エゴにまみれた危険な悪魔 作:名無しの位階1の虫ケラ六年生
目を汚すよ
「坊ちゃん。
起きてください。
もう7時です、夜ではございません朝の7時です。初日早々に遅刻なされますよ」
お付きのメイドの声がする。うるさいやつが俺を眠りから叩き起こす。いつも通りの朝だ。
カーテンが動く音がした。途端に暗闇から光で目が眩しくなる。
窓から日差しが差し込んでいるのだろう。微かな暖かさが頬を伝って感じた
「窓の外を見てください!空が紫色で今日は良い登校日和です。鳥も元気よく鳴いています、起きてないのは坊ちゃんだけですよ!っと」
メイドが元気よく布団をバッとはぐるので温もりが一瞬で消え、肌寒さを感じた。
仕方ないのでいつものように、渋々重い瞼を開いた。
眩しさで目がしばしばする。
多少の睡魔を感じながら欠伸を噛み殺し、目を擦る。
視界のピントがようやくあった。
目の前には、黒髪黒目の艶のある肌をした若いメイドがいる。
控えめに主張する頭から生えた2つの角が可愛いらしい。
メイドなので、メイと呼んで可愛がっている。本来の名前は知らないが、本人も気に入っているし、周りにもメイという愛称で通っているので、問題ないだろう。
いちいち使用人の名前を覚えたりはしない。
が、メイに限っては、丁度俺と同い年で親近感を覚えていたので愛称で呼びだしたし、今も呼びつづけている。
俺が自分の意思を持った頃には隣にいつもいたので、幼馴染と言っても過言ではない。もう見慣れた顔である。
そんなメイは僅かに頬を赤くしながらも、ピクピクと痙攣するように口角が上がっていた。布団を俺からはぐったその手は俺をみて、わなわなと震えている。
この反応も見慣れた。これはメイが怒りが沸いたときにする反応だ。
メイは俺の下半身を凝視した後に、悍ましいものから眼を逸らすように顔を横に背けた。
「……坊ちゃんの坊ちゃんは起きておられるようで。
朝からそんなお元気がお有りになるのでしたら、自分でお目覚めになれるでしょうに。
歳を考えてください。歳を」
「そりゃ、思春期真っ只中の青年だからな。朝の生理現象も仕方ないだろ。処理頼むぞ」
「…セクハラですよ」
いつものように俺の股に収まった頭をよしよしと撫でた。
「ありがとな」
処理が終わり、メイの頭から手を離す。
メイは口内に残る苦味からか顔を顰めながらも、ベットから下りて自分の身なりを整え直した。
見た限り汚れてはいないが、使用人なので身だしなみには一層気をつけなければならない。
俺はベットから上体を完全に起こして、ベットの端に座って床に足を下ろした。
「しゃがんで、口開けろ」
「…はい」
いつも通り自分の手のひらにひと口分の水球を発現させた。
「ッぅ、ん」
メイの口元に水球を近づけてやると、小さな口でそれを飲み込んだ。
メイはぐちゅぐちゅごっくんした。
「見せろ」
「ぁ」
メイの顎を掴んで口を開けさせる。少し顎を上に向かせて中をひと通り観察して綺麗になっているのを確認して手を離した。
ついでに頭も軽く撫でてやる
よしよし
「綺麗になったな。」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あなたが嫌いです。」
メイが俺を射殺さんまでの眼力で俺を睨みつけるので、頭をもう一度撫でる。先程とは違いわしゃわしゃと雑に撫でた
「軽口はここまでにして、準備してくれ」
「かしこまりました」
いつまでも寝巻きでいるのもよくないので、着替えることにした。
メイに支度の指示をすると、流石はメイド。先程までの嫌悪を切り替えて使用人としての顔に戻る。
メイは一度部屋を出て、数人の使用人を引き連れて戻ってきた。1人ひとり違うものを手に持っている。
まず最初に日によって香りが違う水で顔を洗う。
単体なら当てられるが、フレーバーなんてもう何の香りか見当もつかない。今日はこれにしようとか、誰が決めているのだろうか。使用人の誰かなのだろうことはわかる。
