落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」   作:LN58

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第2話 学年別個人トーナメント・裏 -Wise Decision of Lord- Cpart

 

――――――学年別トーナメント当日

 

一夏「あれが私のスポンサーだ。顔ぐらいは知っているだろう?」

 

シャル「うん! これが終わったらあの人と話をするんだよね」

 

一夏「くれぐれも慎重に頼む」

 

一夏「そして――――――」

 

シャル「わかっているよ、一夏」

 

シャル「世代の壁が絶対じゃないってこと、僕と箒で証明してくるから!」

 

一夏「ああ。()()()()()()()()()()?」

 

シャル「うん。凄いね、この鼻栓。目立たないようにしっかりと防臭してくれるから」

 

一夏「それじゃ、パートナーとの最終確認をしておいてくれ」

 

シャル「わかったよ」

 

 

一夏「……さて、初戦からラウラと対決することになったか。勝ち上がる手間が省けたからいいけど」

 

一夏「――――――セコンドとして待機しているべきか?」

 

一夏「どうにも、今回のツーマンセルは 前回 中止になったクラス対抗戦の尾を引いているような気がしてならない…………」

 

一夏「また、あんなことが起こるような気がしてならない…………」

 

一夏「それにしても、社交界じゃ顔を合わせることがなかったが、これがIS業界の重鎮たちってわけか」

 

一夏「うん。女尊男卑の風潮だからといって、重役全てが女性じゃないってところが世間とは違うって感じがするな」

 

一夏「おお、爺様の貫禄は凄いな…………俺はあんな感じになれるのだろうか」

 

一夏「悩んでいてもしかたがないか。俺はやれること、やるべきことを尽くしたと思っている」

 

一夏「あとは、結果に任せるしかない」

 

一夏「さあ、戦いの火蓋は切って落とされる…………!」

 

 


 

 

シャル「――――――箒」

 

箒「ああ、わかっている。一夏は私たちに必勝の策を授けてくれた。あとは、私たちがそれをやれるかにかかっている」

 

ラウラ「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

 

ラウラ「自分で戦おうとしない臆病者の身代わりにされたことを後悔するがいい」

 

箒「そちらこそ、そんな調子だと足元を掬われるぞ?」

 

箒「それに、一夏の言葉に屈して尻尾を巻いて逃げ出していたお前の言葉など恐るるに足りん!」

 

シャル「未だに量産化の目処が立たないドイツの第3世代型よりはやれると思うんだけどね?」

 

シャル「それに、戦う意思を捨てなければ、ロレーヌ十字が敵を追い払うからね」

 

ラウラ「面白い。世代差というものを教えてやろう。あの二人のように、惨めな敗北の恐怖を叩き込んでな!」

 

シャル「(抽選で組まされた人、蚊帳の外に置いて ごめんなさい!)」

 

箒「(だが、ラウラは同僚のことなど眼中にないだろう。そこが勝負どころとなる!)」

 

箒「行くぞ、ラウラ!」

 

 

3,2,1,試合開始――――――!

 

 

ラウラ「叩きのめす!」

 

箒「はああああああああ!」

 

ラウラ「――――――む!?(…………予想以上に早い? 『打鉄』にこんな加速性能があったというのか?!)」

 

ラウラ「だが! この『停止結界』の前では!」

 

箒「くぅううう!(こ、これが『AIC』……! 本当にピクリとも動かない……!)」

 

ラウラ「あの男なら先制攻撃も納得だが、貴様ごときの無名の雑兵が真似したところで無意味だということがこれでわかっただろう?」カコン

 

箒「そうだな……こういうのを『狙い通り』と言うのだろうな!」ニヤリ

 

ラウラ「――――――なにッ!?」

 

シャル「その隙、もらったよ!」バン、バン

 

ラウラ「く…………(読まれた?! 読まれていたと言うのか、私の行動が!?)」

 

シャル「逃がさない! その間に、箒!」

 

箒「ああ、任せろ!(『シュヴァルツェア・レーゲン』は汎用武器を持っていないことが災いして中距離戦闘は苦手だ)」

 

箒「その隙に、もう一方を片付ける!」

 

箒「はあああああああああああ!(小手、面、胴、小手、面、胴――――――!)」ガキンガキーン!

