現代ダンジョンで魔法少女になったら男に戻れなくなった   作:TSスキー

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第14話

 

『魔法少女マロン・ノワールの受難』

 

 

 その同人誌を突きつけられた次の瞬間、天城真央は笑顔のまま魔法のペンを走らせる。気づけば、ボス部屋は召喚獣で埋め尽くされていた。

 

 彼女の召喚した魔物は視界にとらえた範囲内だけでも大小あわせて100体を優に超えていた。

 

 そのうち、ミノタウロスが5体ほどこちらに向かって鉈を構えてとんでもない速度で近づいてくる。

 

 

 反射的に避けないとまずいと察知し、すぐに魔法杖を使って空中に逃げる。

 

 つい先ほどまで私が立っていた場所には五体分の鉈が振り下ろされ、地面に亀裂が広がっていた。

 

 殺意ではない。

 だが、それよりもっと粘ついた悪意が、肌にまとわりつくようだった。

 それをビリビリと感じてしまい、全身の肌が粟立つ。

 

 どう考えても同じパーティの仲間に向けてやっていいラインを超えすぎている。

 

 召喚獣で陣形を組んだど真ん中にいる天城に向かって声をかける。

 

 

 

「冗談にしては、ずいぶん甘くない。頭でも壊れた?」

 

 

 マロン・ノワールの口調補正のせいで、余裕ぶった言葉になっているが、内心は大パニックである。

 先ほどまでのやりとりで彼女のいう『見たい風景』だとか、この行動の意味も何となくは理解できた。

 そのうえで、こんな犯罪を堂々と犯すのはどういう了見なのかを空中から問いただす。

 

 

「冗談なんかじゃありません、本気です」

 

「なおのこと最悪」

 

 

 

 ミノタウロス達が滞空する私に向かって鉈を投擲してくる。

 

 万が一にも被弾するわけにはいかないので、魔法杖をブーストさせて大きく旋回して避けることに成功する。

 

 ……どう考えても当たったら大けが程度では済まない攻撃だ。

 

 

 だが空中も決して安全というわけではない。

 

 

 天城の召喚獣のなかには普通に空を飛ぶ種類もある。

 個人的に一番厄介なのは、雷属性のグリフォンだ。

 

『キュオオオオオオンッ!!』

 

 バチバチと音を立てて電気を纏いながら、グリフォンがこちらに向かって飛行してつっこんでくる。

 

 反射的に真逆の方向へ向かって逃げてしまったが、短距離の飛行速度ならグリフォンのほうが速いせいで追いつかれかける。

 

 

「くっ……!」

 

 

 爪が届く寸前、杖を無理やり傾けて急旋回する。

 距離一メートルのギリギリのところで、何とか回避に成功した。

 視界の端に天城の姿を再びとらえたが、こちらへの攻撃の手を休める気はまったくなさそうだった。

 

 

 どうする。

 

 

 戦うか、逃げるか。

 

 

 

 天城の召喚獣で埋め尽くされたこのボス部屋を空中から俯瞰する。

 先ほど私たちが入るときに開けたこの部屋の扉はまだすこし隙間が空いたままだ。

 

 魔法杖に乗ったまま一気に通り抜けるには十分だろう。

 そう思ったと同時に、ほぼ反射的に私はこの部屋を脱出しようと入り口に向かって飛行魔法でブーストをかける。

 

 

 天城も私がここから逃げようとしていることをすぐに察知したのだろう。

 だが、私のこの行動は彼女にとって想定内のものだったようだ。

 

 

「逃げるだなんて酷いじゃないですか────『ルーム・リライト』」

 

 

 ボス部屋の入り口に向かって真っすぐ飛行していた私の眼前に、突如巨大な壁が立ちはだかった。

 

 いきなり現れたその壁は、かつて天城の自宅で実験した際の固有魔法のそれと同じ材質のようだった。

 

 

(くそっ……、閉じ込められた)

 

 

 このボス部屋を完全に二分割にするかのように上下左右に一切の隙間なく追加された壁のせいで、もはや逃げることはできなくなってしまった。

 

 前方には壁、後方からは先ほど躱したグリフォンが猛追してきている。

 