ふわっと心地よいタオルでさっぱりと水を拭きとり、やっと目が覚めた。という気持ちになった。
良い仕事をしているな。
近くにいた使用人に今日の香りが好きだと伝える。これをベースにさせよう。
次に鏡台に移動して、髪を櫛で溶かす。
男で長くもないし、特に癖毛でも無いので直ぐに終わる。こだわりもない。使用人にはあるのかもしれないが。
今日も今日とてばっちりと決まっている。
「こちら、指定の学生服になります」
青い上下の制服
白いワイシャツ
やや暗めの赤いネクタイ
革靴はよく磨かれ光沢がある
「インナーとリボン、靴は自由とのことでしたので、中は無難にワイシャツ、落ち着きのあるネクタイ、明るめの革靴をチョイスいたしました」
お気に召しましたか?というような視線を貰ったので、軽く頷いて答える。
特に制服を改造するつもりもない。金持ちの中には特注で制服を仕立てるものもいるが、まあ俺には縁のない話だ。
「お手を、失礼します」
メイが俺の寝巻きのボタンをひとつずつ外していき、肌着、ワイシャツと俺の手に通して、着せ替えていく。
「制服の前はしめなくていい」
「かしこまりました」
ネクタイをしめると、堅苦しいなと思った。せっかく選んでくれたのだろうが、早々にこのネクタイを付けるのをやめそうだなと思う。
最後に革靴に履き替えて、支度が完成した。
等身大が写る鏡を見て見た目を確認する。
「朝食のお時間です。旦那様と奥様がお待ちになられております」
「わかった。」
まあいいんじゃないか。と思った。
鏡には、高身長の美形が写っていた
父さんと母さんはもうテーブルの席に着いていたので、遅くなったと謝り自分も席に着く。
これが美味しいな。とか、普通の会話をして、控えるシェフを褒める。
また腕を上げたな。
相変わらず美味い
ここからが本題だと言わんばかりに、父さんが口を開いた。
シェフと俺に言うトーンが違いすぎる。
「…今日から、学校生活が始まるな。
よく励みなさい。自分の尻は自分で拭くように、決して父さんたちを頼るなよ。」
「期待してるわ。勉強も実技も頑張りなさいね。あと、学校初日に朝帰りは認めませんよ。はやく帰ってくること」
母さんもだった。
2人に釘をさされたので、わかったと軽く頷いて了承を伝える。
そう、朝からみんなが口にする。
学校というワード
俺は今日から悪魔学校バビルスで学校生活を送るのである。
キキキイイイイ
もの凄い勢いで進んでいた馬車が突然ブレーキをかけた。馬車内は当然かなり揺れた。
速度はいいが、乗り心地は最悪な運転だ
御者への指導をするべきだな。
あまりにもこれが続くようだったら減給してやろうか
「坊ちゃん。バビルスに着いたようです」
「ああ」
メイが当然のように同じ馬車に乗っていた。
ピンクのセーラー服に身を包み、いつもは見ない髪飾りをつけている。
それもそう、メイは俺と同い年。
同い年の使用人を雇用している理由などひとつしかない。一日中付き人とするためである。
成人の付き人でもいいが、生徒の方が一緒にいれる時間や場所が増えるためメイが俺専属になるのも仕方がなかった。
メイも今日から俺と同じくバビルスでの学校生活が始まる。
ちなみにメイは女悪魔なので、性別の違いで不都合が生じる可能性も考慮して、男悪魔の付き人もバビルスに入学する手筈だ。
男悪魔の方はメイよりも武闘派で俺の警護を担っている。今は馬車の外、御者の隣で待機させている。
馬車の扉が開き、暗い車内が明るくなる。
光の先には校門と、立派な校舎が見えた。そして大勢の悪魔で溢れ返っていた。
「賑やかだな」
「坊ちゃんお待たせいたしました!悪魔学校バビルスに到着いたしました」
お手を、と言い手を差し出してくるこの男悪魔が俺の警護役だ。こういったものを
まあ役職名などどうでもいい、コイツが使えるかどうかが重要である。