 

――――――

 

鈴「…………凄い。普段、一夏との鍔迫り合いしか見ていなかったから、その凄さを実感できなかったけれど」

 

セシリア「こうして見ると、代表候補生にも引けを取らない圧倒的な格闘戦のセンスが感じられますわ!」

 

鈴「そして、――――――来た! 『高速切替(ラピッド・スイッチ)』!」

 

セシリア「拡張領域(バススロット)の多さを活かした『ラファール』乗り特有の単独一斉射による弾幕形成ですわ!」

 

――――――

 

一夏「うまく戦闘を分断できた。これで戦況は一気にこちらに傾いた」

 

一夏「思ったよりも、こちらの戦力は上だったな。――――――いや、今日という日を迎えてベストテンションに達しているのかもしれない」

 

一夏「これで作戦通り、この戦いの前提となる2対1の状況が作り出せる」

 

一夏「抽選で貧乏クジを引いた方、後でお見舞いしますから、気を落とさないでくださいよ……」

 

――――――

 

箒「よし、動きを封じた!(――――――シャルル!)」

 

シャル「(ラウラが大きく後退した今が好機!)」コクリ

 

シャル「あ、――――――下がって、箒!」

 

箒「な、何!?(ワイヤーブレードが伸びて来ている!? ――――――しまった!)」

 

ラウラ「邪魔だ」ポイ

 

箒「味方を投げ――――――うわあ!?」チュドーン

 

シャル「く、箒ッ!(フレンドリーファイアは避けたい……! なら、今のうちに動けない方を――――――!)」

 

箒「――――――ま、まだまだ!」ガキーン

 

ラウラ「しぶとい……!(あの小賢しいフランスの第2世代型をワイヤーブレードで捕らえる……!)」チラッ

 

箒「あ、今だ――――――!」

 

箒「体当たりだああああああ!」ドガシャ

 

ラウラ「な、なんだと!? この訓練機風情が…………!」グラッ

 

シャル「ナイスアシスト、箒! これで片方は終わりだよ!(あれも一夏の秘策だけど、それをやってのけた箒も凄い……!)」バン、バン

 

――――――

 

観衆「おおおおおお!」

 

セシリア「素晴らしい援護でしたわ、箒さん!」

 

鈴「うわあ……箒の格闘センス、軽く私を超えているかも……頑張らないとな……」

 

――――――

 

山田「第2世代型だけでここまでできるだなんて――――――」

 

千冬「当然だな。ボーデヴィッヒは自分側が複数での状態を想定していない。パートナーのことはハナから数に入れていない」

 

千冬「それでも、機体そのものの戦力差は歴然だ。そうなれば、初心者狩りをしようとも早めに有利な状況を築きあげるしか勝機がない」

 

山田「そうですね。そして、今回の篠ノ之さんとデュノアくんの連携は素晴らしいの一言ですね」

 

千冬「このくらいは、できて当然だ。――――――織斑が指導したのだからな」フッ

 

山田「そうですね」

 

――――――

 

ラウラ「追い詰められているのか、――――――この私が!? 世界最強の第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』が!?」

 

ラウラ「こんな連中に――――――!? 第2世代型ごときに――――――!?」

 

シャル「ちゃんと鼻栓はしてるよね? タイミングは任せるよ!」

 

箒「ああ。エネルギーも余裕がある。決めに行くぞ!」

 

 

さて、ここまで来れば、こちらの戦意は大幅に上がり、あちらの戦意は大幅に下がっていることだろう。

 

ラウラにとってはこの上ない屈辱が、第2世代型で追い詰めた二人には達成感が満ち満ちていることだろう。

 

これは何も偶然こうなったというわけではない。ドライバーの力量こそ物を言ってはいるが、機体と武器の性能も大切な要素であった。

 

特に、中距離両用型『シュヴァルツェア・レーゲン』はたしかにどの距離でも対応でき、撹乱ができるいやらしい武器を搭載しており、

 

そして、単独で戦う上では 搭載された第3世代兵器『AIC』によって まさしく単体最強の性能を誇るのだが、汎用武器を持っていないために、

 

安定した格闘能力を持つ『打鉄』と援護能力を持つ『ラファール』の2機に抑え込まれるともうどうしようもなくなるのだ。

 

格闘戦用のプラズマブレードは『打鉄』の太刀に比べれば威力はあるがリーチとエネルギー効率に難があり、

 

