――――――シャルル・デュノアの転校から週明け
山田「えっと……、今日も嬉しいお知らせがあります」
山田「また一人、クラスにお友達が増えました」
山田「ドイツから来た転校生の、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです」
ラウラ「………………」
周囲「ドウイウコトー?」
山田「みなさん、お静かに! まだ自己紹介が終わっていませんから」
千冬「挨拶をしろ、ラウラ」
ラウラ「はい、教官」
一夏「(教官――――――それじゃ、この子は千冬姉がドイツに居た時の教え子の一人ってわけか)」
ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
山田「あ、あの……、以上ですか?」
ラウラ「以上だ」
一夏「ラウラさんに質問」スッ
山田「あ、織斑くん」
一夏「あなたは代表候補生ですか? それとも代表操縦者ですか?(この場合、軍人はどういう扱いになるんだ?)」
ラウラ「貴様が、織斑教官の…………」ジロッ
山田「あ、それについては、代表候補生としての転校となっています、織斑くん」
一夏「それじゃ、ラウラさんは 最近 IS業界の注目の的になっている 第3世代型ISの専属ってことなんですね?」
周囲「――――――!?」
箒「ど、ドイツの第3世代型だと…………!?」
セシリア「コンペティションで最強の格付けをされた、あの『シュヴァルツェア・レーゲン』――――――!?」
周囲|ザワザワ
ラウラ「………………」ジー
一夏「………………」ジー
シャル「ど、どうしたんだろう、二人共……」
山田「あ、あの……、ラウラ・ボーデヴィッヒさん?」
ラウラ「――――――少しはやるようだな」
ラウラ「だが、織斑 一夏。これだけは覚えておけ」
ラウラ「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、」
ラウラ「――――――認めるものか」
一夏「そう」ニコー
周囲「――――――!?」ザワザワ
一夏「ところで、ラウラさんも知っているだろうけれど、月末に学園名物の学年別トーナメントがあるんだけど、」
一夏「私は優勝はもちろん専用機持ちが代表操縦者になれるように指導しているから、ラウラさんもどう?」スッ
ラウラ「――――――!」ギリッ
ラウラ「そんなもの、必要ない!」バチン
シャル「織斑くんの手を払いのけた……!(それなのに、全く意に介さない織斑 一夏……)」
一夏「気が変わったら いつでもどうぞ、ラウラさん」
ラウラ「…………私は貴様を許さない! 貴様は排除する」ゴゴゴゴゴ
一夏「ああ、用心するよ」
山田「あ、あの…………」オドオド
千冬「山田先生、転校生のことはこれで終わりだ。さっさと授業に移るぞ」
山田「あ、はい!」
箒「(いったいあの二人にどんな因縁があると言うのだ…………)」
セシリア「(物凄く険悪そうな雰囲気でしたわ。今にも殴りかかりそうなぐらいに……)」
シャル「(織斑 一夏、普段何を考えているかは未だにわからないところがあるけれど、これは一波乱ありそう……)」
一夏「さて、ラウラ・ボーデヴィッヒについて、教官を務めていた千冬姉に訊ねておくか」
一夏「…………先客がいたか」ガチャ
ラウラ「む、織斑 一夏!」ギロッ
ラウラ「よくも、よくもよくも、私の教官を…………!」タッタッタッタッタ
一夏「おおう、怖い怖い…………本職は凄みが違う」ガチャ
千冬「む? 来たか、織斑」
一夏「織斑先生。確認しておきますけど、IS以外の兵器の持ち込みは無かったですよね?」
一夏「俺、お呼び出しで特殊部隊の訓練を受けているといっても、相手は本職だからあっさり殺されそうなんだけど……」
千冬「ラウラが事を荒立てるようなことは私が目の黒いうちはさせん」
一夏「大人しくしていればいいのですが…………」
一夏「しかし、織斑先生も問題児をこうもたくさん抱えて大変でいらっしゃる」
一夏「1組だけ、専用機持ちがこれで4人になってしまった……」
千冬「気にするな。それが私の役目だ」
一夏「最初の1年は代表候補生をクラス毎に一人ずつに分けるのが普通なのに、」
一夏「一人だけ順当に割り振られた鈴がかわいそうだ……」
一夏「俺はまあ“特異ケース”だから、織斑先生が直々に面倒を見ることになったのは互いに承知しているけれど、」
一夏「シャルルとラウラの場合も配慮があってのことなんでしょう?」
千冬「…………まあな」
一夏「シャルルの場合は、俺とコンビを組ませやすくするために同じクラスに編入させた」
一夏「そして、ラウラは、明らかに他では手に負えないから織斑先生が引き取った」
一夏「俺、灰汁の強い専用機持ちを率先してまとめあげようとしてきたけど、織斑先生はどう思いますか?」
一夏「財閥総帥後継者として人の良し悪しを見極め、適切に指導するための訓練として付き合っているけれど……」
千冬「いや、私からは特に言うことはない。それに評判は聞き及んでいる」
千冬「――――――私はお前を誰よりも信頼している。空回りしないようにしっかりと見据えていけ」
一夏「ありがとうございます」
――――――でも、俺はラウラのこと、嫌いです。
――――――ある日のアリーナ
一夏「よし、いい感じだぞ、みんな!」パンパン
一夏「それぞれの機体の長所と短所を把握してから、戦い方が洗練されてきた」
一夏「箒さんの剣筋は戦っていて恐ろしいと思うぐらいだ」
