――――――臨海学校 二日目:7月7日 早朝
一夏「いやはや、昨夜は疲れたな…………5人分 全力でマッサージしたのが失敗だった」
一夏「いくら無限の力を秘めた拳だからと言っても、ぶっ続けでやるのは限界がある……」
一夏「それに、この空模様…………」
一夏「雲行きが怪しい。予報通り台風がずいぶん近づいてきたな」ピピピ
一夏「――――――爺様?」ガチャ
――――――
爺様「聞こえるか、孫ぉ?」
――――――
一夏「こんな時に会長直々にお呼び出しですか?」
――――――
爺様「――――――重大な問題が起こった」
――――――
一夏「…………何です?」
――――――
爺様「ハワイ沖で運用試験中のアメリカの戦略級ISが暴走したという情報が入ってきた」
――――――
一夏「…………戦略級が? でも、アメリカ軍ならそういった有事に備えて対処できるでしょう? そこまで馬鹿じゃない」
――――――
爺様「普通ならそうだ。しかし、その装備には戦略級核弾頭ミサイルが搭載されている」
――――――
一夏「――――――な、なにぃ!?」ガタッ
――――――
爺様「しかもぉ! 核弾頭の中身は水爆だそうだ」
――――――
一夏「――――――水爆っ!?」ゾクッ
――――――
爺様「その戦略級ISは超音速飛行で太平洋を極東方面に横断しているという」
爺様「可能性として、この日本に領空侵犯してくる可能性がある」
――――――
一夏「しかし、今日は台風が吹き荒れて それどころじゃありませんよ!」
――――――
爺様「最終的にどこへ向かっているのかは検討がつかないが、儂の財閥に所属する部隊を派遣した」
爺様「まさか、お前の予想通りに7月7日に有事が起きるとはな…………」
――――――
一夏「………………」
――――――
爺様「お前はこれから指定する座標で部隊と合流して、その戦略級ISの無力化を行って欲しい」
爺様「よいか、無理でもやってもらわねばならないことだ」
爺様「もし台風が吹き荒れる中、水爆が日本に向けて発射された場合、台風に乗って放射性物質が日本中にバラ撒かれる恐れがある」
――――――
一夏「――――――!」
一夏「…………また俺にその選択をしろと言うのですね」
一夏「学園には――――織斑先生には話してあるんですか?」
――――――
爺様「残念だがぁ、これは、我々だけの情報だ」
――――――
一夏「産業スパイはどこにでもいるわけか…………」
一夏「わかりました。直ちに発進します! きちんと学園には報告しておいてくださいよ!」
――――――
爺様「わかっている。では、健闘を祈る」プツッ
――――――
一夏「来い、『白式』!」
ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!
――――――朝食前
セシリア「一夏さん? どこへ行ったのですか?」
千冬「く、どこへ行ったんだ、一夏……」
山田「織斑先生!」
千冬「山田先生?」
山田「先程 学園から連絡がありました! 織斑くんをこの座標に向かわせるようにと……」
鈴「え? 一夏、行っちゃったの? また、お呼び出し?」
箒「………………一夏?」
千冬「そういうことなら、しかたあるまい…………」
千冬「織斑は早退してしまったが、予定通りに運用試験は執り行う」
千冬「台風の接近で雲行きは怪しいが、時間を繰り上げて早めに行う」
――――――洋上を飛行中
一夏「これがアメリカの第3世代型IS『銀の福音』…………無人機なのか」
――――――
主任「戦略級なので我々の情報網では正確なスペックは明らかにはできませんでしたが、」
主任「衛星写真を見るに、パッケージなのか、大型スラスターの上にミサイルコンテナを露出させた状態で飛行中です」
――――――
一夏「これほどのミサイルコンテナが量子化されたら、北極海に沈んでいる戦略級原潜も要らなくなるな……」
一夏「そう、軍事用ISの究極形はまさにこれだ――――――!」
一夏「核ミサイルを容易に運用でき、通常兵器を寄せ付けない防御力と機動力を両立させたISこそが――――――」
一夏「そう、運ぶだけでいい。それだけで十分…………核弾頭を持った世界最強の兵器が街の上にいたら――――――」
一夏「そういう意味では、燃費と安定性を重視した第3世代型の方が戦略的価値は高くなる」
一夏「鈴の『甲龍』も核弾頭装備のパッケージに換装すれば、あら不思議、戦略級ISに早変わり――――――!」
