エゴにまみれた危険な悪魔   作:名無しの位階1の虫ケラ六年生

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続き

文字量がが。今回セリフが多いので


第二十四話 強化訓練Part2

 

 

 

特別授業9日目

 

 

「今日も昨日に引き続き、北部のどこかに飛ばすので日の出までにここまで戻ってこい」

 

 

「メイは昨日の判断にミスがあったと聞いた。知識があってもそれを正しく使えるかはお前の頭の問題だ。どのような状況でも瞬時に正解を導きだせ。

ケイの機転で乗り切ったらしいが、些細な判断が命取りになることを忘れるな。

ただ、夜で凍える身体の体温を3人分魔術で操作し続けて身体のコンディションを維持させ続けたのは、夜を乗り切る上で重要な要素になった。加点だ。

 

ケイの昨日の行動は最初から最後までよくできているものだった。グリフォンを撃退したのは特に褒めるべき点だ。

夜という環境でありながらも護衛対象に危険を及ぼすことなく乗り切った。

文句無しだ。

 

それぞれ昨日の反省を生かして、今日もまた乗り越えてみせろ。

では、始め」

 

 

 

デンスの声と共に、3人の身体は浮遊感に襲われた。

どうやら上空に飛ばされてようだった

 

アバドン領はその日強い豪雨に襲われていた。

 

羽を広げて飛ぼうにも雨で上手く飛ぶ事ができない。そればかりか羽を出し面積が増えたことにより雨に打ちつけられ、身体は重くなるばかり。

 

落下する3人

 

 

そして身体に雨以上の冷たさが襲った。

 

 

上空から落ちた先は大きな川。

普段の川ならばすぐに抜け出すことが容易であったが、今日は豪雨である。

 

川の流れは強く、水の量は尋常ではない。川はどうやら上流に近いようで水の中に岩が混じっている。

3人は水の流れに揉みくちゃにされ、身体に凶器と化した岩が打ち付けられる。

 

土や砂利が混ざり合って茶色いくなった泥水が赤い色で一瞬染まったが、強い水の流れでまた茶色くなって、赤色は流れた。

 

 

 

 

 

 

特別授業10日目

 

 

 

「今日も引き続き転移させるので、日の出までに戻ってくるように」

 

 

「昨日…いや今日の朝か、ギリギリの帰還であったな。

豪雨の際の川、地面、魔獣……。

天候によって自然がどれだけ牙を剥くか、身を持って体感しただろう。一睡もせず披露も溜まっているだろう。腕も足もぱんぱんで、頭も限界に近いだろう。

 

メイは、雨と川で冷えきった身体を温かく保ち続けたのが加点。ケイは、川の流れを防御魔術の盾で堰き止め、3人がはぐれて遭難することを避けた行動が加点。

マルス様が重力魔術で、メイとケイを運んでくださったのが加点。メイとケイは護衛対象に逆に助けられてばかりいたので減点だ。

お前たち2人も羽が使えない状況でも飛べる手段を身につけることが課題だ。

 

川の流れを利用して、防御魔術の盾を船代わりにし川を下ろうとしたのは面白い考えだったが、少し無謀すぎだな。岩がゴロゴロと流れる水量で地形も凸凹としている、転覆するのは当たり前だ。

発想はいいが、実力が伴っていないので減点。

 

臨機応変に対応しろ、今日も昨日に引き続き土砂降りの雨だ。

昨日の反省を生かして、昨日よりも早く帰ってこい。同じ場所に転移させる、まさか…マルス様のお力を借りるなんて、しないだろうな?

