エゴにまみれた危険な悪魔 作:名無しの位階1の虫ケラ六年生
時系列は11巻、終末日です
自分で言うのもなんだが、俺はこんなでも貴族である。
そして、定期的に行われる貴族間の交流の場の一つに、
俺はどこでも気の多さを発揮するせいで、最近までは父さんから出禁にされていた場である。しかし、俺も良い歳であるためそろそろ出席しないといけなくなった。
結果は、概ね良好。
父さんと仲の良い貴族との顔合わせもできたし、その子息とも接点は作れた。
「坊ちゃん、どうでしょうか?」
「うむ、悪くない。良い出来だ」
現在は長期休暇期間で、自由にできる時間が大いにあるというわけで、アバドンが治める領内の施設に視察をしにきていた。
と、言ってもアバドン家が抱える悪魔の数は他の土地に比べると格段に少ない。
我が家、本家は城でありその城塞の中に幾つかの建物を完備している。表現するならば、城塞都市。
アバドンの城塞都市はとても広大とはいえ、スペースは限られててくる。
街を囲うように城塞が建てられているため、領民やアバドン家の部下が住む住宅というものが密集している。使えるスペースが限られているため、建物は自ずと縦長になり敵の侵入を防ぐために建物間の通路は狭く入り組んだ迷路のような小道が多く見受けられる。
この壁の中で、全てがまかり通るように設計されている。
居住区、市場、貯水地や農園までひと通りのものが揃っている。貯水地や農園というものは、戦争の長期戦、最終的には立て籠もることも考えられた昔の名残でもあるな。
そして当然、工場も存在する。
「新しく量産していたものは、各箇所に配置できているな?」
「は、滞りなく順調に配備しております」
「ふむ、魔界の資源の流れも不自然ではない。領内の鉱物資源も底をつくことは今のところない…か。ところで、新人の研修は上手くいっているか?」
「は、まだ不安要素もありますが、概ね使えるかと。能力的に優秀なものが多く、使えないものも育てあげてみせます。」
「わかった。特に優秀なやつを後で何名かピックアップして、本家に送れ。分家には…きちんと教育したやつを割り振れ」
「は!」
アバドンは代々続いてきた古い歴史ある家系である。
そのため、分家の数も多い。だからまず本家に1番近い血を持つ分家を4つ選び広大なアバドン領内に配置させた。そしてまた残った分家の中から本家に近したいものを6つ選び領内に配置する。残りの分家は血が薄いし数が多いためアバドンの領民と同じ扱いをした。
広大な土地の中心部に本家の城と城塞都市が配置され、4つの分家を土地の境界近くの東西南北に配置し、本家が構える城塞都市よりも一段小さいが、機能を兼ね備えたものと城を分け与えた。
残りの6つの分家に関しては、主に稼業の裏方としての機能を持たせ、城ではなく屋敷に住まわせた。本家の膝下に2つ。主な4つの分家に1つずつ配置した。
土地に戦力が分散された形になる。領地を守る点だけを見るならば良い策だとは思うが、分家にも都市を与えてしまったがために、その土地の運営権がある。同じアバドンでも、一枚岩ではなくなってしまっていた。
この形は、大昔から現在までずっと続いてきているため、始めた当初よりも本家と分家の溝は深まっている。
今のところ、致命的なことにまでは発展してはいないが…話が相容れない時がないことはない。
だが、魔界が位階制の弱肉強食の図をとっているために分家より強い本家の方が権力は強く、分家は本家を立てなければならないという空気があった。
「久しぶりに、そちらの方にも顔を出すとするか」
アバドン家を把握して手綱を握るのも次期当主候補としての責務だ。
菓子折りでも持っていくか…
「仕事、ご苦労」
「は!精進します」
男に労いの言葉をかけて、俺は施設を後にする。先程までいた場所のせいか、太陽が燦々と輝いて眩しく思う。
…挨拶回りにはおあつらえ向きな天気だな
それは、突然の部下からの報告であった。
思わず、今までの思考を止めて、書いていたペンも止める。
「なんだと……?本家の方がこられると?」
「は、本家の伝書鳩には「久しぶりにオッサンに会いたい」と書かれていました。」
自分をオッサンなどと呼ぶやつは1人しか心当たりがなかった。
本家のあのクソガキ
「……マルス様か」
「…」
「急ぎ、準備を整えろ」