一夏「相互確証破壊、――――――
一夏「所詮、平和は戦間期――――――。ダモクレスの剣が続々と吊るされていくのを理解せずに、栄華の宴を繰り返そうとする…………」
――――――
主任「…………たしかに狂ってますね」
――――――
一夏「こんなのとやりあうことに――――――いや、そういえば入学して間もない頃に戦略級レーザーを持ったISとやりあったっけな」
一夏「結局、今回だけが狂っているってわけじゃないか……」
一夏「――――――元々 世界の方が狂っていたんだ。狂った世界から狂った状況しか生まれないのは当たり前じゃないか」
――――――
主任「……難しいですね。私も技術者として、戦争によって文明が発展していった事実に複雑な思いです」
――――――
一夏「話は変わるけど、確認しておきたいんだけど」
――――――
主任「何でしょう?」
――――――
一夏「エージェントはどうやってコンテナの中身が核弾頭だとわかったんだ? 写真だけじゃそうだと判断できないだろう?」
――――――
主任「そ、それは…………」
――――――
一夏「エージェントなんて立ち会うだけで精一杯の連中なんだろう? たまたま機密を盗み聞きしたり、盗み見ることができたりしたのか、それって?」
――――――
主任「それが……、『銀の福音』に無人AIを搭載して無人運用させることはエージェントの情報で前々からわかってはいたんですが、」
主任「今日になって、脈絡もなく本物の核弾頭を搭載して運用するという連絡が入ってきたんです」
主任「我々は真に受けなかったんですが、暴走直後のアメリカ軍の反応を見て、会長は早急に手を打つことを取り決めになったのです」
――――――
一夏「警戒してし過ぎることはないが、どうかデマであってくれ…………!」
――――――
主任「作戦としては、一撃必殺です」
主任「我々が派遣したIS部隊は、第2世代型の長距離射撃型2機と高機動強襲型1機の自社製ISの3機編成の精鋭です」
主任「若様は、この3機で陽動を掛けますので、その隙を狙って『零落白夜』で仕留めてください」
――――――
一夏「おかしな話だ、IS相手に一撃必殺だなんて」
――――――
主任「そうですね…………それだけ若様と『白式』は特別な存在――――――言うなれば、最終戦力となることでしょう」
――――――
一夏「どうして俺にこれほどの力が与えられたのかはわからないけど、作戦は遂行してみせる!」
一夏「間もなく合流座標…………あのタライみたいな艦?」
――――――
主任「あれは上陸用舟艇と呼ばれる艦艇です。ノルマンディー上陸作戦なんかで歩兵を上陸させるのに使われたのが有名で、揚陸艦はその母艦」
――――――
一夏「着艦します。しかし、台風の影響が大きくなっている…………揺れる揺れる」ヒュウウウン、スタッ
特務隊1「わお! 噂には聞いていたけど、あの子よ! “千冬様の弟”っていうのは!」
特務隊2「ISドライバーとしての実績は公式記録だと皆無に近いけど、その裏で伝説的な強さを秘めているという彼!」
特務隊3「揺れる船に綺麗に着地…………基本操作が洗練されていて、それだけで只者ではないことがわかる」
一夏「やあ」ニコッ
一同「カッコイイ!」
――――――数時間後
一夏「目標はどうなっています? 作戦は決行なんですか? 波の揺れが大きくなってきているんだけど……」
――――――
主任「残念ながら、これは決行する他ない」
――――――
一夏「――――――予想コースは?」ピピピ
一夏「…………これは、臨海学校にかなり近いコースだ。5キロもないぐらいだ」
一夏「となると、今頃 臨海学校にいる専用機持ちにもお声がかかってるんじゃ?」
――――――
主任「確認しましたところ、アメリカ軍から正式な依頼としてIS学園に『銀の福音』の拿捕あるいは撃破を求めた様子――――――」
主任「若様の予想通りですね。そして、織斑先生が討伐作戦の指揮を執ることになったようです」
主任「おや、どうやら学園側から若様を呼び戻すようにお達しが来ているようですね」
――――――
一夏「共同作戦はダメなのか?」
船長「それは難しいのではないでしょうか?」
船長「我々がこの海域に真っ先に展開した理由は、表向きはISの安全性を頼みにして台風の観測及び巻き込まれた船舶の救出訓練ということになっており、荒唐無稽です」
