【桜月 夜中】
[木の葉隠れの里 会議室]
「それでは、これより緊急会議を始める」
三代目火影である儂が会議の開始を宣言した。
会議室には錚々たる面々が集まっている。
相談役の水戸門ホムラとうたたねコハル。
上忍班長の奈良シテン。
うちは一族の長代理を務めるうちはヒカク。
今回の一件の目撃者である猿飛サトル。
そして、暗部を統括する志村ダンゾウ。
「忙しい中、集まってもらい感謝する」
だが、三代目の挨拶を遮るようにダンゾウが
最初に口を開いた。
「火影殿、社交辞令なら結構」
両眼を細めながら先を促す。
「本題に入っていただきたい」
「・・・・・・うむ」
三代目は頷いた。
「では、サトル。報告を頼む」
「はっ!」
サトルは立ち上がり、一同を見渡した。
「まず、結果から報告いたします」
その一言で室内が静まり返る。
誰もが次の言葉を待っていた。
「うちはカガリが――万華鏡写輪眼を開眼しま
した」
空気が凍り付いた。
ホムラとコハルは目を細める。
ダンゾウは表情こそ変えないものの、両眼に
鋭い光が宿った。
シテンは目を見開き、ヒカクは低く唸る。
「・・・・・・本当か」
ヒカクの声は僅かに震えていた。
しかし、サトルの報告はまだ終わらない。
「さらに――」
一同の視線が集中する。
「カガリは不完全ながら、スサノオを発現させ
ました」
サトルの報告が終わると、会議室は重苦しい
沈黙に支配された。
誰も軽々しく口を開こうとはしない。
やがて、ダンゾウがゆっくりと口を開いた。
「サトル、事の経緯を詳しく話せ」
ダンゾウの放つ重圧に、サトルは思わず背筋を
伸ばす。
「はっ」
短く返答し、一礼すると、今回の一件を説明し
始めた。
「事の発端は、アカデミーでの喧嘩です」
「喧嘩だと?」
コハルが眉をひそめる。
「はい。うちはカガリと千手律樹は入学早々、校
庭で喧嘩をし、カガリが敗北しました」
その報告を聞いた上役たちは、思わず苦笑を浮
かべた。
「その後、精神的動揺が激しかったカガリは保健
室へ運ばれ、眠りにつきましたが――」
サトルは言葉を切る。
「目覚めたカガリは、保健室を脱走しました」
「何だと?」
ホムラが声を荒げる。
「我々は、カガリが慰霊碑へ向かったものと推測
しました」
「慰霊碑に向かったということは・・・・・・」
シテンの言葉で、他の上役たちも察した。
「はい。亡き父を思い、気持ちを整理しようとし
ていたのでしょう」
サトルは一呼吸置いて、説明を続けた。
「教頭の山城サンヌ、カガリを見張っていた南雲
シグレ、そして私と千手律樹の四人で後を追い
ました」
ヒカクが静かに目を閉じた。
情に厚いうちはの者なら、その心情を痛いほど
理解できた。
「慰霊碑で花と線香を供えた後、カガリは独りに
なるため、森へ入りました」
「そこからが問題だな」
ダンゾウが腕を組む。
「はい」
サトルは頷いた。
「カガリは森の中で、突然右目に激痛を覚えたそ
うです」
サトルは慎重に言葉を続ける。
「激痛に耐えながら、小さな湧き水の池にたどり
着き、水面を覗き込むと――」
サトルは息を呑んだ。
「右目だけが不完全だった写輪眼が、徐々に完全
な形へと変化し…・・・・・・・・・
そして――万華鏡写輪眼へと開眼しました」
再び室内がざわつく。
「開眼条件は不明か?」
シテンが尋ねる。
「現時点では不明です」
サトルは首を横に振る。
「儂たちが知る写輪眼の開眼条件とは異なるな」
ホムラは腕を組む。
「だが、写輪眼は精神と深く結びついている。
父親のカガミが原因かもしれぬ」
コハルの言葉に、サトルも静かに頷く。
「はい、その通りかと。父親への想い、敗北によ
る精神的衝撃。それらが引き金になった可能性
があります」
その言葉に、ヒカクの表情はさらに険しさを増
した。
「続けろ」
ダンゾウが促した。
「開眼直後、カガリは自身の瞳力を制御できませ
んでした。そして――」
サトルの声が重く沈む。
「暴走しました」
その一言で、会議室の空気が凍りついた。
誰もが表情を強張らせる。
「・・・・・・スサノオか」
三代目が呟く。
「はい。万華鏡の力に呼応するようにチャクラが
暴走。不完全ながらスサノオが発現しました」
サトルは当時の光景を思い出す。
「あれは・・・・・・・・・災害でした」
