は室内だろうと関係なく降らせられるので、校舎だからと安心すると終わり。

 更に、今日は普通の雨が降っている。これに「雨」を紛れさせればもうわからない。

 スキルを使うには絶好の日な訳だ。効果範囲や諸々を誤魔化せる。賢い。

 

 

 という訳で普段通り授業を受けていた所、予定通り彼の一世一代の舞台が開催された。

 飾り気のないぶっきらぼうな説明だが、つまり外に出ようとした者の数だけ鬼が増える鬼ごっこだ。

 巻き込みは考慮に入らず、この学校を全滅させる気概であるらしい。

 

 休んでいる人はどうするかと考えたが、なるほど。窓には透明なレインコートを羽織った透明人間、彼のスキルにより変化した遷遺者が待機している。

 既に休んだ者は鬼にしたらしい。

 Bクラスに張り付いてる2名の輪郭を見るに、変化は身体能力の向上、透明化、彼の命令への従順さは最低でも有しているように見える。

 

 サキュとしての感覚では人間としての精神は地続きのようだ。

 店長の言う「精神が落ちる」がどういったものかは、更に観察すれば判明するだろう。

 

 

‭┫

 

 

 そうして観察していた所に鹿田からカッターを突き付けられたのが現在だ。

 現状をなんとかしたいとの事なのでクラス全員に24個のスキルを売った。

 

 いや、正確な表現では無かった。

 正しくは鹿田と私、休んでいた一名、状況を飲み込めず拒絶した三名を除く24名のBクラス生徒に一つずつ売った、が正しい。

 60ある在庫の半分がこれで売れた訳だ。

 

 スキルのクラスは戦闘における性能に準拠している。

 店長がそう定めた訳ではない。スキル単体のリソースや性能を基準にすると自然とそうなるのだ。

 

 その為最低Cクラスのスキル群は、最低でも射撃銃と同等の武器。

 どんなへっぽこ利用者でも最低限、金額にして50万相当の働きはする上等品となる。

 対価の金銭は彼らの日々の貯金、及び親が彼らの為に貯めていた通帳から差し引く事で成立と相なった。

 

 店長のスキルはこのように、自然発生なだけはあるのか金銭とスキルに及ぶ効果はかなり融通が効く。

 

 

 十分に売れたので私は本来の目的、この舞台の幕を開く彼に会いに行く事にした。

 スキルを売った以上クラスメイトにも責任が生じたが、この責任は私個人の好意で成り立っている。

 その為私が先頭有利の考えである限り、この騒動の間は彼の支援がBクラスの脱出支援よりも優先するべきだ。

 商売において、客の事情は予約順に影響しないのと同じ理屈である。

 

 

 途中鬼と遭遇したが、襲われる事もなく彼の元に着いた。まだ10分も経ってないからだろう。

 放送が事前の録音だったと判明する寄り道をする事になったが、些細な問題となる。

 彼は屋上、この雨の日と彼のスキルを考えれば絶対に寄り付かない場所に居た。

 

 何のようだと問われた。

 スキルの使用感の確認と危険な使い方をしてないかの観察だ。

 敵意を向けられたりしたが、最終的には幾つか相談に乗る事になった。

 その結果スキルの行使に関して新たに判明した事実があるので記載する事にする。

 

 

 店長はスキルを制作する際に遊びを設けるが、実は使用者はこの遊びを意識的に組み替えて性能を拡張出来たようだ。

 欠けた部分の代用リソースを発展に用いた形となる。

 壊れた際は一発で終わりだが、間違いなく性能が上がるやり方。

 彼はスキルの理解を深める内にこれに気付き、スキル同士を深く連結。

 一つのスキルとしてまとめ上げて新たに変質させた対象を従えられるようになったと言う。

 

 また、人外への変化先も固定化する事で一つ一つの変化の質を上げたとも言っていた。

 店長から聞いてないが、どうやらスキルは存外利用者に寄り添って自らを最適化するようだ。

 

「なんつうか、この力は俺に寄り添う面と自分勝手に暴れようとする面があんだよ。

 あれなんて言ったっけな…和魂と荒魂って言うのか? 二つの側面があって、普段は和の方が動いてくれる。能力の形を整えてくれるのもこっちの方だ。

 だけど、暴れる方は別だ。全然従わないし、触れただけで能力が暴走する。普段は触れられないけど、瞑想とかでこの力に心を沈ませると、力の奥底、荒れた面を封印してる場所に辿り着くんだ。

 多分こっちを従えられたらすげぇ強くなると思うぜ。

 ま、復讐には要らないだろうし俺はやんないけど」

 

 以上が彼のまとめの言葉だ。

 これを店長の加工や私の見識を組み合わせ分析するならば、

 

 和魂はスキル化した人の部分。

 荒魂は異世界の遷遺者の部分。

 深い部分に封じられたのは店長の加工によるもの。

 といった所だろう。

 

