現代ダンジョンで魔法少女になったら男に戻れなくなった   作:都森メメ

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第3話

 

 

 

 今日もアキバダンジョンに潜る。

 半年ほどが経過し、冒険者生活にもすっかり慣れてきたが、現状誰にも自分が魔法少女であるということはバレていない。

 

 いつもどおりにダンジョン協会アキバ支部の建物に入り、地下につづくダンジョンゲート前の改札機に冒険者免許をかざして通る。

 

 ダンジョンの入り口から数百メートルくらいはほかの冒険者の姿がまだちらほら見えるので、ここまでは以前の男の姿の変装状態のまま歩き続ける。

 

 ある程度の分岐路を適当に通り過ぎたのち、人が減ってきたと感じたあたりで脇道にそれる。

 

 

 脇道の奥の方までいき、周囲に誰もいないことを念入りに確認する。

 

 

「『ティラミスチェンジ』──解除」

 

 

 変装魔法を解除すると、ただの私服の少女の姿になる。

 同時に服装も自動で変わってくれるのはありがたかった。

 先ほどまでは初心者冒険者の装備を身に着けた男だったが、今は適当なスウェットを上下に着ているだけの10代くらいの女の子の姿になっている。

 

「……変身」

 

 とくに変身するにあたり呪文などは必要ないが、なんとなく気分で一言だけ発してから魔法少女形態になるのが癖になってしまった。

 

 キラキラの謎空間での変身バンクが完了すると、そこには見慣れた魔法少女姿の自分が現れる。

 

 

『甘く、優しく、そして容赦なく──マロン・ノワール、ここに顕現』

 

 

 ……この台詞、相変わらず勝手に口が動く。

 変身する度にすこしずつ内容が違ったりしているが、いったい誰が考えているというのか。

 これ以外にも、魔法発動時にもセリフに自動補正がかかったりするのも欠点である。

 

 

 長さ80センチほどのステッキ……いやこの長さならロッドか? 

 どうでもいいか

 

 マロン・ノワールとしての杖だけを手にもって、それ以外のリュックなどの持ち物はすべてインベントリに収納する。

 

 

「荷物を持たなくていいのは本当にありがたいな」

 

 

 脇道の部分からこっそりと誰にも見られないように大通りに戻る。

 幸い、このタイミングはほかの冒険者の姿はなかった。

 

 

 低階層の部分にはアーマーラットをはじめとする収益の薄い魔物しかいないので、地下5階層までの初級冒険者に推奨されるような狩場は走って駆け抜けることにしている。

 各階層の地下への階段の場所もほとんど覚えてしまった。

 走り抜ける都合上、道中ではどうしてもほかの冒険者とすれ違うことが多くなってしまう。

 

 正直仕方がない部分もあるのだが、最近は気配遮断の魔法を新たに使えるようになったので、これを使用することにしている。

 

 

 

『甘い気配は、夜に溶ける──シュガー・ヴェール』

 

 ……いや、今は昼なんだけど。

 

 

 自動で述べられる口上には時間という概念がないのだろうか? 

 まあいいか。

 

 比較的燃費のいい魔法ではあるのだが、ずっと発動しつづけるほど余裕があるわけでもない。

 え? ダンジョンに入った男の変装のときから使えばいいじゃないかって? 

 

 基本的にほとんどの魔法は魔法少女の形態でなければ使用に制限がかかるのだ。

 

 いまのところの例外は変装魔法くらいだ。

 あれは少女の姿であってもいつでも使用可能である。

 

 

 

 ほかの冒険者には気づかれることなく、地下5階まで一気に走り抜け、地下6階に到達する。

 

 地下6階層以降はダンジョンの様相が変わる。

 天井が高く、空を飛ぶ魔物が出現する中級帯だ。

 

 

 360度周囲すべてから一気に襲われる可能性があるため、危険度が一気にあがるのである。

 だからこそ、これ以降の階層でのソロ攻略はあまり推奨されない。

 

 

 だが、それは一般的な冒険者の話である

 

 

 

『この夜を渡るのは、私だけ──ノワール・フライト』

 

 

 

 だから昼だってば。

 そう、魔法少女の魔法の一つに飛行魔法がある。

 

 手に持っていた杖に腰掛けるようにして空を飛ぶことができるのだ。

 

 しかも、そこまで燃費も悪くない。

 隠ぺい魔法と併用してもそこまで負担にならないのも助かる。

 

 

 6階層より下は天井が高くなるだけでなく、地形も非常に複雑になる。

 登ったり下りたりの上下方向でのアップダウンが追加されるのだ。

 

 

 飛行すればこれをすべてスキップすることができる。

 これのおかげで本来はキャンプ道具などの一式が必要になってくるレベルの階層でも日帰りで攻略することができる。

 

 