 飛行魔法を打ち切って滞空状態に切り替え、グリフォンに向き直る。

 

 

 

 

「覚悟を決めてくださいマロンちゃん」

 

「言われなくても────『ショコラ・バースト』」

 

 

 

 帯電しながら突っ込んでくるグリフォン3体に向かって爆弾チョコレートを射出する。

 私が現状、同時に放てる最大数の10個をばらまいたが、知性のある召喚獣が相手なせいか、いくつかは躱されてしまった。

 

 

 滞空したまま後ろに下がりつつ、弾幕を張り続ける。

 

 そして、先頭の一匹のグリフォンに命中し、この密室に大きな爆発音が響いた。

 

 

 

(よし、当たった、手ごたえもあった。残りのグリフォンも────)

 

 

 

 敵は爆発を受けた。

 手応えもあった。

 

 なのに、チョコレート色の煙を突き破って飛び出してきたグリフォンは────なぜか、頭だけが見事なアフロになっていた。

 

 

 

「!?」

 

 

 全く予想していなかった光景に面食らってしまったせいで、体がわずかに硬直してしまう。

 当然、その隙は突進してくるグリフォンの格好の餌食になってしまった。

 

 

 

「ぐぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

 一体目の突進を受けて、衝撃と電撃を一身に浴びる。

 当然、そんな状況で二体目以降の同じ攻撃を避けられるわけもなく、連続して3回も電撃突進を食らってしまった。

 

 

 吹き飛ばされたせいで、視界が一気に回転し方向がわからなくなる。

 ガンっ、と強い衝撃を受けて、ようやく自分が壁にめり込むようにして止まったことを理解した。

 

 

 アフロになったグリフォンがこちらに向かって空中で突進の予備動作をしているのが目についた。

 壁にめり込んだままじゃ避けられないと直感し、無理やり身体を起こして壁を蹴る。

 

 次の雷撃突進は何とか躱すことができた。

 

 

 

「チョコレートが爆弾になるくらいですから、それをアフロになって耐える召喚獣がいてもおかしくないですよね」

 

 

 薄ら笑いの口調でそう言ってきた天城の方向をみると、彼女は魔法のペンをこちらに向けて起動しているような体勢を取っていた。

 

 

「ふざけた能力……!」

 

 

 どんな対策の仕方だ。

 

 爆弾をアフロになって耐えるとか、それもう魔法というか現実改変に近い能力なんじゃないか。

 キララ・パレットの固有魔法は応用が利くといっても、ここまでだとは想像していなかった。

 

 

 雷撃の余波が全身に残っている影響なのか、滞空状態の維持ができなくなっている。

 

 先ほどまでめり込んでいた壁の一部から、地面に向かって落ちながらこの戦闘をどうするべきか思考を続ける。

 

 

 当然、私が着地しようとしている場所の付近にはそれを待ち構える天城の配下で埋めつくされているのだ。

 このまま無防備に落ちれば袋叩きにされるのは明白だった。

 

 

 重力に身を任せながら、なんとか杖を落下予測地点に向ける。

 

 

 

「『マカロン・ウェーブ』」

 

 

 地に足をつけているモンスター相手なら、この魔法が一番多く対象を取れる。

 そう判断して巨大なマカロンを地面にぶつけると、そこから一気に衝撃波が広がる。

 

 

 これで着地する場所は確保できる────そう思ったのだが。

 

 

 マカロンの衝撃で蒸発すると予想したモンスターの群れが、『ひっくり返ってズッコケた』

 その様子はまるで、お笑い芸人が示し合わせたかのように、同時にこけるふりをするそれに似ていた。

 

 頭からひっくり返った状態からすぐに復帰した天城の召喚獣たちに、ダメージが通っている様子は見られない。つまり、マカロンウェーブでも一体も削ることができなかったということになる。

 

 

 

 ……本当にふざけた魔法対策だ。

 

 

 

 

 私はそのまま、一体もモンスターを間引くことができなかった密集地点に着地する。

 いや、着地というかほぼ墜落してギリギリ受け身だけ取れたといったほうが適切か。

 

 

 360度周囲すべてを敵に囲まれた状態。

 

 