特務隊1「まあ、私たちが挑むものは台風以上に危険なものだけどね」
特務隊3「つまり、我々が戦略級ISを討伐するためにあらかじめ織斑 一夏を呼び寄せた事実がバレてしまう」
一夏「そうだな。となると、我々の手で偶然討伐した形にしないといけない…………」
――――――
主任「その辺は問題ないです。たった今、領海侵犯したISを偶然近くに展開していた我々が拿捕あるいは撃破するようにお達しが来ました」
――――――
一夏「さすが、手が早い」
船長「では、船を出します。それで、どのタイミングで目標を襲撃するかを早く決めてください」
特務隊2「この場合、一夏くんの『零落白夜』が勝負の要。だけど、超音速飛行している相手にまず追いつけない」
特務隊3「そこで、正面から妨害して減速させる。超音速飛行できる相手だからイグニッションブーストなんてできて当たり前だろうけど、」
特務隊1「こっちにはイグニッションブーストが使えるのが2人いる――――ってことでいいの、一夏くん?」
一夏「はい。ただし、こちらは競技において短期決戦に挑むようにしか訓練していないので、5分以上の高速戦闘は無理だと思います」
特務隊1「上等じゃない! 高速戦闘なんて一瞬で決着がつくからそれでいい!」
特務隊2「それじゃ、決まりね。私たちでこういうふうに追い込んでみせるから、一夏くんに繋いでみせて」
特務隊1「任せなさい!」
特務隊3「しかし、“千冬様の弟”とこうして共闘できるだなんて…………」
一夏「――――――“千冬様”?」
一夏「えっと、みなさんはIS学園の卒業生なんですか?」
特務隊2「そうよ。そうね……たしか今、IS学園の教員をやっている 元代表候補生だった山田 真耶って子の同期よ」
特務隊1「私たち、3人でよくつるんで 千冬様に叱られてったっけ」
一夏「そうだったんですか」
特務隊3「あなたはどう? “世界で唯一ISを扱える男性”だからいろいろ肩身が狭くなかった?」
一夏「それはもう慣れましたけど…………」
特務隊2「あんまり楽しくないの? 今年は代表候補生がいっぱい入ってきたってことで話題だけど?」
一夏「その、私は 便宜上 代表候補生と同一視されてますけど、こうやってスポンサーのお呼び出しをこなすのが本業です」
一夏「“世界で唯一ISを扱える男性”だからこそ、少しでも多くの運用データをスポンサーが望んでいるわけでして、私としても代表操縦者になるつもりはないので、」
一夏「ISドライバーとして学園に籍を置いている理由はほとんどないんです……」
特務隊1「そういえば、あんたって学園中の女の子と丁寧に一人ひとり相手してやっているってホント?」
特務隊2「公式戦に一切出てないのに、フランスとドイツの代表候補生に勝ったんだって? もったいない」
特務隊3「あのドイツの第3世代型を『打鉄』と『ラファール』のツーマンセルで撃破に導いたっていうのは?」
一夏「全部 本当です。IS学園に在籍している意味はあまりないとはいえ、できる限りをことをしておきたかったので」
一同「おおおおおお!」
一夏「それで、段取りは決まりました。あとは、臨海学校に配置されている専用機持ちの動向ですが……、」
一夏「あそこには高機動強襲型の機体がないから、まず同じ戦場に立つことができないでしょうね。――――――戦力外です」
特務隊3「それはしかたない。――――――競技用と品評用だから」
特務隊1「そうそう! 私たちみたいなへそ曲がりでもない限りは、平和の国で実戦用ISのパイロットになんてなれるわけないじゃん?」
特務隊2「…………一夏くん? あなたは今までどういう訓練を受けていたの? ――――――まるで覚悟が違う」
特務隊1「そうなのか?」
特務隊3「これほどまでに緊迫した状況で、IS乗りになって日が浅い15歳がここまで堂々としている方が異常」
特務隊1「じゃあ、私と同じか?」
特務隊3「あなたは緊張感がないだけ」
一夏「…………信じるか信じないか、」
一夏「――――――水爆の解体を行ったことがある」
一同「――――――!?」
一夏「だから、二度目なんです。――――――水爆の脅威と向き合うのは」
特務隊1「主任、それは本当か?」
――――――
主任「…………我 関せず」
――――――
一夏「………………」
船長「話はまとまりましたか? そろそろ台風の影響が強くなって作戦に支障をきたします」