箒「そ、そうか。そこまで私は上達していたのか……」グッ
一夏「元々 身体能力が高いんだから、慣れれば こんなもんだったね」
一夏「セシリアさんも、『ブルー・ティアーズ』の使い方が上手くなった」
一夏「これなら不得意な接近戦も完全な死角には成り得なくなった。迎撃用ミサイルも温存できて自衛力は十分ですね」
一夏「さすがはエリート中のエリートです」
セシリア「もう、そんなにおだてても何も出ませんわよ」テレテレ
一夏「鈴も適切な間合い取りがうまくなった」
一夏「射角が無限なのに頼り過ぎてスピードに翻弄されるということも無くなったし、格闘機として申し分ない」
鈴「ふっふーん。いつまでも昔のままだと思わないことね、コーチ」ドヤッ
一夏「シャルルは、…………言うことないか」
一夏「うん、完成された芸術品だ」
シャル「それだけなのはちょっと不公平……」ムスッ
一夏「え?」
シャル「何でもないよ、織斑くん!」
シャル「はい!」スッ
一夏「え? どうしたの、手なんか出して?」
シャル「僕の操縦技術を評価してくれているならさ、その……」モジモジ
シャル「――――――ぼ、僕と踊ってくれない?」
一夏「は?」
セシリア「シャルルさん!?」ドキッ
鈴「――――――お、踊る? ISで? 男同士で?」
箒「…………一夏、これはどういうことだ!?」ゴゴゴゴゴ
一夏「誰から聞いたのかは知らないけれど、あれは相当キツイぞ……?」
シャル「え――――――う、うん! 僕、自信があるから! 早く、手をとって、コーチ!」
一夏「言っていることの意味が本当にわかっているのか? ――――――男と男だぞ?」
シャル「じ、実は、この前の続きが見たいって声がね……」ドキドキ
一夏「そういうことならしかたがないのかな…………」ガシッ
一夏「(まさか、相手を変えてまたできるなんて光栄だけど、やっぱりシャルルは…………どうしておこうかな?)」
一夏「えと、とりあえず、どの程度のものか見せてもらおうか? 俺はメンズしかできないから、シャルルがレディースになってくれるのか?」
シャル「う、うん。僕、こんな中性的な顔付きで背丈も低いからそれで結構からかわれてね……」
一夏「大変だな、美男子っていうのも……(やっぱり、自分から抱きつきにきてるな…………)」
一夏「1,2,3、1,2,3……(しかし、『白式』の指先は痛いだろうな。仕様変更してもらえないかな……)」クルクル
シャル「………………」ドキドキ
一夏「よ、よし。緩やかに角度を付けて落ちていくぞ(前みたいに身体が鋭角向いて落下していくのはごめんだからな)」
シャル「う、うん…………」ウツムク
一夏「おいおい、社交ダンスは互いの目と目を見ながらするものだぞ?」
一夏「どれくらいのことを要求されたかは知らないけれど、どうする? 前と同じく10秒ぐらいやって終わる?」
シャル「あ、そ、その…………」カア
一夏「とりあえず、軽くやってみようぜ、シャルル」
シャル「あ、うん…………」
そして、一夏とシャルルは踊った。たった5秒とは言わずに、10秒ぐらい。
しかし、ISという無骨なパワードスーツを装着しているのにも関わらず、
それを通り越してドライバーである一夏とシャルルの気品さと華やかさが満ち溢れ、
見る者を一瞬だけ、一瞬にして魅了した、華麗な一時だった。
一夏「はい!」
シャル「あ、はい!」
観衆「おおおお!」パチパチパチパチ
一夏「これで満足してくれるかな?」
シャル「う、うん! いいよ、凄く!」
一夏「そうか(しかし、これでISを使った華麗なワルツが流行しそうだから怖い)」ハア
一夏「――――――は!?」
セシリア「……不愉快ですわね」ゴゴゴゴゴ
鈴「……一夏ぁ?」ワナワナ
箒「……次から次へと見せつけおってぇ」プルプル
一夏「ちょっと待ってください、ね?(か、囲まれた、だと……?!)」
セシリア「私だけの、私だけの、特権が…………」
鈴「あんた、やっぱり男もイケる口だったわけね…………」
箒「許さない! 絶対に許さない!」
一夏「ま、待て!(あ、実戦モードに入っている!? ヤバイ、半殺しにされるううう!)」
一夏「は、実戦モード!? ――――――1機だけ!? (それもこれは――――――!?)」
ラウラ「織斑 一夏ぁ――――――!」カコン、バン、バン
一夏「全機、散開!」
一同「――――――!?」
シャル「――――――あ」
一夏「くっ!(シャルル、何をしていた!?)」ガシッ
一夏「しっかりしろ! ISを展開している間は何が何でも警戒は怠るなって言ったはずだろう!?」
シャル「ご、ごめん、織斑くん……(あ、お姫様抱っこ…………)」カア
一夏「いきなり戦いを仕掛けてくるなんて、見下げ果てたなやつだな……!」
一夏「――――――ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
シャル「あ……(もう終わり……)」
ラウラ「これが貴様の指導というわけか…………」
ラウラ「やはり、貴様は教官の面汚しだ! 万死に値する!」バン、バン
ラウラ「そして、この学園の連中は教官の教えを受けるに足る人間など一人もいない! ISをファッションか何かと勘違いしている!」
一夏「(まあ、俺も学園に対して思うところはあるけれど――――――しかしだな!)」
シャル「織斑くん! ここは僕が盾に――――――(え、前に出て――――――)」
一夏「――――――ッ!」ズバアアアン! ――――――レールガンの砲撃を一刀両断!
