スキル屋のバイトになりまして   作:何処にでもある

8 / 10
業務:臨時店長 場所:不特定の怪談1F

 

 

 4月$日

 夢の中でリアルタイムに書けるようになって幸いだったと思う。

 仮に今日のことを現実で机と睨み合って書いた場合、私は臨時出店したとだけ書いて終わらせた事だろう。

 

 

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 出店してしばらく経つと五人の学生が来店した。

 予定通りカバーストーリーとして「異相牢(ダンジョン)禍・友好的な遷遺者・悪魔の店」として接すると、幾つかの質疑応答の末保護を希望してきた。

 

 カバーストーリーを用意したのは私の信用を上げる為だ。

 端的に言えばその場しのぎの嘘。

 しかし正直に同級生がスキル屋にバイトとして云々よりも、「突然学校が異世界と繋がったので、異世界の悪魔がやっている店も出現した」と言う方が信用されるだろう。

 

 思うに人は現実性に欠ける出来事に遭遇した場合、より上位的な相手の言葉を無条件に信じる傾向にある。

 突然白い空間に迷い込んだとして、そこに新たに現れた存在が神様だと名乗ればうだうだ言いながらもなんだかんだ信じるのと同じ理屈だ。

 

 今回の保護を商品にしたのは私の小銭稼ぎもあるが、対価を払わせて心理的ストレスを和らげる為でもある。特に悪魔なんて契約に煩い存在を名乗れば効果も絶大だろう。

 売り手として商品の質を上げる努力義務を果たした形となる。

 

 既に商品を売った客の妨害をしない程度に、過剰な犠牲を出さないようにする。

 全員が全ての経緯を知れば事前に復讐を止めておけと言う者が多いだろうが、それを唆した私が言うのは違うのだ。

 命を断たせない為の動機を与えた以上、その責任は取る。

 今回の行動はそんな思想で決まっている。罪悪感が無いわけではないが、それは彼の選択を尊重しない理由にはならない。

 

 

 更に13名の集団が訪れ保護を求めてきた際、店の広さと雰囲気を煽てられたが、出張店の外装や内装はサキュの力で誤魔化している。

 前に精を食べた影響か、食べた分だけ「夢を見せられる」ようになったのを利用した。

 その為どれだけ年季が入ったアンティークに見えても全て幻覚。

 現実では異相牢に簡易的に立てた天幕とシート、透明人間に拾わせた学校の家具があるだけだ。

 雨風と地面に座るのは防げるが、異相牢で過ごすには心許ない。

 幸い、展開している「夢」が光源、保温性、安心感、寝床を齎しているが、それもこのままなら後2日で尽きるだろう。

 その上収容ペースが上がれば加速するだろうが。場合によっては「夢」をショバ代に徴収しなければならない。

 この「夢」の原材料が具体的に人のなんなのかまだ調べてない以上、最後の手段にするべきだ。

 

 

 現在、店の外は寒い風が吹く荒野に変化している。

 集まった情報からして半径4kmの、石と灰が広がる灰色の荒野だ。

 風はまあまあ強く、常に曇り空が広がり、なのに空気は乾いている。

 少し土を掘ると上履きや棚、照明や置き傘が出てくるらしい。

 東西南北に別の異相牢が見える交流地の異相牢で、この店舗は中心からやや西に偏った場所にある。

 

 遷遺者は独りでにゴロゴロ動く岩と竜巻。

 岩は全長5m、近付くかずっと見てると追いかけ回してきて、

 竜巻は誰の意も介さずこの異相牢の外周を決まった速度とルートで回り続けている。

 火山関係が無いのは意外だ。灰があるのに。

 夜に出るのだろうか。どの道、最悪なのは雨が降ることだろう。

 

 どちらも夕焼けの連中と比べると単純で分かりやすい危険性だ。

 問題はこの異相牢に夜になった時か。夕焼けしかり、時間経過で現れる存在が居ると話が変わってくるだろう。

 

 客には防衛力を上げる旨を伝えて透明人間と共に防壁を制作しているが…果たして間に合うか。

 仮に火山関連の遷遺者が居るとすれば、天井がそれまでに確実に用意したい。透明人間化する雨の懸念もある。

 使い捨てではない普通のコインも前の休日補填しているが、たったの15枚だ。

 出来れば温存しておきたいのが率直な感情である。

 No.2の様に根本で繋がってない、数で攻めるタイプと遭遇すれば一発で終わるだろうから。

 