一夏「目標は相変わらず?」
――――――
主任「そうですね。そのまま直進を続けています」
――――――
一夏「学園の戦力もあてにできないし、空も海も荒れつつある」
一夏「これはもう勝負に出たほうがいいと思う」
特務隊1「そうだな。予定通りにとっととシメちゃおうぜ!」
特務隊2「それじゃ、一夏くん。ジャミングを使って相手の目を奪うから、その隙に先行して、雲の上に!」
特務隊3「ゴーグルは持って来てる?」
一夏「これ?」
特務隊3「そう。今からアプリを更新する。これで武装コンテナと目標の区別ができるようになる」ピピピ
一夏「仕事が早いな、主任」
――――――
主任「総力を上げて、しかも 数時間もあれば、余裕ですよ」
主任「しかし、高速戦闘ともなれば、動体視力と反射神経が全てを決めることになるから、気休め程度にしかならないでしょうね」
――――――
船長「では、頼みました。私は高速戦闘には参加できませんが、武装コンテナの回収やみなさんが撃墜された時の救助に専念します」
一夏「誰もまともに戦って勝てるとは思っていないんだ。みんなが持てる力の限りを尽くして、」
一夏「――――――勝ちに行くぞ!」
一同「おおおおお!」
一夏「来い、『白式』!」
特務隊2「カウント! 3,2,1、――――――行け!」
一夏「うおおおおおおおおお!」
特務隊2「広域ジャミングは精々2分しか保たない。その間に、目標に接触するよ!」
特務隊1「任せなさい!」
特務隊3「では、船は任せた」
船長「ええ。帰る場所の心配なんてせずに前方の敵に集中してください!」
船長「――――――ご武運!」
一夏「今一瞬、曇天の空の下で黄色く表示されるものが見えた!」
一夏「だけど、やつの索敵範囲に入らずに ここは垂直に昇りきる!」
一夏「作戦通りにうまくいってくれよ……!」ヒューーー
一夏「風が強くなってきているな…………」
一夏「勝利の神風が吹いてくれればいいのだが…………」
具体的な作戦内容はこうであった。
一夏の『白式』は索敵範囲の外で『銀の福音』よりも高い高度に昇り、その場に待機する。
そして、超音速飛行で飛んでくる『銀の福音』を特務隊の2機が狙撃し、誘導する。
そこを特務隊の高機動強襲型が襲いかかり、イグニッションブースト同士の高速戦闘に持ち込み、
隙を見て一気に降下して『零落白夜』で直接の撃破あるいは武装コンテナの切除を狙うのだ。
特務隊2「来たわ! ミサイル一斉発射!」
特務隊3「了解。そして、撃った後は超射程の狙撃銃で狙い撃つ」
銀の福音「――――――!」
特務隊2「あれが、『銀の福音』の第3世代兵器なの!?」
特務隊3「大型スラスターと多連装誘導レーザー砲の組み合わせ……」
特務隊2「ミサイル第2射よ!」
特務隊3「しかし、これだけ風が強いと狙撃が無意味」
特務隊2「なら、接近して囮にでもなるわ!」
特務隊3「それしかないか」
特務隊1「おらああああああああああ!」
銀の福音「――――――!?」
特務隊1「ち、ワイヤーを躱しやがったか…………!」
特務隊1「なら、ダブルマシンガンを喰らえええ!」
特務隊2「この距離ならある程度の強風も問題ない!」
特務隊3「誘い込んだ」
特務隊1「やれえええええええ!」
一夏「そこだああああああああ!」ズバン
銀の福音「――――――!!!」
――――――まさにそれは稲光であった。
音速の壁こそ超えないが超高速で真っ逆さまに落ちる一夏の『白式』の
『銀の福音』本体と巨大なスラスターである第3世代兵器『銀の鐘』を見事に分断したのである。
当然、この大型スラスター『銀の鐘』に付属していた武装コンテナも落ちていくのであった。
これによって、――――――水爆の脅威は去った。
核爆弾というのは緻密で高度な化学反応を積み重ねた上で爆発という現象まで持っていくので、
プラスチック爆弾やニトログリセリンとは違って、漏れだした放射線で被曝する可能性はあっても、正規の手続き以外で起爆することはまずありえない。
しかし、暴走したISをこのまま野放しにするわけにはいかない。
こうして一夏と『白式』はまた語らない伝説を築き上げることになろうとしていた。
特務隊1「どうやら、戦力の全てをそのスラスターに集中していたようだな!」
一夏「イグニッションブーストすらも使えないなら、これでとどめだ!」
一夏「うおおおおおお!」
だが、その時――――――!
