木の葉の摩利支天と呼ばれた忍    作:rOOd

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№18 婚約あいさつ

        【桜月 昼前】

    [木の葉隠れの里 木の葉病院]

 

 俺はカガリの病室の前に立っていた。

 

「・・・・・・うーん、入りづらい」

 

 今日はカガリの退院日だ。

 そして今日から、カガリは俺たちと一緒に暮ら

すことになる。 

 

「『婚約者を迎えに行くのは当然だろ』か・・・」

  

 俺は姉さんの命令でカガリを迎えに来た。

 姉さんの冷やかしの顔は、まるで悪戯を企む悪

魔そのものだった。

 

「まあ、ここで立ち止まっていても仕方ないか」

 

 俺は小さく息を吐き、病室の扉を軽く叩いた。

 

「カガリ、入るぞ!」

 

 そして、病室の扉を開けた。

 

「失礼します」

 

 中へ入ると、カガリは私服に着替え、ベッドの

上にちょこんと座っていた。

 俺の姿を見つけた瞬間、その表情はぱっと花が

咲いたように綻ぶ。

 

「り、律樹……」

 

 その顔は、戦いで見せる凛々しい表情ではなく

恋する乙女そのものだった。

 一方、その隣の椅子には猿飛サトル先生が腰を

掛けた。

 

「来たな、律樹」

「サトル先生」

 

 穏やかな笑みを浮かべている。

 

「嫁さんを迎えに来たか」

「からかわないで下さい」

 

 サトル先生は満面の笑みを浮かべる。 

 

「こちらもちょうど話が終わったところだよ」

 

 サトル先生は立ち上がり、俺に近づいた。

 

「カガリの退院後の生活と、アカデミーへの復帰

 について説明していたんだ」

 

 カガリの方を見ると、小さく頷く。

 

「先生が、焦らず少しずつ学校に戻ればいいって

 ・・・・・・」

「その通りだ。無理は禁物だからね」

 

 サトル先生は優しい眼差しで二人を見つめた。

 

「サトル先生」

 

 俺はサトル先生にお願いをした。

 

「カガリと二人きりにしてくれませんか」

「・・・・・・・・・」

 

 サトル先生は無言のまま俺の肩に手を置き、静

かに首を横へ振る。

 

「律樹」

「はい?」

「まだ・・・・・・早いぞ」

「ぶん殴りますよ」

 

 サトル先生は腹を抱え、声を上げて笑い出した

 

「ははははっ! 冗談だ、冗談!」

 

 ひとしきり笑うと、目尻に浮かんだ涙を拭い

穏やかな笑みを浮かべる先生。

 

「・・・・・・じゃあ、俺はこれで失礼するよ。

 二人とも、ゆっくり話しなさい」

「はい。ありがとうございました」

 

 サトル先生は軽く手を振り、病室を後にした。

 扉が静かに閉まると、病室には俺とカガリ・・・

そして穏やかな静けさだけが残る。

 カガリはゆっくりと俺へ視線を向け、小さく微

笑んだ。

 

「・・・・・・綱手姉、会議室に乗り込んで直談判した

 って聞いた」

「まあな。姉さん、自分の意見をゴリ押しのゴリ

 押しで認めさせたらしい」

「・・・・・・本当に感謝しないといけないね」

「ああ、そうだな」

 

 俺は静かに頷いた。

 カガリは少し俯き、胸の前で両手をぎゅっと握

り締めた。

 

「律樹・・・・・・」

「なんだ?」

「綱手姉・・・・・・今、私のせいで木の葉隠れでの立

 場が危ういよね・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 俺が口を閉ざすと、カガリは胸の奥に押し込め

ていた想いを、震える声で吐き出した。

 

「千手の綱手姉が・・・・・・うちはの私を庇った」

「・・・・・・・・・」

「だから、ダンゾウはきっと綱手姉に報復するか

 もしれない・・・・・・・・・」

「・・・・・・カガリ」

 

