落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」   作:LN58

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第3話 IS開発競争・裏 -Nameless One for ONE SUMMER- Apart

 

織斑 一夏は多忙であった。

 

IS学園の1年に一度のビッグイベントである学年別トーナメントが終わり、次の目玉行事である臨海学校まで時間はたっぷりあるのだが、

 

織斑 一夏に対しての各国の専用機持ちや企業からの挑戦状や合同演習の誘いが絶え間なく送り届けられていたのだ。

 

しかし、一夏のスポンサー――――――財閥のIS部門は相変わらず秘匿の姿勢を貫こうとしていた。

 

――――――だが、それ故の反動でもあった。

 

ついには、国際IS委員会で緊急会議の開催までに至り、織斑 一夏と『白式』のデータの公開を突きつけられたのである。

 

それによって、お呼び出しで受けていた時のデータ以外――――つまりはIS学園での運用データは全て可能な限り公開されることになった。

 

その裏で、壊滅的な損害を受けていた大手IS企業があったことを明言しておく。フランスの――――――。

 

 

ともかく、例の無人ISやVTシステムなどの決して公開できない機密事項以外で公開された情報として、

 

シャルル・デュノアの『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』とラウラ・ボーデヴィッヒの『シュヴァルツェア・レーゲン』を秒殺したことが公式実績として挙げられたために、

 

競技用に特化した第2世代型の傑作機と、コンペティション最強の第3世代型という全く違った方向に完成された両機を秒殺した織斑 一夏と『白式』に再び世界中から関心が寄せられたのである。それは 当然 IS学園でももちきりの話題となっていた。

 

 

だから、織斑 一夏は多忙であった。

 

 

一夏「これで俺の影響力は学園はおろか外部にすら行き渡ることになったが、」

 

一夏「…………これじゃあ、身動きがとれない」ハア

 

一夏「軽率だったか? 明らかに学園の有名人というレベルではなくなってきている…………」

 

 

公式会見まで行ったのに、それでも毎日のように訪れるエージェントや野次馬、ファンの群れにほとほと疲れきっていた。

 

また、経済的な影響も与えてしまったので、全く関係ない財界の人間や、果ては政治家の先生まで来る始末である。

 

TV出演やCMでの起用、果てはお見合いのお誘いなんかも これまで以上に来て 殺到した。

 

幸い、財閥総帥後継者であることは徹底的に伏せられていたので、“織斑 一夏”として振舞えていたので幾分か気が楽だった。

 

 

一夏「元々、IS業界の不動のNo.2VIPだからこうなるとは思ってはいたけど、――――――俺はハリウッドの映画スターでも何でもないんだぞ!」

 

一夏「結局、貧乏人からも金持ちからも搾り取られる立場にあるのか、俺は…………」

 

一夏「これはなかなかキツイ…………業界人やセレブとの醜い付き合いですめばよかったのに、もう世間では国民的なアイドルの扱いだ」

 

一夏「国民栄誉賞だとか何だとか、そういう声も上がっているぐらいだ……」

 

一夏「なかなか難しいな…………」ハア

 

一夏「あんなのも俺が守るべき『関わる人全て』に入ってしまうのか…………」

 

一夏「上に立つっていうのはなかなか難しいことだったんだな…………」

 

爺様「辛そうだな……」

 

一夏「ええ。爺様のように上流階級だけのお付き合いですめばよかったのに、低俗なマスコミやら何やらに追い掛け回されてクタクタだ……」

 

一夏「爺様がある程度手を回して事態の収拾にあたってくれたから、これでも最初の頃の3割ぐらいに収まりましたけど、」

 

一夏「場数を踏んでいない俺では体力が保ちません…………」フラッ

 

一夏「せっかく、ただの“織斑 一夏”として気楽に振舞えていたのに、周囲の目に怯えながら生活することになってしまった……」

 

一夏「俺もかつてのラウラのようなキモオタに追い掛けられる偶像になってしまったのか……」

 

一夏「部屋に居る時もどこかに盗聴器やカメラが仕掛けられているんじゃないかって不安になって落ち着かない…………」

 

一夏「唯一落ち着くところが、よりにもよって爺様のお膝下だけになったのがどうにも心苦しい…………」

 