間接武器であるレールガンとワイヤーブレードは迎撃には向くが、『ラファール』の通常兵器と撃ち合いをするには分が悪すぎる。

 

要するに、特殊武装を詰め込みすぎて汎用性を犠牲にしたツケがここで大きく現れたというわけである。

 

そして、『シュヴァルツェア・レーゲン』の特徴である『AIC』は1対1ならば最強の武装だが、

 

こうして距離の分担を行ってくる敵に対しては隙を晒すだけの、せいぜい咄嗟の防御用に使うしかない無用の長物と化していたのだ。

 

それに、『AIC』は相手の動きをただ単に封じるだけで、極端な話、一撃必殺というわけではないので、

 

織斑 一夏はそれを見抜いて大会直前の訓練において、『AIC』など『零落白夜』の神速の居合斬りによる一撃必殺に比べれば生温いものだと教え込み、

 

更に、ツーマンセルであることを活かして、むしろ攻撃のチャンスだとしてパートナーを互いに信頼して積極的に相手の動きを封じるように指導していたのである。

 

その訓練の甲斐あって、試合開始当初はプレッシャーを感じていた箒とシャルルだったが、今では格好の獲物としてラウラを追い詰めていた。

 

まさしく『AIC』は、今回の大会環境;ツーマンセルや『AIC』以上の脅威の存在によって割りを受けてしまった不遇の兵器と化したのだ。

 

 

爺様「ほう、あれが」

 

来賓「今年の入学生は逸材が揃っていますね、会長?」

 

爺様「そうだな。優秀なISドライバーが多く輩出されるだろうな。再来年が楽しみだな」

 

来賓「しかし、残念です。会長がお抱えする“世界で唯一ISを扱える男性”織斑 一夏と『白式』の活躍が見られなくて…………」

 

来賓「会長の力添えで、どうにか その勇姿を見せていただくことはできませんかねー?」

 

爺様「しかたあるまい。あれは元々ISとは無縁の生活を送っていたが故に、大会で活躍するほどの実力は今のところはないと聞いている」

 

来賓「会長が そういうのでしたなら しかたありませんね……」ブツブツ

 

爺様「(フッ、さすがだな、孫よ。よくぞ短期間でこれだけの戦果を挙げてくれた。勝負はまだついていないが、勝敗は明らかだ)」

 

爺様「(そして、あれがシャルル・デュノアと篠ノ之 箒か…………)」

 

爺様「(デュノアのご落胤と重要人物保護プログラムで日本政府に保護されている神社の小娘…………)」

 

爺様「(だが、織斑 一夏ならばぁ――――――!)」

 

――――――

 

箒「はああああああああ!(あれで行くぞ!)」

 

シャル「うおおおおおおおお!(――――――了解!)」

 

ラウラ「く、だが、正面に捉えて『AIC』を発動すればどちらの攻撃も防ぎきれる!」

 

シャル「なら、これならどう!?」ヒューヒューヒューヒュー

 

――――――

 

山田「あれは小型の4連装ミサイルランチャー!? あんな装備は――――――」

 

千冬「いや、山田先生があの二人の参加申込書を受け取った後、武器の登録申請があった」

 

千冬「――――――受付時間ギリギリにな」

 

山田「しかし、決定力不足だからといって『AIC』の前では無力では?」

 

千冬「まあ、こんなことを思いつくのはあいつぐらいだ。何が起きるのか少し楽しみにして見ていろ」

 

山田「…………はい」

 

千冬「(おそらく投げ返された時のために何かしらの細工を施しているだろうが、見せてもらうぞ、一夏!)」

 

――――――

 

ラウラ「ミサイルだと? ありがたく利用させてもらう!」

 

箒「はあああああああああ!」

 

ラウラ「――――――む(どういうことだ!? 何故攻めてこようとする? 誘爆を恐れていないのか? それとも相打ち覚悟?)」

 

ラウラ「――――――だが、これだけ対象が大きいなら、『停止結界(AIC)』で動きを封じ込めるのも容易い!」

 

ラウラ「はあ――――――!?」

 

 

バン!

