――――――IS学園 入学2日目
千冬「これより、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」
一夏「先生、具体的にはどういうものでしょうか?」
一夏「(さて、これになるべきか否か)」
千冬「織斑か。クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会の出席など――――まあ、クラス長と考えてもらっていい」
一夏「(俺が財閥総帥後継者であることが周知されていないことを前提とすると、)」
一夏「(俺としては、総帥後継者の色眼鏡なしに俺個人の実績を立てたいという気持ちがある)」
一夏「(それに、財閥総帥にISドライバーとしての力量は要らない。むしろ、人の上に立つ者として、適切な指導や協力をして成功に導いたほうが価値がある!)」
千冬「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」
一夏「(そうなれば、――――――先手を打つ!)」
一夏「では、代表候補生:セシリア・オルコットを推薦します」
セシリア「わ、私――――――!?」
セシリア「さすがは織斑一夏。こういうのは代表候補生たる私にこそふさわしいことを心得ていますわね」コホン
セシリア「そうですわ! 私はエリート中のエリートなのですから!」
周囲「エー、オリムラクンガイイナー」ザワザワ
周囲「デモ、アノオリムラクンガイッタコトダシー」ザワザワ
千冬「他にはいないのか? いないなら、無投票当選だぞ?」
一夏「さて?」ニコニコ
一同「………………」
千冬「なら、クラス代表者はセシリア・オルコットに決定だ」
セシリア「おまかせください! このイギリス代表候補生:セシリア・オルコット、立派に務めを果たしてみせますわ」ドヤッ
一夏「頑張ってください、レディ」ニコニコ
一夏「(――――――機先を制したな。俺の決定に異を唱える女子は出なかったな。よし)」
一夏「(面倒事は出世欲――――いや、上昇志向の強いやつに任せればいい)」
一夏「(俺はIS乗りにはなったけど、別に『モンド・グロッソ』に出られるような代表操縦者になるつもりなんて毛頭ないからな)」
一夏「(それよりも、ここでセシリア嬢に恩を売っておけば 俺の影響力が更に大きくなる)」
一夏「(まあ、俺のところにお見合いの打診がないぐらいの没落貴族のお嬢だが、社交の練習相手にはなってくれるだろう)」ニヤリ
箒「………………?(何だ? 一夏から違和感を覚えたのだが…………?)」
千冬「………………」
山田「ここまで何か質問はありませんか?」
女子「はい、質問!」
女子「“パートナー”って“カレシカノジョ”の関係みたいな感じですか?」
山田「――――――え!? あの、私には経験がないのでそういうことは……」モジモジ
女子「アハハハハ! カウイイー!」
一夏「うん、こんなもんか(何というか、これが女子校のノリってやつなのか)」
一夏「(貴重な体験だが、ハシタナイというか、な…………)」
一夏「(しかし、ISは“パートナー”ね……)」
一夏「(
一夏「(かつて宇宙開拓用のマルチフォームスーツを空戦用パワードスーツとして利用しているんだからな)」
一夏「(その事実から目を逸らすために、ここの生徒にはそう言っているのだろうな)」
一夏「(『モンド・グロッソ』出場を目指して専心する純粋な競技者は一握りだな、たぶん)」
一夏「(ここを卒業して、いったい何人が純粋なISドライバーとしていられるかな…………)」スタスタ
一夏「箒さん。篠ノ之さん。私と食事に参りましょう」
一夏「どなたかご一緒しませんか?」
女子「イクヨー! チョットマッテー!」
女子「オリムラクン! オリムラクン!」
一夏「ほら、箒さん。せっかく“篠ノ之 箒”でいられるのに、友達がいないままっていうのは哀しいだろう?」
箒「…………確かにそうだが、私は行かない」
一夏「そう言うなって」パシッ
箒「おい! 私は行かないぞ!?」
箒「放せ、ええい!」
その時、箒は軽く一夏の手を払いのけようとしたのだろうが、それが一転して思い切り体当りして突き倒す形になった。
一夏「おっと!」ガシッ
箒「――――――あ(一夏の胸板が…………!)」ボフッ
しかし、一夏は箒の手を自分の身体の後方へと引っ張ることで相手の体勢を崩し、受け流したのであった。
一夏「凄いな、今の! 咄嗟にできたんだろう?」
一夏「総合武術もやってたのか! 腕を上げたな、箒さん!」
箒「こんなのは、剣術のおまけだ(そういう一夏も赤子の手を捻るように軽く受け流したではないか……)」
一夏「やっぱり、箒さんがいてくれてよかった」ニコニコ
箒「あ…………」
一夏「さあ、みんな、食堂へ参りましょう!」
女子「オー!」
箒「(一夏が私の手をしっかりと握ってくれている…………すぐに手が出るようなこんな私のを!)」ドキドキ
