エゴにまみれた危険な悪魔 作:名無しの位階1の虫ケラ六年生
今更ですが、オロバスの家系能力の表記ミスしてました。幻覚→幻燈に修正します。トラウマと読むのは変わらないですが…普通に勘違いしてました。
なぜたなぜだなぜたなぜだ!!!!!
オロバスは森林を一人で歩いていた。様子は明らかに落ち着きが無く、表情には焦りのようなものがハッキリと浮かんでいた。
そして足は苛立ちを露わにするように、土を強く踏みならすように歩く。
オロバスは下半身が馬の特徴を持つ悪魔だった。
多くの悪魔がいる魔界では特に珍しいというわけでは無いが、純粋な人型と獣型に比べると数は少ない。
馬の足は人型よりも強い。
オロバスの蹴る力によって簡単に地面が抉れ、綺麗な地面に足跡がくっきりとついた。
「……私には、なにが残っている?」
オロバスの頭の中を埋め尽くしているのは強い劣等感。
そして今、自分の家系魔術にすらも自信を無くそうとしていた
一位に固執して、妨害に努めた収穫祭。
頭でぐるぐると感情が渦巻く。自分は何を目指していたのか、何故努力していたのか。
オロバスは自分がどこに向かっているのか、わからなくなっていた。
ただ、足は意思を持ったように、歩みを止める気配はない。
オロバスはこの収穫祭で問題児クラスを標的にして動いていた。一日目は魔獣や植物を収穫して、地形を把握することに努めた。妨害は二日目から行われた。
最初に狙ったのは、マルスの護衛であるメイとケイ。
妨害はとても良い形でスタートしたと思った。オロバスの家系魔術にかかったメイド服を着たメイという女悪魔は相当なトラウマを抱えていたらしく、すぐにその場に膝を折って動けなくなったからだった。
涙を流し、目からは光が消えて。心を折ったと思った。
対象がトラウマを目にした時の反応は大体二パターンに落ち着く。
トラウマを排除しようと動く、トラウマを前に精神を壊す、の二つだ。
そして、メイは後者の方だった。それもオロバスが見てきた中でも重度のものだ。上手くいき過ぎて驚いてしまうほどに。
逆に問題だったのは、ケイという身体能力に長けた護衛の男悪魔だった。オロバスは手加減をせずに、メイと同様に魔術をかけたはずだった。だが、まるで動じる様子が無い。うんともすんとも反応せず、ただオロバスと倒れるメイを交互に見返しキョトン?とした顔で見ているだけだった。
ケイの反応に魔術をかけた側であるはずのオロバスが困惑してしまった。一瞬思考が止まって、立ち尽くしていた。その判断が良く無かった。
オロバスは幻燈という魔術をかけてトラウマを対象に見せるだけで、オロバス自体はそれを見ることはできない。
そのためメイがどんなトラウマを抱えているのかがわからなかった。
ただ、メイが呻くようにあげる言葉の端々を拾った結果わかったことがある。どうやらトラウマは人物だということ
そして、オロバスがその人物に見えているらしいこと
気づけば、オロバスは足を掴まれていた。
突然のことに振り解こうと思ったが、これで魔術が解けたらという考えがその行動を遮った。結果、数十分間オロバスはメイにしがみつかれて泣きじゃくられることになり服が汚れてしまった。
流石にそれにはオロバスも嫌になって、何回かメイの頭をどかそうと持ったりしたが、あまりにも酷い表情で泣いているものだから立ち尽くすしかなかった。
最終的になぜかあまりにも惨めな姿に頭を撫でてしまった。
明らかにメイが泣くような原因を作り出したのは術者であるオロバスなのだが、見ていられなくなったというのも事実。
数秒頭を撫でていたらだろうか、ケイという悪魔がいつのまにか隣に立っていることに気づいたのは。ずっと我関せずと立っていただけだったためケイをいない者として扱い完全にオロバスは油断していた。
ケイは覗き込むようにオロバスの瞳を見つめていた。
高身長のオロバスと低身長のケイ。自ずとケイがオロバスの顔を下から見上げる形となる
ぐるぐるとした黒い渦が瞬きをすることなく、こちらを見つめていた。
「これ、坊ちゃんのものです。」
ケイはニコリと笑って、泣き崩れているメイの方に指をさす。それはまるで、物を扱うような態度だった
一悪魔にするような仕草ではないことは確かだった
「だから、ダメっすよ?手、出したら。……処分しないといけないっす。坊ちゃんの所有物を狙うやつは排除するのがルールっすから」
軽い調子で言葉を続けるケイ。口角は上がって笑っているように見えるが、瞳の奥は一切笑っていない黒だ。
オロバスの背中に嫌な汗が落ちた
「今すぐ手を離せ、さもなくばこの場で首を落とす」
その言葉と同時に、オロバスの首に凄まじいプレッシャーが訪れる。そして視界に映り込んだのは鋭い刃物だった。