「は、」
部下が部屋から下がったことを確認して、ため息を吐く。
目を通していた書類にもう一度手をつける気持ちにはなれないが、椅子から立ち上がって動く気分にもなれず、ただ椅子の背もたれに体重を預けた。
ぼーっと天井を見つめる。
「動かないといけないよなあ……」
部屋の開けていた窓からヒューっと風が入って頬に当たったので、自然と天井から窓の向こうに目がいった。
外はいい天気で、青空と街が広がっている。居住区の色とりどりの屋根が鮮やかに輝き、風もあるので洗濯日和なのか建物の間の小道には衣類だと思われるものがひらひらと動いていた。鳥のように思えるが、よく見ると子供のおもちゃだとわかるものが街の空を気持ちよく飛び回っている。そしてそれを追いかける複数の子供。
休日だからか、賑やかな声が聞こえる街は、俺の治める領地であり領民であった。子供の笑い声を風が運んでくる。
日差しのせいか、あたたかい気持ちになる。
この普通の幸せを脅かすことは絶対に避けなければならない。
アバドンの分家として、運営権を与えられたこの土地を
俺が導き、俺を支えてくれる領民を
俺の全てをかけて守り抜く。
北方を治める分家の長になったあの日、俺はそう誓ったのだ。
ふと遠くの空に、雨雲が見えた。
風の向き、方角的に、いずれこちらに来るだろう。
「ひと雨降りそうだな」
どんなに頑張ったところで、自然には逆らえない。
雨が降るなら濡れないように洗濯物は取り込むし、空飛ぶおもちゃは雨に打たれて地に落ちるように。
大いなる自然に抗うことはできない。
………
……
……
…
…
「久しぶりだなオッサン」
城の前に停車した本家の紋章が入った馬車の扉が開き、そこから出てきた美丈夫は俺を見てニヤリと笑った。
俺と歳が15歳くらい離れたこのクソガキは、相変わらずのクソガキっぷりで門の前に出迎えとして配置していた俺の部下を無視したかと思えば、馬車が空中を駆けるように高い城塞を飛び越えてそのまま街の上空を一直線に突き進んで俺のいる城までやってきた。
領民がびっくりしたのは言うまでもないだろう。幸い雨が降っていたので、外に出ていた者が少なく目撃者が少ないことが救いだな。
それに、本家の紋章は目立つため目撃したものもなんとなく理解するだろう。
「ようこそいらっしゃいました。マルス様」
俺はクソガキという言葉を飲み込んで頭を下げる。作った笑みも忘れない。
「突然のことで、盛大なおもてなしもできず……」
「これ、手土産」
「…ありがたく頂戴いたします」
「オッサン見ないうちにちょっと老けたか?」
菓子折り渡すからちょっとは成長したかと思えば、このクソガキィ…
「…会うのは久方ぶりですので、無理もないかと」
「……ま、いいんじゃないか?」
何がだよ。なにもよくねーよ
「ははは」
乾いた笑い声しか出なかった。
「相変わらず、オッサンはセンスないな」
部屋に向かうまでの廊下を歩きながら、クソガキがあたりを見回しながらそんなことを言った。
確かに、本家の城に比べれば、分家の城は豪華さが下がる。その中でも俺の城は特に1番装飾が少ないという意識がある。
本家のように飾ることに金をかけるのではなく、俺は領地や領民のために金を使う派だ。本家と違って分家は使える金にも限りもある。
それに俺の性格上、贅沢をしたいというような思いが湧かないし、派手なものや洗練されたものよりも無骨なものの方が好きだったというのもある。
俺が長に就いてからというもの、この城は装飾品がほぼ無いような状態になった。装飾はもともと城に付いていたものしかなく、美術品やら骨董品、花などを飾る気はない。今まであったものは全て倉庫に押し込んだ。
部下の一部がどうしてもと言い季節の花を飾るので、俺から見れば充分に華やかさはあるように感じていた。
が、このクソガキは本家様。このセンスがお分かりになられない。
「オッサンこんなたがらモテないんだぞ」
……クソガキ
「…それは、それは。マルス様はオモテになるとお聞きします、是非秘訣をお教えいただけますか?」
いいか?俺はモテないんじゃない。領地の運営で忙しくてそんなことをしている暇がないんだよ。
お前のように、遊べるご身分じゃねぇんだ
「?モテる秘訣なんてない。俺が俺であるからとしかな……」
こんの、!!クソガキャア!!
