一夏「光…………」ウウーン
一夏「あ、手の温もり――――――あ」
千冬「………………」
一夏「千冬姉……」
爺様「目が覚めたようだな……」
一夏「じ……会長!」
爺様「お前はよくやってくれた」
一夏「え、どういうこと!?」
一夏「俺は爆弾の切除には成功したけど、予想以上に爆弾の威力が大きくて吹っ飛ばされて、それから…………」
一夏「そうだ、――――――核弾頭は?!」
爺様「結論から言おう」
――――――
一夏「――――――は?」
一夏「何を言っているんですか! 『白式』のモニターを追尾していたんでしょう?」
一夏「それとも、あれは虚仮威しだったって言うんですか?」
爺様「たしかに、壊滅的な被害を目論むなら、あの程度の新型爆弾では力不足だった」
爺様「先日 フランスで核弾頭が紛失していたという報告も合わせると、あれが強奪された核弾頭であることは状況から見て明らかだ」
爺様「屋上は完全に跡形もなく消し飛んだが、――――――しかし、プルトニウムなどの放射性物質は 一切 検出されなかったのだ」
一夏「は?」
爺様「お前は新型爆弾を切除した瞬間に核弾頭から完全に目を離したが、」
――――――
一夏「――――――
爺様「お前は引き剥がした爆弾を空中で掴み、視点はそのまま空の彼方を向いていた」
爺様「その一瞬の間に何か変わったことが起きなかったか?」
一夏「わからないよ、そんなの。雨だって降っていたし、非常用の誘導灯だって点いていなかったんだから――――――」
一夏「切除する時に少し核弾頭の表面も削りとっていったかもしれないけど、放射性物質が漏れたってわけじゃないんでしょう?」
爺様「ふぅむ。消えた核弾頭は早急に足取りを追わないといけない案件だ」
爺様「後日、状況を再現したセットで流れを再現しろ。これは早急に対応しなければならない問題だ」
一夏「ああ、問題だ」
爺様「だが、それまではぁ、ゆっくりと養生するといい。お前はぁよくやってくれた」
爺様「儂はお前のことを誇りに思うぞ」
一夏「…………そう」
爺様「ではな。また元気な姿を見せてくれ」バタン
一夏「………………
一夏「どういうことだ? あの場に他に誰か居たのか? あの一瞬で安全な場所まで持ち出したってのか?」
一夏「でも、そうだとすれば また問題がややこしくなっていく……」
一夏「考えても苦しいだけだけど考えずにはいられない…………」
千冬「…………一夏」スゥスゥ
一夏「でも今は、爺様の言う通り、少し休もうか…………」
一夏「千冬姉…………きれいな横顔…………」ドキドキ
――――――大好きだ、千冬姉。
一夏「やっぱり、千冬姉と一緒が…………へへへ」ニヤニヤ
一夏「さて、模型でしかないけど、これが本社ビルの屋上風景か」
千冬「普通に考えるなら、弟が無力化した核弾頭を強奪しようとした第三者の犯行となるだろうが…………」
SP1「身を隠せるほどの場所はほとんどない……」
SP2「それかまたは、ISを使って運び出したとも考えられるけど、そんな気配はなかったしな…………」
爺様「ともかく、出来る限り 流れを再現してみせろ」
一夏「わかりました。――――――来い、『白式』!」
SP2「そういえば、『白式』の損傷が軽くてよかったな」ヒソヒソ
SP1「そうだな。
SP1「世界広しといえども、おそらく若様にふさわしい機体はあれ以外に存在しないだろうよ」ヒソヒソ
SP2「まったくだ。もう『白式』は若様の身体の一部だからな。無事でよかったよ」ヒソヒソ
爺様「何かな?」ジロッ
SP2「何でもございません!」ビシッ
SP1「失礼いたしました」コホン
千冬「やはり、モニターの記録と大して差がないか…………」
主任「そうですね」ウーム
爺様「何か重要な要素を見落としているのかもぉしれん」
SP1「逆転の発想だな」
SP2「こういう時の基本って、今の関心を別のものに向けることから始めるんじゃなかったっけ?」
千冬「…………そういえば、どうやってテロリストたちはこの核弾頭を運び出して来たんだ?」
爺様「おお?」
主任「たしかに…………少なからずテロリストは若様の神の一手で全員逮捕あるいは射殺されたはず」
SP1「聞いた限りだと、屋上に仕掛ける爆弾が核弾頭ということを知っていたのは全くいなかったらしい」