 俺は静かに、その名を呼んだ。

 カガリは肩を震わせ、顔を伏せたまま唇を強く

噛み締める。

 

 うちはの者は、誰よりも愛情深い。

 仇なす者には死を。受けた恩には、最大限の敬

意を。

 ――それが、うちはの仁義だ。

 

 だからこそカガリは、自分の存在が原因で千手

一族と里との間に亀裂が生まれることを、誰より

も恐れていた。

 

「受けた愛に、理由なんてつけるな」

「・・・・・・え?」

 

 俺の言葉に、カガリは戸惑ったように目を瞬か

せる。

  だが、俺はそのまま静かに言葉を続けた。

 

「姉さんは損得でお前を守ったんじゃない。

 お前を大切に思っているから守ったんだ」

 

 俺は一呼吸置き、何より伝えたかった言葉を口

にする。

 

「だから、その想いまで背負い込もうとするな」

 

 俺はカガリと顔を見合わせた。

 

「俺たちは、これから家族になるんだ」

「・・・・・・・・・」

「姉が妹を守るのは当然だし、妹も姉を支えるの

 も当たり前だろ?」

「・・・・・・うん」

 

 カガリは目元を潤ませながら、小さく、それで

も確かな声で頷いた。

 俺は優しく微笑み返すと、立ち上がる。

 

「よし。まずは三代目火影様のところへ行こう」

「え?」

「俺たちの婚約を認めてくれたことへのお礼と

 これから家族として歩んでいくことを、きちん

 と報告したい」

 

 カガリは一瞬驚いたように目を丸くしたが

すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

 

「うん。一緒に行こう、律樹」

 

 俺は静かに頷く。

 

「感謝は、ちゃんと言葉にしないとな」

 

 カガリは嬉しそうに「うん」と頷き、俺の隣へ

並んだ。

 病室を出ると、廊下には午後の柔らかな陽射し

が差し込んでいた。

 

 俺たちは並んでゆっくりと歩き始める。

 退院という新たな門出。

 そして、家族として歩み始める最初の一歩。

 

 その最初に伝えるべき相手は、俺たちの未来を

信じ、背中を押してくれた三代目火影様だった。

 俺とカガリは互いに顔を見合わせ、自然と笑み

を交わす。

 

「行こう」

「うん」

 

 二人は足並みを揃え、火影邸へと歩き出した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

〜火影邸 執務室〜

 

 俺は執務室の扉を軽く二度叩き、静かに開けた

 

「おお、律樹、カガリ。よく来たな」

「三代目、お忙しいところ、お時間をいただきあ

 りがとうございます」

「堅苦しいあいさつはよい。それよりカガリ、身

 体の具合はもう大丈夫なのか?」

「はい。綱手姉からも、お墨付きをいただきまし

 た」

「そうか。それは何よりじゃ」

 

 穏やかな笑みを交わしたあと、俺はカガリと顔

を見合わせ、小さく頷く。

 

「実は本日、ご報告があって参りました」

 

 俺とカガリが婚約の話をすると、三代目は目を

細め、嬉しそうに頷いた。

 

「これは実にめでたい話だ」

 

 和やかな空気が執務室を包んだ

――その時だった。 

 

「相変わらず甘いな、ヒルゼン」

 

 低く冷たい声とともに、ダンゾウが突然、執務

室へ入ってきた。

 

「ダンゾウ、めでたい席だというのに、渋い顔を

 するな」

「めでたい席だと?」

 

 ダンゾウは俺とカガリを鋭く見据え、鼻で笑っ

た。

 

「まさか、本当にそんな婚約など認められると思

 っているのか?」

 

 執務室に重苦しい空気が流れる。

 

「・・・・・・ダンゾウ、何が言いたい」

 

 三代目が静かに問いかける。

 

「決まっている。カガリの暗部入隊の件だ」

 

 ダンゾウは一歩前へ出る。

 