 

では、始め」

 

 

 

デンスの言葉と共に二度目の浮遊感に3人はあった。

身体を雨が打ち付ける。

 

メイとケイは冷静だった。

昨日のように羽は出さない。

 

ケイが防御魔術を下に発動させた。足元に盾が出現する。

この魔術は空間に盾を固定させる魔術である。

 

ケイは盾を一時凌ぎの足場にした。そして着地すると頭上にも盾を出現させる。簡易的だが、雨宿りの場所と化していた。

 

 

「俺がお二人を抱えて、身体強化で飛びます。飛んだ先にまた盾で足場を作って、それを繰り返しするっす」

 

「私は昨日と引き続き、身体の温度を一定に保ち続けます」

 

 

「坊ちゃんは大丈夫だと思いますが、メイさんは一応酔わないように気をつけてくださいっす。身体強化に慣れていない人には視界がびっくりすると思うんで」

 

 

「……わかりました」

 

 

 

2人は確実に成長していた。

重力魔術を覚えていないながらも自分の持ち得る能力でカバーする。特別授業を行うまでの2人には無かった臨機応変さをものにしつつあった。

 

3人は昨日よりも早く、城塞都市に帰還した

 

 

 

 

特別授業11日目

 

 

「今日も引き続き転移させるので、日の出までに帰ってこい」

 

 

「前々回の反省を生かした前回の行動は目を見張るものであった。

マルス様のお力を借りることなく、帰還したことはもちろんのこと、メイは厳しい状況下で温度操作を途切らすことなく行使しきったことに加点。

ケイは、防御魔術の盾を上手く使ったことが加点だ。

 

メイはこのサバイバル授業で温度操作をずっと身体だけに使ってきた。欲を言えば、それを気温の操作として行い天候までを操れることができれば、自然の牙を自分のものとして扱えるかもしれない。これは、かなりの精密さと規模が関わってくる私からの無茶振りだが…やってみろ

 

ケイは再生をひと通りものにできた。次の段階に移る。

重複強化で身体壊しながら、身体を作り変えろ。大きな痛みを伴うだろう…だが、天候を操ることよりは簡単だ。必ずものにしろ

 

それはそうと、今回の訓練は毛色が違う

 

では、始め」

 

 

 

今日はアバドン領は、晴れていた。

3人は地面に立っていた。遮蔽物もない、見渡しても何もない平地。

 

 

「……なにも、ないですね」

 

「……」

 

 

魔獣もいない、生物の気配もしない。

 

不自然なほどに何も無かった。

 

 

ここがどこであるか、どの方向に迎えばいいか。メイは羽を広げて上空から景色を見渡さそうと考えて、空を見上げた。

 

暗い空に、黒い点が視えた

 

 

「…カラス?……」

 

 

メイは口から出した言葉を即座に否定した。違う、鳥ではないと

そんな生優しいものではなかった。

だんだんと大きくなる黒い点。

 

メイは自分の知識の中に該当するものを発見し、顔を青ざめさせた

 

 

「ッ…砲弾っす!!」

 

 

叫んだのはメイではなくケイであった。マルスと羽を広げて固まったメイとを慌てて両腕に抱えて、身体に重複強化をかける。

ケイは思いっきり地面を蹴って、防御魔術を発動した。

 

黒い塊は、砲弾であった。

先程まで3人がいた場所に落ちると思いきや、不自然に軌道を曲げた。

 

 

「な、っ…追尾弾!」

 

 

明らかに、3人をターゲットにしていた。

 

ケイは驚きを隠せないまま、自分を起点に盾で覆うように魔術を発動させる。ケイは一度訓練で砲撃を喰らったことがある。今回のような遮蔽物のない場所で、1日砲撃の嵐から逃げ惑った経験があった。

 

この状況に見覚えがあったため、対応も早くできた。しかし、追尾してくるなんてことは、始めてのことであった。

 

 

爆発が起きる

 

 

盾は一枚も壊れなかった

 

ケイは確実に成長していた

 

盾を解除すると、第二射が迫っていた。ここに留まっていてはキリがないと判断して、ケイは2人を抱えたまま尋常ではない速度で勢いよく駆け出した。

 

 

「……うっ、視界が」

 

 

「目を瞑っててくださいっす!吐かないでくださいよ!!」

 

 

「お、そらくこれは、アバドン領の防衛システム…煙を応用した革新的なもので、考えついたのは先先先先代の北部の長。名前はアバッ…で」

 

 

「舌噛むので、喋らないで下さいっす!!」

 

 

「いひゃ、い…」

 

 

 