一夏「小学1年生の時、剣道場で顔を合わせてから小学4年生までの間柄」
一夏「家族ぐるみの付き合いで、幼馴染で同門――――――しかも、強い!」
一夏「私なんかよりもずっと辛い思いしてきたんだから、“篠ノ之 箒”でいられる今は楽しんでくれよ」
箒「…………その、ありがとう」ニコー
一夏「うん。いい感じだよ。しかし、相変わらず 恥ずかしがり屋だな、箒さん」
一夏「後で記念撮影なんかどう?」ニコッ
箒「え、いいのか!?」
女子「おおおおお!」
一夏「一人ずつお相手するよ」
女子「オリムラクン! オリムラクン! オリムラクン!」
女子「キャー! ワタシモ、ワタシモー!」
周囲「ワーワーギャーギャー」ガヤガヤ
箒「おい、一夏…………」ギリッ
一夏「あらら、騒ぎになってきたな……(いかん、責任持って場を鎮めないと!)」ガヤガヤ
一夏「みんな、騒がないで! えっと、このノートに氏名とクラス番号を『静かに!』記入してくれ!」
周囲「ハーイ!」
一夏「そうそう、私もみんなのこと知っておきたいからね。日時は――――――」ニコニコ
箒「一夏……(一夏が社交界の習慣でああいう振る舞いを日常的にしていると考えると、無性に腹が立ってくる……!)」イライラ
箒「いかんいかん……抑えろ……(せっかく、一夏が私を特別扱いしてくれているのに、何て理解がないんだ、私は……)」ハア
――――――放課後、部活棟内 剣道場
一夏「でえええええええい!」
箒「はああああああああ!」
女子「織斑くん、頑張れー」
女子「織斑くんも篠ノ之さんも凄い」
女子「確か、篠ノ之さんって中学剣道の優勝者なんですって」
女子「そして、あの篠ノ之博士の妹さんなんだってね」
箒「――――――」ピクッ
一夏「――――――!(――――――隙ありだ!)」
その瞬間、一夏は箒の竹刀を巻き取るようにして吹き飛ばした。
箒「――――――!(し、しまった!?)」
一夏「突きぃ!」
箒「くっ……(まさか巻き技を使うだなんて思いもしなかった…………それにこの突きの速さ! ――――――昔よりも格段に強くなってる!)」
そして、一夏の放った突きは無防備な相手の喉元目掛けて一直線に寸止めしていたのであった。
一夏「勝負ありだな」
箒「ああ、悔しいが私の負けだ」
女子「おおおおおお!」パチパチパチ
一夏「………………」ジー
箒「な、何だ、一夏?」
一夏「気にしているのか、――――――束さんのこと」
箒「そ、それは――――――いや、違う…………ただ単に勝負に集中できなかった私の負けだ」
一夏「…………そうか」
一夏「みんな? 応援してくれるのは構わないけれど、一対一の競技では些細な事が命取りになるから、見守るだけにしておいてね」
一夏「――――――お願いだよ」
女子「ハーイ!」
箒「………………」ハア
一夏「(これは 相当 重傷だな…………しかたない!)」
一夏「明日もまた一緒にやろう。な?」ボソッ
箒「…………一夏」
一夏「本当は 結構 危なかったんだ。俺はその、セレブの世界に移り住むまでは帰宅部だったからさ」
一夏「継続して剣道してた箒と比べると基礎体力が、ね?」
一夏「だから、箒に遅れを取らないように俺は頑張るよ。箒はどうなんだ?」
箒「そ、そうか……(明日も一夏と二人っきりで稽古ができるのか……!)」ニヤー
箒「ふふ――――――な!?」
一夏「よかった。こんなことでしか励ませなかったけど、箒が喜んでくれて」ニコニコ
箒「くぅうううう」
一夏「それだけ強いんだったら、ISの方もお願いしてもいいかな?」
箒「え?」
――――――後日のアリーナ
一夏「さて、偽装のために
一夏「来い、『白式』!」
一夏「うん、懐かしいというか、動きが鈍いというか……」
一夏「どうだ、箒? 入試以来の『打鉄』の乗り心地は?」
箒「まあまあだ。それよりも、訓練機の使用許可を取り付けてくれてありがとう、一夏」
箒「だが、知らなかったぞ、一夏。お前が専用機持ちだっただなんて」
一夏「俺も『打鉄』で良かったんだけど、俺が“特別”だからさ、データ取ってこいって宛てがわれているだけさ」
箒「そ、そうなのか。なあ、一夏?」
一夏「何、箒?」
箒「来月の学年別個人トーナメントに参加する気はあるのか?」
一夏「たしか、IS学園の
一夏「……どうだろうな? 特に考えてないよ」
一夏「箒だけには教えたけど、俺はセレブだからISドライバーとしての大成なんて考えていない」
一夏「ここにいるのはセレブの社会勉強の一環だからな」
一夏「それに、目立ちすぎるとマスコミがうるさいし…………ここの熱心な新聞部の人を見ればわかるだろう」
箒「そうか。でも、稽古はしてくれるのだろう?」
一夏「もちろんさ。自分や身近な誰かを守れるぐらいの強さっていうのは磨いておいて損はないからさ」
箒「そ、そうか……」テレテレ
一夏「それじゃ、基本動作からやってみようか」
箒「ああ!(一夏と二人だけのIS予習かぁ!)」ワクワク!