 

 

箒「はああああああ!」ブン

 

――――――

 

一夏「ここまで読み通り事が進むと薄ら寒いものを感じるが、」

 

一夏「――――――これでチェックメイトだ」

 

一夏「あのミサイルは『減速した瞬間に爆発する』ようにセットされている」

 

一夏「そして、それはコンマゼロ秒単位で爆発するようにしてあるから、爆発に備えて『AIC』の防御を変更する暇も与えない」

 

一夏「何よりも、そんなことをしても無駄だ。何故なら、弾頭の中身は無色透明の液体なのだからな」

 

一夏「流体に対して『AIC』はほとんどその性能を発揮することができない」

 

一夏「それに、この液体は無色透明だが、カメラには映らないある決定的な破壊力がある!」

 

一夏「もちろん、それは酸や有毒ガスなどの化学兵器の類ではない。そんな残虐非道なことをする気はない」

 

一夏「さて、あのラウラがどう反応するか楽しみだな」

 

――――――

 

セシリア「い、いったいあのミサイルは何でしたの? フェイクだったのでしょうか?」

 

セシリア「『AIC』を誘発させて その隙を狙うためのものだとすれば 辻褄が合いますけれど…………」

 

鈴「でも、見て! 何だかラウラの動きが 何というか どことなく鈍くなってない?」

 

鈴「――――――決まったわ! そして、――――――吹っ飛んだ!」

 

セシリア「あれは第2世代兵器最強の『盾殺し(シールド・ピアース)』ですわ!」

 

鈴「なるほど、決定力は元々あったってわけね」

 

鈴「それにしても、あのミサイルが何なのかはわからないままだけどね……」

 

セシリア「本当にあの『シュヴァルツェア・レーゲン』を第2世代型で倒してしまいますわね…………」

 

鈴「そうね。いくら相性が悪かったからとか言っても、負けた悔しさだけは変えようがないわよね……」

 

鈴「強くならなくちゃ……」

 

セシリア「はい、そうですわね」

 

――――――

 

ラウラ「ぐあ…………(……私は負けられない!)」

 

ラウラ「がは…………(…………負けるわけにはいかない!)」

 

ラウラ「ぐふ…………(――――――教官の栄誉のために!)」

 

 

――――――彼女は極めて有能な教官だった。

 

――――――彼女の導きによって、“出来損ない”だった私はIS部隊最強の座に君臨することができた。

 

――――――しかし、その強さの秘密に触れた時に私は動揺した。

 

――――――違う! どうしてそんなに優しい顔をするのですか…………?

 

――――――私が憧れるあなたは強く、凛々しく、堂々としているのに…………!

 

――――――だから、許せない!

 

――――――教官をそんな風に変える男が…………!

 

 

 

――――――だから、よこせ、力を。比類なき最強を!

 

 

 

ラウラ「うわああああああああああ!」

 

 

箒「な、何だ? 新手の新装備か?!」

 

シャル「く、距離をとる!」

 

箒「しかし、これは明らかにおかしい…………!(機体がドロドロに溶けて、パイロットが呻き苦しむような装備なんて!)」

 

――――――

 

セシリア「いったい何が……?」

 

鈴「わからない。けれど、ただごとじゃないわよ、これは!」

 

――――――

 

来賓「ああ、あれは――――――」

 

爺様「ほう……(――――――VTシステムか。まさかこんなものがまだこの世に存在していたとはな)」

 

――――――

 

千冬「レベルDの警戒態勢を」

 

山田「了解!」

 

――――――

 

アナウンス「非常事態発生! トーナメントの全試合は中止!」

 

アナウンス「状況はレベルDと認定! 鎮圧のため、教師部隊を送り込みます」

 

アナウンス「来賓、生徒はすぐに避難してください!」

 

――――――

 

来賓「は、早く行きましょう、会長!」

 

爺様「まあ、そう慌てるな。このアリーナは分厚いシールドエネルギーの層で守られておる」

 

爺様「見たところ、大量破壊兵器でもないだろうし、ここで教師部隊がどう対処するのか見物したいぐらいだ」

 

来賓「か、会長~!?」

 

SP1「しかし、ここは誘導に従ってください」

 

SP2「そうですよ。ここは彼に任せましょう」

 

爺様「ああ、そうだな」

 

来賓「“彼”?」

 

爺様「さぁて、それでは堂々と避難しようではないかぁ」ワッハッハッハッハ!

