現代ダンジョンで魔法少女になったら男に戻れなくなった   作:都森メメ

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第13話

 

 

 天城真央の冒険者としての実力はその後も伸び続けた。

 

 

 一般的に上級冒険者向きとされる10階層以上のモンスターを次々と撃破していき、どんどん最高到達階層を更新していく。

 

 

 そんなわけで、現在私たちは15階層の巨大樹の森でキャンプをしているところだった。

 

 

 

「翠鱗竜ヴェルディア、名前は大層でしたけど意外となんとかなる感じのモンスターで良かったです」

 

 

 15階層の鬼門となるドラゴンに対して、どう対処するのだろうと見物していたが彼女は新たな召喚獣を描いた。

 彼女は空中にペンを走らせると、数本の線が骨格になり、影が肉を持ち、数秒後には牛頭の巨人がそこに立っていた。

 

 巨大な鉈を持った身長4メートルほどの牛頭の巨人、いわゆるミノタウロスというやつだろうか。

 

 キララ・パレットが指示を下すと、すぐにそのミノタウロスの召喚獣は翠鱗竜に近づき、その巨大な鉈でもって竜の首を一撃で落としてしまった。

 すごい筋肉だるまみたいな見た目のくせに、瞬きする間もなく、かなりの距離を詰めて一刀を振るっていたので正直びっくりした。

 物理・魔力耐性が極めて高いことで有名だった翠鱗竜がかわいそうですらあったくらいだ。

 

 ただ、あのミノタウロスは事前に何枚も下描きを重ねていた召喚獣らしく、即興で出せるものではないらしい。

 

 

 

「天城────ああ、ごめん、今はキララか。ペンで描ける召喚獣がどんどん強くなっていってるね」

 

「はい、レベルが上がってきたおかげで、描いた物全般がかなり底上げされてるみたいです」

 

 

 

 翠鱗竜をソロで討伐できる冒険者はほとんどいない。

 

 天城の付き添いではないときは私は基本的にこの階層を稼ぎ場所としているが、彼女の召喚獣ほど綺麗に一撃で倒せたことは一度もなかった。

 

 ……正直、すでに攻撃力というか制圧力という観点ではマロン・ノワールとしての私は凌駕されているかもしれない。

 いや、私だってソロで翠鱗竜を討伐できる時点でトップクラスの冒険者ではあるし、魔法少女スキルを獲得してからの到達階層の更新速度はあきらかに平均を大きく上回っている。

 

 だが、そんな私すら追い抜かしていくほど、天城真央の冒険者としての技能の向上には目を引くものがあった。

 もともと才能もあったのだろうが、漫画家をやっている人間におあつらえ向きの固有魔法があることも大きいのだろう。

 

 

 仮に私がキララ・パレットと同じ魔法を使えたとしても、彼女ほどうまく使うことは絶対にできなかったはずだ。

 唱えるだけで使用できる固有魔法ならマロン・ノワールのほうが数が多いが、応用の効く範囲の広さは圧倒的にキララ・パレットに軍配があがる。

 

 

 車で例えるなら、マロン・ノワールは完成されたオートマ車。

 キララ・パレットは扱いが難しい代わりに、乗りこなせばどこまでも伸びるマニュアル車、といった感じだろうか。

 

 

「ポトフできましたよ、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

 ソロキャン用で買っていた一通りの道具だったが、天城が二人用のものを追加で購入してくれたおかげで、今は二人分の料理を彼女が作ってくれている。

 正直料理は得意ではなかったので、誰かが作ってくれるのは本当にありがたかった。

 前に自分一人で作ったステーキも美味しかったのだが、スーパーで市販されているソースをかけて食べただけだったので、ポテンシャルを活かしきれていなかった。

 

 

 受け取った器に盛られたポトフのじゃがいもをスプーンで掬って口に運ぶ。

 うん、美味しいな。

 いやほんと、自分で作ったステーキよりもおいしいかもしれない……。

 

 

 なんか最近女子高生のヒモみたいになって嫌だな。

 

 この生活に慣れきってしまう前に、彼女の本懐を遂げさせてあげたいところだ。

 

 

 というか、レベルも同じくらいに並んでしまったので私が付き添う必要もないのでは……? 

 天城のレベルアップの速度、なぜか私と比較してもめちゃくちゃ早かったし。

 

 これ以上、私が横にいる必要はない。

 そう思った瞬間、少しだけ胸の奥が軽く沈んだ。

 面倒だと思っていたはずなのに、いつの間にかこの二人で潜る時間に慣れてしまっていたらしい。

 

 

 ずるずると考えこんでしまうのも嫌だったので、素直にいま思っていることを彼女に問いかける。

 

 

「もうそろそろ、私がいなくてもいいんじゃない?」

 

 

 ちょうどポトフの二口目を頬張っていた彼女は、目を少しだけ大きく開くと、ゆっくりと口内のものを咀嚼して飲み込んでから、こう返答してきた。

 

 

 

「……お互いレベル20になりましたもんね」

 

 

 スプーンを器において、俯きがちにそう呟く彼女は少し寂しそうに見えた。

 同じ魔法少女としてパーティを組んでいたという事実に、私だって何も感傷を覚えないということはなかった。

 

 極めて珍しい固有スキル持ちの二人として、冒険の最中も共感する部分は多くあった。

 年代が一回りは違っている私たちではあったが、個人的には友人として彼女のことは大事にしたいとは思っている。

 

 

 ……それはそれとしても、ダンジョンは今後もソロで潜ろうとは思うので、こう彼女に問うている次第である。

 

 

 

「わかりました、最後に一つだけお願いしてもいいですか?」

 

「なに?」

 

 

