現代ダンジョンで魔法少女になったら男に戻れなくなった 作:都森メメ
冒険者資格 記述式試験
【問15】
スタンピード(ダンジョン内における魔物の異常大量発生をいう)が発生した場合において、当該ダンジョン内に所在する冒険者が講ずべき措置について述べなさい。
また、これに違反した場合に適用される処分についても併せて記載しなさい。
【模範解答】
スタンピード発生時においては、当該ダンジョン内に所在する冒険者は、自己の安全を確保しつつ、同一階層に所在する他の冒険者と連携し、防衛線の構築その他必要な措置を講じ、スタンピードの鎮圧に協力しなければならない。
正当な理由なくこれに協力せず、又は現場から離脱したことが認められた場合には、当該冒険者に対し、冒険者資格の取消しその他の懲戒処分が科される。
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アキバダンジョン第8階層では現在スタンピードが発生していた。
このスタンピードの発生場所は9階層であるが、すでにその階層での防衛は失敗しており、現状の防衛はこの第8階層にいる自分たちが担わなければならない。
呑気に高所でお昼ごはんを食べていた自分が憎い、もう少し早く帰宅する準備をしていればこれに巻き込まれずにすんだというのに……。
「全員、スタンピード発生時の緊急名札はつけましたか!?」
この階層の入り口付近にある広間のような場所に、自分も含め数十名の冒険者が集まっている。
なぜ迅速にこの場所に大人数が集まれたかというと、大半の冒険者は自分が仕事をしやすい階層の入り口付近でモンスター討伐にあたることが多いからである。
そのほうが帰宅がしやすいからだ。
そしてスタンピードは現在、第8階層の中間地点の部分まで到達していることが、偵察役を務める冒険者からの連絡で判明している。
この速度であれば、おそらくあと10分もしないうちに我々が集まるこの入り口付近の大広間までモンスターの群れが到達するであろう。
魔法少女衣装の左胸につけた、自分の緊急名札を確認する。
そこには『レベル9・魔法職』と記載されていた。
レベルに関しては魔力を込めると自動で浮き出てくる文字であるが、魔法職の部分は手書きである。
ほかの冒険者についても全員同じような名札を付けている。
スタンピード発生時にほかの冒険者と連携を取りやすくするための名札であるが、実際に使用する場面に出くわすことになるとは驚きである。
たしか、日本国内でのスタンピードは過去5年は起こっていなかったはずだ。
日本国内だけで300か所以上あるダンジョンのなかで、今日この瞬間に起こってしまったのは紛れもなく不幸である。
「この中にレベル16より高い方はいらっしゃいますか……!?」
ひと際体格の大きい男性冒険者が広間に待機中の冒険者にむかって問いかけている。
彼の胸についている名札には『レベル16・前衛職』と記入されていた。
問いかけられた冒険者たちはお互いの名札を見回して、該当するものがいないかを確認していく。
ぼっちの自分にも目を向けられるが、残念ながらレベル9である。
「……いないようですね、ではこの場では私が代表で指揮をとらせていただきます。高橋です、よろしくお願いします」
そういって礼儀正しくお辞儀をする彼に対し、日本人的なまばらで控えめな拍手が送られた。
まあ、すぐそこまでモンスターの大群が来てる状況でテンション高く拍手をしろというのも無理な話ではあるが。
「えーでは、いったんそれぞれのパーティについては解散してもらって、前衛職ごと、魔法職ごとで集まってください!!」
自分を除いて、この場に来ている人間は基本的に複数人でのパーティを組んでいる。
この階層でソロ攻略とかいう命知らずなことをやっていることも、先ほどまで他の冒険者たちからチラチラと好奇の視線を向けられていた理由だ。
……いや、めちゃくちゃ目立つ魔法少女の服装も原因か。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
言われたとおり魔法職のグループとして集まっている場所にいき、軽く挨拶だけする。
ほかの冒険者は全員きちんとした魔法職向けのローブを身にまとい、冒険者らしいリュックなどを背負ったりしている。フリフリのドレスを着ている馬鹿なんて一人もいやしない。
……マジで帰りたくなってきた、いや逃げたことがばれると冒険者資格がはく奪されてしまうので、無理な話である。
先ほどまで見晴らしのいい高所でお弁当を食べていたせいで、スタンピードが発生してすぐにほかの冒険者から集合のサインを受けてしまったので、その時点から気配隠ぺいの魔法を使ったとしてもこの階層から逃げることができなくなってしまった。「あの魔法少女のやつ、スタンピード起こったときにはいたのに、集まらなかった」と冒険者協会にスマホから通報されてしまうと一気に仕事ができなくなってしまう。
(9階層につながる階段付近にいた冒険者たちは大丈夫だろうか?)
