落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」   作:LN58

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最終話 福音事件・裏 MAD -Mutual Assured Destruction- Cpart

 

――――――雨の中

 

ずっと雨が降り続けていた。

 

日本は雨が多い国である。梅雨が終わったと思えば、蒸し暑い夏や台風がすぐ後に控えている。

 

雨の日は自然と心にモヤモヤとして悶々とした気分にさせられる。

 

 

――――――けど、俺は雨の日が好きだった。

 

 

俺は雨が明けた後の晴れた空が好きだった。

 

そして、空に架かる七色の橋を見るのが特に楽しみであった。

 

晴れた空の素晴らしさがわかるのは雨の日のおかげである。

 

“ない”よりも“ある”ことの素晴らしさを教えてくれるから――――――。

 

こんなふうに思うようになったのは『あの日』からである。それまでは雨の日は何となく嫌だった。

 

だが、『あの日』から俺は弱音を吐くこと――――泣くことを許されなくなった。

 

 

――――――俺が関わる人全てを守るために。

 

 

すると、世界が変わったのだ。変わって見え始めた。それは社交界の洗礼を受けたこともあったが、誓いを立てた『あの瞬間』から変わっていた。

 

まるで、俺の気持ちを代弁してくれるように降りしきる雨――――――。

 

 

 

俺は、ずぶ濡れだった。何も見えず、何も聞こえず、何も感じられなくなった暗闇の中を歩き続けていた。

 

気づくと、俺の目の前に女の子が雨に打たれていた。

 

だから、傘を差してあげた。自分でも意味がわからなかったが、そうしていた。

 

すると、雨は止み、雨上がりの爽やかな青天が雲の隙間から顔を覗かせた。

 

そして、大きな大きな水溜まりも潮騒の音が鳴り響く透き通った美しさを見せ始めた。

 

 

――――――見上げれば、天に架かる光の橋がそこにあった。

 

 

その橋の根本に今度は俺と女の子は居た。

 

 

――――――呼んでる。行かなきゃ。

 

 

俺が傘を差してあげた女の子はそう言った。

 

確かに、橋の根本の俺と女の子は手を降って何かを言っているようにも見えなくもない。

 

だが、よく目を凝らして見ると、そこには千冬姉や爺様、財閥で働いているみんな、学園で共に成長していくみんな、俺が関わる人全てがそこにいて、

 

 

――――――みんな、俺を見て手を振り、呼んでいたのだ。

 

 

その中で、俺と女の子があそこに居て、見せつけるように笑みを浮かべていた。

 

 

そして、眩い光に包まれたかと思うと、

 

今度は夕焼けに染まった橋の下に、見憶えのある鎧をまとった女性が一人。

 

 

――――――力を欲しますか?

 

 

答えよう。その答えならすでに持っている。

 

いつまでも変わることのない永遠の誓いを再びここで――――――!

 

 

――――――俺は関わる人全てを守る! 力が欲しい! そのための力が!

 

 

それが俺の真実だ。たとえこの先、どれだけの血と汗と涙が俺の選択の自由によって流されようともそれだけは変わることはない。

 

 

――――――だったら、行かなきゃね。

 

 

ああ、行こう。雨上がりの晴れた空に架かるあの橋の下へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏「ゴホゴホ」

 

一夏「……ああ?!」ガバッ

 

束「やあ、グッドモーニング! ようやくお目覚めだね、いっく~ん!」

 

一夏「束さん…………?」

 

一夏「(何だ、ここは? あちこちに精密機械がたくさん――――――?)」キョロキョロ

 

一夏「そうか、ここが束さんのセーフハウス(隠れ家)ってことなのか」

 

束「おおう、凄い理解力! ザッツラ~イト!」ビシッ

 

一夏「俺は、この手で『銀の福音』を倒したんだな……」グッ

 

束「いやあ、まさか『白式』だけであそこまでやっちゃうだなんて、大天才の束さんでも予想できなかったよ!」

 

束「ほとんどいっくんが倒しちゃったようなものだし~!」ブーブー

 