ヒューーーーーー!
一夏「な――――――(こんな時に突風――――――!?)」ズバン
銀の福音「………………」ザバーン
一夏「しまった! 手応えが――――――」
特務隊1「落ち着けよ。もうあいつに攻撃手段なんてないんだ。あとは とっ捕まえてシメちまえば それでいいだろう?」
特務隊2「それに海もこれだけ荒れてきた。破損箇所に海水が流れ込めば場合によってはそのまま海の藻屑よ」
特務隊3「…………油断大敵」
一夏「…………主任! 水爆は海に沈んだようだが、位置は追跡できているか?」
――――――
主任「問題ありません。翌日になればすぐにでも、現場検証と称してサルベージさせます」
――――――
一夏「プルトニウムが海に漏れて『世界滅亡!』なんかになるなよ……」ピィピィピィ
一夏「――――――反応!? 何だこのエネルギーは!?」ピィピィピィ
特務隊1「な、何が起きたって言うんだよ!」
特務隊2「ま、まさか、これは――――――!?」
特務隊3「ありえない……」
銀の福音「――――――」
『銀の福音』は巨大な力場を生成して復活した。
そして、その背中には一夏と『白式』が斬り落とした大型スラスター『銀の鐘』の代わりとなる、光の翼が展開されていた。
一夏「――――――これは
特務隊2「こっちは主武装のほとんどを使い切っているっていうのに……!」
特務隊3「生き残るには、攻撃を分散させるしかない……!」
一夏「だが、今度は外さない……!」
特務隊1「そうだぜ! 止まっている今がチャンスだ!」
一夏「うおおおおおおお!」
特務隊2「危険よ! 止めなさい!」
銀の福音「――――――!」
一夏「なんだと…………(何もないところから極太レーザー!?)」
一夏「これが戦略級ISの底力なのか……!?(違う、あれは『龍咆』と同じ原理でレーザー砲を自由自在に収束させて撃ってるんだああああ!)」
特務隊1「ちぃいい――――――!」
一夏「うわあああああ――――――助かった…………ありがとうございます」ブルブル
特務隊1「生きているな! だけど、どうするよ!?」
特務隊3「戦力差は歴然……」
特務隊2「武装コンテナがなくなった分、遠慮も無くなったってわけ……?」
一夏「ダメだ、『零落白夜』を使うだけのエネルギーがもうない……!(よくて 一発分 保つか保たないか……)」
――――――
主任「撤退だ! 撤退するんだ! 水爆の脅威から世界を救ったというだけでも文句のない戦果だ!」
主任「大丈夫だ! ISは名の通りの無限の稼働時間を持っているというわけじゃない。展開している限りはエネルギーは無くなっていくんだ!」
主任「だから、時間に任せて自滅を待つんだ!」
――――――
一夏「前提として逃げ切れるんですか!? 相手は超音速飛行能力を取り戻したようですよ?!」
一夏「それに相手は戦略級だぞ!? 通常の機体の何倍もの――――――」
特務隊1「ぐあ!」
特務隊2「このままじゃ……!」
特務隊3「全滅は確実…………!」
――――――
主任「そ、それは――――はっ!? 海域に超音速飛行する未確認飛行物体を確認!」
――――――
一夏「――――――っ!? それはどの方角から来た!?(今日は7月7日。可能性としては――――――)」
箒「一夏ああああああああ!」
一夏「箒! 箒なのか!?(見たことのない機体。そして、超音速飛行をしてきた――――――)」
一夏「それが束さんからの誕生日プレゼントってわけか!?」
箒「そうだ! これが私の専用機『紅椿』だ!」
一夏「(名の通りの真紅の機体…………ずっしりとした外観は『打鉄』にも通じている。機種転換訓練なしに乗りこなせていると見るべきか)」
一夏「来てくれたのはありがたいけれど、俺たちにはもう戦う力は残されていない……」
一夏「撤退することしかできない。援護してくれ!」
銀の福音「――――――!!」
一夏「あ 回避しきれない……(イグニッションブーストのエネルギーもない!?)」
箒「一夏はやらせない――――――!」ダキッ
一夏「――――――速い!(『白式』のイグニッションブーストの比じゃない! 戦略級に匹敵する性能なのか!?)」
箒「一夏、お前の背中は私が守る――――――はっ!?」
一夏「何だ、これ? 機体から光が溢れてくる…………」
一夏「エネルギーが回復していく! ――――――まだ戦える!」
箒「こ、これが私と『紅椿』の
一夏「特務隊は撤退してください! あとは俺たちで何とかなる……」
特務隊1「何を言ってるんだ、“千冬様の弟”!?」