「いいよな…俺もこの煙使ってみたいが、使えないんだよなぁ。羨ましい」

 

 

 

 

ケイは砲弾よりも速かった。それだけであった。

 

 

この砲弾のカラクリは、煙である。

()()()()()生物にしか煙は干渉できない。

 

2つ例外があった。

1つは初代の破壊の能力。2つ目がメイが言ったように北部の長、つまり分家が使った煙。

 

他家の血と家系能力の要素を受け継いだのか、分家の煙は変化した。なんと、煙がある空間と空間を繋げることができるようになったのだ。

分類としては操作の支配には変わりないが、生物以外を支配できるその能力は大変革新的で重要視された。

 

本家はこの能力を使えなかった、分家の一部のものしか使えないのである。

 

これをアバドンは防衛システムとして組み込んだ。

 

大前提として、アバドン領は不可視の煙で覆われている。城塞に備えられた大砲から砲弾を発射する。そしてそこの空間とターゲットの真上の空間を繋ぐ。標的に打ち込むというもの。

※ 追尾弾はこの頃アバドン家が開発したもので煙とは関係ない魔術

 

 

 

この煙はまあ、強いが。決定的なものではない。

 

 

マルス、メイ、ケイの3人は特に危険なこともなくあっさりと城塞都市に辿り着いた。

 

 

 

 

授業12日目

 

 

「今日も引き続き転移させるが、前回のは今まで1番簡単だったと思う。…そろそろ私の転移を抵抗できる方法が思いついただろう。」

 

「抵抗して見せろ。出ないと、日の出までに帰れないぞ?

転移地獄だ。

 

では、始め」

 

 

 

 

 

昨日に引き続き、目の前にはなにもない平地が広がっていた。

 

昨日と違うのは砲弾の嵐が無いということ。

 

 

本当になにも無かった。

 

 

「とりあえず、昨日のルートで帰りましょう」

 

 

 

城塞都市が見えるところまで3人は飛行して、スタート地点に強制転移させられた。

 

 

「ッなるほど……これは、確かに転移地獄ですね」

 

 

「振り出しに戻ったっす」

 

 

「あー……1日目に煙について習ったすよね。抵抗できない、干渉されない、魔力がある限り煙は生成できる、煙の持続期間は5ヶ月。

………どうすればいいんすかコレ」

 

 

「……煙は同じ場所に重複はできない。分家は本家の煙に上書きされる……反則かもしれませんが、坊ちゃんの手を借りれば転移から逃れることは簡単です。」

 

 

「ダメだな。他にも強制転移を防ぐ方法はある。お前たちでも、他のものでも魔術を使えるものなら誰でも防げる」

 

 

「……?」

 

 

「あー!!わかんないっす!!……なぞなぞっすか?」

 

 

「……馬鹿そんなわけないでしょう。」

 

「す、すいません。真面目に考えるっす」

 

 

 

「んーっと……干渉できるなら干渉される。干渉できないなら干渉されない。うーん?うーん……煙は風に流されない……うん、やっぱこれなぞなぞだ

 

「ッ、!!それですよ!!ケイ!でかした!!!」

 

「え、なぞなぞっすか!?」

 

「違う」

 

 

メイは答えを閃いたのであろう。

目を見開いて、口角を上げる。そして、魔術を発動した。

 

それは単純な風の魔法。

 

 

「干渉できるなら干渉される!!転移は空間に干渉している。ならばこちらもその空間に干渉できるはず」

 

 

「えっと……?」

 

 

「坊ちゃん!この煙は自然現象……例えば、風に流されますか?」

 

 

 

「……イエスだ」

 

 

 

メイとケイは風を自分の周りに発生させて、飛行し続けた。城塞都市に着くまでに一度も転移されることはなかった。

 

 

 

 

特別授業13日目

 

 

「お前たちは、アバドンの家系能力を理解できたようだな。強い力をそのままにするのではなく、考えろ。どういう仕組みか思考し続けろ。

それが、お前たちのためだ。アバドン家に仕えるお前たちのためだ。

 

 