一夏「それは違うよ。僚機との連携が無ければ、『銀の福音』に接敵することすらできなかったんだから」

 

一夏「あれはみんなで掴んだ勝利なんだ。引き立て役も忘れないでください」

 

束「本当は、箒ちゃんの『紅椿』が主役になるはずだったんだけどさ~」ブーブー

 

一夏「不満そうですね。世界の危機が救われたっていうのに――――――はっ?!」

 

 

一夏「――――――『白騎士事件』とそっくりじゃないか!?」

 

 

一夏「まさか、束さんが関与していたのか……!?」

 

束「さて、どうでしょう~?」ニコニコ

 

一夏「『白騎士』と呼ばれたISによってあなたの発明品が世界中で注目を浴びたのと同じように、」

 

一夏「今度は妹の晴れ舞台のために『紅椿』とそれに相応しい敵を用意してきたというのか……!?」

 

束「ふふふ」ニコニコ

 

一夏「……答えてはくれないか」

 

一夏「それじゃあ、ISの開発者なら、どうして俺が“世界で唯一ISを扱える”のか、わかるだろう? 教えてください、束さん」

 

束「……残念だけど、どうしていっくんがIS適性を持っていたのか、私でもわからないんだ」

 

束「そして、いっくんの『白式』にもいろいろ謎が多いんだよね」

 

一夏「そんな……じゃあ、雪片弐型はどうなんだ? あれを造ったのは実は束さんなんじゃないのか?」

 

束「それは、それは、大・正・解! あれを全身装甲にしたのが、今回『大活躍!』する予定だった箒ちゃん専用IS『紅椿』だったのさー」

 

一夏「あれには助けられた…………何度も何度も(そう、今回も俺を水爆の脅威から救ってくれた)」

 

一夏「じゃあ、千冬姉の『暮桜』と同じ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)になったのは単なる偶然なのか?」

 

束「それもよくわかってないんだ。ただ、コア・ネットワークが『非限定情報共有(シェアリング)』を行って、」

 

束「IS同士が同じパイロットの情報を共有し合った結果、初期化(フィッティング)されたISにも『零落白夜』が発現したんじゃないかなって」

 

一夏「それじゃ、最後に――――――」

 

 

一夏「――――――これから世界をどうしていきたいんですか、束さんは?」

 

 

一夏「いや、篠ノ之 束! 返答次第では、――――――斬る!」ジャキ

 

束「おおう、いっくん、怖いー!」

 

一夏「――――――狡猾な羊め!」ゴゴゴゴゴ

 

一夏「さっきので確信できた!」

 

一夏「――――――あなた以外にISコアを造れるはずがない!」

 

一夏「学園を襲撃してきた あの無人ISに使われた 未確認のコアを造ったのもあなただろう!」

 

一夏「俺は使い方を定義する――――環境を与える側の人間だ」

 

一夏「たとえ譲渡先の真意を知らなかったとしても、俺は二度とあんな悲劇が起きないように、――――――警告する!」

 

一夏「まず、新しく造ったコアの絶対数と管理情報を国際IS委員会に公表するんだ」

 

一夏「そして、二度とISを悪用する裏組織に譲渡するな」

 

一夏「この2つを守れば、今回の件だって見逃してやる…………大事なのは今日から続く明日なんだから」

 

一夏「でも、どんな理由があろうとも、どんな不満があろうとも、人間には超えてはならない一線があるんだ!」

 

一夏「そう、超えてはならないものが…………」プルプル

 

束「……いっくん、昔よりずっとずっとカッコよくなったね。それでいて、昔のままの優しいいっくんだ」

 

束「そんないっくんが私は大大大好きだよ」

 

束「だから、そんな物騒なものはどけて――――――」ガシッ

 

一夏「なんで……!?(雪片弐型がピクリとも動かない!? いったいどこにそんな力が!?)」

 

束「ねえ、いっくん? 今の世界は楽しい?」

 

一夏「な、なんだと…………?」

 

束「すぐに答えらない?」

 

一夏「…………楽しいと思えることよりも、苦しいとか辛いとか鬱陶しいとかそんなもんばっかりだよ」

 