ラウラ「…………レールガンを斬り払ったというのか!」
一夏「実力“差”がよくわかっただろう? ここは小手調べということにしろ。これ以上見苦しいことをするなら、織斑 千冬の顔に泥を塗る」
ラウラ「……ふん! 今日のところは引いてやろう!」
一夏「ああ、それでいい。いい子だ」
シャル「………………」ポカーン
箒「いったいどういうことだ、一夏!?」
セシリア「あの方とあなたの間に何がありましたの?」
鈴「まさか、これも話すことができないことなの…………?」
一夏「…………ああ、その通りだ。私はみんなに隠し事をしている――――――だがそれは、関係ないことだ」
一夏「私怨を以って学園の風紀を乱すつもりなら、私は義によって不届き者を討ち果たすまで」
一夏「だから、安心して学園生活をして欲しい。ISに関して質問や要望があるなら、いつでも相談に応じる」
一夏「では、今日は先に上がらせてもらう」
箒「あ、待ってくれ、一夏!」
セシリア「『ISに関することなら』聞き入れてくださる…………」ブツブツ
鈴「ああ、もう! いくら何でも変わり過ぎよ、一夏の馬鹿ぁ!」
シャル「…………僕は何をしているんだろう」
俺とラウラの因縁は他でもない『あの日』から始まっていた――――――
俺は『あの日』から、これまでの全てを捨てて爺様の跡目としての教育を受け、社交界の洗礼を受けていた頃、
千冬姉は俺を救出するために協力してくれたドイツ軍で 1年とちょっとの間 ISの指導を受け持つことになっていた。
その時、千冬姉の指導を受けていたドイツ軍のISドライバーの一人にラウラ・ボーデヴィッヒがいたというわけである。
それ故に、俺とラウラには直接の面識は一切なかった。会ったのは今日が初めて。
しかし、あれだけの恨みを初対面の相手に抱かれていたのは、
ラウラ・ボーデヴィッヒが信奉する“ブリュンヒルデ”織斑 千冬の栄光に止めを刺したのが、『あの日』誘拐された俺だったからに他ならない。
大会連覇は確実視されていただけに、ファンとしては怒りが収まらないことだろう。
『あの日』のことは世間的にはどういう理由かはわからないが秘密にされているので、無知の知ったかぶりが横行したこともあるだろう。
そういうことから生涯“師”と呼び慕うようになった人物の侮辱に対する怒りが禁じ得ないのはわかる。
だから、千冬姉は最初から許してくれていたが、俺はいつか第三者によって『あの日』のことを糾弾されることを覚悟して生きてきた。
許してくれたからといっても、犯した罪は一生ついてまわるのだから。
しかし、そういうやつに限って、その人のことを理解していないことを俺はよく理解していた。
言うなれば、人間性を無視して能力の強弱や経歴の優劣だけで判断するデータマニアの考えであった。
――――――遊び心もユーモアの欠片もないつまらないものの考え。
俺は社交界に行くまで何者でもなかったけど、社交界に出た瞬間に俺は“爺様の後継ぎ”という一面だけでしか見られなくなった。
誰も俺に備わった個性を見ようとはしてくれなかった。求めているのは俺と爺様との繋がりだけ。外付けされた爺様のブランドだけである。
だから、俺は自分を自分として認められるように努力してきた。そうしていることを必死にアピールしてきた。
――――――だから、わかる。
――――――あいつは織斑 千冬を理解しようとしないファンの風上にも置けないやつだと。
ラウラ・ボーデヴィッヒにとって、俺は“ブリュンヒルデ”の汚点なのだろうが、
逆に俺にとっては、アイドルの素顔に失望して憤りを抑えられないキモオタのようなものに感じられた。
とにかく似ていたのだ。俺から爺様に取り入ろうとする社交界の豚どもと、ラウラの抱く憧れや羨望というものが。
そういうわけだから、俺もラウラのことを憎々しげに思っていた。
しかし、だからと言って俺には排斥するだけの理由はなかった。それが許されるほど偉くなったつもりもない。
だから、やり方を変えることにした。
ラウラが俺を好意的になるようにこちらから歩み寄る決心をしたのだ。
基本的によほどの理由がない限りは、敵意を抱いている相手には近寄らないに限るが、
少なくとも俺は『関わる人全てを守る』ことを座右の銘にしているので、IS学園にいる間だけでもそれなりの付き合いにするつもりだった。
そして、これは、――――――他でもない千冬姉への恩返しにもなる。
面倒事はどんどん増えていっているが、今の俺は目標に向かって心が震え、魂が燃え上がっているようだった。
――――――その夜
一夏「なあ、シャルル?」
シャル「な、何? 織斑くん?」ドキッ
一夏「俺はずっと悩んでいたんだけど、シャルルと一緒に考えたいことがある」
シャル「え、何……?」
一夏「ああ、とても重要な問題だ。しっかりと考えておかないといけない問題だ」
一夏「何故なら、――――――お前の家、デュノア社のことだからな」
シャル「へ…………?」
一夏「デュノア社が経営危機に陥っているのは知っている」
一夏「第3世代型の開発に移行できなくて、そろそろコアの割り当てがなくなることを知っている」
シャル「………………」
一夏「訊きたいのは、お前はデュノア社と心中したいのかどうかだ」
シャル「ど、どういう意味かな……」
一夏「――――――いいのか、それで?」
一夏「それでいいのか? いや、いいはずないだろう!」ガシッ
シャル「い、一夏…………」
一夏「――――――親がいなけりゃ子供は生まれない」
一夏「そりゃそうだろうよ! でも、だからって何もしていいなんて、そんな馬鹿なことが…………!」
シャル「ちょっと痛い…………」
一夏「あ、すまない……」
一夏「だけど、お前はこれからどうするつもりだ!?」
一夏「デュノア社は完全に将来性がない。お前の登場でコアの供給停止が先延ばしになったところで――――――」
シャル「…………わからない。僕はデュノア社にとっては時間稼ぎの駒でしかないから」
一夏「――――――満足しているのか、それで?」
一夏「…………それで満足なら これ以上 言うことはないが」
シャル「あ…………」
シャル「…………わかったよ、織斑くん。僕、正直に告白するよ」
シャル「――――――僕はデュノア社に恩義も愛着もないよ」
シャル「――――――僕は本妻の子じゃないんだ。2年前に妾の母が亡くなってから引き取られたんだよ」
シャル「父がIS会社の社長で 僕が女だったから IS適性を検査したら、意外なことに高い適性があって、だから――――――」
一夏「わかった。それ以上は言う必要はない」
一夏「それじゃ、極端な話だけど、――――――頼みがある」