今日は休みだ。ずっと寝ていないだろう。存分に休め」

 

 

 

 

 

 

特別授業14日目

 

 

『今日で丁度二週間となる。サバイバルにも慣れてきたであろう。

疑問に思っているだろう?いつもの転移ではなく、お前たちは私が指定した場所に馬車で移動した。

今日はスタート地点はバラバラ且つ個人戦だ。』

 

 

『今までと違いタイムリミットは日付の変わる0:00まで。日の出ではないから、注意しろ。

そして収穫祭のことも視野に入れ、1人10体魔獣を成果物を持ち帰ることを課題とする』

 

 

『お前たちは今まで連携して生還してきた。しかし、今回は誰も頼れるものはいない。

メイの温度操作は夜を生き残る上で必須であるし、ケイの抜き出た身体能力は獣の運搬には最適であろう、マルス様の存在は何があっても大丈夫だという心の支えになっていたはずだ。

それに頼らず、自分の力だけで生きて帰れ。そうでなければ、アバドンの社会では生き残るとは不可能!!

 

 

お前たちに数多くの魔獣が襲いかかるだろう……必ず生きて帰ってこい』

 

 

 

 

デンスは手に握る電話を切った。

 

 

デンスは、自分の執務室にいた。

椅子があるのは、窓から外がよく見える場所だ。

 

デンスの目には不可能の煙が()()()()()

 

北部は煙に覆われている。

忘れてはならない。

 

分家でも、操作を扱えることを。操作、それは生物を支配する能力である。

 

デンスは空間を認識させる煙を全て解除させた。そして休みと称して昨日のうちに部下たちに北部全体を生物を支配する煙で覆わせた。生物にしか干渉しない煙は、風では動かない。

 

分家の部下はみな分家である。

生物を支配することは精々1人が3〜5といったところであるし、操作も単純なものしかできない。

だから、数で勝負する。

 

 

北部にいる魔獣は()()()()()全て、一夜にして支配下に置かれた。

 

 

命令は単純明快。

マルス、メイ、ケイの3名を襲え

 

 

 

「こんなところで死んでいるようじゃ、アバドンでは生き残れない」

 

 

 

デンスは窓の外を見ながら、左手の薬指を撫でた

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

放課後

 

悪魔学校バビルスの問題児クラスが使う王の教室はいつもとは違う雰囲気に包まれていた

 

部屋は閉めきれられ、カーテンまでして照明すらついていなかった。暗い部屋には蝋燭のぼやけた光が何個かある程度だ

 

みんなで円になって地面に座る。蝋燭をそれぞれの手に持っていた

 

怪談をやる季節ではないように感じるが、雰囲気はバッチリ。誰も無粋なツッコミはしない

 

「なぜ床に座るんだ?これになんの意味がある」

 

「空気を、読め」

 

 

マルスは1人だけ椅子参加であった

 

 

 

リードがコホン、とみんなの注目を集める

 

「ぶっちゃけ、どうよ。

みんな気になってるんだろ?講師とあって二週間…他のみんながいかにおぞましい特訓をしているのか」

 

 

リードが言い出して始まったこの遊びだが、この二週間クラスメイトも互いがどんな講師とどんな特訓をしているか気になってはいたらしい

 

特に、いつもと様子が違う者は気になる対象である

 

 

「まずっ!そこのしっとり濡れてる2人!!」

 

 

「よくぞ聞いてくださった!!」

 

 

リードはまず指摘したのは、ガープ・ゴエモンとアガレス・ピケロであった。

 

2人の見た目は、何故か濡れている。それもこの二週間毎日のことであった

 

 

「思い返すのも、恐ろしい話なのでござるが…ウェパルお師匠は家系能力の強化をしようとおっしゃって…」

 

 

ガープは声を震わせながら思い出すように語りだした。この二週間の特訓を…

「あなたたちの家系能力は強いわ。でもそれは地上での話。家系能力が使えなくなる状況を知り克服する。これが私の考えた特訓…だから、水につけるの」

2人に当てられた講師であるウェパルは泣きながら特訓の説明をした。気が弱くすぐに泣くが、やることはやる。

2人を魔術で作った水の檻に閉じ込めて拷問に似た特訓を初めた

 