一夏「どれだけ努力しても『関わる人全てを守る』ことができないのかもしれない」

 

一夏「けど! ――――――俺は確かに見たんだ! 確信できたんだ!」

 

一夏「雨上がりの晴れた空に架かる橋の下で、みんなが俺を見て手を振ってくれているのを!」

 

一夏「たとえ世界が狂気と矛盾に満ちたケイオスだったとしても諦めはしない…………!」

 

一夏「なら、俺は自分の意思と能力の全てを捧げて世界を楽園に変えるだけだ…………!」

 

一夏「どれだけ苦しもうとも、貶められようとも、疎まれようとも! 俺は“ある”者として『あの日』の誓いを果たし続ける!」

 

 

――――――俺は関わる人全てを守る!

 

 

一夏「何度でも言う! 何度でも言い聞かせる! 何度でも訴える!」

 

束「……そうなんだ」

 

束「ふふふ、みんなに愛されるわけだね。この束さんもキュンとなっちゃった」ポー

 

束「箒ちゃん、ごめんね……」

 

一夏「(動け、雪片! 何故ピクリとも動かない!?)」アセダラダラ

 

一夏「あ……」

 

束「いっくん」チュッ

 

一夏「な、何を、した…………」フラフラ

 

束「次に会う時は、もっともっと大きくなって狡猾な羊を御する羊飼いになってね」

 

束「バイバーイ」

 

バタッ

 

 


 

 

――――――夜の波打ち際

 

箒「私は、結局 何もできなかった…………」

 

箒「世界最高峰の専用機を手に入れて、そして『白式』と相性がいい単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)を以てしても、私はお前を救うことができなかった……」

 

箒「私はなんて情けない人間なのだ…………」

 

爺様「ここにいたかぁ、“篠ノ之 束の妹”」

 

箒「あ、会長…………私は…………」

 

爺様「みなまで言うなぁ。儂もお前と同じく、『こうすればよかった』『ああすればよかった』と考えこんでしまっていた…………」

 

爺様「それは時間を無駄にするだけの思弁――――現実逃避でしかないと一夏に教えてきたのに、儂自身……、動揺を隠せないようだ……」

 

爺様「儂は一夏に『銀の福音』討伐に際して、『無理でもやってもらう』ように強制してしまった……」

 

爺様「やれと命じた以上、一切の責任を負うのはこの老いぼれだぁ」

 

爺様「だから、気に病むなとは言わないが、若いお前にはしっかりと明日を見据えて再び歩き出して欲しい」

 

爺様「現実逃避することなく、はるか遠くにいる相手に恩返しをするとしたら、」

 

爺様「――――――しっかりと生き抜くこと」

 

爺様「それが最高の返礼と儂は考える。おそらく一夏もそうであろう」

 

箒「………………!」

 

爺様「さもなければ、尽くした誠意と努力が報われない…………」

 

箒「その言葉、胸に刻みます」

 

爺様「そうか。こんな老いぼれでもまだ役に立てて何よりだぁ」

 

爺様「ではな。強く生きよ、“篠ノ之 箒”――――織斑 一夏が一番に救おうとした悲劇のヒロインよ」

 

箒「あ………………」

 

 

ザー、ザー

 

 

箒「――――――報われない、悲劇のヒロイン、現実逃避か」

 

箒「たしかに、そうなのかもしれない」

 

箒「私はずっと一夏に頼りきりだった。甘えてばかりだった。結局、一夏の気を引くために自分で自分を不安に陥れるだけの毎日……」

 

箒「一夏が私のことを“恥ずかしがり屋”と言い続けたのも、きっと私のそういった心の弱さを的確に捉えていたからなのかもしれない……」

 

箒「社交界は押しが弱いと損をすると最初に一夏は言っていた。それは本当のことだった…………」

 

箒「いや、それは社交界だけに限ったことじゃない」

 

箒「自分の思いをきちんと伝えることは人の営みの中では当たり前のこと…………」

 

箒「だから一夏は、私が言い出すまで――――――」

 