 

 保護を希望した客の内、三名が遠征に出た。休んでやる気が出たらしい。

 望み通りスキルを1人一つで売却した所、その1時間後に76名を連れてやってきた。

 おかげて店はぎゅうぎゅうだ。夢で内装を自在に変えられなければ大変なことになっていた事だろう。

 

 誘導、集団指揮、生命の探知の組み合わせは凄まじいと言う他ない。

 断固たる目的を持って動けばスキルは相応に応える。すぐに新たな生徒を探しに行ったので、私も店の拡張を急がねばならないだろう。

 しかし手段に欠ける。

 

 悩んでいた所、1人が協力を申し出た。望み通り土弄り…錬金術のスキルを与えた所、上手くスキルを扱えてないようなので「夢」を経由し私が店を拡張した。

 夢は当然精神に干渉する力。アドリブだったが、私は許可を得た上で眠っているスキルホルダーなら操れるらしい。

 感覚としては相手の脳を私でシャブ漬けして魅了し全感覚を支配する感じだ。サキュらしい。

 お陰で天井と防壁、その上地下シェルターに排水路まで用意できた。

 

 起床後、協力者は私が操った際と同等までスキルを使い熟していた。

 どうやらそういう利点、或いは弱点があるらしい。

 夢の装飾に気付かれたが、既に土を弄りの際に殆ど現実のものにした。気付かれても対して困る事はない。追加が来る余裕も作った。とある学校は全生徒約600人。100は死ぬとして500の人員が入れる箱だ。

 その際に地下にあった別の異相牢に繋がる入り口が出てきたが、直ちに問題はない。

 

 しかし夢の節約が出来たのは幸いだ。これで他の活用も出来る。

 既に人が死んだのを見た生徒もいることだ。宿泊サービスとしてメンタルケアに流用しておくとしよう。

 

 

 透明人間が成果を挙げたので休息と食事を与えた。

 人外になろうとまだまだ自我がハッキリしてる人間だ。

 労働基準法に則り定期的に休息と食事を与える義務がある。

 透明人間は何が食べられるか試したが、どうやら「夢」で良いらしい。

 人の雑食性が拡張されたのだろう。普段は黙りだが、味を聞いた所マズいと返答された。

 

 その気持ちはとてもよく分かる。

 

 なので小分けに試食を行わせ、辛うじてオムライスと言えるものを仕立て上げた。ケチャップ付きだ。彼らも泣きながら静かに喜んでいた。

 夢を料理するコツはひたすら選別と夢の配合にあった。

 感覚としてはお菓子に近い。私は夢の味などわからないが、夢は大きく7種類に分けられる。

 味の感想から大罪の分類と類似していたが、この組み合わせ、順番、量が肝要であるようだ。

 

 その様子が余りに静か過ぎるので、もしやデフォルトだと喋れないよう命令されている状態なのかと考え、自由に喋る許可を与えた。スマホのデフォルト設定の感覚で考えた。

 

 凄まじい勢いで泣き縋れた。仕事が怖いのでやりたくないとも。

 まあそうだろうな。体調不良なりなんなりで家で過ごしていたら透明人間になっていて、雨の中を走らされた上に身体の自由は効かないのだ。そして操り手が彼か私の二択で、人殺しの化け物になった。

 実際同級生を殺した透明人間も居た。もういやだと泣いていたが、人手が足りないので無理矢理にでも動いて貰う。

 

 貰うが、やる気を出させる為に報酬を与える事にした。

 

 さて、彼の人外化スキルの過程はスキルに含まれる複製可能な成分を雨に含ませ、体内に侵入させて遷遺者にする手法を立っている。

 なので使い捨てコインでも簡単に元に戻せるものだ。コインはスキルを取り出せないが、イルカの様に遷遺者にまで変わり果てていれば戻せる力を持つ。仮説だが。

 

 なので、適当に選んだ1人にデモストを兼ねて人に戻した。

 成功した。仮説は一部条件だけ実証された。

 

 同級生を殺したと嘆いていた彼女は泣いて私に感謝したが、残念ながら無償ではない。

 このコインはこの臨時店舗では1000円で売っている。その代金を払うまで、店長のスキルが彼女の自由を赦さない。私に命令権を与えるスキルは変われど、状況は変わらない訳だ。