水の中なので身体は上手く動かせず、魔術なので脱出もできない。それに根本的な話、水の中では息ができない。

特訓内容はスパルタにも程があった

 

それが放課後の間だけであるとはいえ、毎日二週間続いていたのだ

 

 

「おかげでアガレス殿は修行以外は、ずっと眠り続けているのでござる!!」

 

 

ガープが悲痛な声で寝こけるアガレスを抱きしめる。

特訓の夢でも見ているのか、魘されたように声を上げるアガレス。しかし起きる様子はない、相当寝れていないのだろう

 

それを見てガープは涙を流す。講師のウェパルが泣くのは理解できないが、この2人は泣いていいとマルスは思った

 

 

全て話終わったガープが持つ蝋燭に、水が落ちる

 

一本目の蝋燭の火が消えた

 

 

「ガープ、ほら」

 

「ッアバドン殿ぉ!うぅ…嬉しいでござる!!」

 

泣いているガープにマルスはポケットから出した自分のハンカチをそっと手渡した。変なところで気がきくやつである

 

「こ、コイツ……やるな」

 

メイはマルスを見直したが、下心がないか訝しんだ

 

 

 

「僕も似たような感じ!!」

 

リードが同調するように声を上げた

ガープが終わって、次はリードの順らしい

 

 

「ロビン先生が好きな物持ってきてっていうから、持ってるゲーム持ってったらさ…」

 

 

リードは思い出していた。自分の師匠であるロビン先生の耳を疑う言葉を…

「じゃ!6日で全部クリアしちゃおう!」

リードの講師であるバビルス新任教師のロビンは無邪気な顔で言った。

リードは大のゲーム好きである。やりこんできたゲームはそれはもう多く、指が何本あっても足りない程の数だ。

それを、6日でやれと言われた。しかし、最初はゲームが好きだからと頑張ってはみた、寝ずに徹夜でゲームをした、だんだんとミスをすることが増えるようになった。集中力が続かなくなってきた

 

虚無になった

 

しかし、コントローラーを動かす手は止まらない

 

 

「脳がバグるわ!!」

 

学校でロビンと一緒にゲームをして、朝になって家に帰る。そして登校する

 

リードはもう二週間夜に寝ていない。

日中である授業中に寝ている。授業態度は最悪だ

 

 

 

「しかしそれが特訓だろ」

 

「限度!!毎日朝帰りとかムリだって!!」

 

呆れたというようなアスモデウスの言葉に、リードはお前らはやっていないからそんなことが言えるんだと反論する。

 

リードの心からの叫びで、手に持った蝋燭の火が揺れた

 

二本目の火が消えた

 

 

しかしリードの叫びは、アスモデウスとサブノックの心には響かなかったらしい、サブノックは疑問の声をあげた

 

 

「ムウ?我々はそもそも帰ってないぞ?」

 

 

「一撃当てるまで返してもらえんのだ」

 

 

アスモデウスとサブノックの講師はロビンと同じくバビルスの教師である。

ただ、ロビンと決定的に違うところはとても真面目だという点である。断じてノリで「できる!気合い!気合い!」なんて言わないのだ。

 

講師は、バラム教諭であった

 

 

「授業以外は修業場にいるぞ」

 

 

バラムはバリバリの武闘派であった。

アスモデウスとサブノックの2人は、一年の生徒の中ではかなりの武闘派であるという自負があった。そしてそれは事実であったのだが、バラムはそれ以上であった

夜通し、闘う。寝ずに拳を振るう。

 

今の所2人は、バラムに一度も攻撃を当てられていない。つまり、この二週間ずっと寝ていなかった。

 

 

「シンプルゆえに怖すぎる…」

 

リードは語られる特訓の内容と、2人の落ち着きように悲鳴をあげる

 

 

アスモデウスは手に持った蝋燭に息を吹きかけ、三本目の蝋燭の火が消えた

 

 

 

「あのっ帰れないっていえば……2人……」

 