一夏「やっぱり、こうしてみると生の戦いとは大違いだな」
箒「そうだな。直感的に動かせるのはいいが、足を地につけていない感覚がな……」
一夏「生の戦いとの違いはそれだけじゃない」
一夏「この『白式』と『打鉄』とでは重量差があるから、まともにやりあったら俺の『白式』が打ち負かされる可能性が大きいんだよな」
一夏「現実でフライ級とヘビー級とではどちらが勝つかなんて火を見るより明らかだろ? 格闘戦において重量は大切だ」
一夏「俺の機体はスペックから判断するに高機動戦法を持ち味としているから、これまたリアルとは違った戦い方をしないといけない」
一夏「まあ、剣道とは違って居合術のように『斬り捨て御免!』な戦い方になるだろうから俺の性にはあっているかな」
箒「なるほどな。そうなると、人類最初の第1世代型IS『暮桜』と似ているな」
一夏「――――――!」
一夏「そうだな、たしかに織斑 千冬の『暮桜』も剣1つでの高機動戦闘で『モンド・グロッソ』を総合優勝したっけな」
一夏「おお、何だか愛着が湧いてきたぞ! まさか千冬姉の機体と接点があっただなんて!」
一夏「雪片弐型――――――偶然かと思っていたけど、姉弟揃って同じ特性の機体か」
箒「嬉しそうだな、一夏」
一夏「あの“ブリュンヒルデ”と同じだなんて言われたら、誰だって感じるものあるだろう?」
箒「そうだな」
一夏「よし。今日のところはこれでいいだろう。明日からよろしく」
箒「ああ、まかせておけ!」
セシリア「アリーナの下見に来てみましたけれど、驚きましたわ」
セシリア「まさか織斑 一夏、あなたも専用機持ちだっただなんて」
一夏「あ、セシリアさん」
セシリア「なるほど、道理で篠ノ之さんの訓練機の使用許可が下りたわけですわ」
セシリア「織斑 一夏。もし、訓練の相手が不足しているなら、この私と一緒に訓練しませんこと?」
箒「――――――な!?」
一夏「いいですよ」
箒「え!? おい、一夏!?」
一夏「ただし、私も箒さんも格闘機乗りなので、そちらの遠距離射撃型IS『ブルー・ティアーズ』のお相手が務まるようには思えませんが?」
セシリア「別に構いませんわ。今年の入学生で専用機持ちは私とあなたと、誰だったかしら――――
一夏「なるほど。まあ、普通は直感的に動せる『打鉄』を選ばざるを得ないから、学年別個人トーナメントは『打鉄』だらけになりますね」
セシリア「そうですわ。ですから、誰が相手になっても変わりませんの」
セシリア「それならば、早期にISの訓練に励んでいるお二人と訓練するのがベストかと思いまして」
一夏「わかりました。それで手を打ちましょう」
箒「おい、一夏!」
一夏「では、私たちは一通りの動作を確認し終えたので、――――――ごきげんよう」
セシリア「はい、明日からお願い致しますわ」
箒「これはいったいどういうことだ、一夏!」
一夏「箒、放課後はセシリアを交えての訓練になったから、箒と“二人っきり”の稽古は時間を変えよう」
箒「“二人っきり”――――――あ、そういうつもりなら、別に構わないが」
一夏「えっと、部活棟の開放時間は5時からだな」
一夏「よし、朝練にしよう。気持ちいい汗を掻いて いい一日にしようぜ」
箒「それなら異論はない(しかし、何だかいいように丸め込まれた気分だな……)」
一夏「そうだ。さっき なんでセシリアとの訓練を引き受けるか 説明していなかったよな」
箒「いや、それはわかっている。代表候補生から操縦技術を学ぶためだろう?」
一夏「まあ、訓練っていうのは上手いやつから学ぶのは鉄則だよな」
一夏「だけど、それだけじゃないんだ、箒」
箒「そうなのか?」
一夏「もちろん、俺自身もセシリアとはより良い関係を持ちたいと思っている」
一夏「だけど、押し付けがましいけど――――――、」
一夏「箒には俺を通して友達を作っていって欲しいんだ」
箒「一夏…………」
一夏「だって、せっかく“篠ノ之 箒”でいられるのに、それを覚えてくれている人が誰もいないだなんて哀しいだろう?」
箒「一夏……(何故だろう? 一夏はあの手この手、私のために手を尽くしてくれているのにイライラが止まらない)」