シャル「な、何かな……」
――――――俺に貰われてください。
シャル「え……(そ、それって――――――!?)」ドキッ
一夏「まあ、『結婚してくれ』なんていう不躾な意味じゃないから安心してくれ」
シャル「あ、そ、そうだよね、あははは…………(少し残念…………)」
一夏「優秀で気品のある逸材が野に埋もれるのがいやだから、俺のスポンサーに養ってもらうってことだ」
一夏「あるいは、ISドライバーを辞めて路頭に迷うようなら、俺が養う! それで俺の秘書なり家令なりになってくれ」
一夏「できるならば、俺が卒業するまではISドライバーを続けて欲しいところだけど、どうだ?」
シャル「………………」
一夏「亡命工作なら任せてくれ!」ペラペラ
一夏「――――――IS学園特記事項」
本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。
一夏「つまり、この学園に居れば、少なくとも3年間は大丈夫ってことだ」
一夏「その間に、選ぶべき道を選んでくれ」
シャル「凄いんだね、織斑くんは。特記事項なんて55個もあるのに」
一夏「これぐらいは誰かの人生を救えると思えば、容易いことさ」
シャル「そうなんだ」
シャル「織斑くん――――――僕、一夏って呼んでもいい?」
一夏「答えは決まったようだな」
――――――僕のこと、貰ってくれてありがとう。
シャル「本当のことを話したら、気が楽になったよ」
一夏「よくぞ決心してくれた! 俺は生涯の友を得たぞー!」
シャル「約束だよ……?」
一夏「ああ、見捨てはしない……!(これから大変になるな。だけど、俺は財閥の力がなくてもきっと彼女の力になっていただろうな。こんなの、見捨てられるか…………)」
シャル「よかった…………これで一夏と…………」フラフラ
一夏「(だが、デュノア社は知ぃらないっと。いずれ俺やシャルルとも無関係になるのだからな。――――――俺は関わっていない)」
一夏「(そんなことよりも、女子供を政治の道具に使う人間のクズは滅びな……!)」
一夏「(けど、これで俺はシャルルの環境を変えてしまった。初めて環境を変える力を行使してしまった……)」
一夏「(その影響と責任に関してはしっかりと考えぬいたはずだ…………恥じることはない)」
一夏「(気をつけないとな…………力に溺れてしまうから…………)」
シャル「うふふ、あはははは…………」クラクラ
一夏「お、おい!」ドサッ
シャル「ははは…………」プシュープシュー
一夏「――――――凄い汗! 熱もあるようだ。まあ、人生を左右する選択を投げかけたからな。その緊張は計り知れない」
一夏「ともかく、ベッドに寝かせておこう(ん? 何か妙にふんわりとしたようなものが当たっているけれど……、今はそんなことよりも身体を冷やすが先だ!)」
一夏「えっと、冷蔵庫に……、氷枕があった。これにタオルを巻き付けてっと」
一夏「さて、これでいいだろう。食堂のおばちゃんに病人食を用意させないとな」
コンコン・・・
一夏「ん? はい」ガチャ
セシリア「お、織斑 一夏……」
セシリア「いえ、一夏さん!」コホン!
一夏「セシリアさん?」
セシリア「私とご一緒しませんこと?」
一夏「はい、そうしましょう。ちょうど支度を済ませたところですから」
セシリア「…………? あの、シャルルさんはどうなさいました?」
一夏「ああ、シャルルは体調を崩したから寝かせておいたところです」
セシリア「まあ、それはお気の毒に」
セシリア「では、参りましょう!」ガシッ
一夏「お、おお…………(シャルルとのワルツ以来、3人娘が積極的になってきたな……また面倒事に起きそうだな……)」
箒「な、何をしている?!」
一夏「あ…………(早速これかよ…………)」
セシリア「これから、私たち“一緒に”夕食ですの」
箒「だからと言って、腕を組んで密着する必要がどこにある!?」
セシリア「あら、殿方がレディをエスコートするのは当然のことです」ニッコリ
一夏「肩が凝るから体重はかけないで……(そういえば、この感触はさっき体験したような…………)」
箒「それなら、私も付き合おう! 今日の夕食は少々物足りなかったのでな」
セシリア「あらあら、箒さん? 食べ過ぎは体重を加速させますわよ」
一夏「いや、その心配はないでしょう。むしろ、あなたたちの食事量は少なすぎると思うんですが……(……何言ってんだ、コイツら?)」
箒「で、では、参るとするか」ドキドキ
セシリア「箒さん……!? 何をしていらっしゃるのかしら?」イライラ
箒「男がレディをエスコートするのは当然なのだろう?」
一夏「ははは、箒さんとセシリアさんが遠慮のない仲になってくれたのは嬉しい限りですよ。それと、肩が痛い……」
箒「あ……そうだったな」
セシリア「そ、そうですの! 私と箒さんは仲がよろしいですわ」
一夏「(ああ、よかった。とりあえず、箒とセシリアを引き合わせた俺の目的がようやく達成されたというところか。よかったよかった…………)」
一夏「(だが、俺の腕にすがりつくことで双肩にかかるこの重みと煩わしさに、富貴貧賤は関係ない…………)」
――――――食堂
一夏「運動した後は、しっかりとアミノ酸を補給すること!」
一夏「だから、箒さんは豚汁がいいんじゃないかな? 小腹を満たす程度にはちょうどいいはずだよ」
箒「そうか。なら、それにしよう」
セシリア「あの、一夏さん? 私は何を――――――?」
一夏「え? それはセシリアさんのご自由に」
一夏「私は、今日の和食定食をいただくけどね。――――――あ、今日はきんぴらごぼうに焼き魚か」
セシリア「わ、私もそれを――――――」
一夏「やめておきなさい」
セシリア「あ、はい…………」
一夏「お、この焼き魚はプロ級だな」パクパクムシャムシャ
箒「………………」ジー
セシリア「………………」ジー
一夏「……? どうしました?」キョトン
箒「いや――――――」
セシリア「惚れ惚れするような食べっぷりですわね。本当に美味しそうに、そして優雅な姿に私は――――――」
一夏「おお、そうか。それは嬉しいことだ(ようやく和食のきれいな食べ方を実践できるようになったってことか)」
一夏「では、ごちそうさまでした」
箒「あ……、ああ、私も! ごちそうさまでした」
セシリア「これがサムラーイなのですわね」
箒「そうだな。きっとこれが武士の作法なのだろう」
一夏「ははは、大袈裟だな」
一夏「あれ、そういえば箒さんに訊きたいことがあったんだ」
箒「へ? わ、私にか?」
一夏「前に言ったよな?」
――――――学年別トーナメントに優勝したら、付き合ってもらう!
