現代ダンジョンで魔法少女になったら男に戻れなくなった   作:都森メメ

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第2話

 

 

 

 ダンジョンのなかでレベルアップしたら『魔法少女』というスキルを手に入れた。試しに使ってみると非常に強い能力を持ったスキルだったのだが、致命的な欠点が1つだけあった。

 

 

「男に戻れない……男に戻れないんだが……!?」

 

 

 マジでどうしよう。

 スキル効果の流れで男から魔法少女になる、そのあと変身を解除しても魔法少女からただの少女になるだけで、もとの男には一生戻れない。

 

 要するに、男→魔法少女→ただの少女で固定だ。

 

 

「そんな大事なことは、スキル取得時に真っ先に知覚できるようにしておけよ……!!」

 

 

 ぶかぶかになった男物の服を着て、うずくまって地面を殴りつけるが、袖口が長すぎてそれすら上手くできない。

 

 リュックからスマホを取り出して、自撮りモードに変えて改めて今の自分の姿を確認する。

 

 淡い栗色の髪を肩口あたりまで伸ばした可愛らしい少女の、絶望的な表情がそこには映し出されていた。

 

 

 もとの自分の姿とはあまりにも似ても似つかない。

 固有スキルに関する情報は過去にも事例があるが、性別ごと姿形がかわるような事例は聞いたことがない。

 嫌々ではあるが、ダンジョン職員にスキル効果を説明したとしても、元の自分が栗原恒一であると証明するのは至難の技だろう。

 スキルシートにはレベルや固有スキルは表記されているが、氏名までは記載されていない。

 

 

 魔力波形で個人認証するような技術がダンジョン協会には存在するが、もとの自分の魔力波形と今の魔法少女のそれが同じとは限らない。

 もしそれが相違してしまっていた場合の戸籍とか冒険者の免許とか、自己の証明や手続きの面倒くささなんて想像したくもない。

 

 この状況を手早く解決できるような方法はないか。

 できれば固有スキル開示は最後の手段にしておきたい……! 

 

 

「ん?」

 

 一つ気になる魔法がそこに記載されていた。

 

「『ティラミスチェンジ』……変装魔法!?」

 

 ほんの僅かに希望が見えたような気がした。

 早速その魔法を使用する。

 イメージするのは男だったときの自分の姿、形、声、その他材料になるものはすべてである。

 

 

 変装魔法でどこまで再現可能なのかわからない、だが今はこれに賭けるしかなかった。

 

(頼む! もとの男の姿、男の姿、男の姿!!!)

 

 

 願えば叶うとは誰の言葉だったかわからないが、果たして、辛うじて以前の男だったときの姿を模倣することに成功した。

 

 

 変装魔法は成功だった。

 自分の男性的な節ばった両手をマジマジと見つめる。

 

 やった……やったぞ……! 

 

「よし、よし、よし……! なんとか元の見た目だけは模倣できた! 声も元の自分に近い!」

 

 

 変装魔法を使用しているのに声のせいで正体がバレたりしたら本末転倒である。

 自分で使用した魔法だからこそわかるが、魔力で形を作った幻影を纏っているだけで、あくまで肉体は少女のままだ。

 

 この変装魔法の発動中は、質量のある魔力が自分の身体の周りを補強するように作用して、ぶかぶかだった冒険者用の装備を内側から仮想の肉体として押し上げている。

 

 

 スマホの自撮り画面で見ても、もとのアラサー男性の自分がインカメに収められていた。念のため録音機能でも声を確かめてみたが、問題はなかった。

 

 

「これで何とかダンジョンを出られる……!!」

 

 

 この魔法はかなり魔力のコスパが良いのだが、とはいえ常時発動しつづけていると魔力不足で倒れてしまうことを直感した。

 

 変装魔法をそのまま維持して元の男の姿のまま、急いでダンジョンの出口に向かうことにする。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

「お疲れ様でした、本日の魔石のご提出をお願いします」

 

「……はい、よろしくお願いします」

 

 

 ダンジョン協会窓口の女性にリュックの中にしまっていたアーマーラットの魔石をすべて渡す。

 弱いモンスターの魔石なので鑑定はすぐに終わり、一万円弱という金額が提示される。

 魔法少女に変身したあと、群れのラットをまとめて倒すことができたので、個人的には過去最高の収益である。

 

 

「現金もしくは翌営業日に登録済みの銀行口座にお振込みしますので、冒険者免許のご提示をお願いします」

「はい、振込でお願いします」

 

 

 顔写真付きの身分証明書を女性職員に提示する。

 

(頼む、バレるな……バレるな……)

 

 職員はちらりとこちらの顔を確認するだけで、特になにも言わず、手元の端末に免許証のICチップをかざした。

 

「免許証をお返しします、お怪我などがございましたら当館二階の冒険者病院までお願いします、本日もお疲れ様でした」

 

 

 定型文での会話を終えると、職員は次の冒険者の応対を始めた。

 建物の出口の自動改札もそのままカードをタッチして扉を開け、怪しまれることなく外に出ることができてしまった。

 