もうとっくにスタンピードに轢き殺されてしまっているかもしれないが、お弁当を食べながらぼんやり眺めていた彼らの姿が脳裏にちらついた。
ひょっとすると彼らは、9階層での防衛から逃げてきた人たちだったのかもしれない。
走って逃げたところで、スタンピードを振り切れるわけがない。
────空でも飛べない限りはね。
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「これからこの大広間につながる一本道でスタンピード鎮圧にあたります! 前衛職のグループはレベルが高い盾持ちの方を一列目、それ以外を二列目としてならんでください!」
「魔法職はレベルが均等になるように2グループにわかれて、この通路左右の高台で飛行する魔物を中心に対処してください!」
リーダー役の高橋さんの指示のもと、8階層の冒険者たちがそれぞれの配置につく。
高台のため、前衛職の冒険者たちよりも先の部分を見通せる。
土煙からも、モンスターの集団が徐々にこちらに向かってきていることが一目でわかる。
(正直、怖いな……)
少し見えただけの範囲でも、図鑑でしか予習したことがないようなモンスターがいくつか確認できた。
レベル9の自分も含め、この場にいる冒険者数十名でぎりぎり止められるかどうかといったあたりかもしれない。
前方から斥候役の冒険者がこちらに戻ってくるのが見えた。
「あと1分ほどでここまで来ます!」
ここに到着し、前衛職の一員としての配置についたあとの彼の一言で、全員の気が引き締まる。
彼の予測通り、このあとちょうど1分ほどでスタンピードは我々冒険者の陣地に足を踏み入れてきた。
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『弾けなさい──────ショコラバースト』
現状の最大である5発同時の爆弾チョコレート攻撃でワイバーンなどの飛行するモンスターを捌いていく。
ほかの冒険者たちも頑張ってくれているおかげで、空中のモンスターは今のところ前線を超えずに済んでいる。
レベル9の自分より高い魔法職の冒険者は何人かいるが、一番討伐数が多いのは自分なのではないかと思う
命中率も、一撃の重さも、ショコラバーストが一番効果を発揮している気がする。
うん、魔力量にもまだ余裕がある。
前線に目を向けると盾役の一人が、突進してきたオーガに吹き飛ばされるところだった。
だが、後衛の回復魔法が即座に飛び、彼は歯を食いしばって立ち上がった。
「そこの魔法少女の冒険者! もし余裕があれば前衛にも助力を!」
リーダー役の高橋さんから助力の要請があった。
傍から見ても、ショコラバーストによる戦果は目を引いていたようだ。
ちょうど彼と目が合ったのでアイコンタクトだけで同意を示し、すぐに詠唱に入る。
前衛が盾を並べて隊列を組んで向かい合う先には、一本道をぎゅうぎゅう詰めになりながら進行しようとしているモンスターの群れが高台からはよく見えた。
うん、問題なく射程圏内だ。
『広がれ、静かに────マカロンウェーブ』
そう詠唱を唱えると巨大なマカロンが目の前から放物線を描くように飛んでいき、一本道のなかのモンスターの群れの中心に着弾する。
着弾した瞬間、ボンと大きな音を立てて衝撃が一気に広がり、着弾点に近いモンスターは一気に消滅した。
範囲攻撃技であるが、それなりの魔力を込めたおかげで役にたったらしい。
「すげぇ!」
「ありがとう魔法少女!!」
「よし、前線を立て直すぞ!」
日本国内でも数年ぶりのスタンピードということもあって、みんな決死の覚悟で挑んだ防衛線であるが、すこしずつ希望が見えてきた。
いまのところ、高橋さんをリーダーとするこの防衛線からは死者は出ていない。
当初、地下6階層あたりのほかの冒険者たちと合流してスタンピードを迎え撃つという案もあるにはあったのだが、侵攻速度から計算するにどう考えても途中で追いつかれて、走って体力を消耗したところをすり潰される可能性が高いという結論にいたり、この階層で前線を組むことにした。
現状を鑑みるにそれは正解だったようだ。
……正直、飛行魔法を使えばスタンピードの進行速度を振り切れる気もするので、仮にこの防衛線が突破されたとしても自分だけは全力で逃げれば何とか生き残れるかもしれない。
この防衛ラインが完全に崩壊すれば、飛行魔法で逃げたとしても協会からのお咎めはないかも────
(だめだだめだ、みんな死ぬまいと全力で戦ってるんだから、頑張らなければ)
あらためて空中を飛行するワイバーン系の魔物に向きなおり、爆弾チョコレートをお見舞いしていく。
ちなみに、マカロンウェーブは地面に接している状態の魔物にしか効果がないので、空中の敵は一体ずつ倒していくしかない。
「スタンピードの最後尾が見えてきました!!」
高台にいる魔法職の男性冒険者がそう叫ぶ。
「いける、いける! 生き残れるぞ!」
リーダーの高橋さんがそう叫ぶと全員の士気が一気にあがったのがわかった。
襲ってくる各モンスターを討伐するための適正なレベル帯はかなり上のほうだが、それは4人などのパーティ目線での適正レベルである。
数十人の冒険者が集まって有利な地形で戦っていることが功を奏している。
全員が死力を尽くして戦った。
魔力が尽きかけている魔法職も数人いる。
死なない程度のけがで前線から後ろに下がった前衛役もいる。
それでも死者はいない。
全員の表情が明るくなってきている。
────ピシリ。
嫌な音がした。
その音は、第8階層全体に響き渡るように広がっていく。
まるで共鳴するかのように我々の耳に届いた。
「……うそ、だろ……!!」
いまこうして戦っているのは地下9階層で発生したスタンピードの群れだ、これには終わりが見えかけている。
モンスターはどこから湧くか?
答えはダンジョンの壁や床、天井からである。
────―ピシリ、ピシリ、ピシリ、とモンスターが湧く音が連鎖しつづけている。
「だめだ、もう、無理だ……!」
────この階層で、スタンピードが発生し始めた。