俺は差し出された手を取り、車体の高い馬車から降りた。
「ケイ。これからよろしく頼むぞ」
「坊ちゃん。まさかケイって俺のことですか?」
警護だからケイ。メイドだからメイ。
我ながら安直過ぎて面白みもないが、使用人の呼び方にそんなものを求めたところでどうしようもないだろう。
「嫌か?」
「いいや!嬉しいっす!!」
使用人が主人に逆らうことはできない。
ケイの様子を見るに満更でも無さそうなので、逆らう気など起きようにもないだろう。
それにしても、言葉使いが多少悪いな。
追々指導していくしかない。使用人教育係は何をしているのだろうか
いや、そもそもコイツは警護であって、給仕ではないからな。
強さしか教えられていないのならば、この口調も当然と言える。
が、最低限の主人への態度というものはわきまえているらしい。
及第点だな
改めてケイを観察する。
オレンジ色の短髪でそばかす顔の青年。面は整っているし、睫毛も長い。
青い制服がオレンジの髪を引き立たせ、無邪気で元気さを感じた。
なによりあどけない表情と馬鹿で無垢っぽいのが
イイな
「坊ちゃん。悪いこと考えてますね」
俺同様馬車から降り、後ろに控えていたメイが突然ジト目でそんなことを言ってきた。
「なんだ、顔に出てたか」
「それはそれはもう。坊ちゃんとは長い付き合いですからね。すぐにわかりますよ。ああ…同僚が坊ちゃんの毒牙にかかると思うと……」
「思うと、なんだ?お前が代わりに同僚の分も相手してくれるのか?」
「ッ、ご容赦を」
「ははは嫌われたな」
俺が笑うとメイがビクッと肩を跳ねさせた
「それはそうと、先程から視線を感じるのだが。なぜかわかるか?」
「…坊ちゃん、馬車と水馬が目立っているのかと。なにせこのように登校してくる生徒は少ないので。皆さま一般家庭のご身分ですので」
俺は豪奢な馬車と逞しい水馬をみて溜め息をつく
水馬はともかく、もう少し馬車の装飾を抑えるべきだな。
悪魔は派手なものが特に好きなため、なかなか慎ましいものなど存在しないが。特注で作らせればいいか。
受注したものに反して豪華なものを作ってくる阿保は金で黙らせればいい
いってらっしゃいませ、と言い御者が水馬に鞭を打ち走り去っていくのを眺めながら俺は溜め息を吐いた
「メイ、新しく控えめな装飾の馬車を購入することをメモにでも書いておけ」
「かしこまりました」
「あと水馬をどうにかしろ。違う馬だ。派手すぎる」
「……水馬を変えるとなると使い魔の契約者である御者も変えることになりますが。」
「運転が荒かったからな、丁度いいそうしろ。他にも雇っている御者はいるだろう。交代させろ」
「かしこまりました」
「えー!!あのおっちゃんともう登校中に喋れないんすか!!さびしー…」
「ケイ。うるさいぞもう少し音量を下げろ」
「あ、すいませんっす」
これからの学校生活の先行きが不安になる登校初日に頭が痛くなりつつあった。
「まあいい、とにかくこの視線たちから移動するぞ」
今第一優先なのは、この大勢の視線から逃れることだ。
「入学式の会場に行きましょう」
俺たち3人は入学式の場所に向かうべく歩き出した。
先頭が警護のケイ、真ん中に俺、斜め後ろに付き人のメイ
完璧な布陣だった
入学式は悪魔らしいカオスであった。
理事長挨拶が孫自慢で終わり、その孫が代表者挨拶で禁忌呪文を唱えた。
禁忌呪文を唱えることは、派手なことが好きな悪魔にとってはとても効果的なパフォーマンスと言えた。
いまや理事長の孫、特待生らしいが。注目の的、話題の中心になりつつ、いや今目の前で既になっていた。
「やれえええええ」
「ころせえええ」
「あてろおお、そこだ!!」
「ぎゃはははは」
入学式を終えて廊下を歩いていると、たくさんの生徒たちが群がっているのが見えたのでよってみると、なにやら首席と特待生が決闘をしているらしい。
それは見せ物になり、多くの集まった観客を沸かせている
「俗ものだな」
