――――――夏期休業前のアリーナ
セシリア「さすがにアリーナでは『ストライク・ガンナー』は活かしきれませんわね」
鈴「私の方はあまり立ち回りが変わらない――――というより、セシリアだけパッケージによる変化が大きいのよね」
一夏「そうですね。他のは基本的に追加装備ですからね。その中で、唯一 狙撃機としてのコンセプトを意地でも貫く この仕様には…………」ウーム
一夏「これってもしかして……、『モンド・グロッソ』狙撃部門の独占へ向けての後ろ向きな狙いでもあるのだろうか……」
鈴「うわぁ……たしかにISの精密射撃用兵装は未開拓部門だけど、機体よりもデカくて取り回しの悪いこの狙撃銃なんか、対人戦を捨ててる感がバリバリよねぇ……」
セシリア「しかたありませんわ。それが祖国の意向ならば…………」ハア
一夏「その辺が第3世代兵器の開発に傾倒して兵器としての完成度を捨てた実験機の泣き所だな……(ひたすら技術革新していかないと生き残れないIS業界そのものが狂っているからしかたないか)」
一夏「そこで、謹製の武器を用意させてもらいました」パンパン
黒服「イギリス代表候補生:セシリア・オルコット様に本国より新装備の導入を仰せつかりました」
セシリア「ど、どういうことですの?」
黒服「私からはそれ以上のことは言えません。では」
鈴「随分 小さい新装備ね。台車に載せられるぐらいの大きさだなんてね」
一夏「それはそうですよ。『ブルー・ティアーズ』のショートブレードの代用品として用意させたものですから」
セシリア「え?」
一夏「中身はFN P90のようなPDWをIS用に改良した代物です。誘導兵器による迎撃を前提として展開性と威力を重視したモデルです」
一夏「待望の迎撃用兵器と実弾兵器ってわけですよ」
鈴「なんで そんなこと知っているのよ、あんた……?」
一夏「だってそりゃあ、その武器を注文したのは私ですから」
一同「――――――!?」
一夏「大したことじゃありません。スポンサーのコネ伝いに英国の“スポーツ用品店”に生産を依頼しただけです。弾もコストパフォーマンスに優れたものなので心配なさらず」
一夏「基本の立ち回りはあくまでも『ブルー・ティアーズ』による撹乱・迎撃――――でも、これで少しは変わってくるでしょう?」
一夏「(それと、俺が頼んで爺様の口添えをしてもらって無理やりサイドアームとして認めさせたんだけどね。コネの力は偉大である)」
一夏「お気に召すと嬉しいです(正直、“物騒なもの”なのか、“スポーツ用品”なのか曖昧で複雑なプレゼントだ…………)」
セシリア「私のために!?」ブワッ
セシリア「ありがとうございます……」
鈴「あんた、随分とセシリアに優しいじゃない……」ジトー
一夏「…………そう感じるのは“ある”人の余裕と贅沢だよ」ボソッ
鈴「え?」
一夏「さて、私に休みはない! さあ、日本の夏を楽しもう!」
一同「おおお!」
――――――とある孤島
鈴「一夏ぁ! 早く早く!」
一夏「ああ…………」ゲンナリ
一夏「(なんで こんな目に遭うんだあああああああ!)」
一夏「(そして、何故 鈴はあんなにも元気なんだぁ…………)」
状況を一言で示すならば、4日間の無人島におけるサバイバル訓練であった。
もちろん、これは俺のスポンサーが訓練と称して実施している、俺と『白式』の経験値稼ぎであった。
いろんな体験をするのは結構なことだが、いくら何でもISと最低限の装備しか認められていないのはどうかと思う。
一応、宝探しとして生活物資はこの無人島に隠されているのだが…………。
一夏「焦るなよ…………まずは無人島の輪郭を把握してこの白地図を埋めるぞ」
一夏「宝探しは後だ。図鑑によれば、森の中には蛇なんかも生息しているらしいからな……」
鈴「ちょっとぉ! それを先に言ってよ!」ドタバタ
一夏「何とか夕暮れまでに島を1周できたな」
鈴「ISを使えばあっという間だったじゃない……」ゼエゼエ
一夏「おいおい、この程度で音を上げちゃいけないぞ。最初の威勢はどうした?」
一夏「それじゃあ、最初のお宝のテントをありがたく使わせてもらおう(きっとお情けだな…………うん、俺だけだったら絶対に無かった)」
