四つの天上。
神に認められし武の極地。
1人、『剣王』リキエル。
1人、『獣王』アルマロン。
1人、『魔王』シルドアラン。
1人、『死王』クリムドラ。
長く続いた4天の世は、異邦者の到来により終わりを迎える。
【異邦者】…【プレイヤー】と名乗る彼らは殺しても死なず、人を超えた力を持ち、かつ、恐ろしいほどの思想と社会性を有していた。
これは、ただの暗殺者の一人と化した、"元"『死王』クリムドラの物語。
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静かにざわめく森の中で、ぼんやりと揺らぐ光があった。虫虫は光に集まり、燃えて消えていく。
炎の膜。
異邦者に許された【魔法】の一つ。
「この先にいるっぽいね。」
女が一人。
敵は豚鬼。
特に警戒することもなく、接敵するまでうろついているご様子だ。
───随分と、舐められたものだ。
無警戒のものほど殺しやすい。枝のざわめきに合わせ、刃先を突き出し首を狙う。
「───ッ!?ば、バカな!?」
が、槍は溶け落ちる。万全に思われた上空からの不意打ちが、無惨なる結果に終わる。まさかここまでの熱とは!しかし不自然なことに、周囲は涼しく高温の熱源があるとは思えない様子だ。
すなわち、理外の理。魔法である。
「お。出てきたね。お疲れ。」
女、振り返らず。
袖口より現し炎の蛇が這い、豚鬼の足元へ迫りやって───一息に飲み込んだ。
豚鬼も抵抗した。しかし無力。黒炭となって消え去った。
「さ、このまま一帯の豚鬼を処理しちゃおう。」
───女、名を【炎王】のソアレと言う。
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「お頼みします。我々豚鬼、この地を追われれば生きていくところは他にありません。沼地には毒蛇、平原には獅子、岩山には竜…【死王】様。どうか異邦者を止めてください。」
腰の曲がった豚鬼は礼節を尽くし、死王へ祈りを捧げた。
すると、声がする。
『良かろう。』
「……。」
『その代わり、豚鬼よ。事が成れば───貴様の心臓を頂く。』
「…お頼みします。」
『さらばだ。』
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「我を【死王】と呼ぶ者など、久しくいなくなった。」
クリムドラは外套を身につけ、影の中に消える。
「故に、万全を期す。」
場所は変わり、さざめきが響く森の中。【炎王】ソアレは切り株に腰掛ける。
黒く染まった灰が木々を染めていた。
「あらかた終わったかな〜。…お。」
視界の端に警告表示。『ガッツが消費されました』…なるほどね〜。
「やるじゃん、誰?」
静寂の中、何もないように立ち上がる。炎王の胸からだくだくと血が溢れ出し、血溜まりが土に染み込んだ。
(感知には反応なし。一瞬かな〜。レーダー見てれば気づけるかもだけど、狙いが気になるね。)
「ま、命狙ってくる人なんてたくさんいるからね〜。姿見せないのは…おっと。」
『ガッツが消費されました』の警告表示が再び視界に現れる。これまでに2回、感知できないうちに殺されたと言う事だ。首へ真一文字に刻まれた赤の跡が、死を証明している。
「やばいかな。」
(耐熱?とにかく、何やってるかわからないのが怖い。動き回るかな?そうしようか。)
炎の膜が広がる。広がるとともに、中心部の温度も高熱化する。そして【炎王】は炎を爆裂させその勢いで移動、辺りを焼失させる炎の竜巻と化した。
(広範囲の攻撃でもなんかダメだね。)
『ガッツが消費されました』
3回目の警告表示が目端に浮かぶ。移動中に殺された?患部を確認している時間は無い。炎耐性を持っているのか?
(まず、炎耐性を完璧に仕上げているパターン。だけど、それで認識もできない速さで攻撃されるのはほぼ勝てないから考えるだけ無駄。)
(炎耐性が無い場合だと飛ぶ斬撃や転移魔法で攻撃してる可能性。ただ私が見てきた中でここまでの速度の攻撃はない。)
(そもそも、知覚できない攻撃というのは物理攻撃なのか?呪いや魔法の可能性もある。ただ即死するのが腑に落ちない。相手はプレイヤーじゃないのか?)
『ガッツが消費されました』
『ガッツが消費されました』
(ダメ。手立てがない。ガッツの回復が間に合いそうにないからあと1回死んだらおしまい。)
「…手がかりなしというのも、寂しい話だ。」
立ち尽くす【炎王】。
じくじくと木々が黒煙となって消えていく。その最中に黒い霧がどこからともなく集まり、【死王】を成した。
「……あなた、誰?」
「我が名はクリムドラ。…元【死王】。」
鎌の刃で作られた向日葵の仮面。
夜の闇を写したような外套。
彼が…【死王】クリムドラ。
「へぇ。で、何の用?」
「豚鬼より、貴様を止めろと依頼があった。」
「…あいつらだって人里襲ってたじゃん。死王は人間の味方しなくていいんですかー?」
「生憎と、化け物の身内となってしまったのではな。異邦者───貴様達を封じる術は心得ている。」
「……。」
封魔の石。
異邦者の肉を閉じ込め、使用者の力とする宝。
通常死んでも復活する異邦者の身体だが、封魔の石に閉じ込められた場合、炎王はその身体を失う。
「取引できるって事でいい?」
「この地に踏み込まぬと、約束できるのであればな。」
クリムドラはソアレへ血の入った盃を投げ渡す。
「その血、飲み干せば魂を縛る呪いとなる。禁を破りし者は死ぬ。」
「……。」
ペナルティ:死の呪い×999[耐性無効化]
すなわち、立ち入れば死ぬだけ。永遠に体が失われるというわけではない。炎王は呪いの内容を確認すると、素早く血を飲み干した。
「じゃ、立ち去るから。あなたのことは言いふらしてもいい?」
「構わぬ。」
「それじゃあね。───もう会わないことを…祈るよ。」
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豚鬼の生息地、誰も人は寄りつかず、ただ生業の音と木々のざわめきが鳴るのみ。
死王が出る。
森に入ること勿れ。
もし禁を破れば、不可視の死が汝を襲うだろう。