観客の中にはガヤだけではなくどちらが勝つか賭けているものもいる。
1人の男悪魔がメガホンを持ち手に持った紙をふり上げていた。
「首席と特待生の決闘だよ!!決闘だよ!!よってらっしゃいみてらっしゃい!!火を操る首席と避け続ける特待生!!賭け額も競り合ってるよ!!らっしゃいらっしゃい!!」
紙にはなにやら数字が書かれていたが、興味もないのでそれ以上凝視はしなかった。
「坊ちゃんと違って、彼らはお金が足りていないのです」
「先からお前は俺のことを馬鹿にしているだろう」
「いえ、お金を持っている方は価値観と余裕が違うなと」
「その口調が馬鹿にしていると言っている」
「そのつもりは全く持ってございませんが、申し訳ありません」
「お前は本当に調子がいいな」
俺とメイのやり取りを見て、ケイが目をキラキラさせていた。
「なんか、わかんないんすけどお二人って仲良いっすよね!!仲長いんっすか!?先輩!?」
「ああ、自己紹介をしていませんでしたね。改めて私はメイと言います。坊ちゃんの専属使用人を幼少期から勤めていますので、そういう面では貴方からすれば先輩にあたりますね。ええ」
「ご丁寧にありがとうございます!先輩!!俺坊ちゃんからケイって名前貰いました!!えっと……戦うことしかのうがない?って教官に取り柄だって言われてます!!警護なんで守るの得意っす!!よろしくっす!」
「ふふ、元気ですね」
「それも取り柄っす!!」
2人が楽しく自己紹介をしているのを横目に決闘を眺めていた。
首席(アスモデウスと言う名前らしい)が、炎の剣を持って特待生(イルマと言う名前らしい)に突進していくところであった。
素人ながらに言わせてもらえば、それは冷静さを欠いた愚かな行動といえた。
そして予想通りに、アスモデウスの突進攻撃はイルマに勢いを受け流されてしまった。
やはり、アスモデウスは頭に血がのぼり冷静さを欠いていたらしい、受け流された後もそのまま止まる気配がなく、後ろの観客に突っ込んでいきそうであった。
危ない!!なんて俺が助ける通りもなく。そのまま観客の1人でも大火傷でもするかなと思っていたが、それは訪れることはなかった。
「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
ギャラリーが沸いた
「お前たち自己紹介は終わったか?どうやら、決闘の決着が着いたらしい」
紛うことなきジャーマンスープレックス
イルマがアスモデウスの頭を地面に突き刺していた。
「?特待生が勝ったんですね。イルマと言いましたか」
「アスモデウスが勝つと思っていたような口ぶりだな」
「それは、当然ですよ。なにせアスモデウスの家系は13冠も排出している名家ですし」
「それを言ったら特待生のイルマだって、三傑サリバンの孫だろう」
「確かに言われて見ればそうですね…」
メイが特待生のイルマを侮るのも無理はない。
あの理事長の孫馬鹿具合からも、イルマ本人からも、強者の気配を感じない。
決闘を見てアスモデウスは、火遊びができる短気な弱者にみえた。
決闘を見てイルマは、回避の上手いお人好しに見えた。
最後のジャーマンスープレックス。これは観客に突っ込むアスモデウスを止めようとした流れで得た結果だと俺は思った。
回避に専念して一切アスモデウスに近づかなかったイルマが、攻撃の矛先が観客に行った途端に接近しアスモデウスの攻撃を止めようとした。
お人好しであらずなんと言うか。
イルマ……ひょろひょろして強さを感じないが、なにかを守る、誰かのために、そんなときに強さを発揮するのかもしれないと感じた決闘だった。それに回避力は目を見張るものがある。
面白そうだ
「ああ…坊ちゃんに気に入られるなんてお可哀想に」
できるだけ、悪魔なので、人という漢字を使わないようにしました。が、諦めました。
生理的に受け付けないという方はここで、戻ってください。