一夏「俺が財閥総帥後継者であることを世間に知られないように極力来ないことにしていたのに、このザマですよ、爺様」

 

爺様「こちらも手を尽くしてはいるが、勢いだけはどうしようもならんからな…………」

 

一夏「お見合いリストの他に挑戦者リスト、野次馬リストまで増えて、もうイヤだ…………」

 

一夏「…………ダメだな。責任ある立場として最適化(パーソナライズ)していかなければならないのに」

 

爺様「これは耐えて時が移るのを待つ他ないな……」

 

一夏「そういえば、爺様。珍しいですね、のんびりと映画鑑賞しているなんて」

 

爺様「たまには、な」

 

一夏「『スターシップ・トゥルーパーズ』、『2001年宇宙の旅』に、劇場版『銀河英雄伝説』とか…………」

 

一夏「――――――コズミック系が本当に好きなんですね」

 

爺様「戦後の人間にとって――――いや、高度経済成長期の日本人なら誰しも宇宙に思いを馳せたことはあるものだ」

 

一夏「――――――IS〈インフィニット・ストラトス〉も宇宙開発用のマルチフォームスーツだったのに」ボソッ

 

爺様「………………」

 

一夏「それじゃ、そろそろ学園に帰りますね」

 

爺様「見送ろう」

 

一夏「ありがとうございます、爺様」

 

爺様「これぐらいのことしかできないが、強くあってくれ」

 

爺様「金、権力を持つということは常に、危険と隣り合わせだということを、忘れるでないぞ?」

 

一夏「もちろん」ニコッ

 

爺様「フッ」

 

 

 

ザーザー

 

ゴロゴロ、...ピカーン!

 

一夏「何か思い出すな、この激しい雨音と雷鳴…………『あの日』の衝撃が思い出されるようだ」

 

一夏「……うん?」

 

運転手「どうなさいました?」

 

一夏「待って。停まって。――――――何かおかしい」

 

運転手「わかりました……」キキー

 

一夏「この道を通ると方角的に必ず本社の明かりが見えるはずなんだけど、それが見えない……」

 

運転手「あ、本当だ…………」

 

一夏「しかも、辺り一帯が停電しているわけじゃないのに、ビルに取り付けられているヘリの誘導灯も見えない」

 

一夏「ということは、予備の電源すら落とされているってことだ――――――!」ピポパ

 

一夏「これは……」プルル、プルル......

 

一夏「間違いない! 本社のフロントに繋がらない!」

 

一夏「――――――非常事態だ! テロリズムだ!」

 

運転手「な、何ですって!?」

 

一夏「警察を呼びますから、そちらは警備会社を!」ピポパ

 

運転手「わかりました!」ピポパ

 

一夏「――――――この時期に財閥本社を襲撃」

 

一夏「狙いは俺か? それとも爺様か?」ガチャ

 

 

ザーザー

 

 

運転手「――――――な、バリケード!?」

 

一夏「わずかな時間で道路封鎖までしていたか…………ヘリを寄越すように要請しておいて正解だったな(けど、この悪天候じゃあ…………)」

 

運転手「ど、どうします!?」

 

一夏「ここからは俺一人でいい。おそらく、フロントをはじめとする下層のエリアは制圧されている」

 

運転手「何をおっしゃいます!?」

 

一夏「相手はプロだ。無用は殺生はせずに、目標確保を迅速に急ぐはずだ」

 

一夏「たしか、あなたはこの辺の地理のことは手に取るようにわかると聞きましたが?」

 

運転手「あ、はい……」

 

一夏「では、命じます。テロリストたちがこの状況で逃走するためには空路はまずありえません。確実に人目の付かない道を選んで逃走を図るはずです」

 

一夏「あなたはテロリストの逃走経路を予測して、待機しているはずのお仲間さんの逮捕に協力してください」

 

一夏「私は潜入して世界最強の兵器の力を以って会長の安全を確保してきます」

 

運転手「そ、そんな…………」

 

一夏「深夜とはいえ、あそこには 会長の他にも財閥の下で日々の糧を得ている 数多くの従業員や顧客が居る――――――」

 

一夏「何もできないよりは、何かできたほうがいい……」

 

運転手「――――――!」

 

運転手「わかりました! 御武運を祈っています!!」

 

一夏「ありがとう」

 