一夏「って」
周囲「!!!???」
箒「な――――――!?」ガタッ
セシリア「箒さん…………!?」ジロッ
箒「こ、これは、その――――――」アセアセ
一夏「『優勝したら』なんていうかなり難しい条件を課した以上、実現できたら私にできる範囲で付き合ってあげますよ」
一夏「ご褒美をねだるなんて、恥ずかしがり屋の箒さんも成長したもんだな」ニコニコ
箒「い、一夏! それはちが――――――」
セシリア「――――――そ、それは本当ですの!?」
セシリア「『優勝すれば』、織斑 一夏――――一夏さん、あなたとお付き合いできるというのは!?」
一夏「うん? なんだ、セシリアさんも何か一緒にやって欲しいことでも――――――うお!?」
周囲「オリムラクン! オリムラクン! ワタシモ、ワタシモー!」ギャーギャーワーワー
一夏「な、何だ、みんな? そんなに私からご褒美が欲しいのか?」
一夏「でも、私でもこれだけの数を捌き切るのは無理だから、ね?」
セシリア「わかりましたわ! 絶対に優勝しますわ!」メラメラ
一夏「お、おう、頑張れよ……」
箒「ふざけるな! あの約束は私だけのものだ!」
箒「いや、私が『優勝すれば』問題ない! ならば、全てを打ち倒すまでのことだ!」メラメラ
一夏「えっと、みんな、期待しているぞ……」スタスタ・・・
一夏「さて、――――――おばちゃん、お粥ください!(みんなが大会に向けてやる気を出してくれたのはいいけど…………)」
一夏「(本当に俺なんかの些細なご褒美でいいのか? どういうことなんだ? 大会景品や名誉よりも俺のご褒美が欲しいだと……?)」
一夏「わからん。どういうことだ……(それだけ俺の影響力が学園中に満ち満ちていったということなのか?)」
一夏「(まあ、釈然としないが、これは喜ぶべきことなのだろう……)」
一夏「(まずは、満足だ。これでもっと行動しやすくなる……!)」
一夏「(でも、何かおかしい…………でも、その何かがわからない…………何なんだ、この現状は?)」
今のところ、織斑 一夏は順調に学園生活を送っていた。
しかし、織斑 一夏は財閥総帥後継者という責任ある立場なので、
曖昧な表現を許されず、はっきりとした言動しか受け取らないように教育されていたために、
――――――今回のような意識のすれ違いが起こっていた。
そして、残酷なことに、織斑 一夏が自身が敬愛してやまない織斑 千冬と比肩する偶像になっていたのにも関わらず、
本人は最初から学園での生活を二の次に捉えていたので、織斑 一夏という存在に憧れや恋心を抱く乙女の心には眼中になかったのである。
――――――学年別トーナメントまで残り数日
一夏「トーナメントの規定が変わったか。――――――タッグマッチか」
一夏「となると、どうしようかな? 誰と誰を組み合わせる?」
一夏「あの4人だったら、どんな組み合わせをしても『打鉄』しかいない即席のタッグなんて一蹴できるからな……」
一夏「だったら、彼女たちに任せることにするか。そして、俺は中立であろう(あれ? 何か大切な要素を見落としているような…………)」
一夏「う~む、しかし、――――――『優勝したら』か。まあ、一人増えたくらい、どうってことないか……」
一夏「それよりも、大会当日は爺様が顔を見せるからな…………」
一夏「その時、シャルルと引き合わせてっと……(何だろう? まだ何か忘れている気がする……)」
一夏「…………考えていてもしかたないか。今日で俺が大会優勝のために指導するのは最後だと告げに行こう」
一夏「よし、急いでアリーナに向かおう!」ピピピピ・・・
一夏「何? こんな時に――――――って、ああ……、やっぱりお呼び出しかよおおお!」
一夏「――――――って違う。これはシャルルの亡命工作に関する計画内容か」
一夏「やっぱり、デュノア社は賄賂を送っていたか…………」
一夏「他にも何か――――――」
――――――アリーナ
鈴「さて、大会まであと数日――――――」
鈴「ライバルたちが最後の悪足掻きをする前に、と!」
鈴「一夏と付き合うのは私なんだからッ!」
セシリア「あら?」
鈴「早いじゃない」
セシリア「てっきり私が一番乗りだと思っていましたのに」
鈴「私はこれから学年別トーナメント優勝に向けて、特訓するんだけど?」
セシリア「あら、私もまったく同じですわ」
鈴「そう」ゴゴゴゴゴ
セシリア「そういうわけですか」ゴゴゴゴゴ
鈴「この際、どっちが上かはっきりさせておくっていうのも悪くないわね」
鈴「そうすれば当日、尻尾を巻いて逃げ出すしかなくなるしね?」ニヤ
セシリア「よろしくってよ。“私の”コーチのご指導の成果をここで披露するのも一興ですわ」
セシリア「そして、今度こそ本当の決着をこの場でつけて差し上げますわ!」
鈴「さあ、準備オッケー!」
セシリア「今度こそ、踊らせてあげますわ! 私と一夏さんによって洗練された『ブルー・ティアーズ』が奏でるワルツで!」
ラウラ「ふん」バーン!