 襲いかかってくる敵の内、手近なものを魔法杖で殴って、なんとか退路を確保しようとするが、ほぼ同時に背後からも飛び道具やらなんやらの攻撃を受けてしまう。

 

 

 

 

「──────くっ!! 『シュガー・ヴェール』」

 

 

 

 力技でこの囲まれた状況から抜けるのは無理だと判断して、隠蔽魔法を起動する。

 

 これにはきちんと効果があったようで、ミノタウロスの股下を抜けて、何とか密集地帯を抜けることに成功する。

 

 

 グリフォンの攻撃で食らってしまった雷属性の状態異常からも回復できたので、再び空中に飛び上がって滞空する。

 

 

 

(さすがにもう出し惜しみしている余裕はない)

 

 

 ショコラ・バーストもマカロン・ウェーブも対策されていてダメージを与えられない。

 

 

 地面を埋め尽くす大量のモンスターたちを消すためには、広域殲滅魔法である『グラン・ノワール・フィナーレ』を叩き込むしかない。……人格が侵食される代償なんて、この際気にしている余裕はなかった。

 

 どう考えても、天城に敗北した場合の未来のほうが絶望的な目に遭うことが確定しているのだから。

 

 

 

 

 隠蔽魔法のおかげで、滞空したままの私はまだ捕捉されていない。

 

 ふぅ、と一息ついてから、詠唱を開始する。

 

 

 

『甘く、深く、すべてを────』

 

 

 

 広域殲滅魔法を起動するための詠唱の第一節、それを唱え始めた瞬間のことだった。

 

 

 魔法少女ドレスのフリルの内側に紛れ込んでいた、小さな何か、おそらく虫型の召喚獣が弾けた。

 

 

 

「ぐはっ……!!」

 

 

 隠蔽魔法も滞空状態も解除され、魔力を注ぎ始めていた『グラン・ノワール・フィナーレ』の詠唱も強制的に中断させられる。

 

 

 

 

「ああ、そこにいたんですかマロンちゃん」

 

 

 

 天城と目があった。

 

 

 隠蔽魔法が解除されてしまったのだから、見つかって当然だ。

 あの大技には溜めが必要な以上、モンスターで埋め尽くされたこの部屋で発動するためには隠蔽魔法が必須である。

 

 

 先ほどの爆発した何かは、天城が仕掛けていたものだったようだ。

 おそらくは、私の詠唱をトリガーとして爆発するように設計されていたのだろう。

 

 

 

 

「ちゃんと下描きしておいてよかったです。やっぱり、完成度は準備で決まりますから」

 

 

 

 そんな天城のつぶやきが聞こえると同時に、グリフォンが私の背後から勢いよくぶつかってきた。

 

 吹き飛ばされた私はそのまま地面にたたきつけられ、バウンドした先にミノタウロスの巨大な拳が視界を覆った。

 

 

 殴り飛ばされると思った次の瞬間には、私はまた壁にめり込んでいた。

 

 

 

「けほっ……」

 

 

 連続で受けた衝撃がまだ体の中に残っているような感じだ。

 三半規管が狂っているせいで、体勢を立て直すことすらままならない。

 

 

 思えば、冒険者になって以降、ここまで追い詰められたのは初のことだった。

 

 

 私の持つ固有魔法がほぼすべて対策されていて、効果がない。

 肉体的なダメージも限界であり、動く気力すらわかない。

 正直、杖を握りしめているだけで精一杯だ。

 

 

 

 目線を上げると、そこにいた天城は笑っていた。

 ただ、ずっと見たかったページをようやくめくれた子供のように、目を輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

(……あ、やばい、これ、負ける)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





マロン・ノワールがんばぇ〜


高評価ありがとうございます(敬称略)

Teyann 白銀ガチャ TSdaidai 崖の上の捕虜 habatuki
warayaaa Hamka2 わずわず nori8836 hashiba 亜寒体 インクライン 寛應 おかきき くと月 ささききー orangeflare ネムヌコ 桃葡萄蜜柑林檎梨じゅーす ミカヤ kasu192837465 銀氷. 祖母井之照  名称(仮) 水上歩行騎士団 マヤノサト
sasara99 cyan675 天樹 障子にメアリー エテールネ


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