一夏「さて、おそらく俺が駆けつけてくることも計算のうちなのだろうな」

 

一夏「ISのコアの位置情報を遅らせる機能を使えば、1時間は悟られずにすむ」ピピ

 

一夏「待っていてくれ、爺様! 絶対に助け出す!」

 

 

 

 

 

SP1「く、まだ外部との連絡がつかないのか!?」

 

SP2「さすがに要人護衛をしながらこの数を捌くのは無理があるか…………」

 

爺様「すまんな…………」

 

SP1「いえ、会長が気に病むことはありません」

 

SP2「そうですよ。人には得手不得手がある。会長には会長の、俺たちには俺たちにできることとできないことがあるんだからさ」

 

爺様「そうだな…………」

 

SP1「しかし、深夜の激しい雨の中、堂々と襲撃してきたせいで虚を突かれた」

 

SP1「まさか、トレーラーで乗り込んでくるとは…………!」

 

SP2「しかも、相手は本格的な重装タイプと軽装タイプの2つで構成されてるときたもんだ」

 

SP2「こっちは拳銃しか無いのに、あっちは盾と機関銃持ちだ。この戦力差はいかんともし難いね」

 

爺様「さて、どうする? “アビス”に逃げこむか?」

 

SP1「――――――それは!?」

 

SP2「たしかに、あそこは核シェルターを兼ねる場所で、こういう時のための迎撃用装備も仕込まれてますけど、時間稼ぎにしかならないでしょうな……」

 

SP1「それに、“アビス”の存在はごく一部の人間にしか知られていません。それを晒すのは――――――」

 

SP2「()()()()もここにはいないことだし…………」

 

爺様「覚悟を決めねばならんか……」

 

SP1「お供します」

 

SP2「希望はあります。会長の意思は受け継がれた――――――」

 

爺様「フハハハハ! 人生、長生きしてみるものだな…………果報者だ、儂は」

 

SP1「む?」

 

ピカー!

 

SP1「――――――何の光!?」

 

SP2「雷ではない――――――は、この音は!」

 

バララララ

 

SP2「しめた! SP隊のヘリの応援だ! どうやらまだ次代に思いを馳せる時じゃないようですよ!」

 

爺様「驚くほど早かったな…………逸早くこの事態を察知し、手を回せるだけの人物と言えば――――――」

 

 

その時、遠くで大きく窓ガラスが砕け散る音が鳴り響いた。

 

次の瞬間には、爺様とSPに向けて放たれていた弾幕が一斉に途切れたのだった。

 

そして、耳を澄ませば、隊列の乱れた銃声音と悲鳴がこだまする。

 

 

「うわああああ!」「逃げるんだ…………勝てるわけがない!」「あ、悪魔だ…………」

 

 

SP1「何だ? 何が起きた…………」

 

SP2「俺が様子を見てきます」

 

爺様「やめておけ。それに もうじき こちらに来る」

 

一夏「会長おおおおお!」

 

SP1「おお! これで()()()()は確保できました!」

 

SP2「これぞ、天のお導き!? これなら“アビス”に行っても――――――!」

 

爺様「やはり、か」ニンマリ

 

一夏「早く避難してください! 軽く薙ぎ払っただけでまだまだたくさんテロリストがいます」

 

爺様「では、そうしようか」

 

SP1「警備保障の応援を頼んでくれたのは、若様ですか?」

 

一夏「はい! 警察にもすでに――――――」

 

SP2「いやあ、ここまで頭がきれるご子息が羨ましい!」

 

一夏「それよりも早く避難を!」

 

SP1「よし、――――――要人護衛の訓練、憶えているな?」

 

SP2「頼りにしてるぜ、若様。文字通り、会長を守る盾となるんだ」

 

一夏「はい!」

 

爺様「よもや、こういう形で守ってもらうことになるとはな……」

 

一夏「俺も特殊部隊の訓練内容をすぐに実践する日が来るだなんて思ってなかったよ……」

 

一夏「けど、――――――守る!」

 

爺様「頼んだぞ。今はお前だけが頼りだ」

 

SP1「俺と若様が先行して通路を確保する! 行くぞ!」

 

一夏「了解!(――――――本当に『金、権力を持つということは常に、危険と隣り合わせ』だよ!)」

 

一夏「(だとしても、俺はそれでも掲げ続ける!)」

 

 

――――――俺は関わる人全てを守る!