 

――――――

 

箒「非常事態――――――なら、こいつは倒すべき敵なのか?」

 

シャル「わからない。けれど、このまま放置しておくのは危ないかも……」

 

箒「――――――え、あれってよく見たら、雪片弐型…………?」

 

シャル「たしかに似ている…………」

 

箒「それに、あの顔付き、見憶えがあるぞ……!」

 

シャル「あ、言われてみれば、そうだね」

 

 

――――――そうだよ、あれは“ブリュンヒルデ”だ。

 

 

一夏「…………」

 

箒「い、一夏――――――!?(い、いつの間に…………!?)」

 

シャル「あれが何か知ってるの?」

 

一夏「第1回『モンド・グロッソ』総合優勝者である織斑千冬のコピー」

 

一夏「これがお前が望んだ強さの在り方なのか? …………がっかりだよ」

 

一夏「だったら、“お前”は要らないな?」

 

一夏「――――――その妄執にケリを付けてやるよ」ジャキ ――――――雪片弐型を生身で構える!

 

一夏「下がっていろ、二人共。すぐに決着は付く」

 

箒「な、何を言っているのだ、一夏……?」

 

箒「止めろ、一夏! 相手はあの“ブリュンヒルデ”なのだろう!?」

 

箒「そ、それに、何故雪片弐型しか出していないのだ! 斬られたら、どうするつもりだ!?」

 

シャル「…………これが一夏の覚悟」

 

シャル「どんなに相手が強くても逃げない――――いや、自分が勝つと信じてひたすら前を進むのが織斑 一夏」

 

シャル「………………」ゴクリ

 

箒「……わかった。一夏、死ぬな。絶対に死ぬな!」

 

一夏「俺を信じろ。そして、昔とは違うことを自覚してくれ」

 

箒「ああ…………(昔とは違う……?)」

 

シャル「そうだね……(もう昔の僕じゃないよ、一夏!)」

 

 

一夏「(ラウラ、お前の中で織斑千冬がそのままなら、お前の強さもそこまでだ)」

 

ラウラ「――――――」

 

一夏「………………」

 

 

 

 

 

 

一夏「――――――」

 

ラウラ「――――…………    」ズバン

 

一夏「――――――ほらね? 遅い」

 

 

――――――俺も千冬姉も昔よりも強くなっているのだから。

 

 

 

――――――それは神速だった。疾風だった。迅雷だった。

 

あの“ブリュンヒルデ”が剣を抜く前に織斑 一夏は青筋の光の剣で逆袈裟斬りで下から上に斬り裂いたのである。

 

そう、この織斑 一夏にとって、“ブリュンヒルデ”と呼ばれていた頃の織斑 千冬など相手にもならないぐらいだったのである。

 

その一方で、織斑 千冬も成長し続けており、“ブリュンヒルデ”を超えてさえいる織斑 一夏に未だに遅れを取ることがなかった。

 

織斑 一夏は戦闘の天才というほどではなかった。ただ財閥の力を利用して効率よく目的に特化した訓練を積み重ねていただけにすぎない。

 

それ故に、咄嗟の機転や智謀で相手を打ち負かすようなことや、相手の機微や弱点をその場で見抜いて本能的に対処するような器用な真似はできなかった。

 

言うなれば、この織斑 一夏は戦略・運用管理の天才とも言うべき存在で、ある目的に沿って効率よく成果を出すことに長けていたのである。

 

そういう特長の持ち主故に、財閥の跡取り息子として迎えられて ものの数ヶ月で“ブリュンヒルデ”を超えるという目標はすでに達成済みであった。

 

つまり、一夏にとってラウラが目指していたものなど滑稽でしかなかったのである。

 

しかし、一夏は浅く斬り裂いたスキンから力無く倒れこんだラウラを優しく抱き抱えた。

 

経験者である一夏はよく知っていた。

 

 

――――――事件は終わった後から心を縛り上げていくということを。

 

 

終わってから気づく事件の影響力。自分の立ち位置、実力、悲哀…………

 

ここからがラウラにとっての本当の戦いとなってくるだろう。

 

だから、せめて疲れきって倒れこんだ今だけは良い夢を見られるようにと、優しく抱き寄せて、鼻栓を付けてあげるのだった。

 

 

――――――腐卵臭をこらえて!