 なので仕事振りでこの場で定めた独自通貨、「R:レンジ」を与え、千Rを稼げば解放すると伝達した。先に人間に戻した彼女はホテルのバックヤードの仕事をして貰う。裏技として店長のスキルの仕様上日本円でもOKなのは内緒だ。

 

 やる気になった事だし、これでいいだろう。

 そうだ、おまけに透明人間向けの商品も用意しよう。

 例えば…人を殺した記憶を完全に消し去る、なんてどうだろうか。

 夢として抜き取れる確信があるし、まぁそんなに需要は無さそうだが色々用意しよう。賑やかしは多いほど嬉しいものだ。

 

 

 思うに、避難生徒には改めて「ホテル兼スキル店」として自己紹介すべきだ。

 遠征隊には夜になる前に帰るよう言っていたが、誘導のスキルを与えた1名が死んだ。

 

 「敵前逃亡(アンダーエスケープ)

 指定対象に逃亡させるスキル。

 逆効果になる遷遺者と遭遇した結果、相手を絶対殺すモードに突入させたので、囮として何処かに走って行ったとの事だ。勇敢な男だったようだ。

 

 その際は何も無かったようだが、死後にスキルが暴走するか確認する必要がある。

 遠出の間の代理人はそこら辺でエネミーになってる透明人間から雇うとしよう。

 

 206名の団体客が来訪した。彼の成果だ。丁重に宿泊させるとしよう。

 良い機会なので既存の客と集めて臨時としてホテル業を開く旨を全員に伝え、保護の契約を更新させた。

 これまでとの変更点は安全以外にもある程度の生活環境の提供を約束するというだけだ。

 宿泊料は多くなるが、シャワーと着替え、タオルを提供する。

 更にシェフ枠としてのスキルホルダー志願者と料金が必要だが、希望なら食事も用意しよう。

 丁度、パンや肉や野菜や魚やらを作れるスキルが商品にある。

 

 何故人を出すのに金を取るのか聞かれたが、そんなのシェフの給料分に決まっている。

 扱いに差を作るのはまだしも、無給労働は禁じ手だ。

 悪魔のカバーストーリーを信じさせる為には、その手の部分は徹底する必要がある。

 だから金は取る。

 

 寧ろ、金を払わないと店長のスキルが何を取るかわかったものでは無い。

 今回のケースは1人が得るスキルに何百人の生徒の意思が絡む。

 店長のスキルはかなり融通が効くが……多少がめつい側面がある。店長が毎回値引き交渉を態と負けたり、事前に取り決めないと要求額がとんでもない事になるのだ。

 

 この場合は全員から1人が払う額と同じ分請求……通常の223倍の額をこの場に求める可能性が非常に高い。そうなったらここにいる客の人生終わりだ。

 私がシェフ枠を求める前に誰か名乗り出てくれれば事前の取り決め通り、普段の販売契約で済んだのだが…誰も名乗り出ないなら名乗らせるしかない。

 

 今回の件は取り決めの範疇外の契約パターンだが、ここで給料を設定すれば私と同じ、店長のスキルの保護下、店員になる。

 そうなれば店員価格で223倍のふっかけは起きない。ロハ(仕事道具の支給)だ。

 色々やっている最中に考えていた契約の穴だが、食事の用意にここまで悩ませる事になるとは思ってもみなかった。

 

 客から横暴だの悪魔だの言われてたが、私からすれば店長のスキルの方が悪魔だ。

 それと客も客で怠惰だ。スキルを確認し、店の拡張を手伝った彼女みたいな自主性と善性がない。

 幾ら最低価格50万でも、緊急時なのだからそのくらい払っても良いだろうに。

 

 

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 書き忘れてた。

 夕方…これはシェフの件より前の話だが、北に向かい囮の死体を回収して帰還した。

 後日行く予定だったが、遠征隊に幾らでも払うと言われて頼まれたので仕方がない。

 5円で了承した。死体とのご縁と掛けた験担ぎだ。

 

 北の異相牢の入り口は、場違いな赤いポストに触れれば行ける。

 転移した先は体育館に似ていた。あ、そうか。なら灰の荒野はグラウンドと合体したのか。

 兎も角、体育館に似ているがそれは床の話。広さは荒野の比ではなく、かなり手前側にある地平線を拝めた。分かりやすく球体の異相牢だ。

 その上人の背丈程の段差が凸凹にあちこちで拡がっている。

 体育館にあるステージ、校長が話す際とかで上がるアレと同じくらいの段差だ。

 