 

「変装魔法があってよかった……」

 

 

 万が一にも魔力切れを起こさないよう、寄り道せずに自宅アパートへの帰路を急いだ。

 

 

 

 電車を乗り継いで一人暮らしの自宅に着くとすぐに男性用冒険者装備一式の衣服を脱いで、全裸になって自分の体を確かめる。股間にはあるべきものが無く、まるでマネキンのそれのようになってしまっていた。

 

 

「変装魔法を使っても、アレの再現まではできないのか……」

 

 帰宅途中でも何となく察してはいたが、変装魔法は首から上はかなり精巧に再現されているのだが、服に隠れる部分は割と適当な感じなのである。

 

 

『変装解除』

 

 全裸の状態で変装魔法を解除してみると、当然そこにあるのは、魔法少女となったことで得た少女としての肉体である。

 

 

「……おお!! これは……!」

 

 

 一人称視点で見る少女の裸に少し興奮しかけたのだが、男だったときのように、反応する器官が存在しないせいかすぐに冷めてしまった。

 

 

 推定でもGカップくらいはありそうな巨乳を揉んでみても、とくに何も感じない。ただ単に少しひんやりと冷たい脂肪のかたまりに触れているとしか思えなくなってしまった。

 

 ……なんだこれ

 

「……虚しい」

 

 家具屋でセット買いした安物の全身鏡に映る自分の身体を眺めながらひとりごちる。

 

 

 栗色で少しウェーブのかかった艶やかな髪を肩のあたりまで伸ばしており、また先ほど確認したとおりかなりの大きさを誇る両胸は綺麗な形を維持したまま張り出しており、腰からお尻にかけても理想的なラインを描くように輪郭を走らせている。

 

 

 顔立ちも、元の男の自分の感覚からしてもかなり整っており、年齢は高校生くらいなのだが、どれだけ低く見積もっても学年でトップクラスは約束されているような美貌である。

 

 

 ちなみに、ダンジョンの免許は15才以上であれば取得できるので、高校生冒険者であっても成立しないわけでもない。かなり珍しい部類には入るが……。

 

 

 初めての魔法に固有スキル特有の欠点、変装を維持したままの気を遣う帰宅、今日は色々なことがありすぎて少し疲れてしまった。

 

 とりあえず変装魔法がある限り戸籍やら何やらの問題はある程度どうにかなりそうだ。

 

 その日はお風呂に入って美少女の肢体に戸惑いつつ、慣れない長髪を乾かすだけで体力を使い果たし、そのまま気絶するように寝た。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 変装魔法の連続使用時間は、おそらく6時間程度である。

 一度魔法少女の形態に戻れば、自然と魔力は回復していくが、もう一度万全に使用するためにはしっかりとした睡眠が必要だ。

 

『魔法少女』の固有スキルを獲得してから一週間、実験したうえでの結論である。

 

 

「元の男の姿に変装していられるのが連続で6時間弱……」

 

 魔力切れギリギリのところでフラつきながら、そう呟く。

 

 これが意味するところはすなわち、サラリーマンとしての社会復帰は絶望的であるということである。

 仮にできたとしてもシフト制のバイト、それも自宅からほど近い場所限定くらいのものであろう。

 

 

 スマホを開いて銀行口座の取引明細をみる。

 一週間前の報酬が振り込まれたのを最後に、それ以降は出金の記録だけが数字として並んでいる。

 

 

 冒険者として活動を始めるにあたり、それなりの金額を初期投資として吐き出してしまっている。

 このまま引きこもり生活を続けられるのも、どれだけ節約したとしてもせいぜい半年が限界だろう。

 

 

「ダンジョン……行くか」

 

 

 

 

 

 そう決意してから3ヶ月ほど、週に5日は必ずダンジョンに潜る生活をつづけた。

 ダンジョンで仕事をする都合上、ほかの冒険者に戦っている姿を見られることも何度かあったが、声をかけられても極力塩対応で誤魔化してソロ活動に専念した。

 

 

 最初に確認したとおり、この『魔法少女』という固有スキルは非常に強力だった。

 

 初心者の冒険者に推奨される階層はすぐに踏破してしまい、中級に差し掛かったあたりの冒険者が多数を占める階層でも危なげなく戦うことができた。

 

 中級あたりの冒険者は数人でパーティを組むのが一般的である。

 死亡率の高い階層に挑む以上、一人で突入する馬鹿はあまりいない。

 

 

 なので、ほかのパーティに誘われることも何度かあったが、当然ソロでの活動をつづけた。ダンジョン内で魔法少女に変身する姿や、男に変装する姿を見られるわけにはいかない。

 

 

 危険ではあるが、ソロ活動のメリットは収入の取り分がすべて自分一人になることである。

 

 

 

 魔法少女生活も半年を過ぎた頃、直近の月収は100万円を超えていた。

 

 

 

 

 

 

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