今なお思い出すだけで、背筋に冷たいものが走
る・・・・・・。
「池一帯を覆うほどの衝撃が木々を次々と吹き飛
ばし、あと一歩で森全体が消し飛ぶほどに」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
誰一人として口を開けない。
会議室は、重苦しい沈黙に包まれた
「私は直ちに制止を試みましたが、近付くことす
ら困難でした」
「それで、どう収めた?」
ダンゾウが問う。
サトルの報告に、会議室の空気が一変した。
「千手律樹によりスサノオを封じ込めました」
その言葉に、ダンゾウの右目が鋭く細められる
「待て」
低い声が会議室に響いた。
「・・・・・・スサノオを封じ込めただと?」
万華鏡写輪眼が生み出すスサノオは、絶対防御
にして絶対攻撃。
それを一介のアカデミー生が抑え込んだという
報告は、あまりにも常識外れだった。
「どうやってだ」
ダンゾウの問いに、サトルは静かに答える。
「律樹は才牙により封じ込めました」
「・・・・・・才牙?」
聞き慣れぬ単語に、ホムラが眉をひそめる。
コハルも首を傾げた。
「何だ、それは」
ヒカクも怪訝な顔をしている。
サトルは一度息を吐いた。
「実は私も詳細は分かりません。ですが律樹本人
によれば――」
全員の視線が集まる。
「忍びの魂が形となった力、だそうです」
「魂だと?」
ホムラが訝しげに呟く。
「荒唐無稽だな」
コハルも疑念を隠さない。
だが、サトルは首を横に振った。
「私もそう思いました。しかし、実際に目の前で
見たのです」
脳裏に浮かぶのは、蒼く輝く盾。
そしてスサノオを押し返した異様な力。
「律樹の才牙は『水波能売命』。巨大な蒼い盾とし
て顕現しました」
室内に静かな緊張が走る。
「さらに本人はこう語っています」
サトルは律樹の言葉を思い出した。
『才牙は特別な血筋だけの力じゃない』
『理論上、誰でも手に入れられる』
その瞬間――
「なに?」
ヒカクが目を見開いた。
「誰でもだと?」
シテンも驚きを隠せない。
血継限界でも秘伝忍術でもない。
もしそれが事実なら、忍界の常識そのものが変
わる。
しかし――。
「馬鹿げている」
ダンゾウが切り捨てた。
「そのような力が存在するなら、なぜ今まで誰も
確認していない」
「・・・・・・分かりません」
サトルも即答できなかった。
すると、それまで沈黙していた三代目が静かに
口を開く。
「だが、現実に律樹はスサノオを止めた」
誰も反論できない。
しかし、ダンゾウはなおも鋭い視線をサトルへ
向けた。
「もう一つ聞こう」
「はっ」
「そのカガリは生存しているのだな?」
「・・・・・・はい。命に別状はありません」
その言葉に、会議室の空気がわずかに揺れる。
「万華鏡写輪眼を開眼した者は、稀に精神が暴走
し、理性を失うこともある」
ダンゾウの言葉で全員が口を閉ざす。
「まして、スサノオまで発現したならば、里一つ
滅ぼしかねん」
ダンゾウは細く目を閉じた。
「そのような者が、なぜ生きている?」
サトルは一度息を整え、当時の光景を思い返す
「律樹は最後までカガリを殺そうとはしませんで
した」
「ほう?」
「暴走したカガリはスサノオを纏い、律樹へ攻撃
を続けました。しかし律樹は真正面から受け止
め、才牙の力でスサノオを抑え込みました」
誰も口を挟まない。
「そして・・・・・・・・・」
サトルは言葉を選ぶように、一瞬口をつぐんだ
「律樹は戦いを終わらせるため、カガリを抱き寄
せ――そのまま口づけをしました」
「・・・・・・何だと?」
会議室の空気が一変した。
「律樹は自分のチャクラを送り込み、中和するた
めに口づけをしたのです」
その説明を聞いた瞬間、全員が言葉を失った。
「実はその効果があったのかどうか、未だにわか
りません」
上役たちは苦笑いするサトルにつられて同じ表
情になった。
「ですが、暴走していたカガリは正気を取り戻し
万華鏡写輪眼も解除されました」
サトルは気まずそうに頬を掻く。
「以上が、カガリのスサノオ暴走終結までの経緯
です」
報告が終わると、会議室は重苦しい沈黙に包ま
れた。
誰一人として口を開こうとせず、ただ気まずい
空気だけが静かに流れていた。
ーto be continuedー
次回 カガリの行方