ここまで黙って聞いていたイルマが手を上げた。イルマの視線の先には、円に不自然に空いたスペースだった

 

 

「あージャズ殿とアロケル殿がいないでござるな」

 

 

本来なら、いるはずのジャズとアロケルがいなかった。今日に限った話ではない、この二週間ずっと顔を見ていないのだ

 

これが今までで一番のホラーかもしれない

 

 

「えーとそれな…」

 

誰もが、知らないと首を振る中で、リードが自分知ってますと手を上げた。

 

手には携帯が握られている。そして、誰かとのトーク画面をみんなに見せた。

 

どうやらトーク相手はジャズのようであった。

最初のうちは[特訓どう?]というリードのメッセージに楽しそうな返信が返ってきているのがわかる。

だが、スクロールしていくとだんだんと単文になっていき、最後に来た返信は[やば、たすけ]

 

 

問題児クラスの一同は顔を見合わせた

 

リードは黙ってうんうんと頷き、画面をきった

 

自分たちはなにも見ていないのだと、無視することに決めたらしい

 

 

「よし、次行こう」

 

「可哀想だな…ジャズとアロケル。気が向いたらまた行くか?服似合ってたし、」

 

「坊ちゃん?何の話です?また何かしたんですか?え?え?」

 

 

この場にいない2人の代わりにメイのハリセンが風を起こし、四本目の蝋燭の火が消えた

 

 

「次は……そこのお二方」

 

 

ガープの声で、ある2人にみんなの視線が集まる。そう、みんなこの二週間ずっと気になっていた。

 

なんか挙動がおかしいイクス・エリザベッタとクララ・ウァラクの2人

 

2人はポーズをとっていた。

 

 

「釘づけの練習です!!」

 

ウァラクはキリッとした表情をきめて、言葉を放った

 

エリザもウァラクに負けじと腰のくびれを強調し手を頭の後ろに添えるようなポーズを取った。

 

2人は表情管理と体勢管理に努めながら、特訓の理由を説明するように講師のライム先生の言葉を思い出した…

「とにかく相手の目を支配するの」

講師のライムは、悪魔学校バビルスの教師である。それもかなりの有名教師で人気も高い。

ライムはサキュバス師団の顧問であり、誘惑授業という女子限定の科目を受け持つ、学校きってのエロい先生なのだ

「女は見られて、磨かれるのよ」

日々常在戦場であるとは、ライム談である

 

 

「というわけで美しいポーズしかとってはならない!!のです!!」

 

2人は決めポーズをとり、ふぅと蝋燭を吹き消し、五本目の蝋燭の火が消えた

 

 

 

「常に特訓とは恐ろしいな……で、そっちの女子はどうしたの?」

 

 

リードは女子ってすげえ…と畏怖の念を抱いた後、ずっと教室の角で三角座りをしてぶつぶつと喋っているクロケル・ケロリを見つめた。

 

リードの言葉にクロケルは答えない。それどころか、余計に顔を腕の中に埋めるばかりであった

 

「ここは、私がかわりに…」

 

カイム・カムイが手を上げる。カムイはクロケルと同じ講師であった

 

 

「召喚士として獣と心を通わせため、同じ環境にいるのが一番だと…」

 

カムイはそこまで言って、ブツブツ喋る声が止まったことに気づき教室の角、クロケルを見た。

クロケルは腕の中から顔を出していた。そして、先程までとは違い力が籠った声を出す

 

「獣と同じ檻に一昼夜」

 

クラス一同に衝撃が走る。後ろに稲妻が見えた

 

 

「汚くて…どろんこ……!!」

 

 

「まったくです!私は魔獣ではなくクロケル嬢と仲良くなりたいのに!!何故別の檻なのだ!!」

 

 

う、うとなにかを堪えるように頭を抑えるクロケルと、怒りが込もった様子で床をドン!と叩くカムイ。

 

「ブレないお前は…」

 

アスモデウスは相変わらずのカムイのダダ漏れの下心に呆れた顔をした。やれやれとマルスも首を振っている

 

「坊ちゃんもですよ」

 