箒「(それに、調子が狂わされるというか…………)」
箒「(セシリアもどうやら一夏に興味を持ち始めたようだし――――――)」ムカムカ
一夏「………………」
一夏「あ、そうだ。他にも言っておくことがあった」
一夏「はい」ドサッ
箒「な、何だコレは!?」
一夏「お見合いのリストだよ。俺と許婚の関係になろうとしている女たちの」
一夏「まあ、ほとんどは国内のセレブからが多いんだけど、中には海外からのものもあってね」
一夏「――――――その中に
箒「は?(それはつまり――――――?)」
一夏「………………」ハア
一夏「…………ごめん。お節介が過ぎたな」
箒「あ、一夏?」
一夏「俺、意外と焦ってんだな…………社交界の洗礼を浴びた後、こうしてヒミツの花園に居るとさ、いろんなことに怯えないといけないからさ」
一夏「ごめんな、巻き込んで。止めるんだったら、止めてもいいぞ?」
箒「ちがう! そんなつもりじゃ――――――」
一夏「ちょっと飛ばし過ぎた感がある」
一夏「稽古も訓練もする。だけど、気持ちが落ち着くまであまり干渉しないことにするよ」
一夏「困ったことがあったら、“箒の方から”遠慮無く言ってくれ。力になるからさ」
箒「あ、ああ、わかった」
一夏「それじゃ、食堂に行こう(これで箒は自分から動くしかなくなる……!)」
一夏「(そうなれば、積極性が増して友達が増えて、……いけばいいな)」
箒「(そうか、一夏の方も私との適切な距離感が掴めなくて苦悩しているのだな……)」
箒「(なら、私も変わらないといけないな…………)」
一夏「(ダメだな。セレブの世界の感覚が抜け切れなくて――――――それどころか、俺が変わり過ぎて箒から拒否されている感がある)」
一夏「(しばらくは経過を見守るしかないが、信頼を勝ち取るにはまだまだ時間がかかりそうだ……)」ハア
――――――休日
パシャパシャ
カメラマン「はい、オッケーです!」
女子「ありがとね、織斑くん!」
一夏「うん。それじゃ、写真はちゃんと寮に送られるからね」
一夏「………………」フゥ
一夏「えっと、次の方は――――――いない!」
一夏「終わりです。ありがとうございました!」
一夏「いやあ、さすがに数十人と連続で相手するのは疲れたなー」ゴクゴク
一夏「お、箒からメールだ。――――――喜んでくれているようで何よりだ」
爺様「ほほう、最初にやることがこれか」
一夏「じ、爺様――――――いや、会長!?」
爺様「様子を見に来てやったぞ、孫ぉ」
一夏「今日は父母参観じゃないですよ」
一夏「……俺が入学したことへのアフターフォローに来たってところですか?」
爺様「まあ、そんなところだ」
一夏「会長がIS学園に多額の出資を行っているから、俺への対応が色が良すぎて困ってます」
一夏「俺が訓練の相手が欲しいからISの使用許可を求めたら、即座に許可が下りましたし」
爺様「で、どう思う? ――――――ここ、IS学園について」
一夏「…………そうですね」
一夏「やっぱり、公正中立のIS学園も金の力には逆らえない――――『誰かの思惑に流されるNGOなんだなー』と思いました」
一夏「そして、…………アラスカ条約の精神に則って軍事利用禁止の思想が根付いているのはひしひしと感じられました」
一夏「何というか、日本国憲法に対する戦後生まれの感性と似ているって感じです」
一夏「けど、外部から育てられて派遣されている代表候補生の機体を見ればわかる通り、ISには最新鋭の兵器がゴマンと搭載されています」
一夏「明らかに軍事利用されているのにスポーツだと言い張る姿勢に、」
一夏「世界で唯一のIS専門の教育機関を日本に設置したのは正しい判断だったと感心せざるを得ませんでした」
爺様「そうだな。開発されたのが日本だったからという理由もあるし、そういうネジレた許容の仕方をできたからとも言えるな」
爺様「ISの軍事利用の件で一番に揉めたのは他でもない我が国だったからなぁ」
爺様「『白騎士事件』以来、日本の世論は自衛力拡大に一気に傾いたぁ」
爺様「その一方で、平和憲法の精神に則って、ISの開発の凍結及び破棄を篠ノ之博士に突きつけられたが、大人の事情で取り消された」