鈴「――――――な!?」
セシリア「こ、これは――――――!?」
ラウラ「相変わらずろくな生徒がいないようだな、ここには」
鈴「ドイツ第3世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』!?」
セシリア「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」
鈴「どういうつもり!? いきなりぶっ放してくるなんて! いい度胸しているじゃない!」
セシリア「そうですわ! あなたはそれでも代表候補生なのですか!?」
ラウラ「ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」
ラウラ「ここしばらく貴様たちの生活を見ていたが、あれで強くなった気でいるのが実に滑稽だったぞ」
ラウラ「貴様たちのような者が、私と同じ第3世代型の専用機持ちとはな……」
ラウラ「よほど人材不足と見える」ニヤリ
鈴「この人、スクラップがお望みのようね!」
セシリア「そのようですわね!」
ラウラ「ふん、二人掛かりできたらどうだ?」
ラウラ「くだらん種馬を取り合うな雌に、この私が敗けるものか」
ラウラ「そして、貴様らを血祭りにあげてあの男の無能さを世に知らしめてやる」
鈴「あんたねぇ! どうしてそこまで一夏のことを目の敵にしているかは知らないけど!」
セシリア「それ以上の侮辱は許しませんわ! ここでその軽口を叩けなくして差し上げますわ!」
ラウラ「さっさと来い」クイクイ
――――――
箒「先に一夏はセシリアと鈴と一緒に第3アリーナに向かったそうだな」
シャル「今日はたぶん、一夏は公平を期すために監督するのは辞めることを伝える気でいるんじゃないかな」
箒「そうだろうな(そういえば、シャルルは“一夏”と呼ぶようになっていたな。セシリアも“一夏さん”と。これは私もウカウカしていられないな…………)」
女子「――――――第3アリーナで代表候補生3人が模擬戦しているって!」
女子「ホントー?!」タッタッタッタッタ
箒「この時期に代表候補生3人って言ったら!?」
シャル「急ごう、箒!」
セシリアと鈴の即席タッグとラウラの2対1の対決は 最強を豪語するドイツ代表候補生:ラウラ・ボーデヴィッヒの圧倒的な実力を見せつけるかのように 単独優勢で進んでいた。
各国の第3世代兵器の単体の性能では、イギリスの『BT兵器』、中国の『龍咆』、ドイツの『AIC』が3すくみのように牽制しあっている。
『BT兵器』は『龍咆』に比べて燃費が悪く、第3世代兵器を代表するように典型的に長期戦に不利な代物で、
『龍咆』は純粋なエネルギー攻撃なので、エネルギーフィールドを展開する『AIC』の前では弾丸の重量による打撃力がないので完全に無力。
『AIC』は集中力次第であらゆるものの動きを封じられるが、『BT兵器』のような流動的でイメージしづらいものに対しては効果が薄い。
よって、この場合だと完全に鈴の『甲龍』はラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』に対して完全に無力であった。
相手の動きを封じるために 精一杯 囮の役割を果たすのがこの対戦における最善の策だが、
仲間のための捨て身の戦法など自分が一番だと送り込まれてきた代表候補生がするようなものではないので、そんなことをする発想自体がない。
そもそも、タッグマッチを想定しての訓練の経験がほとんどない、スタンドプレーを前提とした第3世代型IS乗りの代表候補生ともなればこうなるだろう。
そして、幸運にも『シュヴァルツェア・レーゲン』に対して射撃戦で有効打が与えられることになる『ブルー・ティアーズ』だが、
武器の性能に問題はないが、機体の運用法が長距離精密射撃型なので攻撃するのに一々足を止めてしまうので、攻撃速度に難があった。
最悪なことに、さすが第3世代型IS最強と謳われるだけの中距離両用型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』は汎用武器こそ持っていなかったが、
全6門の宙を自在に舞うワイヤーブレードによって複数を同時に撹乱・拘束できるため、限定的にだが 得意の1対1の直接対決に持ち込むのが容易だった。
『シュヴァルツェア・レーゲン』の強みはこの操作可能なワイヤーブレードによる制圧力と重武装の瞬間火力の高さによる高速で各個撃破する電撃戦にあった。
事実、戦いはまともな連携行動のできないセシリアと鈴を各個撃破するような流れで、均等にダメージを蓄積させていき、
最後にワイヤーブレードで拘束した『甲龍』を『ブルー・ティアーズ』にぶつけるという荒業でまとめて始末する段階まで進んだ。
しかし、ここで咄嗟にセシリアが迎撃ミサイルを射出し、さすがのラウラも対応しきれずに直撃を受けることになった。
観衆も当事者2人もホッと一息つくのだが――――――、
ラウラは軍人としての高い身体能力を発揮してしっかりと防御してダメージとその衝撃を和らげ、爆煙が晴れた瞬間にワイヤーブレードを射出したのだ。
そして、ラウラはここで悪魔の所業に打って出る!
ラウラ「この程度の仕上がりで第3世代兵器とは笑わせる」
ラウラ「そして、体たらくっぷり…………」
セシリア「うぅ…………!(首が絞まる…………!)」
鈴「く、苦しい…………!(く、苦しい……!)」
ラウラ「やはり、私の敵ではないな! 私と『シュヴァルツェア・レーゲン』の前では他の代表候補生など有象無象でしかない」
ラウラ「消えろ」
ワイヤーブレードをセシリアと鈴の首に絞めつけ、あろうことかそのまま相手を嬲り殺しにするために殴打を加えたのだ。
基本的にISは模擬戦モードで運用され、絶対防御のためのシールドエネルギーは 最低限 温存されるようになっているのだが、
このように生体に直接攻撃を加え続けると絶対防御が必ず働くことになり、実戦モード以外では温存される全てのシールドエネルギーがパイロットの生命維持のために使われる。
しかし、それでもシールドエネルギーが使われ続けるなら、いずれはエネルギー残量はゼロとなり、強制解除されることになる。
だが、強制解除されたからといって致命的な攻撃が途端に終わることはない。
原因を取り除かなければ、ISが解除された瞬間に本当の致命打を受けることになるのだ。
ラウラは本当に二人を殺す気であり、あるいは再起不能にするつもりだったのだ。
どよめく観衆。もがき苦しむセシリアと鈴。そして、圧倒的な力の前に無様に乱れていく二人の様を見て悦びに浸るラウラ。
箒「昔の私だ…………ただ暴力を振るうことしかできなかった昔の――――――」
シャル「ねえ、あれって――――――!?」
観衆「!」ザワザワ
――――――そこまでにしておけ、小娘!