SP2「……ってことは何? テロリストたちは囮で、空中から核弾頭をさっさと仕掛けてトンズラした主犯がいるってわけ?」
爺様「だが、それでは――――――いや、言うまい」
主任「空中から高速でかつ手間を掛けずに侵入することができるとしたら、――――――ISと量子化武装」
主任「――――――まさか!?」
千冬「あの核弾頭は量子化できるIS対応装備だったというわけか…………核兵器の量子化も行われていたか」
SP1「つまり、『白式』が消えた核弾頭の答え?」
SP2「待ってくださいよ! 『白式』には
主任「むむむ、いい線だと思ったんだがな…………」
爺様「――――――技術的に可能だと思うか?」
主任「え?」
爺様「つまり、ISの量子化を応用して“枝豆”のように『ある武器を器にして中に別の武器を容れる』ことはできるかと訊いている」
千冬「もしそれが実現されているのなら、『白式』は――――――」
爺様「一夏を呼べぃ!」
SP1「ハッ!」
SP2「え、もし会長の考えた通りにそれが実現していたら、第3世代兵器がゴミにならね?」
爺様「………………」
千冬「長らく放置されてきた欠陥機――――――まさか、本当に束が手を加えていたというのか…………」
一夏「消えた核弾頭の謎の答えが、俺の『白式』にあるだって……?」
爺様「厳密に言えば、雪片弐型の方なのだがな」
一夏「確かに、
主任「それはあくまでも推論だ。ともかく、あの核弾頭が量子化兵装と仮定した場合、辻褄が合うんだよ」
千冬「試しに、雪片からあの核弾頭を取り出すようにイメージしてみろ」
一夏「こう、ですか?(…………核弾頭を取り込んだというのか? 釈然としないけれど――――――)」
一夏「………………!(位置はあの辺にして、核弾頭が本当に入っているのなら――――――)」
一夏「――――――出ろ!」ブン
ポン!
一同「――――――!?」
一夏「は? あっちにあった模型じゃないよね?」アゼーン
爺様「全員、その場を動くな!」
一同「――――――!」
爺様「主任、確認してくれ」
主任「わかりました……」オソルオソル
主任「…………間違いありません。爆弾を切り取った痕から見ても、これは
一夏「…………ちょっと待って。それじゃ、俺だけじゃなくて『白式』も特別だったっていうのか?」
千冬「………………」
SP2「どうします? これ、明らかにオーパーツですよね?」
SP1「もしかしたら、雪片弐型を基本形にして量子変換による変形とかするかもしれないぞ?」
一夏「え、何それ……」
爺様「試してみろ」
千冬「では、私の使っている機体の太刀はどうだ。アンロックした」
一夏「えっと、雪片弐型を近づけて…………(取り込め、取り込め、取り込め……)」
一夏「あ」
爺様「ほう……」
一夏「…………できちゃった。あ、雪片弐型が本当に変形した」
千冬「なるほど…………」
主任「会長、これは――――――」
爺様「一切の口外を禁止する!」
一同「――――――了解!」
――――――俺が一人で抱えていくにはあまりにも多すぎる衝撃の事実の連続であった。
それから程なくして財閥本社襲撃事件は公表されることになり、全国紙どころか世界中で大々的に報道されるほどのビッグニュースとなった。
取り調べの結果、テロリストの多くがフランス人であり、
他にも日本やアメリカ、ドイツなどの先進国の人間も見られたが、いずれも貧困層の出身であることがわかった。
そして、この襲撃事件は直接の因果関係は明らかでないが、俺は本能的に自分がしてきたことへの報復だと感じ取っていた。
俺はこの機にスポンサーの見舞いを口実に公欠して長らくIS学園から離れていたが、臨海学校前には復帰することになった。
しかし――――――、である。
――――――死体安置所
一夏「貧乏人と金持ちの関係は、歴史を見れば分かる通り、ほとんど相容れない関係だ」
一夏「その証拠に、ただの一般人だった俺はセレブ入りして強烈な洗礼を受けることになった。――――――本当にほとんど別世界だった」
一夏「地獄の沙汰もカネ次第とは言うけど、どうしてテロを実行する勇気と結束力を別のことに使えなかったんだ…………」
一夏「大人になれずに逝く人類が存在する一方で、たった一発の銃火で積み上げてきた全てを失う人類もいる――――――」
一夏「自ら愚かな選択をする自由だってあるさ!