一夏「――――――大人の事情ですか」
爺様「ああ、大人の事情だぁ」
爺様「最終的にアラスカ条約で軍事利用の禁止と開発国である日本が独占している技術の公開を義務付けられ、」
爺様「こうしてISは表向きは健全なスポーツとして普及していったというわけだ」フゥー
一夏「タバコはマズイんじゃないの、会長」
爺様「気にするな。後先短い老いぼれのすることだ」
爺様「まあ、ISの登場によって世界的に軍縮が進み、その一方で我が国は自衛力の強化に繋がって、」
爺様「総合的に見て ISの登場で一番得をしたのがまた他でもない我が国だ。冷戦の時と同じだな」
爺様「スポーツ用品の開発生産という名目で、純国産の兵器を以前よりも堂々と開発生産できるようになったのだからなぁ」
爺様「そして、国際IS委員会によるISのコアの割り振りでは確実に我が国が一番多く割り振りされるようになっている」
爺様「まさに、ISとは戦後の日本に突きつけられた安全保障政策の答えの1つだったというわけだ」
一夏「女性にしか扱えないと言っても、それだけですからね」
爺様「掴みは上々のようだな」
一夏「ええ。ここはまさに現代社会の縮図ですね。男女比がおかしいですけど、社会勉強の場としては最高です」
爺様「――――――で、
一夏「は、はあ!? 爺様ぁ!?」
爺様「後継者がいないのは先々で大きな問題だからなぁ」
爺様「で、居たのか? 孫よぉ?」
一夏「今ここで見つけなくてもいいじゃないですか! 下手したらスキャンダルものですよ!」
一夏「世間的には女尊男卑の風潮なんですから、財閥総帥といえどもただではすまされませんよ!?」
爺様「はっはー! 少しからかってみただけだ。気にするな」
一夏「…………爺様(そう言って新しいお見合いのリストを寄越すのかよ)」
爺様「さて、おしゃべりが過ぎたな。ではな、孫ぉ」
一夏「…………お達者で、爺様」ハア
一夏「財閥総帥の跡取り息子としての勉強も続けているし、社交パーティにだって出なくちゃいけないけどさ……」
一夏「もうちょっと今の生活を楽にしたいな……」
一夏「――――――近々 故郷を歩いて回ろうかな」
一夏「『あの日』から捨て去った、――――――なんて小さな世界」
一夏「俺も 跡取り息子ではない“織斑 一夏”としていられる 今のうちに――――――」
――――――週明けのアリーナ
一夏「さて、今日は実際の試合の流れを把握するためにハンガーから出撃して帰還するまでの流れを確認しよう」
一夏「アリーナの空間の広がりを把握するための飛行訓練も兼ねる。明日の実習で専用機持ちがやることになっているからな」
箒「わかったぞ、一夏」
一夏「そして、余裕があればダメージを把握するために掛り稽古もしてみよう」
一夏「じゃあ、セシリアの方はすでに準備できているようだから、行ってみるぞ、箒」
一夏「来い、『白式』!」
セシリア「私のお誘いを受けてくださって感謝しますわ、織斑 一夏」
一夏「いえいえ、代表候補生のあなたから指導していただけるのは光栄です」
一夏「――――――と、まだ空を飛ぶのには慣れない、箒さん?」
箒「先週の1回だけではまだ何とも…………」
箒「それよりも一夏、お前は本当に初心者なのか? かなり手馴れているではないか」
一夏「IS適性の高さ――――――いや、私と『白式』の相性がそれだけいいってことなんでしょうね」
一夏「でも、ISは直感的な操作なので、俺と同じく箒さんもおそらくすんなり上達していくと思いますがね」
一夏「では、まずは着陸してみましょうか」
セシリア「ふふふ、見ていてください、織斑 一夏」
ヒュウウウウウウウン
セシリア「どうです?」ドヤッ
一夏「お、急降下と完全停止ですね。あれは低空飛行の移行や叩き落とされた時の復帰に使う技術ですね。さすが代表候補生」
一夏「私たちは無理せずに安全に着陸するために完全停止を心掛けて降下しましょう」
一夏「では、見ていてください」
箒「わかった(しかし、一夏が公衆の面前では『私』に『さん付け』、『敬語』と言うのは何とも違和感があるものだな……)」
ヒュウウウウウウン
一夏「1,2,3! はい、こんな感じだね」シュタ!