鈴「うん!(せっかく4日間も一夏を独占できるんだから、弱音なんて吐いてられないわよ!)」ニッコリ
パチパチパチパチ・・・
一夏「さて、明日から本格的に食糧やら何やら確保しないとな…………」
鈴「図鑑もあるんでしょう? なら、私にまかせなさい!」
一夏「じゃあ、頼んだぞ、鈴。幸い砂浜を拠点にしているから、出かける時は伝言板にしよう」
鈴「わかったわ」
鈴「…………ところで、一夏?」モジモジ
一夏「何?」
鈴「その……、一夏はテントに入らないの?」ドキドキ
一夏「野宿には慣れてる。それに、そのテントに二人はキツイだろう? 暑苦しくて眠れないぞ?」
鈴「――――――ダメよ!」
一夏「え?」
鈴「あ……、その、私が安心できないのよ……」
一夏「………………」
鈴「あ……、ごめんなさい。忘れて――――――」
一夏「わかった」
鈴「え、いいの!?」
一夏「だが、覚悟しておけよ。4日間を満足に生き抜くために――――――」
鈴「うん! まかせなさいよ!(や、やったぁ!)」ニコニコ
一夏「こういう時、ISスーツに着替えられるのは便利だな」
鈴「そ、そうね……」ドキドキ
一夏「緊張してるの?」
鈴「そ、そんなことないわよ!」
鈴「ほら、その……、私たちは幼馴染なんだから――――――(あ…………)」
一夏「そうだな」
鈴「(な、なんでこんなことしか言えないの、私…………)」
一夏「(ISスーツは量子変換されて 常時 着替えられるのは利点だけど、出し入れのエネルギー消耗が激しいのが難点だから、一度 取り出しておく必要がある)」
一夏「(――――――それはいいんだ!)」
一夏「(だけどこれは、ダイバースーツのようにピッチリと締め付けるから
一夏「(それに朝勃ちした時、どうなるか――――――)」ハア
一夏「(逆に女子用は、身体の輪郭線がはっきりくっきり浮き出るから、こうして狭いテントで密着されたら――――――)」
鈴『何すんのよ! 一夏の馬鹿ああああああああああ!』バキッ
一夏「(おお、怖い怖い! 鈴が眠りに就いたらさっさと抜けだそう…………む?)」ググッ
鈴「…………一夏ぁ」ムニャムニャ
一夏「腕を掴まれてしまった…………しかたのないやつ」クスッ
――――――帰還後
鈴「ふふん、一夏~!」ウキウキ
セシリア「二人共、いったいどちらに?」ムスッ
一夏「無人島で楽しくサバイバルしながら宝探ししてました」
セシリア「ええ!?(無人島で二人っきり――――――)」
鈴「ふふん、いいでしょう? 英国淑女には 到底 真似できない刺激的な日々だったわよ」ニヤリ
セシリア「鈴さん!」イラッ
一夏「いや、鈴さんはこう言っているけれど、テントまであるのに一人じゃ眠れないって駄々をこねてさぁ…………」ヤレヤレ
セシリア「ふぇ!?」
鈴「い、一夏ぁ!?」
一夏「それに、調子に乗って素潜りなんかするから 案の定 溺れて心肺蘇生する羽目にもなった……」
セシリア「そ、それって…………」アワワワ
鈴「あ、あははは…………」ポー
一夏「他にもいろいろあったな」
一夏「夜明け前、一人で花摘みに行けずに私を叩き起こして5歩後ろの茂みで――――――」
セシリア「」
鈴「」
一夏「野宿する時の衣食住で一番後始末に困るのが…………すまない、言い過ぎた」
一夏「…………でも、楽しかったよ」
――――――
一夏「ありがとう。付き合ってくれて」
セシリア「あ……」ポー
鈴「こ、ここここっちこそ、楽しかったわよ!」プシュープシュー)
鈴「そ、それじゃあねえ!」ピュウウウウン
一夏「ああ、また会おう」
――――――屋敷
セシリア「こうしてゆっくりとお話する機会がいただけて本当に嬉しいですわ(待ちに待ったこの日が――――――!)」
セシリア「しかし、一夏さんがこのような邸宅にお住まいとは思いもしませんでしたわ」
一夏「これはスポンサーが“世界で唯一ISを扱える男性”を遇するために用意してくれた別荘ですよ」
一夏「それより、暑かったでしょう? 日本式のティータイムとしませんか」