どこから取り出したのか、これは収穫祭のルール上直接攻撃になる行為じゃないのか、そんな疑問を言えるような空気ではなかった。
目の前に、すぐ死があった
ケイの黒い目は、確実に殺すという意思を孕んでいた。オロバスでも感じるほど、殺気を隠すつもりがなかった。
オロバスは迷わなかった
本能に従って、一目散に逃げた。
脇目も振らずに、ただ手と足を必死に動かし続けた。
どのくらい走ってあの場からどのくらい離れたかわからなくなった頃、ようやく恐怖が冷めて、息が上がっていることに気づいた身体は当然のように倒れた。
オロバスの耳がドクドクと心臓の音が鳴っていることに気づき、身体が安心するように胸を上下させた。身体中から噴き出る汗と、目から止まらない涙。
オロバス一度目の妨害は散々なものだった
だが、一度の負けでめげるオロバスではなかった。
彼はもう、何度も何度も負けてきたのだ。数時間後には立ち直り、一度目の妨害は相手が悪かったとオロバスは自分に言い聞かせて、次のターゲットに狙いを定めた。
アンドロ・M・ジャズ
それがターゲットの名前らしかった。
そして、呆気ないほどに簡単に妨害は終わった。先程の苦労はなんだったかと言うほどの労力で、だ。
ジャズは本当に簡単に術にかかった。そして、そのトラウマを排除しようとしたのか攻撃をしかけてきた。
オロバスに
幻覚でオロバスがトラウマの人物に見えていたジャズは足で思いっきりオロバスを蹴り付けてしまった。
そして、生徒への直接攻撃という反則行為で失格となった。
オロバスの二度目の妨害は怖いくらいに上手くいった
三日目もオロバスは妨害を行った。
そのターゲットは、イルマであった。
イルマを追って向かった先は地下だった。まさか、収穫祭のフィールドである森林の下に地下があるとは、驚いたがそれよりもターゲットが優先であった。
そしてターゲットは簡単に見つかり、幻燈をかけた。
それは最大出力で、たっぷり魔力を使ったものだった。その行動に、自分はイルマをそこまで憎んでいたのだなと自虐をして、嫌になる。
ジャズという生徒同様に、今回もあっさりと妨害は終わった。
魔術をかけた状況がとてもよかった。なにより環境がよかった。
丁度イルマを見つけたのは、足場の悪い岩場だった。足を踏み外せば暗い闇に包まれた底へと落ちる場所。
魔術にかかったイルマは、幻覚で見たものに動揺してか足を踏み外し、落ちた。奈落へと消えて、見えなくなった。
かなりの高さもあったため、生きていても重傷は免れないだろう。そして脱出するのにもここは地下で、容易には抜け出せない。そしてリタイアをすることもできず、教員は助けにこれない。
収穫祭が終わるまでの間、イルマはトラウマに呑まれたまま暗い地下で彷徨うことだろう。
オロバスは目的を達したはずが、なぜか心には重いものがのしかかってとれることはなかった。
三度目の妨害は後味が悪かった
次のターゲットはどうしようかとオロバスが悩んでいた時、ある放送が流れた。シャックス・リードが伝説のリーフの入手に必要な鉢植えを持っていること、そしてそれが2万ポイントもする収穫物であるということに。
オロバスは次のターゲットを定めた。
そして今度も簡単に妨害は終わった。
一人でいたリードを見つけ、幻燈をかけた。何を見たのかは知らないが、ショックを受けたように気絶して倒れ伏すリードの手から鉢植えを奪いそれを報告筒に提出した。
これで、オロバスは若王に近づいたと思った。
中間発表のアナウンスでは、同率一位のマルス、メイ、ケイとのポイント差が隔絶していることに焦りを覚えたが、この調子ならば一位を獲れるかもしれないと息巻いた。
四度目の妨害では、もう心の奥でモヤモヤとしていたものが無くなっていた。
オロバスは妨害に対しての抵抗が無くなっていた。
そして次の妨害にオロバスは動き出す
次のターゲットは、ウァラク・クララという女悪魔になった。
森林を一人歩いているところを、見つけたのだ。
迷いなく、魔術をかけた。
オロバスの家系能力
木々のざわめきも小石一つさえもが、心を蝕む幻覚となり、強いショックを与えたり強い意志で拒まなければ延々と苦しみを味わう恐ろしい精神系の魔術である。
防げるはずもなく、クララは地に伏した。
幻覚を解除するには、二日目に幻燈をかけられたジャズのように打撃、強いショックを与えなければならない。
そのトラウマに攻撃が与えられるかどうかだが、
トラウマが嫌いなものであったら、害を与えるなんて屁でも無いだろう。例えばGがトラウマになるくらい嫌いだったとして、足に飛んできたら振り落として潰すなりスプレーをするなり排除するはずだ。
では、トラウマが好きなものであったら?