 

 


 

 

ラウラ「お前はどうして強い? まるで織斑教官そのもののように感じられた…………」

 

一夏「それは買い被りだ。これでも実力としては織斑 千冬には遠く及ばない」

 

一夏「もし俺が強いって言うなら、それは強くなりたいから強い――――それだけだよ」

 

一夏「強くなったら、より多くのものを守れるようになるだろう?」

 

一夏「俺は自分の全てを使って、関わる人全てを守りたいんだ」

 

ラウラ「それはまるで、あの人のようだ…………」

 

一夏「それはそうだ。今の俺があるのは織斑 千冬の教えがあったからこそだ。俺は肉親である以上に人生の師として敬愛しているんだ」

 

ラウラ「私は、織斑 一夏――――お前のようになれるだろうか?」

 

一夏「なりたいという気持ちが強くあるのなら、――――――可能性は見つかったよ」

 

一夏「だけど、ただ強いだけじゃダメなんだ。そこに他者を思いやる心がなくちゃ、何も変わらない」

 

一夏「心を育てるためには、いろんな人の心に触れて、様々な経験を積んでいかないといけない」

 

一夏「ISだって同じだろう? ISはパイロットと一緒に経験を積んで、パイロットの特性を理解しようとし、そして最適化(パーソナライズ)してくれる」

 

一夏「ISと同じように他者を理解することができるようになれば、織斑 千冬に近づけるさ」

 

一夏「それができるようになるまで、――――――お前は俺が守る」

 

一夏「だから、安心してくれ。俺はお前のこと、嫌いじゃなくなったから」

 

一夏「今はゆっくりと、休んでいてくれ」

 

 

――――――おやすみなさい、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 

ラウラ「…………温かい」

 

 


 

 

――――――その夜

 

爺様「はははは! わはははははは!」

 

一夏「会長、笑いすぎですよ……」

 

爺様「いや、なるほどと思って感心せずにはいられんかった」

 

爺様「あのミサイルの中身はなんと“腐った卵の白身”だったのだぞぉ!」

 

爺様「お前の狙い通りに、あの悪臭を前にしてあのドイツの小娘は取り乱して、そこを鼻栓をした二人が強襲する――――――」

 

爺様「たしかに、無色透明で肉眼でも見落とすような代物だから何が起きたのかVTRでは確認できんし、」

 

爺様「化学兵器ではないから取り締まることもできない――――――」

 

爺様「これは傑作だな! 歴史上でも腐った卵を武器として使った記録もあることだし、それをまさか現代戦――――しかも、ミサイルに入れてなぁ?」

 

一夏「別にあれがなくても、シャルルと箒さんなら勝つと信じていましたよ」

 

一夏「ただ私のやり方だとどうしても意表を突いてからの猛攻撃が性に合っていて、」

 

一夏「――――――つまり、決定的な敗北感を植え付けるやり方を勧めてしまったというわけです」

 

シャル「あはははは……鼻栓をしていたからわかりませんでしたけど、救護班や教師部隊が凄い形相になったのが忘れられません」

 

箒「まさか、鼻栓にそういう意味があっただなんて知りませんでした。てっきり、爆煙が強いものだと思い込んでいましたので」

 

爺様「おおっと、そう畏まらなくていいぞ、嬢ちゃんたち?」

 

箒「あ、はい……(え? 嬢ちゃん“たち”?)」

 

一夏「会長、それは難しい話ですよ」

 

爺様「ははははははは」

 

 

爺様「さて、食事も歓談も十分にしたところで、本題に移ろうか」ビシッ

 

 

シャル「――――――!」

 

箒「………………!?」

 

爺様「だが、その前に これから話すことは他言無用としてもらいたいが、それができないなら、今すぐ退出してもらってもかまわない」

 

爺様「約束してもらえるかな、嬢ちゃんたち?」

 

シャル「はい、覚悟はできています」

 

箒「……わかりました。口外いたしません」

 

爺様「よし、儂は聞いたぞ? お前はどうだ、織斑 一夏?」

 

一夏「こちらもしっかりと耳に入れました」

 

爺様「では、本題に入ろうか、シャルル・デュノア?」

 

シャル「はい!」

 

爺様「その決意表明として、あちらの部屋で着替えてきて欲しい」

 

シャル「わかりました」スタスタ・・・

 

箒「………………?」

 

爺様「さて、その間、こちらのお嬢さんと話をすることにしようか、織斑 一夏」

 

一夏「……本当は箒を招く必要はなかったんだ。でも、箒にとって悪い話じゃないと思うから…………」

 