セシリア「まあ、これが本当に食べ物なんですの!?」キラキラ
一夏「日本の伝統的なお菓子:WAGASHIです。このように見た目の美しさも追求されているわけです」
一夏「あ、安心してください。人工着色料や添加物は一切使っていない純粋な砂糖菓子ですから」
一夏「そして、こちらのお茶は口の中を甘くしすぎないように飲まれるもので、そのままだと渋いだけですので合わせてどうぞ」
セシリア「あの、これは一夏さんが自らお作りになったものなんですか?」
一夏「え? なんでわかったの?」
セシリア「素晴らしいですわ! ですが、その前に――――――」テマネキ
一夏「?」
セシリア「ほっぺにソースが付いていますわ」チュッ
一夏「あ…………!」ドキッ
セシリア「…………甘い」ウットリ
一夏「ああ……、ありがとうございました」
一夏「それでは、こちらの串を使ってください」キリッ
セシリア「あ、あの…………」モジモジ
一夏「あ、そうか。こういうところの作法がわからないか……」
一夏「それでは、この水羊羹から」
一夏「このように、和菓子は十分に串で裂くことができるぐらいの柔らかさでありながら、しっかりと指して口元に運べるぐらいの固さがあります」パクッ
一夏「そして、口の中が甘くなりすぎたと思ったら、茶を飲む」ズズズ
一夏「わかりましたか?」
セシリア「一夏さん、おすすめの品はどちらになるのでしょうか?」
一夏「む? そうですね、この赤・白・緑の菱餅なんかいいですよ」
セシリア「あ~ん」
一夏「では――――――(あれ? 何だ この吸引力…………)」
セシリア|パクッ
セシリア「ふわああああああああ!」(ヘブン状態)
一夏「ど、どうだろう?」
セシリア「お、美味ひいですわぁ……うふ、うふふふふ……」ウットリ
セシリア「(ああ、口の中に広がる しっとりなめらかの優しい甘さと風味が身体中に満ちていく感じですわ)」
一夏「それはよかった」ニッコリ
セシリア「(ああ、一夏さんの笑顔が太陽のように私に力を注いでくださります!)」
一夏「では、茶をどうぞ(少しぬるめでいいかな。せっかくの感動を熱さで冷めることがないように……)」
セシリア「いただきますわ」ゴク
セシリア「ほう…………落ち着きますわね」
一夏「それはよかったです」
セシリア「私、織斑 一夏――――一夏さん、あなたに会えてよかったと思います」
セシリア「私、ずっと東洋なんて万年後進的な地域だと偏見を持っておりました」
セシリア「しかし、このように洗練された文化に直に触れてみて、どうしてかつての大英帝国がこの極東のサムラーイたちと同盟を結んだのかよくわかりましたわ」
セシリア「日本の紳士は英国の紳士にも劣らぬ気高さと優雅さを備えているのですね」
一夏「光栄です」
一夏「私も“もう一人のオリムラ”として、その名に恥じない生き方をこれからもしてまいります(――――――財閥総帥後継者としても!)」
セシリア「ああ、一夏さんが眩しい――――――」ウットリ
セシリア「ふふん~」
セシリア「今日は一夏さんといっぱいお話できて、新しい面に触れることができて大満足ですわ!」
セシリア「……あ! 婚約を持ちかけるのを忘れてしまいましたわ…………せっかくの機会が」ドヨーン
セシリア「で、でも今度は、故郷にお招きすることも約束できましたから――――――」
セシリア「うふふふふ…………」ニヤー
――――――縁日
女尊男卑の世の中になっても、道行く人たちの活気に満ちた表情は変わることがない。
その根本にあるものは今も古来より脈々と受け継がれており、文化という形で残り続けていた。
そういうわけで、俺は今の世の中に対してまだ絶望はしていなかった――――――。
観衆「おおおおお!」ザワザワ
一夏「…………神楽舞か」
一夏「そういえば箒との関係も、『あの日』から切り捨てていたんだな」(お忍び中)
一夏「――――――綺麗だな、箒」
一夏「ずっと恥ずかしがり屋な印象しかなかったけど、改めて見ると青春している若い果実だな」
一夏「俺は老けたけど…………」
一夏「ISが存在しなければ、俺も箒もここにずっといて、こうして夏祭りに 毎年 参加していたんだろうな…………」