セシリア「お上手ですわね」
一夏「ありがとうございます」ニコッ
箒「………………」イラッ
一夏「よし、箒さん! ゆっくりでいいから完全停止のやり方を忘れずに!」
箒「よし、行くぞ!(――――――降下!)」
ヒュウウウウウウン
箒「――――――は?!」
一夏「――――――危ない!」
セシリア「織斑 一夏!?」
箒は一夏の言われた通りに余裕を持って降下するつもりだった。
しかし、代表候補生であるセシリアへのちょっとした対抗心から、意に反して急降下を行ってしまったのだった。
とてつもない加速で 落ちるよりも早く地表へと転落していく中で 箒は思わず目を覆ってしまう。
一夏「ぐぅううう…………!」
一夏「はあ……よかった。絶対防御で守られているとは言え、心までは絶対防御されていないからな。トラウマになったら大変だ」
一夏「怖くなかったか、箒さん?」ニコッ
箒「――――――は!(い、一夏の顔が、こ、こんなにも近い!?)」カア
しかし、織斑 一夏は迅速に対応して落下の衝撃を和らげていた。
一夏の『白式』は圧倒的な速度で迫る箒の『打鉄』の勢いに圧されて地面に激突したが、驚くことに土煙が舞うことなく穏やかに地面と激突したのだ。
一見すると地味だが、とてつもなく高度な機体制御の技術であった。
何故なら、衝突による強い力を引き受けて相手を優しく受け止めた一方で、大地に接触した時の反作用を受け止めた相手に返さないようにしたのだから。
セシリアは専用IS『ブルー・ティアーズ』が空中で狙撃するために機体制御を重視した運用をしているためにその凄さをよく理解できた。
そして、物腰柔らかく寝そべる貴公子の上に乗りかかる乙女の図は、すぐ側で見ていたセシリアの心を捉えて放さなかった。
セシリア「――――――あ」ポー
箒「うわあああああああああ!」ドタバタ
一夏「よっこらしょっと」
一夏「ISの欠点は、脳波コントロールだから計器を見ながら速度調節がしづらいことに尽きるよな」
一夏「自動車教習のように恐る恐るメーターをチラ見しながら加速することができないんだもんな」
一夏「こればかりは、
一夏「俺たちは他の生徒よりも時間があることだし、丁寧に技術を習得していこう、ね?」ニコッ
箒「あ、ああ…………」ドキドキ
一夏「セシリアさん、今度はアリーナを旋回してみま――――――セシリアさん?」
セシリア「――――――あ、はい!」ドキッ
一夏「……どうした?」
箒「………………」ドキドキ
セシリア「………………」ポー
一夏「――――――訓練! 訓練中ですよ!」
箒「あ、すまない!」
セシリア「ご、ごめんなさい!」
一夏「うん…………?」
一夏「どうします? 模擬戦までやろうとは思っていたんですけど、中止にしますか?」
一夏「ISは脳波コントロールだから――――――いや、ISに限らず、精神状態が安定しないのならば安静にすることが一番です」
一夏「二人共、ピットまで帰れますか? 私はこのまま明日の飛行訓練に備えて続けますけど」
一夏「(――――――いや、ここは様子を見るか)」
一夏「それじゃ、後のことは自己責任でお頼みしますよ?」
箒「あ、うん…………」
セシリア「…………はい」
一夏は飛んだ。
財閥の提供で獲得した専用IS『白式』は入学前から乗りこなしていたとは言え、一夏の思うがままに飛んだ。
そして、財閥がスポンサーのISドライバーになってから漠然と“ブリュンヒルデ”織斑 千冬を目指していた。
一夏と『白式』が描く軌跡は変幻自在であった。それは誰の目から見ても初心者のそれではないことを理解させるに足る流麗なものだった。
一夏「早く
セシリア「あ、あの、織斑 一夏!」
一夏「おや、セシリアさん。大丈夫なんですね?」
セシリア「は、はい!」
セシリア「そ、それであの――――――」モジモジ
セシリア「この私の『ブルー・ティアーズ』と、あなたの『白式』でワルツを踊っていただけませんか?」
一夏「――――――わ、ワルツ?(社交ダンスをISで!? というか、何故それをやらないといけないんだ?!)」
セシリア「ダメですか…………」ショボーン