いちいち苛つく発言。顔が良いだけに様になっているのが特にムカつく。
くそ、持ち上げるんじゃなかった……。久しぶりに会ったから忘れていた。このクソガキはこれだからクソガキなんだ。
「ははは、それはお凄いですね」
俺は乾いた笑い声しか出なかった。
城の中でも特に立派な応接室にクソガキを案内して、ようやく話をする構えになった。本家の方が好んで飲まれるという高級茶葉を使って淹れた紅茶をメイドがクソガキと俺の前に出す。こんな時にしか、贅沢品には口をつけない。数少ない体験である。
クソガキが持ってきた手土産は、生菓子だったらしく、茶と一緒に食べることになった。見た目は今流行りのなんだっけな……ど忘れした。あまり若者の流行は知らないが、街で人気のスイーツだったはずだ。
物珍しいものに、どこから食べればいいのかわからずにいたので、クソガキの食べる様子を見て真似するようにそれに続いた。
それは、噛むと白いクリームが生地を突き破って飛び出してきた。
「甘っ」
「なんだ、甘いものは嫌だった……、か」
あまりの甘さについ声が出てしまった。…久しぶりに甘いものを食べて舌がびっくりしてしまったらしい
まあ、美味しいんじゃないか?
お前のいうオッサンからすると甘過ぎるように感じるが
唇に付いたクリームをぺろりと舐める。慣れないもんを食うものじゃないな。
「いえ、あまり口にしないので驚いてしまいました」
「…そうか」
口内の甘ったるさを流し喉の乾きを潤すために、紅茶を一口飲む。
メイドを下がらせた。
「それで、今回のご用件はなんでしょうか?」
「はっきり言って、お前本家をどう思う?」
「は?」
「好きか嫌いかで言えば」
俺がわざわざ真剣な話だと思って、メイドを下がらせたというのに…
聞かなくてもわかるようなことをこのクソガキはいいにきたのか?そうだとすれば、拍子抜けもいいとこだぞ
「好きか嫌いなどというものではない。分家は本家に従う、ただそれだけです。」
「そこに、感情はないと?」
確かに、感情が無いと言えば嘘になる。
しかし、俺個人の思いなどは本家の前ではなんの価値もない
「はい」
「…やっぱりオッサン、これからもモテないよ」
「は?」
「用も済んだことだし、帰る」
「は?」
クソガキゃアアああ!!!!
「メイ、これを見ろ」
「なんです…か、それ」
「みてわからないか?」
「くっ……!?」
俺は、分家の長の4人たちにそれぞれ菓子折りを持って挨拶しに行った。護衛は引き連れずに、北部東部西部と単独でラフな感じに行った。
しかし、南部だけは1人で行くわけにはいかない。
なぜなら、南には海がある!!
「いやーっ!!ナマコ!!」
「ほれ」
「近づけるな!!」
「坊ちゃん見てください!!海を割ったすよ!!……あ、」
大波が身体を襲った。
「酷い目にあいました……」
「せ、先輩すみません…」
「いえ、怒ってないですから。ね」
「それ、本当っすか……?」
「はい、もちろん」
「よかったっす!!」
俺たちは、南部を管理する分家の長に挨拶した後、紹介されたプライベートビーチに来ていた。
本当は、プライベートビーチでもなんでもなく普通の砂浜なのだが、人気がないのか全く悪魔が見当たらない。
アバドン領は、
本当に、何もない。一応鉱山とか、川とかあるにはあるが…唯一緑が残っている土地もあるし、うん。それだけだな。
南部はアバドン領の中でも貿易などが盛んで経済的に潤っている方だが、それでも悪魔の数は少なかった。
それをいいことに、俺たち3人は外聞を気にせず暴れていた(特にケイが)
「砂のお城!!」
「サーフィン!!」
「クラーケン!!」
ケイが無邪気に笑っているが、やっていることはかなり酷かった。絵面が。
巨大な砂のお城を作り出した時は可愛かった。完成した城はただの砂山で不器用にも程があるとメイが呆れだし造形に手を加え始めたこともまだ可愛かった。ケイはもう城には興味を無くしたのか、今度はサーフィンをすると言って魔術を発動して地面を蹴った。もちろん重複強化であったので、周囲の被害は酷かった。メイの持ち前の器用さで城の形をとり始めていた砂を吹き飛ばし、なんならメイも吹き飛ばし、海が割れた。
どうやらケイは海面を走りたかったらしい。確かに水の上を走れてはいたが、それはサーフィンではない。