好きだからこそのトラウマになり得るもの。例えば、家族。大好きな家族が死んでしまった。もう二度と帰ってこない。
それがトラウマとして目の前に現れたら、それを攻撃できるだろうか。普通の価値観ではそれは難しいだろう。
そして、クララは後者だったらしい。
その場に蹲るようにして、動かない。なにか嫌なことでも言われているのだろうか、耳を塞いで目を赤くして、泣いている。
オロバスはそれを見て、なんの感慨も抱かなかった。
ただ淡々と妨害が終わったことを確認し、踵を向けようとして…それはある生徒の登場で中断された
「クララ!大丈夫!!」
「ぅ、…ぁぁ、嫌だいや、イルマちはそんなこと言わない…いや、ぃ、や」
「クララ!クララ!!僕はここだ!」
トラウマに囚われたクララの元にイルマが駆け寄っていた。イルマがクララを抱きしめるがクララにかかった術は解ける気配はない
「無理だ。そんなことをしても術は解けない。諦めるんだな」
オロバスは冷たく二人を、いやイルマを見下ろす。
「ッ、オロバスくん!なんでこんな酷いこと……」
酷い
イルマが零したその短い言葉が、オロバスの感情を揺さぶった。
「酷い…だと?私は、ただ勝利のために行動しているに過ぎない!!あぁ…また、またなのか…私を否定するのか?私の邪魔ばかりするのか…!!」
明らかな怒りだった。劣等感や、妬み、憎しみ…
今までオロバスが感じて自分の内に溜め込んできたマイナスな思考が、そのイルマの一言で怒りに変わった
「るせ…」
「ッ……」
「許せん!!」
「若王になるのはッ!この、私なのだ…!!問題児クラスなどではない!障害は全て消すッ……そうだ、一度や二度と幻燈を破ったからなんだッ…収穫祭の間といわず…永遠に…ッ二人まとめて再起不能になるまでッ!!
オロバスが手を振りかざす。そこには黒い魔力が集まっていた。
魔術というのは、術者の使い方次第では恐ろしいものに変化するとは言うが、その中でもオロバスの魔術は悪魔を傷つけやすい力を持つものだった。
オロバスがそのまま手を振り下ろせば、イルマとクララの二人は本当に永遠にトラウマに囚われ続けられるのだろう
それは誰かがその場に介入しなければ、の話だ
「あ、アバドンくんッ…!!」
イルマが驚くように叫んだ。
二人とオロバスの間に割って入るように現れたのはマルスであった。
「アバドンくんッ!!オロバスくんは嫌な幻覚を見せてくるッ気をつけて!!」
イルマが慌てたようにマルスに叫ぶ。だがその言葉は、少し遅かった。もう少しはやく言っていれば間に合ったかもしれない。
オロバスの
「は、ははは」
やった。遂に、マルスに勝ったのだと。勝利したのだと。
乾いた笑い声がオロバスの口から出てくる。
その声は、震えていた
なんで、震えている?勝ったはずなのに、身体が恐怖している。
なんだこれは、
なにがおきて、
なんだそれは?
オロバスは困惑を隠せないでいた。
目の前にマルスから、異常な魔力の膨大を確認する。
コレは、なんだ。
目の前の生存本能を刺激してくる塊はなんだ
「…この、感覚…なかなか、懐かしいなぁ…トラウマか、…俺がこの世で一番恐れていること……くく、なんだと思う?それはなぁ」
アバドン・マルス
「俺自身だよ」
それは笑って、オロバスを見つめていた。
その目は血のように赤く、そして美しい。
それがオロバスの目には、悪魔の形を保っているようには見えなかった。息を呑むほどの美しい死がそこにある
オロバスにはトラウマができた
なにをしとんねん