 店長はスキルを小型化して一人に3つ入れられるようにする為、道具として扱う力として不要だがスキルとして必須な部分を圧縮し、凍結してると雑談で話していた。

 ここまで利用者が好きに触れ回れるなら凍結部分を一時解放して振るうのも可能なのだろう。

 店長が意図してそうしたかは不明だが、人間に使い熟せるかは自分で試す事にする。

 

 私が取り込んだのは未加工のスキル。つまり奥深くまで探らなくてもその側面は容易に引き出せる。

 先日イルカで確認した遷遺者への変化リスクはあるが、売り手として説明出来るよう確かめる必要がある。

 

 一先ず彼には生存の目を残す為にBクラスの出来事と荒魂解放による怪物化の危険性を伝えた。

 スキルホルダー同士で争うのは事前に予想していたが、想定よりずっと速く発生しそうだと。

 決して望ましい事ではない。可能なら遷遺者のみ殺して欲しい。

 だがそう要望するには不特定多数の異相牢への通路が無い。テレポートゲートなら或いはと考えているが。

 

 

 その後は学校をうろつくと言って離れようとしたら、彼から「印」を貰った。持っている間、彼が使役する「人外」が友好的になる上に命令を下せるらしい。

 彼曰く「スキルに含まれてた命令権の分割、具現化」だそうだ。

 既に私よりスキルを使い熟しているとは。今日1番驚いた。

 

 すれ違いでBクラス生徒の一人が屋上に来たが、ここからは彼らの問題だろう。

 それよりも気にするべき危険がある。

 

 現在のとある学校は25人のスキルホルダーが集まる魔の領域だ。

 スキルに遷遺者の要素が混ざっている以上学校と浅い所まで浮上していた異相牢が繋がる可能性は十全にある。

 そうなると店長と私だけが入った時の比にならない様々な事象が発生することだろう。遷遺者の数も多数に及ぶ。

 店長風に言えばダンジョン化だ。

 

 その観察を行いたい動機が一つ、

 探索するにしても一人では時間がかかる事情が一つ、

 かなりの商機となるという感覚が一つ、

 商人として人道的支援の義務があるという考えが一つ、

 

 複合的にやるべきことを考えた結果、学校に出張スキル店を開く事にした。

 対価は地図や出会った遷遺者の情報、売るのは「印」を持つ私の保護と30のスキルと空のコイン。

 

 空のコイン。つまるところルーペの性能も持たせた使い捨てコイン。

 店長に頼んだら5分で用意されたものだ。曰く普通より楽に用意出来たと。

 使い捨て…スキルとして残すのを考えない、遷遺者の弱体化目的の安価版。

 

 店長のスキルもそれ相応に学生に優しい価格にしてくれた。一個100円。自腹だ。

 元は緊急時に使う事を想定して休日の帰りに頼み作っていた。その数500。つまり5万の自腹。

 スキルを売る際に自分の分を上乗せしてなければ即死だった。私の残り小遣い13円。Bクラス相手には知り合い価格で原価で売った。

 そんな、ぶつけるだけで効果を発揮するお手頃コインである。

 

 そもそもコインを出すのが店長のスキルだ。

 消費アイテムを用意するのにこれほど適したものはない。

 今回は全て売り切れごめんとなる。

 

 商品の用意はある。では何処に出店するか。

 そもそもダンジョン化は私の推測だ。なるかも知れないしならないかも知れない。

 ただ、証拠にもならない予感として私が普段迷っていた夕焼けの道は何となくそうやって出来たものと感じる。だから私はこうして動いている。

 

 ならないならそれでいいが、そもそもこんな放送で避難する人が居るわけがない。

 鹿田と彼女を信用したBクラスが異常なだけだ。

 

 なので一階の階段前、昔使われていたボイラー室に繋がる地下通路前を陣取る。

 丁度下駄箱もあるし、普通外に出ようとすればここは通るだろう。

 安全地帯を自由に作れるならこれほど適したものは無いと考える。

 

 

 彼が全生徒に与えた10分が経った。

 屋上で何が起きたかは知らないが、私の予想は正しいと証明された。

 

 スキルホルダーが25人…訂正、私を入れて26人が集まってスキルを使えば異相牢に繋がる。

 成ったのではない。「繋がった」。

 何故そう書くか。

 

 目の前に二つ、気配も合わせれば5つ。

 いつぞやの夢を伝って神のメモを拾った時に、渡り歩いた事のある異相牢が現実と重なっていたから。

 

 さて、脱出方法は知らないがお店を開くとしよう。

 複数の異相牢が積み重なったダンジョンだ。1日で全て攻略しようなどと無謀な話。

 私は私に出来ることを始めよう。

 

 

 ヌルイのスキル屋出張店、営業開始。

 

 

 

 

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