そして消えたかと思えば、海に突然高いしぶきが上がりクラーケンが飛び出した。砂浜にどっせい!!と打ち上げられた巨大なタコ。
俺は遠い目をした。
メイは吹き飛ばされた衝撃で気絶していた。
もうやだこの子。
なぜかハイになっているケイを煙で強制的に眠らせ、魔術で身体を綺麗にしてやり服も普段着ているものに戻してやる。2人を両脇に抱えて観光地ではないのに、宿泊業を営んでいる今にも潰れそうな宿屋の部屋を取り、ベットに適当に放り投げる。
なんだか、物理的にも精神的にも1人で市場に繰り出すことにした。
「そこの兄ちゃん、南部名物のタコ食べてかないかい!!」
「魚が安いよ安いよ!!今日の晩御飯に奥さんどうだい!?」
「4匹ーいただけるかしらー?」
「毎度!!」
南部は特に活気に満ちている。
市場の数も多く、海産物の魚やタコといった食べ物はもちろんのこと、海でしか取れないものを加工して売る店も多い。
ここの港は船が停まる貿易港なので、船大工の看板がかかった店を何個も見かけだ。海と深く関わるこの街の市場は港近くに構えられていた。市場を過ぎて、もう少し海に近づくと造船所もあった。
「もう少し行ってみるか、確か山の上に灯台が……あれか」
視界の先に、山の上に立つ白い灯台が見える。
南部の長が「灯台から見る景色は素晴らしいですよ」と言っていたことを思い出し、ここまで来たのだからと行ってみることにした。
「私の日課の散歩コースです。傾斜面でいいんですよ」なんてことも言ってたな、なんて考えながら羽を広げた。山をわざわざ登るなんて変わったやつだよなあ…
飛んだら一直線だというのに
長は徒歩で30分くらいかかると言っていたが、飛んで1分もかからずに灯台に到着してしまった俺は、近くにベンチがあったので、とりあえず景色を楽しむことにした。
「もう、日が沈む時間か……」
日が水面に反射されてキラキラと光っている。空の色がグラデーションのように層になっており、白、黄、オレンジ、赤、ピンク、紫、青色とりどりの鮮やかな色であった。
空はここまで綺麗なのか
「海のある街はいつも空の色が違う。何度見ても飽きないんですよ、この景色が私は何よりも好きなんです」南部の長の言葉を思い出して、納得した。
確かに、これは見事なものだ。
「たまに早い時間でも星が見れるんです。」
星か……
真上を見上げる。目の先に、光輝くひとつの星が見えた。
静かだった山から、バサバサと一斉に鳥が飛び立つ。小動物の気配がやたらすると思っていたが、特に気にも止めていなかった。
「なんだ……?」
もう一度見上げた空に、星は見えなかった。
日が沈むまで景色を眺め続けた俺は少し肌寒さを感じて、宿に戻ることにした。ついでに市場を通るので何か買って帰ろうかとも考える。
一度通って把握した店で目をかけていた所で買い物を済ませて、両手に紙袋を抱えてようやく宿に帰ろうと思ったところであった。
ひと気のない路地が視界に入る。
一見なんの変哲もない通路、しかし引っかかることがある。
「こんな小道…あったか?」
俺は記憶力には自負がある方であった。市場に駆り出した時にこれを見た覚えがない。俺の記憶が正しければ、ここに道は無かったはずだ。
「行ってみるか」
通路を進んでいくと、一つの扉があった。
この道はここで行き止まりらしい、これ異常先に進むにはこの扉を開ける必要がある。扉には、プレートがかけられておりなにやら文字が書かれていた。しかしプレートは金属製で、この海がある土地上長年潮風に晒され続けたためかサビていて、なんと書かれているか読み取ることはできなかった。
俺は迷うことなく、ドアノブに手をかけて扉を開いた。
どうやらここは、店のようだった。
なにかの薬草やらが天井や壁にぶら下げられている。かと思えば、ガラスのショーケースがあり、中にキラキラと輝く宝石が入っていた。
なんだ、この店。
「いらっしゃい、お客さん」
この店の店員だろう。女が姿を現した。
俺はその不思議な店で宝石に装飾が施された髪飾りを買った。
アバドン領の南には海がある。海産物が取れるそこは、珍しいものがたくさん揃っている。
その一つが、
珊瑚とは海の底でできる赤い宝石である。あまり出回っていない貴重なもので、基本的には海がある土地でしか入手できない。
ただ綺麗なだけのものだが…メイなら喜んでくれるだろう。