 複雑な地形を踏破しながらモンスターと戦う冒険者たちを眼下に、階段までのルートを直線で進み、そのまま地下7階を抜け地下8階層へ到達する。

 

 

 ここが現状の自分の稼ぎ場所である。

 

 適当に飛びながら、ある程度見晴らしのいい高所に着地する。

 周囲に目をやると、何匹かのモンスターに敵として認識されたことを知覚する。

 

 

 ストームワイバーン。

 

 地下8階層から出現する、中級冒険者にとっての鬼門となるモンスターである。

 その名のとおり、竜巻やら嵐などの風魔法を使用して空中から襲い掛かってくる敵であり、通常は複数人パーティ、特にタンク役と遠距離攻撃役がそれぞれ2人以上いないと中々討伐することが難しい敵だ。

 

 

『ヴァァァァアアアアアンッ!!』

 

 

 特徴的な高音域の咆哮により周囲の空気が震える。

 2匹のワイバーンがこちらに向かって風の刃を全身にまといながら突っ込んでくる。

 

 

 

『弾けなさい──────ショコラバースト』

 

 

 そう唱えながら杖を振ると、ハート型のチョコレートが前方に向かって二つ飛んでいく。

 照準も問題なくあっていたため、二匹のワイバーンにチョコレートがぶつかった瞬間、激しく爆発した。

 

 

 爆発のあとには、何も残らなかった。

 

 

 相変わらず強い魔法だと思うと同時に、ワイバーンの魔石が爆発に紛れて下にふっ飛んでいくのを視界にとらえる。

 自分でこの高所から降りて取りにいくのもいいのだが、少し面倒くさい。

 

 なので

 

 

『お菓子の妖精たち、手を貸して──パティスリー・フェアリーズ』

 

 

 

 そう唱えると、マカロンやクッキーでできた、小さな妖精たちがふわりと現れる。

 

 

「魔石を取ってきて」

 

 そう命令を伝えると妖精たちは二手にわかれて先ほどのワイバーンの魔石を取りに向かった。

 

 使い魔を最初に呼び出す際にそれなりに魔力は食うのであるが、一度召喚してしまえば妖精ごとの魔力を使い切るまでは自律的に動き続けてくれるので、こういう魔物討伐の場面では非常に有用である。

 

 

 ほどなくして、妖精たちが魔石を持ってきてくれた。

 ストームワイバーンの魔石はそれなりのサイズなので、二匹で抱えているほうは中々しんどそうである。

 

「ありがとう」

 

 妖精から受け取った魔石をそのままインベントリに収納する。

 

 

 背後から咆哮が聞こえる。

 振り返るとワイバーンがこちらに突撃しようとする予備動作の最中であった。

 

 

 また同じショコラバーストで爆殺して魔石を妖精に拾ってもらう。

 これを繰り返すだけで、かなりの収入になる。

 ワイバーンの魔石はこのあたりの階層ではかなりの高値で売れるのである。

 

 

 日帰りで攻略可能で、待っているだけでこちらを襲ってきてくれて、収益性の高い魔石をドロップしてくれる。

 地下8階層は自分にとって理想的な狩場だった。

 ストームワイバーン様様である。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 時刻は14時頃、少し遅めの昼食を済ませていた。

 

 隠蔽魔法は魔物からも見つかりづらくなるので、非常に重宝する。

 仕事を与えられずに暇そうにしているお菓子妖精やダンジョンの風景を眺めながら、ダンジョン協会の1階で売っている日替わり弁当をぱくついていると、眼下の冒険者たちの動きに違和感を感じた。

 

 

「……騒がしい」

 

 隠蔽魔法を解除してから、食べ終わった弁当のゴミをインベントリにしまいつつ、魔法少女の優秀な視力でもって遠くを見つめる。

 高い位置から眺めているおかげで、とくに人が集まっているような場所がどこかはすぐにわかった。

 

 

「あの辺りって……9階層に続く階段あるところだっけ……?」

 

 下の階層で何かあったのだろうか? 

 

 まあ何があったにせよ、魔法少女としての姿で積極的に人と関わり合いになりたいとは思わない。

 いろいろとリスクがありすぎるのだ。

 

 

「さて、インベントリも一杯だし、今日はこれで帰るか」

 

 

 そう独り言を言って、お菓子妖精に消えてもらった瞬間のことだった。

 

 階段の奥──

 黒い波のように、魔物が溢れ出した。

 

 

 少し見ただけでもわかる、どのモンスターもこの階層にいるはずのない、強力な種類のそればかりだ。 

 

 階層を越えた複数種類以上のモンスターの上階層への侵攻。

 冒険者資格をとる際のペーパーテストで勉強した範囲の知識にある事例と完全に一致している。

 

 

 

 

 

 

 ──スタンピード。

 教本でしか見たことのない、“最悪の事態”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 





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botsurinusu様
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