 

 

 

世界最強と謳われるISの力の程は絶大であった。

 

ロケットランチャーの直撃を受けてもシールドエネルギーはわずかに減る程度であり、

 

築かれた防御陣を全く怯むことなく正面から捻じ伏せ突破できる力が顕わとなる。

 

改めて織斑 一夏は世界最強の兵器たる所以を認識した。

 

絶対防御、PICによる常時浮遊可能、そして 何より人間サイズのパワードスーツであることが最も脅威であった。

 

戦車や戦闘機よりも遥かに強力な兵器を屋内戦闘でも扱えるわけなので弱いはずがない。

 

しかし、織斑 一夏と『白式』はその圧倒的なまでの戦闘能力を発揮して血路を開いていくが、状況としては依然として追い詰められていた。

 

 

一夏「これで何人の人間の顎を砕いたことか……(さぞかし、裁かれる側としては悪鬼のように感じられたことだろうな)」

 

一夏「(過ぎた暴力を振るっているという点では、あの時のラウラと全く違わない)」

 

一夏「(俺は殺しはしないが、積極的に人を傷つけている…………)」

 

一夏「(爺様と同じく人殺しの業を背負うのも時間の問題かもしれないな…………)」

 

 

「貴様ら、金持ちはいつもいつも我々貧しき者を虐げる!」

 

「我々の些細な抵抗でさえ、こうも簡単に――――――!」

 

「許さない! 絶対に許さない――――――あっ……  」ガクッ

 

 

SP1「そうかい。自分が地獄を見たからって、他人にそれを押し付けていいってことはないのに」

 

SP2「馬鹿だな。テロリズムを成功させたところで心穏やかに余生を過ごせるわけないのに」

 

SP1「敵の重装備を確保できたことで余裕ができてきたな」

 

SP2「武器さえあれば こっちのもんさ! 本当の地獄を生き抜いてきた俺たちに敵うわけないだろう!」

 

一夏「…………地獄、か。それを感じるのに環境は関係あるのだろうか」

 

爺様「そうだな。全体から見れば相対的な価値観ではあるが、当人にとっては絶対的な価値観とも言える」

 

爺様「よし、ここがシェルターへのエレベーターだ。ここまでくれば、後はお前が呼んでくれたSP隊と警察の手で鎮圧されることだろう」

 

一夏「まだ気を抜いちゃいけない! まだ要人の安全は確保されてないんだから!」イラッ

 

爺様「おおう、殺気立っているな」

 

爺様「怖いか、――――――人を守るということが?」

 

SP1「………………」キョロキョロ

 

SP2「………………若様」カシャカシャ

 

一夏「ああ、怖いさ。暴力なんて使いたくない。けれど、それを使わざるを得ない時が来てしまった……」プルプル

 

一夏「暴力なんてどこか遠い世界の現象だってずっと思っていた。暴力なんて振るうやつの気持ちが知れない、最低だなっていうぐらいに」

 

一夏「でも、相手にどれだけ非があろうとも、こちらにどんな大義名分があろうとも、そこには痛さと怖さと狂気と矛盾があって、」

 

一夏「『やらなきゃやられる』とか『そんなつもりはなかった』なんていう言い訳が通じない、誰しも1つの命の尊さを感じて…………」

 

一夏「今日、この『白式』の手は、数多くの人間の顎や歯、肋骨を砕いてきた。その血の跡と砕いた感触と未だに残り続けている……」

 

一夏「こんなことなら『強くなどなりたくなかった』とさえ思うほどに打ち震えている…………」

 

爺様「一夏…………」

 

SP1「到着したようです。早く乗り込みましょう……」

 

SP2「そうそう、――――――後悔先に立たず。まずは安全を確保しましょう。ね、若様も会長も」

 

一夏「…………そうだった。気を抜いていたのは俺の方だった…………すまない」

 

爺様「どんなに哀しくても感じる心を止めてはぁならない」

 

爺様「さもなければ、守るべきものを見失ってしまい、自分さえも失ってしまうのだから……」

 

爺様「お前は正しい。怒りに呑まれるな……!」

 

 

――――――シェルターへのエレベーターは緊張感に包まれながら地下深くへと沈んでいった。

 

 

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