 これまでも十分すぎるほどの報酬を彼女から受け取っている。

 最後のお願いくらい聞いてあげないと不義理だろうと思って内容を聞く。

 

 

 

「明日、この15階層のボス部屋に行ってみたいです」

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 翌日、キャンプ道具をすべて撤収した私たちは15階層の最奥のさらに奥、入り組んだ道中を抜けた先のボス部屋につながる巨大な石扉の前に立っていた。

 

 

 

「おお、これが有名なボス部屋ですか」

 

「うん、それじゃあ準備はいい?」

 

「はい」

 

 

 せーの、と掛け声を合わせて左右の扉を押す。

 どう考えても人間の力で押して開くようには見えないが、魔力を込めて押すと、ゆっくりと扉の隙間が広がってきた。

 

 

 十分に人が通れる隙間ができたところで、キララ・パレットと二人でボス部屋に侵入する。

 

 

 

「うわぁ、広いですね」

 

「日本のダンジョンボスの中でもかなりサイズが大きいボスだったからね」

 

 

 扉の先には、巨大な礼拝堂を思わせる空間が広がっていた。

 横幅だけでも百メートル近く、奥行きはその倍はある。

 発光する壁面の光が、誰もいない床を淡く照らしていた。

 

 

 空間の見通しはよく、ここからでも一番奥の台座は良く見えた。

 

 もちろん、その台座はボスが座しているところなのであるが、現在は何もなくただの巨大な段差と化してしまっている。

 

 

 

「ここのボスは10年以上前に討伐されちゃったからね」

 

 

 私とキララ・パレットの二人しかいない伽藍とした主不在のボス部屋には、声が良く響いた。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

「見てくださいマロンちゃん、この壁画すごいですよ!」

 

「そうだね」

 

 

 200メートルほどの距離を雑談しながら歩き、一番奥のボスがかつて座っていた台座の近くまで到達した。

 実に巨大な台座であり、ここにはたしか竜騎士のボスモンスターがいたはずである。

 

 

 10年以上前に日本の冒険者によって討伐されてしまったので、この部屋にはもうモンスターが湧くことはない。

 また、ここに来るまでの道のりも同じ15階層の中とはいえかなり入り組んだ経路になっているため、観光目的で来る奇特な冒険者もほとんどいない。

 

 

 キララ・パレットは台座の奥に描かれた壁画におおいに感動しているようで、スマホでいくつか写真を取ったり、一部をじっと見つめて何かにうなずいたりしている。

 同じ絵描きとして、なにか感じ入るものでもあるのだろうか。

 

 絵に関してはなにもわからない素人なので、そんな様子の彼女を横目にこのボス部屋全体をなんとなく見回す。

 

 

 

「こんなところまでお付き合い頂いてありがとうございます、マロンちゃん」

 

「気にしないで」

 

 

 報酬分の仕事はしないと、借りばかりを作る気持ちになってしまう。

 

 

 

「以前、『見たい景色がある』って言ったじゃないですか」

 

「言ってたね、もしかしてこの壁画のこと?」

 

 えらく感動して眺めていたこの壁画が彼女の見たかった景色とやらなのだろうか、と思い聞いてみるが、首を横に振られてしまう。

 

 見たい景色というのはまた別にあるらしい。

 

 

 そのままキララ・パレットは彼女自身のインベントリから一つの封筒を取り出した。一瞬、また現金か何かかと思ってしまうが、明らかにサイズが大きかった。

 

 

 A4サイズの茶封筒を彼女はこちらに渡してくる。

 

 

 

「わたしの見たい景色、というのをどうやって伝えるべきか迷いましたが、これを読んでいただければすぐにわかると思います」

 

 

 封筒を開いてほしい、ということなのだろう。

 私がそれを受け取ると、彼女はそれ以上言葉を重ねることをしなかった。

 

 

 

 

 少しだけ厚みがある。

 人差し指と親指で軽く挟んで中身を推察する。

 

 

(感触的に、薄い冊子かなにかか?)

 

 

 

 封筒の口を開けて、中に入っていた冊子を取り出して表紙をみる。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 その冊子、というか、いわゆる同人誌というジャンルのものなのだろう。

 

 表紙には、魔法少女が黒い蔦のようなものに絡め取られ、助けを求めるような表情で描かれていた。衣装は破れ、頬は赤く染まり、どう見ても健全な内容ではない。

 

 しかもよく見るとその魔法少女の衣装はマロン・ノワールのそれとそっくりだった。

 髪型や顔立ちも二次元化されているが、なんとなく今の私に似ているような気がする。

 

 

 

 それが私であることを証明するかのように、タイトルには大きくこう書かれていた。

 

 

 

 

 

『魔法少女マロン・ノワールの受難』と。

 

 

 怖いもの見たさで数ページほど捲り、薄い本だったのですぐに最終頁までたどり着いてしまう。

 こんなふざけたものを渡してきた天城の意図を探ろうと、視線を彼女に戻す。

 

 

 

「それが、私の見たい景色です」

 

 

「マロン・ノワールのイラストを描いたのはそれが初めてです。……今後も他人に見せる気はありませんが」

 

 

 

 私に向かって言っているのか、独り言なのか不明瞭な呟きだった。続けて、『スケッチ・サーヴァント────フルオープン』と短縮詠唱を発動した彼女の周りには、これまで見てきたほぼ全ての召喚獣で埋め尽くされる。

 

 

 最奥の台座にいる私に対して、全て召喚獣の視線が注がれているのを感じる。

 

 

 

「……まだ下描きなんです、それ」

 

 

 

 天城真央は、にっこりとそう微笑みながら最後にこう言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「完成版は、これから一緒に作りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






勝利オッズは以下のとおりです。

マロン・ノワール  1.80倍
キララ・パレット  3.60倍
ダークライ     12.00倍



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