「俺、あんなに露骨か?」

 

「セクハラ上等じゃないですか」

 

 

「なんか2人でコソコソ話してる!!羨ましい!!」

 

カムイのイケメンへの怒りによる床ドンで、近くに置かれていた蝋燭の火が揺れる

 

六本目の蝋燭の火が消えた

 

 

 

「イルマ様は一体どんな特訓を!?」

 

「滝行!?滝行!?」

 

次はイルマの順らしい

 

アスモデウスは先程までカムイへと向けていた呆れの目を怖いくらいにキラキラと輝かせてイルマの方を向いた。それにクララも乗っかる

 

 

「まずお湯をわかすんだ!」

 

イルマはゴクリと唾を飲んで、真剣な表情で言った

 

 

「………ん?」

 

困惑するクラスメイトたちを置いてけぼりにして、イルマは自分の特訓を思い出し始めた…

イルマの講師は、かの有名なバルバトス家。それもかなりの実力派のバルバトス・バチコである

バチコはかなり気性が難しい悪魔であった

 

イルマの特訓は朝から始まる

まず最初にバチコの朝ご飯とお茶を用意する、そしてバチコの気分で服屋さんでショッピングやスイーツの論評を交わしたりする。

バチコの布団を干して、服の洗濯をして、お風呂沸かして、夕食を用意して帰る。それはもう付きっきりで召使いのごとく働いていた

 

「まぁそんな感じで毎日特訓してるよ!!」

 

 

「「「それは特訓じゃない」」」

 

イルマの自信満々な表情に、いやいやおかしいだろうとみんなの声が揃った

 

 

「あれ!!?」

 

 

イルマは思っていた反応と違うことにびっくりしたようだ。凄い特訓だね!と言ってもらえると思っていたのか、ある意味それが凄いとも言える

 

「でもちょっとずつ師匠に認められてきてて…アレとかソレで師匠が何が欲しいかわかるようになったし」

 

イルマの補足は、どんどんとイルマの二週間を特訓ではないと決定付けるものになっていく。イルマ本人にはその自覚がないらしい

 

パシリにしてくる相手を師匠と呼ぶ精神はもはや異常に近い

 

 

「もはや下僕でごさる」

 

「イルマち…いじめられてる」

 

「大丈夫ですか!?カルエゴ卿に報告しましょうか!?」

 

 

「イルマは…使用人になる特訓をこの二週間していたのか?」

 

「私はイルマさんの疑わない精神が怖いです」

 

「凄いわかる」

 

 

イルマはまだ納得のいかないような様子で、手に持った蝋燭の火を吹き消す。

 

七本目の蝋燭の火が消えた

 

 

 

「えっと…じゃあ、最後はアバドンくんたち……パッとみいつもと変わらないけど…どう?」

 

 

リードが怖いものは一番最後に残しておきましたという様子で、恐る恐るとマルスの方を見た。椅子に座るマルスの斜め後ろにはいつものようにメイが控えている

 

クラスメイトたちはこの二週間気になっていた、授業が終わった途端消える3人のことを

デンスによる煙なのだが、それをクラスメイトたちは知る術はない。そして話すわけにもいかなかった

 

マルスは、好奇の視線を感じていた。しかし、煙生成という家系魔術について話すわけにもいかない。

少し考えて、マルスは多くを話さないことに決めた

 

 

「……追い込んで追い込んで、死に際で成長する。内容は至ってシンプルだ」

 

 

マルスの言葉に、ゴクリと唾を飲むような音が教室内に鳴った

 

皆が血みどろな特訓を思い浮かべたのだろう。そして、それは正しい。マルスたちの二週間の特訓はたくさんの血を流すものであったからだ。

クラスメイトたちとの特訓とは一線を画していた

 

クラスメイトたちを貶すつもりはないが、実力が違うのだ。もしこの3人以外の問題児クラスが同じ特訓をすれば、間違いなく誰かが死ぬ

 

メイの温度操作と、ケイの回復と盾、なにかあった時の命綱であるマルスがいるから成り立っている特訓であったのだ。

 

 