――――――声が聞こえた。
ラウラ「――――――っ!?」ビクッ
その瞬間、頭の中が真っ白になった感覚になった。
それによって、『シュヴァルツェア・レーゲン』の動きが止まり、ワイヤーブレードの首締めも緩くなった。
ラウラが予想外の声――――――否、存在の襲来に驚いて振り向くと、
ラウラ「な、何だと――――――!?(いつの間に、シールドエネルギーがここまで…………!?)」
一夏「…………」
いつ来たのか、織斑 一夏は広大なアリーナの中心まで気配を悟らせることなく接近し、ラウラの背後を取っていたのだ。
そして、ISを展開させることなしに雪片弐型から迸る『零落白夜』の青白い光の剣を素手で持ち、
セシリアと鈴の首を絞めるワイヤーブレードを断ち切った上で、流れるようにラウラの首筋に当てていたのだった。
その早業は、かつて模擬戦でシャルル・デュノアを秒殺した時のことを思い出させる一瞬だった。
まさにイナズマのごとき太刀筋だった。ラウラにも周囲の人間にも一瞬で何が起きたのか理解できた人間はいなかった。
一夏「織斑 千冬の名誉を重んじるなら、今すぐISを解除しろ」ゴゴゴゴゴ
ラウラ「――――――っ!?」ゾクッ
ラウラ「く、私がこんなやつに背中を取られるなど…………」
だが、織斑 一夏の表情には多量の汗が流されているのが見て取れ、ここに至るまで全力疾走してきたことを窺わせた。
しかし、そんな状態でありながら息が乱れることもなく、突きつけた光の剣は一切の震えがなかった。その力強い眼差しに一切の曇りもない。
そして、危機を脱したものの 深刻なダメージ蓄積で強制解除されて 力無く床に伏すセシリアと鈴。
一夏「…………間に合わなかったか。すまない」
鈴「い、一夏…………」
セシリア「無様な姿をお見せしましたわね…………」
そして、一夏は今まで見せたことのような暗い表情を二人に覗かせて、すぐにISを解除した力の暴徒と再び向き合う。
一夏「命あっての物種。失ったことよりも遅れを取り戻すことを考えていてくれ」
一夏「この問題は私が解決する。巻き込んでしまったことを許してくれ……」
鈴「あ……」
セシリア「そんなこと…………!」ゴホゴホ
一夏「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
ラウラ「…………私に殺されに来たのか」
一夏「あれ以来 大人しくしてくれていると思ったら、まさか こんな卑劣な手段に打って出るとは思いもしなかったよ」
一夏「私との実力差に驚いて無関係の人間を襲うだなんて、――――――なんてやつだ!」
ラウラ「ふざけたことを抜かすな! 私は負けたとは思っていないぞ!」
一夏「まあ、そうだな。今までのやり方じゃ、何とでも言い訳ができるからな」
一夏「だから、私の方から勝負を仕掛ける!」
ラウラ「ようやく、その気になったか」
――――――お前を倒すのに『白式』は要らない。
セシリア「え!?」
鈴「嘘!?」
ラウラ「ほう? これは面白いことを言う」
――――――私が出るまでもなく、第2世代型ISのデュオで十分だ。
ラウラ「何……? 舐められたものだな」ギリッ
一夏「俺が指導してきた第2世代型のデュオと戦え! 学年別トーナメントで!」
一夏「俺はあの二人が優勝するように全身全霊を込めた! 今は教師の道を進む織斑 千冬と同じく導いた――――――」
ラウラ「貴様! 教官の戦士としての経歴に傷をつけただけじゃなく、指導者としての道にも邪魔立てするつもりか!」
一夏「おっと! お前こそ 代表候補生として ここにいる以上は、無作法は控えろ!」
一夏「それとも、それができないぐらい、お前の教育係は無能だったってことかな?」
ラウラ「くぅ…………」
ラウラ「わかった! 貴様の挑発に乗ってやる! まずは貴様が育てたその二人と戦ってやろうじゃないか!」
ラウラ「織斑教官の教えを賜って部隊最強となった私が、貴様などの教えを真に受けた軟弱者に敗けるはずがない!」
一夏「ああ、ぜひ見せてくれ。織斑教官の教えを賜って強くなった“気でいる”お前の勇姿を」
一夏「ああ、そうだ。大切なことがあった。これは伝えておかないと不公平だな」
一夏「学年別トーナメントはルール変更でツーマンセルになるから、パートナーを見つけておけよ。でないと、ランダムで組まされるから」
ラウラ「必要ない。この学園に居る連中――――――教官の教えを受けるに値しない者たちの力など!」
一夏「そうかい。では、用がなくなったら とっとと失せな。他の利用者の邪魔になる」
ラウラ「貴様の言う2人とは、フランスの第2世代型と、専用機持ちでもない いつも貴様と一緒にいる 日本人の小娘のことなのだろう」
ラウラ「そいつらを排除したら、次は貴様だ!」タッタッタッタッタ
一夏「……行ってくれたか」
一夏「ストレッチャーを――――――ってさすが、織斑先生。早いですね」
千冬「以後、学園別トーナメントまで私闘の一切を禁止する! ――――――解散!」
一夏「あららら…………早急に問題を沈静化させたのに、本番の練習するつもりだった人たち、ごめんなさい、だな」
千冬「すまない……あんなことを言っておきながら、私は――――――」
一夏「――――――いえ、咎を受けるべきは私です」
一夏「私が到着するのが早ければ、セシリアさんと鈴さんはトーナメントに出られたというのに…………!」ギリギリ
一夏「この問題は私とラウラだけの問題――――第三者が何かすれば事態を避けられたとかそういう結果論は何もしなかった卑怯者の言うことです」
一夏「全身全霊を賭けた選択をしたことのないような有識者気取りに、歴史を創ってきた先達たちの悪口は言わせない」
一夏「だから、問題を外部に拡げてしまった私にこそ非があります」
千冬「……お前は大会に出ないが、本当に勝算はあるのか?」
一夏「ありますよ。残ったのが『打鉄』と『ラファール』なら、十分に勝ち目があります」
一夏「たしかに、単機の性能では右に出る者無しの『シュヴァルツェア・レーゲン』ですが、切り札と成る第3世代兵器『AIC』を無力化できれば割りと高確率で倒せそうです」
千冬「まるで2対1で挑むような物の見方だな」
一夏「断言しますよ。ラウラを徹底的に追いかけ回す戦法を使えば、ラウラの方から2対1にしてくれます」
一夏「それに、箒もシャルルも強いですから」
千冬「そうか」
千冬「…………一夏」キッ
一夏「来るか、千冬姉!」キッ
ガキーン!