一夏「なら、どうすればいい!? 俺はお前たちを死なせたくはなかった! 罪を償ってやり直して欲しかった……!」
一夏「死んだら何もかも無駄になるじゃないか! せっかく大人になれたっていうのに…………」グスン
一夏「財閥のために頑張ろうとすればその一方で、独善的だと後ろ指を指されるし、何が大切なんだ!?」
一夏「身近な誰かのために尽くすことを第一にしちゃダメなのか!?」
一夏「それとも、――――――数字か!? より多くを救えればそれでいいのか!?」
一夏「わからない、わからない、わからない…………!」
SP2「やっぱり! また、こんなにところに閉じこもって、若様……!」
一夏「なっ、放せ! 俺はどうすればこの人たちに償えばいいのかわからないんだ!」
SP1「――――――!」バチン
一夏「あ…………」
SP2「………………話を聴かせるにはそうするしかないけどさ」
SP1「ご無礼をお許しください。しかし、――――――あなたは財閥総帥後継者なのです」
SP1「悼むのは結構ですが、いつまでもそれを理由にしてあなたの責務を放棄しないでください」
SP2「………………平和の国で生まれた“ただの15歳”にキツイことを言うなよな」
一夏「…………あ」
SP1「鏡を見てください! ここに通い詰めてから若様の表情は苦悶に満ちています……! ――――――会長や千冬様が心を痛めるほどに!」
SP2「……この際 便乗させてもらうけど、――――――悄気た顔をしているやつを見ていると酒が不味くなるとか言うだろう?」
SP2「残酷かもしれないけど、若様は哀しんで悲しませることが仕事じゃないんだ。むしろ、組織全体の士気を維持するためにこういう時は気丈に振る舞うぐらいのことをしないと」
SP2「つまり、上に立つ者は顔役なんだからさ、表情は常に明るく――――――わかるよな?」
一夏「…………そんなにも俺は?」
SP1「はい。変わりました。もう、ここには来ないでください」
SP1「あなたにはあなたの戦いがある。それはあなたにしかできないことなのだから――――――」
SP1「本当に申し訳ありませんでした…………あなた様の無垢な手を煩わせたことを深くお詫び申し上げます」プルプル
SP2「本当にな…………だから、汚れ役っていうのは必要なのさ」
SP2「俺たちは最初から汚れていたからな。でも、満足してる」
SP2「“ただの少年兵”が、会長や若様のような御人の側――――人として誇れる大業を成す側においてもらっているのだから」
SP2「だから、……何というか無礼かも知れないけれど、――――――夢を見させてくれ。俺たちに共有させてくれ、若様」
SP2「そんな訳で、いい笑顔を見せてくれよ…………痛々しくてこっちまで哀しい気分になってくるよ」
一夏「…………」
一夏「えと」ニコー
一夏「ごめん。何か、やり方が……」
SP1「練習が必要ですね」
SP2「ちょうどいいじゃないですか! 初心に帰るってやつで」
一夏「本当にありがとう。爺様は本当に果報者だ…………」
すっかり俺は変わってしまった…………
この梅雨の時季はジメジメとして鬱蒼とした気分にさせられるが、まさにその通りであった。
俺は血の雨で大地を踏み固めた結果、これまで苦痛でしかなかった世間の喧騒やセレブのお付き合いというのが途端に何とも思わなくなったのだ。
これは嬉しい変化なのだろうが、俺の表情はどこか苦渋と疲労を感じさせるものとなっていた。
要するに、老けたのである。虚無感に包まれた表情には以前にみんなに振り撒いていた若さが失われていた。
落ち着いた感じではあるが、梅雨のジメジメとした感じのように気持ちのよいものではなくない。
カリスマ性溢れる青二才から老獪という言葉が似合うような老策士のような印象に変わっていたのだ。
だが、それでもその鈍った眼差しの奥にある情熱は冷めることはない!
――――――俺は関わる人全てを守る!