「…そ、そういえば……ケイくんいないけど、今日休み?」

 

リードはビビって話題を変えようとした

 

そう、昨日まで元気に登校していたケイが今日だけいないのである。

 

 

 

 

「ああ。ケイは、魔力不足と重症の怪我で意識不明だ」

 

 

フッとアバドンが手に持つ蝋燭に息を吹きかける

 

八本目の蝋燭の火が消えた。

 

 

 

 

部屋が一気に暗くなった

それに、慌てた様子でリードが叫びだした

 

「ひゃー!!ちょ、ちょっと!最後の蝋燭は消しちゃダメだって!!」

 

 

どことなく、リード以外の他のクラスメイトたちもソワソワとしている

その理由はマルスが蝋燭の火を吹き消したことにあった

 

 

リードの反応を楽しそうに、マルスは笑った

 

「ああ確か、最後の火は消さずにそのままにしておく…消せば煙から怪物が出てくる、だったか。この話はいろいろと面白い説があって、一番有力なのが円と悪魔の数を魔法陣の代わりにして、不完全な使い魔召喚を行っている。というのがあるが…」

 

「魔法陣も血も使わずに召喚するから、使い魔との契約が不完全になって躾も発動せずに、襲いかかってくるんですよね。確か」

 

「そうと言われているな。面白そうだし、やってみるか?」

 

 

知識のあるマルスとメイは楽しそうに怖い話をする。ここに座学一位である博識のアロケルがいればもっと具体的な話になって盛り上がること間違いなしなのが、惜しいところだ

 

 

「いやいや、もう!消してるから!?使い魔か、召喚かよくわからないけど!怪物現れるって!!」

 

 

リードは2人の話すことがイマイチわからなかったが、これだけは言えると大声で叫んだ。

アバドンはそれを心底不思議そうに見る

 

 

「リード、まだ蝋燭は一つ残っているだろう」

 

 

「え?でも全員言い終わったよね?」

 

 

「?……あぁそうか、だが、残っていることは事実だ」

 

 

マルスは何か自分の中で納得したのかうんと頷いてしかしと、一点を指差した。その先を見れば床に蝋燭が置いてあり、火が灯っているではないか

 

そう、真っ暗になっていない。まだ明るくお互いの場所も確認できるということは、灯りが無いはずがない。

 

なぜ、火の灯った蝋燭がマルスので最後だと思っていたのか

 

 

「……間違えて、蝋燭一つ多く火つけてたのか」

 

「あー良かった。助かった」

 

「思わぬファインプレーでござるな!」

 

「……」

 

 

 

皆は一斉に安心しきったように笑い出した。二週間それぞれ特訓は違えども、地獄のような日々、久しぶりの笑顔であった

 

 

プルルルルプルルルルプルルルル

 

 

すると、突然示し合わせたかのように携帯の着信音が鳴り始めた。

今は放課後、即ち特訓開始の合図である

 

「さーて、特訓頑張りますか!!」

 

携帯からはそれぞれの講師たちの声。ただ言葉は決まっていた

 

『集合』

 

「「「了解!!」」」

 

問題児クラスはそれに応えるだけである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊ちゃん?私たちも行きましょう」

 

「……そうか、他の奴らには見えてないのかアレ」

 

「なんです?」

 

 

教室の扉の近くで立ち止まっていたマルスにメイが声をかける

 

マルスはなにか考えていたのか、少し間を持って返事をした

 

「今、行く」

 

 

振り返らずに2人は教室を後にする

 

 

 

 

暗い教室に残るのは、一つの蝋燭に灯る火

 

 

鳴り続ける携帯電話の着信音

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばい焦った。アイツ僕のこと見えてる」

 





みなさん一度は聞いた事ある蝋燭の火を消す遊び「百物語」が元ネタです。最後の火を消せば怪異が出てくるアレです。
使い魔召喚のくだりは、魔入間との世界感に会うようにしたオリジナル設定になりますので注意


それはそうとメイの温度操作って、完全に温度をコントロールできるなら天候も操れるはずなので、できたら強いと思いませんか
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