一夏「ああ……(こ、これはどういう意図があるのだ? あまりにもぶっ飛んでいて理解が追いつかないが、――――――チャンスだ)」
一夏「いえ、――――――では、1曲いかが?」ニコッ
セシリア「はい!」ニッコリ
一夏「(…………箒はどうした?)」キョロキョロ
一夏「(ああ、帰っちゃったか…………まあ、本調子じゃないのを重たく受け止める性分だし、帰ったら慰めておこう)」
一夏「これはイギリス代表候補生のISの機体制御の訓練ですか? 洒落てますね?」
セシリア「そ、そうなんですの! あなたは踊れますか?」
一夏「経験があまりありませんが、嗜み程度には踊れるつもりです」
一夏「(えっと、男は左腕を伸ばして、右手は相手の脇の下を潜らせる…………っと)」ガシッ
一夏「(うわ、ISのガントレットがISスーツを直接触れているよ…………だだだだ、大丈夫なのか!?)」
セシリア「よろしくお願いしますわ」ニコッ
一夏「では、軽くシャッセ・ロール――――――え、傾けて?(うわぁ、これ、結構 キツイ! 斜めに落ちながらワルツするとか鬼のような特訓だな、おい!)」
セシリア「お上手ですわ、織斑 一夏」ドキドキ
一夏「あの、どこまで落ちるつもりですか?(ちょっと、さすがにこれは俺でも怖いと思うぐらいだぞ……)」アセタラー
一夏「あれ? もしもーし(微動だにしないだと!? イギリスの新人教育はこれほどまでに完成されていたというのか!?)」
セシリア「(――――――ああ)」(恍惚)
一夏「(ちょっ、テレスピンで加速ついてきたぞ、おい!?)」アセダラダラ
一夏「(物凄い勢いで落ちるぞ!? 何これ、新手のチキンレース!?)」
一夏「(1,2,3、1,2,3…………ああ、止まらない…………!)」
一夏「(ワルツの作法が骨の髄まで染み込んでいるから流れに乗って踊り続けちゃう…………!)」
一夏「(って、もう地表じゃないか! ――――――フィニッシュだ! 早く!)」アセダラダラ
セシリア「――――――」(恍惚)
一夏「ああ、もうぉおお!」ダキッ
セシリア「――――――あ」
一夏「はあはあ…………私の負けです」ゼエゼエ
セシリア「へ? あ、あの…………?(お、男の方の胸板――――――!?)」ドキドキ
一夏「これって地表に落ちるまでどちらがワルツを続けられるかを競うものだったんでしょう?」
一夏「ISの機体制御や度胸、優雅さ――――――気品あふれる英国紳士淑女養成にうってつけの完成された訓練ですね……」ゼエゼエ
一夏「驚きました。こちらは内心ビクビクしながら必死に合わせていたのに、セシリアさんは本当に動じることがなく、優雅で――――――」
一夏「まさしく、エリート中のエリート――――――その真髄をしっかりとこの目に焼き付けました」
一夏「どうか、クラス代表者として頑張ってきてください!」ガシッ
セシリア「――――――と、当然ですわ! 私はエリート中のエリートなのですから!」
セシリア「…………本当はただ、その――――――」ボソッ
一夏「今日はこれで終わりにしますね。それでは、お先に失礼します!」
セシリア「あ…………」
一夏「(いやあ、内心 小馬鹿にしていたけど、やっぱり本物は違うんだな。これが代表候補生。機会があれば、またやってみたいな)」
セシリア「(ああ、織斑 一夏…………)」
セシリア「(――――――って何を考えていますの、私!? 男なんてみんな、父と同じように…………)」
セシリア「(それに、文化としても後進的なオリエントで暮らさないこと自体、苦痛――――――じゃない? むしろ――――――)」
セシリア「ど、どうしてしまったんでしょう、私は…………」カア
――――――平日のとある日
一夏「代表候補生っていうのは、国家や企業と契約して専用ISを提供してもらっている関係上、」
一夏「お呼び出しがあれば、IS学園のことは捨て置いて すぐに馳せ参じる義務があるわけだ」
一夏「俺の場合は、爺様の財閥に所属しているから、今日は平日だけど公欠をもらってこうしてここにいるけれど……」
――――――どうして、実弾を含めた特殊部隊の合同演習に参加させられているんだあああああ!?