特務隊2「だけど、戦略級ISの圧倒的な戦力に対抗できるのは『零落白夜』しかない!」
特務隊3「足手まといになるべきではない……!」
特務隊1「くそ! じゃあ、そこの新入生! 絶対に連れて帰れよ! わかったな!?」
箒「言われなくても、――――――私が一夏を守る!」
特務隊1「くそっ、情けないぜ!」
特務隊3「掛ける言葉はただ1つ」
特務隊2「――――――幸運を祈る!」
――――――
主任「…………頼んだぞ。そして、無事に帰ってきてくれ!」
――――――
一夏「挟み撃ちにするんだ! 左から頼む!」
箒「わかった!」
銀の福音「――――――!」
箒「はああああああああ!」
一夏「(自慢の超音速飛行も戦闘になれば発揮されないのが救いだな……)」
銀の福音「――――――!」
箒「な、接近してきた――――――!?」
一夏「馬鹿な! やつの武装は射撃武器だけ――――――はっ!? まさか!(『龍咆』と同じ原理なら射角は無限!?)」
一夏「やめろ、距離を取るんだ! 離脱しろ!」
箒「はあああああ――――――はっ?!(な、双剣を受け止めた!? そして、光の翼が――――――!?)」
銀の福音「――――――!」
その瞬間、
すると、一瞬のうちに激しい光が翼の中から溢れだしたのだ。
それがどういう攻撃なのかは一夏には理解できていた。
『銀の福音』第2形態は光の翼というエネルギー兵器を自在に操る能力を持っており、光の翼のあらゆる部分からレーザーを収束させて放つことができた。
つまり、あの光の翼に包まれれば ほぼ全方位から一斉にレーザー攻撃を浴びることになるのだ!
まさにそれは一撃必殺の類であった。ただ単にダメージを与えるだけでなく、受ける衝撃や眩い閃光がパイロットの心身を大いに揺さぶったのだ。
箒「うぁ…………」ガクッ
一夏「箒いいいいいい!(だが、強制解除されていない…………なんて装甲だ! 束さんが造った本物だな)」
銀の福音「――――――」ジー
一夏「く、今度は俺か!」
銀の福音「――――――」
一夏「くそ、俺にばかりは接近戦を挑んでこないか……(せっかく補充してもらったエネルギーもそろそろマズイ……)」
ついに戦闘可能なのが自分だけとなり、更にシールドエネルギーも余裕がなく、焦燥の色を見せ始める一夏。
ザーザーザーザー
ヒューーーヒューーーヒューーー
ザバーンザバーンザバーン
一夏「!?」
すると、激しい雨と風が吹き荒れた。
音を立てて叩きつける風、視界を奪い去る大粒の雨、不安を煽る波……
一夏「――――――風と雨が!」ヒューーーーーーー
一夏「ぬぅ!? このっ!(台風の暴風圏に入ってしまったのか?!)」
一夏「コントロールが…………!(目が回る…………マズイ、『銀の福音』が!)」
銀の福音「――――――!」
一夏「うあ!?(今度こそ終わりなのか…………!?)」
機体の制御を失った『白式』に『銀の福音』がとどめとばかりに収束させた極太レーザーを放った。しかし――――――、
――――――それこそが神風であった。
ヒューーーヒューーーヒューーー
一夏「――――――うん?」
銀の福音「!!??」
あっという間にレーザーが減衰してギリギリ回避することができた。
いや、それだけじゃなく、突風に煽られて元々の射線がずれていたことも幸いした。
更に、『銀の福音』は多数のレーザーを放つが、幾重にも層をなす雨のバリアーによってまるで攻撃が届かなかった。
その隙に、ようやく一夏がコントロールを取り戻して『銀の福音』へと最後の突撃を敢行する。
当然、『銀の福音』は逃げ出すのだが、ここで肝腎な時に一夏の邪魔をしてきた突風が今度は味方したのだ。
――――――風向きが変わった。流れが変わったのだ。
一夏「天は我に味方せり!(そうか、レーザーは空気中よりも水の中では大きく減衰する! それに大気の流れも大いに影響する!)」
銀の福音「!!!!!!????」
一夏「もらったああああああ!(今度こそ、とどめだああああ!)」
そう、台風の暴風雨は今度は『銀の福音』を檻の中に閉じ込めて、最後の最後に大逆転のチャンスを与えたのだ。
一夏「これで終わりだあああああああ――――――」
銀の福音「!!!!」
一夏「な、なにぃ!? こんのぉおおお!」
しかし、『銀の福音』もしぶとかった。
無謀にも、あらゆるものを両断してしまう『零落白夜』の光の剣をも掴んで抵抗したのだ。
更に、光の翼を一夏の身体を覆うように展開する。このままでは箒の二の舞を演じてしまう!