箒「………………」グスン

 

箒「帰ってきてくれ……一生のお願いだ……」

 

箒「私は一夏のことが大好きだあああああああああ!」

 

箒「だから、今はただ側にいさせてくれ…………頼むから」

 

箒「………………くぅ」

 

箒「うわああああああああああん!」

 

 

ザー、ザー

 

 

「俺は晴れた空が大好きだ」

 

「だけど、晴れた空になるためには晴れていない空が必要だ」

 

「どれだけ憂鬱な気分が続こうとも、気分が晴れた時の喜びは何物にも代えがたい」

 

「だから、俺は雨の日も大好きだ」

 

「悩める時も迷える時も涙ぐむ時も、いつかは晴れ晴れとした心持ちになって報われると信じて――――――」

 

「――――――止まない雨はない。その時が来るまでは死ねないな」

 

 

箒「は…………」

 

一夏「よっ」ニコニコ

 

箒「一夏っ!」ギュゥウウウウ

 

一夏「ははは、心配かけたな」ナデナデ

 

箒「馬鹿者! 本当に弛んでいるぞ! こ、こんなもんで私の気持ちが収まるものか…………本当に良かった」ポロポロ

 

一夏「…………よっと」

 

箒「な、何を?」

 

一夏「もう7月7日じゃないけど、」

 

 

一夏「――――――誕生日おめでとう」シュッ ――――――白のリボンが結ばれる。

 

 

一夏「何となく白を選んでみたんだけど、どう?」

 

箒「あ、ああ! 嬉しいぞ、一夏」

 

一夏「あのISのように紅い印象が強いけれども、心は真っ白ですね~」

 

箒「か、からかうな…………その、恥ずかしい」ポー

 

一夏「さ、手を」

 

箒「え?」

 

 

一夏「――――――私と踊っていただけませんか? ISで」

 

 

箒「あ、それは…………喜んで」ポー

 

一夏「素直でよろしい。それじゃ――――――」

 

一夏「来い、『白式』!」

 

箒「『紅椿』、行くぞ!」

 

一夏「さあ、天の川の下で、彦星と織姫の再会を祝す優雅なひとときを――――――」

 

 

 

 

 

爺様「ほう……」

 

SP1「無事で何よりでしたね」

 

SP2「本当によかった…………これで次代への希望は生き続ける」

 

千冬「………………一夏」ポロポロ

 

山田「しかし、これまでどこに……?」

 

爺様「良いではないか、良いではないかぁ!」

 

爺様「終わり良ければ全て良しぃ! 我々の明日はぁ昨日より明るい!」

 

SP1「そうですね。今夜は日が昇るまで感動の余韻に浸りましょう」

 

SP2「そして、明日からは元通りの日常へ――――いや、次のステージへ!」

 

千冬「……そうだな。今年はまだ半分終えたばかりだ」

 

千冬「私も無事に年が明けられるように気を引き締めていこう」

 

山田「私も――――――あ、あれは!」

 

 

 

ヒュウウウウウウウウン

 

セシリア「一夏さあああああん!」

 

鈴「一夏ぁ!」

 

シャル「一夏!」

 

ラウラ「織斑一夏!」

 

 

 

爺様「さぁて、あの見目麗しき可憐なる戦う乙女たちの行末はいかにぃ……?」

 

SP1「そして、若き俊英とその学び舎の運命は――――――?」

 

SP2「それは行くところまで行かないと誰にもわからない。けど――――――」

 

千冬「――――――それを見届けるのが大人の務めだ」

 

山田「楽しみですね、将来が」

 

一同「………………」

 

爺様「それでは、我らはここらで退散するとしよう」

 

SP1「各方面に生存報告を送りませんと」

 

SP2「『福音事件』――――闇に葬られる運命であろうと、世界を救った名も無き英雄の物語はこれからも続いていく」

 

千冬「さあ、行け。――――――時代を導く風雲児よ」

 

 

 

――――――俺は千冬姉を、爺様や財閥の人たち、箒やIS学園のみんな、関わる人全てを守る!

 

 

 

The End......?

 

 

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