箒「あ、ああ…………(いったい何を話すというのだ……?)」

 

爺様「話の内容はこうだ」

 

 

――――――篠ノ之 箒の身柄を日本政府から貰い受けたいということだ、織斑 一夏が。

 

 

箒「は、はあ!?(そ、それって――――――!?)」

 

一夏「もちろん、『結婚する』っていう意味じゃないから安心してくれ」

 

一夏「ただ、社会人になるまで“篠ノ之 箒”でいられる居場所を用意してあげたいって思っていたんだ」

 

一夏「扱いとしては秘書か家令かってところなんだけどさ。まあ、養子っていうのもありだけど……」

 

箒「………………」ポカーン

 

箒「――――――はっ!?」

 

箒「た、たしかに一夏は、セレブの世界に入ってお見合いリストとにらめっこするぐらいの立場になっていたというのは知っていたことだが、」

 

箒「なあ、一夏? お前はいったいどういう経緯でセレブの世界に入ったと言うのだ? 教えてくれ……」

 

一夏「えっと……(まあ、こうなるよな…………わかってはいたけど、面と向かうとなかなか…………)」

 

爺様「ああ、それはだな、――――――儂の世継ぎの末席だ」

 

箒「え!? か、会長の世継ぎで、ありますか……?」

 

爺様「ああ。儂の血縁者だ。だから、こちら側に連れてきた」

 

一夏「(なるほど、爺様はそういうふうにするつもりか。なら――――――)」

 

一夏「末席とは言え、私も屋敷では家令たちに傅かせる身分。箒さんを養うことぐらい簡単ですよ」

 

箒「そうか、本当に遠い世界の住人になっていたのだな……」

 

一夏「でも、それだけの力を俺は手にしようとしている」

 

一夏「個人の強さだけではどうしようもないものをどうにかすることができる力を――――――」

 

一夏「…………これは強制じゃない。ただの提案だ」

 

一夏「誰かの環境を変えるだけの力を俺は持ってしまった……」

 

一夏「ただ その力の意味は環境を与える側と与えられる側では一致しないことが常だ」

 

一夏「答えはこの場で決めなくてもいい。“篠ノ之 箒”でいられる間までに答えを出してくれればいい」

 

箒「一夏…………」

 

一夏「(おそらく箒には、――――――この提案を受け容れる余裕はない。この場で丁寧に断るに違いない)」

 

箒「…………すまない、一夏」

 

爺様「ほう……」

 

一夏「(ほらな。でも、これでいいんだ。『提案したこと』に意味があるのだから)」

 

箒「会長も一夏も、私が重要人物保護プログラムによって一家離散したことはご存知ですよね」

 

箒「私だけが安穏と暮らしていいのものか、私にはわかりません…………」

 

一夏「(自分の想い、誠意というものは行動と結果によってのみ、初めて他者に示され、伝わり、理解される)」

 

一夏「(この提案は箒にとって大きな心の支えとなってくれるはずだ……)」

 

一夏「(これは、ありのままの“織斑 一夏”を支えてくれたお前への感謝の気持ちだ)」

 

箒「よって、ありがたい申し出ですけれど、私は拒否させていただきます」ポロポロ

 

箒「本当に、本当に、感激のあまりに、嬉し涙が出るくらいですけれど、」

 

箒「すまない、一夏…………」

 

一夏「……そうか。だけど、それも“篠ノ之 箒”だ。自分に恥ずかしくない選択をよくしてくれた」ニコッ

 

爺様「お前の言った通りの筋の通った立派なお嬢さんだな、一夏?」

 

一夏「当然です。“篠ノ之 箒”は私が誇りに思う大切なファースト幼馴染ですから」

 

箒「お前にだけは泣き顔を見せまいと振舞っていたのに、こんな…………」

 

一夏「気にするなって。さっきも言ったけど、それが“篠ノ之 箒”なんだから」

 

コンコン・・・

 

爺様「どうやら、あちらの準備もできたことだし、お嬢さん? あちらの部屋にどうぞ」

 

箒「ありがとうございます…………では、失礼します」スタスタ・・・

 

一夏「………………」

 

一夏「さて、箒は行ったか」

 

爺様「では、入ってきなさい」

 

シャル「は、はい……」ガチャ

 

 

 

 

 

爺様「――――――両手に花、だな」

 

