現代ダンジョンで魔法少女になったら男に戻れなくなった   作:TSスキー

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第8話

 

 

 日曜日、男の姿の変装をして外出をしたが、その日はダンジョンに潜らずアキバダンジョンの近くにある冒険者用の道具類を販売している店に来ていた。

 

 

 目的はもちろん、キャンプ用品である。

 

 

 15階層で仕事をするのであれば、日帰りを繰り返すよりも1泊2日を週に2回ほどのペースで繰り返すほうが効率的だし収入も増えるはずだ。

 

 

 冒険者になってからというもの懐はかなり潤っているので、キャンプ用品はケチらずにしっかりとしたものを購入したいところ。

 

 店に入り、キャンプ用品のコーナーを物色する。

 

(おお、やっぱりダンジョン用のテントは結構いい値段するな)

 

 魔物除けの付与魔法が施されたものなどは、4人用の比較的小さいテントで50万円もする。

 

 だがこれは付与魔法にコストがかかっている分、肝心のテントの素材とか、使い勝手があまり良くなさそうな印象を受けた。

 

 

 

(隠蔽魔法があれば一晩は安全に過ごせるだろうから、付与魔法付きのやつはいらないな)

 

 

 自分の必要としているキャンプ用品の条件を頭のなかで整理した結果、テントと寝袋をあわせて80万円ほどで販売されているものを選んだ。

 買い物かごにそれを入れて、せっかくなので他にもダンジョン内での泊まりの助けになるような道具がないかを探してみることにする。

 

 

(鍋用の卓上のやつじゃ味気ないし、ちゃんとしたキャンプ用のミニコンロも買っちゃうか)

 

 

 コンロ系の商品はどこかと周りをみるとすぐ側にあった。

 並んでいるもののなかで、個人的にデザインとサイズ感がしっくりきたものに手を伸ばす。

 

 

 すると、同じキャンプコンロを目掛けて右から別の人の手が伸びてきて、少しだけ手と手が触れ合った。

 

 

「あ、すみません」

「いえ、こちらこそ」

 

 

 黒髪をボブカットで綺麗に揃えた女子高生がそこにいた。

 

 しかもめちゃくちゃ美人だ。

 見た目だけならマロン・ノワールの時の自分に匹敵するレベルかもしれない。

 

 

 不注意で手が触れたとはいえ、いまの自分は男の姿の変装中である。

 見ず知らずの女子高生と話す理由もないので、ガスコンロのコーナーは彼女に譲って自分は先に別の場所を見に行こうと思い、彼女に背を向けた。

 

 

「あ、あのすみません!」

 

 だが、向こうから声をかけられるのは想定外だった。

 

「何か?」

 

「えっと……わたし、先週アキバダンジョンでようやくレベル1になったところで、もし良かったらダンジョン攻略に役に立つ道具とか、教えて貰えたりできませんか?」

 

 目線をちらりと、こちらの買い物かごに入っているテントと寝袋を確認しながら、彼女はそうお願いをしてきた。

 こちらを深い階層に潜る冒険者だと判断しての問いかけだろう。

 

 頼られて悪い気はしないのだが、普通の女子高生なら、見知らぬアラサー男にここまで話しかけてこない気がする。やけにグイグイとこちらに迫ってきている姿勢にすこし違和感を抱いた。

 

 

 

「あー、僕も基本アキバダンジョンで冒険者やってますけど、何が必要かは人それぞれなので……」

 

 前衛なのか、後衛の魔法職なのかでも必要な道具はかなり異なる。

 

「それに、そういうのはダンジョン協会の職員さんに聞くのが一番だと思いますよ」

 

 道具店の商品コーナーで会っただけの知らない男の言う事なんかよりも、ダンジョン協会の職員の話を聞くべきだとストレートに伝えることにした。

 

「そ、そうですよね、すみません、見ず知らずの人にいきなりこんなこと聞いてしまって……」

 

 当たり前のことを伝えただけだが、彼女は申し訳なさそうにこちらへ謝ってきた。

 

「わたし、天城っていいます、もしアキバダンジョンですれ違ったりすることがあればよろしくお願いします」

 

 

 何をよろしくされたのかわからないが、ただの別れ際の社交辞令だと判断し、こちらも「栗原です、その時はよろしく」とだけ返答した。

 

 まあ、ダンジョン内で鉢合わせになることなんてほとんどないだろうけれど。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 変装魔法を使っての買い物にはかなり気をつかう。

 精神的な疲れがすこし残っていたので、キャンプ用品をいろいろと購入したものの、そのあと数日間は家に引きこもって休暇を取っていた。

 店舗に良いものがなく、ネット通販で購入したようなものもあったので、この休暇でちょうどすべて受取が完了した。

 

 

 

 そして、初の泊りでのダンジョン攻略。

 

 場所はもちろん最近狩場にしている第15階層だ。

 翠鱗竜ヴェルディアを30体ほど討伐すると、時刻は夕方ごろ、キャンプを設置する場所の目星はつけていたので、その場所に戻ってインベントリからテント用品一式を取り出す。

 

『女性でも簡単に設営できる魔防素材テント!』というキャッチコピーの商品だったが、マロン・ノワールという少女の手ではすこし手こずる作業が多かった。

 

 