――――――瞬間、IS用の太刀を互いに部分展開して激突し合った。
千冬「さすがに鍛え方が違う」
一夏「当然!」
一夏「俺は限りある時間を無駄なく使って特化した練習しかしていないけど、」
一夏「“ブリュンヒルデ”を超える訓練だけは欠かさずやってきたんだ」
一夏「でも、その千冬姉も更に強くなっているからな……」
千冬「私も お前と同じように 鍛え方が違うからな」
一夏「いずれ満足に訓練できなくなる日が来てしまうのだろうけれど、俺はこの強さを忘れない!」
一夏「そして、俺が関わる人全てを守るんだ!」
千冬「ああ、それでいい。それで」
千冬「だが――――――」ギロッ
一夏「あ、“織斑先生”、でしたね……」
――――――病室
一夏「(セシリアと鈴を大会不参加にさせてしまったことは俺の失敗だと認める他ないが、)」
一夏「(本当に取り返しの付かない事態に陥ったわけではないので――――――)」
一夏「それよりも、どうしてラウラと戦うことになったんだ? 私はラウラと一切関わるなと言ったはずなんだけどな……」
一夏「これでわかっただろう? ――――――実験機と完成された兵器との差というものが」
一夏「第3世代兵器を搭載しているからと言っても、それは競技用だから通用するのであって、軍事用の機体には遠く及ばないってことが」
セシリア「面目ありませんわ…………」
鈴「でも、あいつ、言っちゃいけないことを言ったから、お灸を据えてやろうと――――――」
一夏「その結果が、大会前に国家の威信を賭けた専用機の中破か……」
一同「………………」
一夏「本当は今日、学年別トーナメントがツーマンセルになったから、好きに組んでもらうことにして、それからは見守るだけにするつもりだった」
シャル「え、そうだったの?」
箒「初耳だぞ?」
セシリア「そ、そうでしたの……」
鈴「そんな…………」
一夏「私も 今日 知ったことだから。とにかく、私が指導したことを活かして、どういう戦略を立てるのか楽しみにしていた」
一夏「けれど、すまない」
一夏「勝手なことながら、シャルルと箒であの『シュヴァルツェア・レーゲン』を撃破してもらいたい」
シャル「――――――!?」
箒「で、できるのか、本当に!?」
一夏「勝算がないんだったら、こんなことは言わない。そんなことさせたら、一生のトラウマを植え付けて選手人生を台無しにしかねないからな」
一夏「それに、戦い方はいくらでもある。勝つだけだったら、あんなのを倒すのは意外と楽だぞ?」
一同「………………」
一夏「私の問題に巻き込んでしまって本当に申し訳ない。トーナメントが終わって落ち着いてきたら、お詫びとしてお付き合いいたします」
一夏「それで許してもらおうとは思いませんが、どうか当初の目的通り優勝を目指して力を振るってください」
一同「(――――――お付き合い?!)」ワナワナ
一夏「………………(やっぱり身勝手過ぎたか。そうだよな、俺は結局この4人を巻き込むことしかできなかった)」
一夏「すまない。忘れて――――――」
セシリア「そ、それは本当ですか!?」
鈴「許してあげるから、その約束 忘れないでよ!」
一夏「は?」
箒「よし、シャルル! 他でもない一夏のためだ! 絶対にあいつを倒すぞ!」
シャル「うん! 一夏にはそれだけの恩があるし、これは絶対に負けられないね!」
一夏「…………ありがとう?」
一同「どういたしまして!」
一夏「それじゃ、決意表明のためにこの参加申込書に名前を書いてくれ」
一夏「それから、――――――対策会議を行う!」
一同「了解!」
一夏「(俺、これでよかったのかな? 失墜まではしないまでも、少しぐらい失望されるものだと覚悟していたのに…………)」
一夏「(でも、俺の代わりにあの『シュヴァルツェア・レーゲン』と戦うのだから、意気揚々であって欲しいと願っていた。これはいいぞ)」
一夏「(スポンサーにはまた迷惑に掛けることになるな、これは)」
一夏「それじゃ、エントリーお願いします」
山田「はい。素晴らしいリーダーシップですね」ニコニコ
山田「それに、意外と似合っていますよ、この写真」
一夏「おっと、場を盛り下げる真似はしないでください」
山田「あ、ごめんなさい。でも、これは――――――」
一夏「トーナメントが終わるまでは取り締まってください。さもないと、…………学園を訴えますよ?」
山田「ご、ごめんなさい。すぐに手配しますね」
一夏「………………」ハア
一夏「まさか、俺とシャルルのダンスシーンを加工した写真が出回っているなんてな……」
一夏「(男の娘だからいいのであって、普通の女の子だと知れ渡ったら阿鼻叫喚ものだな……)」ハア
一夏「(とにかく、約束は果たす――――――!)