一夏「人生 何が起こるかわからないな…………」
一夏「だけど、ISの登場で女尊男卑の世の中になっても変わらないものがある」
一夏「その中の尊いものを守るために俺は立っているのだ…………」
観衆「おおおおおおお!」パチパチパチパチ
箒「お前が来てくれるだなんてな…………」モジモジ
一夏「神楽舞――――――、よかった。凄くよかったと思うぞ」
一夏「様になっていて驚いた。女の子らしい格好が似合うようになっちゃって――――――いや、白のドレスが似合っていたんだ。当たり前か」
一夏「相変わらず綺麗でびっくりした」
箒「そ、そうか、ありがとう……」ニッコリ
一夏「いいね、その笑顔。ラウラとは違って、ようやく素直になれたって感じ」
一夏「この前 みんなと一緒に実家で過ごした時、凄く優しい顔をしていたよ」
一夏「――――――素敵だった」
箒「…………よ、よくもそんなことを平然と」カア
一夏「いろいろあったな、この1年…………1年で俺の人生は大きく変わった」
箒「え、1年――――――? 4ヶ月じゃなくて?」
一夏「そうか、この事は誰にも教えていなかったな」
一夏「じゃあ、種明かしをするよ」
箒「種明かし?」
一夏「実は俺さ、去年のオープンハイスクールで千冬姉の慰労に訪れた際にISを動かしていたんだ」
箒「なにッ!?」
一夏「だから、俺は入学するまでにはISを使いこなせていたんだ。もちろん、IS適性が高かったこともあったけど」
一夏「でも、そんなことは些細なことだ」
一夏「箒も『紅椿』を得てどんどん強くなってきているし、スタートダッシュの貯金はもうなくなりそうだ」
箒「それはお前の指導が適切だったからだ。そして、お前に応えたいと思わせる誠意があったからだ」
一夏「わからないもんだな、人生ってやつは…………」
箒「一夏…………」
一夏「俺は人には言えないような秘密をいっぱい抱えて生きている」
一夏「でも、これから言うことは真実だ」
一夏「俺は今、こうしてIS学園に入れてよかったと思ってる」
箒「ど、どうして……?」
一夏「――――――そこに“篠ノ之 箒”がいたからだ」
箒「…………え!?」ドキッ
一夏「もし入学当初“織斑 一夏”として接してくれる人間がいなければ、きっと今には繋がらなかった」
一夏「社交界の豚共を相手にするのと同じ感じ――――『この雌犬共がぁ!』とか思いながら学園生活を送っていたと思う」
一夏「鈴でもよかったんだけど、最初にいなかったことだし――――――」
一夏「隣にいてくれる――――それだけで救われるってことがあったんだよ」
一夏「俺はその事をずっと“篠ノ之 箒”に感謝している」
一夏「――――――ありがとう、俺のベストパートナー」
箒「…………おお」モジモジ
一夏「ん?」
箒「その…………」モジモジ
箒「――――――一夏!」ポー
一夏「…………?」
箒「私はお前の――――――」ドキドキバクバク
ヒューーーーーン、
パーーーーーーーーーン!
一夏「久々の、花火…………」ジー
箒「あ………」ガッカリ
一夏「ここから照らされて見える街並みにはたくさんの人の営みがあって――――――」
一夏「やがては、目には見えないただの数字を相手に――――――」
一夏「だけど今は、この力を平和的に利用する道を探したい――――――」
一夏「俺は、IS〈インフィニット・ストラトス〉の可能性を示す!」
一夏「見ていてくれ、箒! 俺は世界を変えるぞ!」
箒「まったく一夏は…………」
箒「ああ、私も力を貸すぞ。私もお前のベストパートナーになれたのだからな」
箒「それで一夏。私はお前の…………いや、ここは、」
箒「――――――お前の背中は私が守る!」
一夏「…………そうか」
一夏「そして、変わらぬ誓いを今ここに――――――!」
――――――俺は関わる人全てを守る!
一夏「千冬姉も、箒も、セシリアも、鈴も、シャルも、ラウラも――――――みんなみんな、守ってみせる!」
箒「一夏…………それがお前の強さなのだな(そして、彦星と織姫は再び――――――)」
ヒューーーーーン、パン、パン