降りしきる雨によって威力は落ちていたが、元々使えるエネルギーが半分以下で『零落白夜』の消費や度重なる攻撃でシールドエネルギーを消耗しきっていた『白式』にとどめを刺すには十分すぎた。
だが、ここで天は更なる味方を送り込んでいた!
ザバーン!
一夏「――――――」ゴボボボ
銀の福音「!!!!!!!?!???」
高波に巻き込まれたのだ。
気づけば、二人の戦場は台風の下降気流に流されて大きく高度を奪われていた。
当然、光の翼は著しく威力を失い、死に損ないの『白式』にとどめを刺すことすらできなかった。
むしろ、エネルギー出力を一定に保とうと無理に光の翼を展開しようとしたので一瞬で高波を霧散させたが、それだけに『銀の福音』もシールドエネルギーを大きく消耗してしまったのだ。
一方で、『白式』の
一夏「今度は逃さねえええ!」
一夏「あんただけは、ここで墜とす!」
一夏「うおおおおおおおおおおおおおお!」
ゴロゴロ、ピカーン!
銀の福音「!!!!????」
そして、曇天の空に吹き荒れる台風の暴風雨に落とされる雷のごとき青い閃光はついに『銀の福音』を貫いた。
雷が天に坐す高貴なる存在から地に蔓延る悪しきを砕くために落とされるように、
最後の力を振り絞って『銀の福音』を捉えた一夏と『白式』は薄暗く風も雨も波も全てが荒ぶる世界から底の見えない暗い暗い海の中へと沈んでいくのであった。
箒「――――――はっ!? 一夏は?!」ザーーーーーーーーー
箒「一夏ああああああああああ!」ピューーーーーーーーーー
箒「どこだ、一夏! 返事をしてくれ!」バシャーーーーーーーーーン
船長「暴れないで!」
ゴロゴロ、......ピカーン!
一夏、一夏、一夏あああああああああああ!
ザーーーーーーーーーー、ピューーーーーーーーーー、ザバーーーーーーーーン!
世界は残酷である。
少女の魂の叫びは無情にも圧倒的なまでの轟音の前に掻き消される。
それは一人の人間ごときちっぽけな存在の主張など気にすることなく平然と踏みにじる世界の真実の声のようでもあった。
――――――臨海学校 三日目:『銀の福音』討伐作戦の翌日
爺様「そうかぁ……懸命の捜索でもぉ見つからないかぁ」
爺様「いや、ご苦労であった。よく休んでくれ…………」ガチャリ
爺様「『銀の福音』の残骸と武装コンテナはきっちり見つかったがぁ――――――」
千冬「一夏…………」グッ
爺様「ISコアの反応もなくてはもうどうしようもないな……」
爺様「あの子は本当に優しい子だったぁ……」
シャル「そんな言葉、聞きたくありません!」
ラウラ「まだ死んだと認めたわけではない!」
爺様「そうだな。水死体が見つかったというわけでもない。希望はあるだろう……」
鈴「だけど、それじゃいったい一夏はどこへ流されていったっていうの……」
セシリア「ああ、そんな、一夏さん…………」
箒「………………一夏」