一夏「こういうふうにべったりと身体をくっつけるのはハシタナイよ?」

 

シャル「う、うん……」テレテレ

 

箒「い、今だけはこうさせろ……」テレテレ

 

 

今、一夏の両腕に抱きついているのは、純白なドレスに身を包んだ篠ノ之 箒と、

 

太陽のように眩い山吹色のドレスに身を包んだシャルル・デュノア――――否、シャルロット・デュノアであった。

 

 

一夏「俺の登場に合わせて男性としての立居振舞の訓練をさせられても、所詮は1ヶ月程度の粗末なものだから些細なところで正体に気づいた」

 

一夏「例えば、こう――――――」パシッ

 

シャル「やっぱり、そうだったんだね…………」

 

箒「ど、どういうことだ、一夏?」

 

爺様「ああ、それはつまりだな、社交ダンスで相手と組んだ時、咄嗟にどちらの手が先に伸びるかということだな」

 

爺様「こういうのは反射的に、あるいは本能的に身体が動くものだからな。相当 期間をかけて意識的に矯正しなければ すぐにボロが出るわけだ」

 

一夏「ええ、おっしゃる通りです。しかも、一度 踊ってみて 完璧にこなせていたので すぐに確信できました」

 

シャル「さすがにバレたと思ってドキドキが止まりませんでした」

 

一夏「その後、ISで社交ダンスするようにねだってきてね…………ヤケクソになっていたのか、あの時は?」クルクル

 

シャル「あ、そ、その時は…………」アセアセ

 

一夏「はい、ターン! フィニッシュ!」

 

箒「むぅ…………こういう時にシャルロットの育ちの良さが羨ましい」

 

箒「でも、あの時と同じように、本当に優雅で気品にあふれていて…………」

 

爺様「……む」ガチャ

 

爺様「…………ほう。わかった、すぐに伝えよう」ガチャリ

 

一夏「おや」

 

爺様「一夏、先程から千冬から連絡があった」

 

一夏「――――――!」

 

爺様「ラウラ・ボーデヴィッヒが息を吹き返したそうだ」

 

一夏「本当ですか!」フゥ

 

一夏「――――――よかった。これで関わる人全てをまた守れた」

 

箒「一夏…………(一夏はどんどん大きくなっていく。それに比べ、私は…………)」

 

一夏「シャルロット、あの子の面倒を頼む。部屋割りの都合もあるが、任せられるのはシャルロットだけだ」

 

シャル「わかったよ、一夏」

 

一夏「さて、最後に……、篠ノ之さん?」

 

箒「な、何だ……?」

 

 

――――――私と踊ってくれませんか?

 

 

箒「え?!」ドキッ

 

シャル「そうだよ。せっかくこんな素敵なドレスを着ているんだからさ」

 

シャル「大会が中止になって『一夏からのご褒美』を誰も受け取れなくなったからこそ、ここは受け取るべきだよ」

 

箒「わ、私はダンスなど――――――」

 

シャル「大丈夫! 僕が一通り手取り足取り丁寧に教えてあげるから、ね?」

 

箒「そ、そういうことなら、頼もう、かな…………」

 

一夏「まったく恥ずかしがり屋なんだから。だが、微笑ましい」

 

箒「………………笑うな」プクゥ

 

爺様「はははははは! では、目一杯楽しむといい。――――――時計の針が12時を指すまでな」

 

一同「はい!」

 

 

それから程なくして、シャルル・デュノアはデュノア社と手切れし、シャルロット・デュノア――――“ありのままの姿”でIS学園に再入学することになった。

 

そして、ラウラ・ボーデヴィッヒもかつての教官から何か諭されたらしく、それまでの険しさがなくなり、“歳相応の女の子らしさ”を見せ始めることになった。

 

学園生活も、臨海学校までは特に年間行事がないために、無人ISによる襲撃事件やVTシステム騒ぎの熱が徐々に冷めていき、落ち着きを取り戻していった。

 

しかし、学年別トーナメントから臨海学校までの間に、織斑一夏の運命はここで大きな転換点を迎えることとなった。

 

 

一夏とISとの繋がりは去年の夏のオープンハイスクールからなので、間もなく1年を迎えようとしているこの頃――――――。

 

 

ここからが、財閥総帥後継者の試練となっていくのであった…………

 

 

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