一夏「くそ、ISの絶対防御に守られているだけだぞ、――――――俺が“特別”なのは!」
一夏「PICや脳波コントロールがなくちゃ、この実戦装備、めちゃくちゃ重い! アサルトライフル自体が重いのに、弾の1発1発がずっしりと重い!」
一夏「はあはあ…………目標ポイントに到着…………!」ゼエゼエ
爺様「精が出ているようだな、孫ぉ」
一夏「――――――あ、爺様ぁ!? いや、会長ぉ!?」
一夏「ねえ、これはいったいどういうことなんだよ!? 社交界のセレブ、そして ただの学生の俺がどうして硝煙臭い世界に放り込まれなくちゃいけないんだ!」
爺様「許せ。高いIS適性を持ち、こちらの内情を知るISドライバーのお前にしか適任者がいなくてな……」
爺様「それに、様々な意味で“特別”なのだから、やっておいて損はないはずだぁ」
一夏「たしかに そうだけれどさ、俺は人殺しになるつもりなんてない……」
爺様「――――――儂は人殺しだ」
一夏「…………はい?」ゼエゼエ
爺様「誰かによって環境を変えられるということがぁ、すまないと思うことがぁある」
一夏「…………たしかに直接的に人を殺めることはなくても、生きる希望を失わせて悲惨な末路を辿らせることも罪だと主張することは容易いよな」
一夏「それが、人の上に立つ者ならば尚更…………」ゼエゼエ
一夏「それで、『白式』のデータだけならともかく、今回の演習における俺のデータまで取って何をするつもりなのさ?」
爺様「お前のことはただ単に趣味だ。儂の孫がどれほどのものか興味がある」
一夏「…………それだけじゃないように思うけれど」
一夏「あ、――――――小休止は終わり? それじゃ、行ってきます!」
爺様「ああ、気をつけてな」
一夏「…………白々しい」
爺様「フッ」
それから一夏は、平日の2日、山間の廃墟となった街をアサルトライフルを握って駆け回り――――――、
隊長「グレネード!」ポイ
一夏「了解!」ポイ
隊長「よし、3カウントで一斉射だ!」
一夏「了解!(なんで俺が少年兵の真似事をしなくちゃならないんだよおおおお!)」
隊長「3,2,1! 撃てええええ!」
一夏「ええい!(マズルジャンプがキツイ!)」
隊長「よし、制圧を確認! 次のフロアに移動する!」
一夏「リロード、リロード…………あ、間違えた」アセアセ
隊長「何をしている!? 弾倉はこういう順番で交換しろと言ったはずだ、馬鹿者!」
隊長「遊びじゃないんだぞ!」
一夏「申し訳ありません!」
一夏「く、リロード完了!」
隊長「急げ! ウスノロ野郎!」
一夏「(くそ、社交界やIS学園でチヤホヤされてきたから、久々に叱られたのは 結構 堪えるぜ…………)」
特殊部隊の実戦ノウハウを身体に叩き込まれることになった。
おかげで、セレブの御曹司のくせに軍事能力を有するという極めて異質な特技が備わり、
後にIS用の射撃武器を握った時もマニュアルで百発百中の命中率を誇ることになった。
しかし これは、IS学園が始まって2週間も経っていない時期のことである。
果たして、この織斑 一夏が向かう先にあるものとはいったい…………?
セシリア「あの織斑先生? 織斑 一夏はまだ…………?」
千冬「安心しろ。明日には顔を出す。お前はクラス対抗戦に備えてしっかりと準備しておけ」
セシリア「は、はい!」
セシリア「織斑 一夏…………」