 土台となるシートが風で吹き飛ばされたり、仮留めしたペグが弱かったせいで展開中のテントの周りをぐるぐる歩き回ったり、手間が多かった。

 最終的にはお菓子妖精を二体ほど呼び出して手伝ってもらうことで何とか設営することができた。

 

 

「……簡単設営って書いてあったけど、一人だと普通にしんどい」

 

 

 そもそもテントが必要になってくる階層は複数人で挑むのが大前提なので、基本的に冒険者向けのテントは4人用が一番小さいものになっている。

 そりゃあ一人で設置するのに苦労するわけである。

 

 

『甘い気配は、夜に溶ける──シュガー・ヴェール』

 

 

 テント全体に隠蔽魔法を施す。

 これで魔物からの襲撃に怯える必要はほぼない。

 

 

 

 一人で使うにはかなり大きいテントであり、テントの入り口前には屋根となる布を張った広いスペースがある。

 コンパクトチェアとミニコンロ、あとミニテーブルを置いて晩御飯の準備をすることにした。

 

 初のソロキャンなので、豪勢に行こうと思い今回はステーキである。

 しかも黒色の食品トレーに乗っている国産牛の高いやつだ。

 

 

 ミニテーブルにスマホを置いて、調理動画を見ながらゆっくりと肉を調理していく。

 

 ダンジョンの比較的深い層で優雅にソロキャンプをしているかと思われるかもしれないが、一応実験の目的もあるのだ。

 

(肉を焼いたときの匂いまで含めて、隠蔽魔法で隠すことができるのかどうか)

 

 

 念のためお菓子妖精を外に立たせながら、そのまま調理をつづけた。

 

 

 結局、魔物が匂いにつられて現れるようなことはなく、終始優雅なソロキャン飯を堪能することができた。

 高い肉のステーキはめちゃくちゃ美味しかった。

 

 

 すばらしきダンジョンライフである。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 スマホの目覚ましで起床する。

 

 テントの入り口を開けると、周辺の警戒をしてくれていたお菓子妖精と目があった。

 妖精はとくに怪我をしたというような様子もなかったので、本当に一晩何もなかったらしい。

 

 

「隠蔽魔法、便利すぎる」

 

 

 

 気休め程度の魔物除けの付与魔法が施されたテントで数十万するのだから、この隠蔽魔法を付与魔法としてできたらすごい値段でテントを売れるのではないだろうか? 

 まあ、永続エンチャントができる魔法ではないので、ただの皮算用にしか過ぎないが。

 

 

 

 ポットを火にかけている間に魔法少女への変身を済ませ、15階層の疑似的な日の光を浴びる。

 

「この階層、ほんとに空気がいい」

 

 

 時間に合わせて夜は暗くなってくれるので、睡眠もしやすい。

 翠燐竜の討伐難易度が高いおかげで、ここを拠点にする冒険者も少なく、人目を避けることもできる。

 

 お湯が沸いたのでコーヒーを淹れて一杯だけ飲む。

 30分ほどかけてゆっくりと飲み切ったあと、テントを片付けてインベントリに収納した。

 

 

 さて、今日も仕事をしよう。

 

 

 

 

 

 昨日につづいてドラゴン狩りを夕方ごろまで続けた。

 

 昼過ぎごろには容量が増えたインベントリが満杯になったので帰宅することに決める。

 

 

 

 隠蔽魔法────シュガー・ヴェールを発動させて、魔法杖に乗って飛行してダンジョンの階層を一気に駆け上がる。

 

 

 二時間弱の飛行と徒歩で1階層まで戻ることができた。

 

 

 身体に染み付いたルーティンのように、人気の少ない脇道に逸れてから、隠蔽魔法を解除する。

 

 

 変身を解除したあと、すぐに変装魔法で男の姿になる。

 

 

 

「さて、協会の受付に────」

 

 

 

 一階層の大通りに戻ろうと振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。

 

 

 見覚えのある少女だ。

 

 ついこの前、キャンプ用品のコーナーで少しだけ会話をした、黒髪ボブの可愛らしい女子高生である。

 

 たしか、天城とかいう名前だっただろうか。

 初心者用の冒険者装備を身にまとった彼女が驚いた表情でこちらを凝視していた。

 

 

 

(────っ!! しまった! 変装するところを見られたか!?)

 

 

 

 

 不味い不味い不味い、なぜもっとしっかり周囲を確認しなかった!? 

 

 いや、きちんと確認していたはずだ! 

 本当についさっきまで彼女はいなかったのに、タイミングのせいか……? 

 

 

 

 

 

 

 お互いに驚いているせいであろう、しばらく無言の時間が続く。

 

 

 最終的に、口火を切ったのは彼女のほうだった。

 

 

 

「栗原さんが……マロン・ノワール、だったんですか?」

 

「……っ!」

 

 

 変身を解除するところから含め完全にみられていたことが確定した。どうする、どうやって彼女の口封じをすればいい。

 

 

「あ、あの、今度こそ相談に乗ってほしくて────」

 

 

 このタイミングで一体何の相談があるというのか。

 どう考えても会話の流れがおかしいだろうと思ったのだが、次の彼女の言葉で腑に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「わたしも! ────『魔法少女』の固有スキル持ちなんです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 








天城さんは普通の女子高生です。




高評価ありがとうございます(敬称略)

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