 上にはポスト、下には郵便受けが沈んだ水溜りがあちこちに点在し、何もない場所も珍しくない。

 遠征隊は東西南北全て巡って一通り回収したというのだから驚愕だ。なぜこまめにホテルに渡しに来なかったのか。

 

 すぐにわかった。時間の流れが違う。この異相牢は荒野より非常に時の流れが緩やかだ。

 あちらでは夕焼けだったのに、こちらではまだ朝日が昇っている最中。

 だが、それにしては凸凹に溜まった水溜りの波に違和感が……ああ、あの太陽に近い程遅くなる仕組みか。そして荒野に行く入り口は太陽が朝焼けになる程度の距離。ここが現実とほぼ同じ時の流れとなる場所だ。

 

 遠征隊はあまり遠くまで行くと浦島になりそうと言っていたが、なるほど太郎だ。

 だがルーペのカモだな。太陽なんて分かりやすい本体が居る。まだ取らないが、攻略の際はルーペで採取し時間を正常化してからだろう。

 太陽の真下辺りの生徒を後回しに出来るのだ。ただ間反対の夜側は……居たとすればもう遅い。

 遠征隊はそっち側をメインに探したそうだから、死体もそっち側だ。

 

 聞いた話によれば遷遺者は恐らく各地に点在するポストと郵便受け、それから魚の形をして動く水(或いは水の身体の魚)

 夜側は時間が加速し、奥に行くほど魚が凶暴になったそうだ。空を飛べば大した脅威ではないので簡単に回収出来た。大体体感2時間飛べば夜側は一通り見渡せる程度には小さい星だ。

 ついでに餓死しかけの透明人間も回収した。人間に戻した彼女に説明と指導を任せる事にしよう。

 

 ……加速した時間の中で放置された何月を思えば、透明人間はかなり燃費が良いらしい。

 

 

 回避に専念して書く余裕の無かったこれもか。

 夜、死体を回収した帰り道の事だが。

 

 空から火砕流や隕石が落ちていた。ルーペを試しに当ててみたが、本体ではないからか反応はない。大抵は地面に触れた辺りで灰や岩、砂に変わっている。地面に使い捨てコインを投げた所反応があったので、こっちは地面全てが本体らしい。

 

 火山の本体は雲の上に居るのだろう。

 既に透明人間は全員戻ってきているし、店は地下側に拡げ天井を作ったので心配はない。

 地面の方はどうやら地表にさえ触れなければ良いようだ。つまり地中の店は安全だ。

 

 つまりこの異相牢は昼の岩風、夜の土火で分けられそうだ。全体的に物理に寄っている。

 雲の上にどんな遷遺者がいるかは気になるが、見ても大丈夫かという懸念もある。

 変化が無ければ放置でいいだろう。個人的には岩と土、風と火は同じ存在だと睨んでるが。

 

 

 寝る前に後の為に名称を整理して置こう。

 

 全体→とある学校の大異相牢

 北→体育館・凸凹星

 西→教室・九龍城

 中心部→グラウンド・荒野

 東→廊下と階段・ループ

 南→焼却炉や設備・地下道

 

 地下→屋上・見た目の変化なし。

 現実への帰還路と思ったが、時間が停止しているのが懸念点。確証を得る必要がある。

 屋上では彼とBクラスが一斉にスキルを使用し争っている真っ最中だった。1箇所でのスキルの過剰使用の負荷がこの異相牢を創り出した可能性が高まる状況である。

 

 一先ず客には秘匿する方針にした。唯一、私以外に知るのは土弄りを渡した女子。

 口止めはしているが、早急に囲い込むなり対策する必要があるだろう。

 

 なので、忘れないよう念を入れて名前を書いておく。

 

 赤地坂あさみ

 C「錬金機関(アルケミットオルガン)

 無機物に限り自由に変換出来るスキルホルダー。

 

 透明人間用にカウンターに置いてあった「人を殺した記憶を消す」サービスに強い関心を持ち、それからここで働きたいと申し出ている女の子で現在保留中。

 

 推定、彼の一家を皆殺しにした殺人犯。

 

 

 

 

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