「儂はまだ諦めてはいない。カガリは里のために

 使うべき人材だ。私情で埋もれさせるわけには

 いかん」

 

 ダンゾウは俺とカガリへ鋭い視線を向け、冷た

く睨みつけた。

 俺はダンゾウを真っ直ぐ見据え、声を張り上げ

た。

 

「・・・・・・ダンゾウ様、一つお聞きしてもよろしい

 ですか」

「なんだ、千手律樹?」

「アンタは――いつから自分を捨てた?」

 

 その言葉に、ダンゾウは何も答えなかった。

 執務室をさらに重い沈黙が包む。

 俺はカガリの肩にそっと手を置き、ダンゾウを

見据えた。

 

「アンタが里を想っていることは分かる」

 

 俺はダンゾウに対する敬意を口に出した。

 

「アンタの言っていることも、間違いじゃない」

 

 一度言葉を切り、静かに首を振る。

 

「だけど、それはカガリに押し付けた善意だ」

 

 黙るダンゾウに、俺はこう断言した。

 

「本人の意思を踏みにじってまで貫く善意は、も

 う善意じゃない――ただの独善」

 

 俺はカガリへと視線を向け、穏やかな口調で続

けた。

 

「この先、何があるかはわからない。だけど、今

 の俺にできることをする」 

 

 俺はゆっくりとカガリの手を握り、優しく微笑

む。

 

「カガリとともに生きるよ」

 

 その言葉で、カガリの瞳から涙があふれた。

 だが、その顔には涙を忘れるほどの満面の笑み

が咲いていた。

 三代目はそんな二人を見つめ、安堵したように

静かな笑みを浮かべる。

 

 一方、ダンゾウは何も言わない。

 ただ二人を一瞥すると、踵を返し、無言のまま

執務室を後にした。

 誰もその背中を呼び止める者はいなかった。

 

 俺はダンゾウが去っていく背中を見送り、小さ

く息を吐いた。

 

「三代目、一つだけ聞いてもいいですか?」

 

 三代目は穏やかに頷く。

 

「何だ、律樹?」

 

 俺は真っ直ぐ三代目を見据えた。

 

「うずまきミト・・・・・・お婆さまは――今もご存命 

 ですよね?」

 

 その一言に、三代目は目を見開いた。

 

「・・・・・・お主なぜ、そのことを知っておる?」

 

 執務室の空気が一変する。

 三代目は動揺を隠せない表情で律樹を見つめ

しばらく言葉を失っていた。 

 

 三代目の表情から笑みが消えた。

 先ほどまで穏やかだった空気が、一瞬で凍りつ

く。

 三代目は律樹を鋭く睨み据え、その身から息苦

しいほどの威圧感が放たれた。 

 

「・・・・・・律樹」

 

 低く、重い声が執務室に響く。

 

「その情報は里でも、ごく一部の者しか知らぬ極

 秘事項じゃ」

 

 静寂が落ちる。

 

「お主・・・・・・まさか、その事実を知ったうえで

 ここへ来たのか?」

 

 三代目の眼光はさらに鋭さを増す。

 

「答えよ」

 

 有無を言わせぬ圧力が、執務室全体を支配した

 

「お主は――なぜ、ミト様が今もご存命だと知っ

 ておる?」

 

 俺は震えるカガリの手をそっと握り、静かに答 

えた。

 

「・・・・・・九尾です」

「――ッ!?」

「九尾が、どこに封印されているのか。それを考

 えました」

「・・・・・・お主」

 

 俺は三代目の視線を真っ直ぐ受け止め、臆する

ことなく続ける。

 

「そこから考察しました」

 

 三代目は動揺を隠しきれず、小さく喉を鳴らし 

た。

 

「・・・・・・なぜ、ミト様に会いたい?」

「俺と縄樹、それからカガリを見てもらいたいん

 です」

「見てもらう?」

「はい。俺たちが、次の人柱となるどうか

 ――その判断をお願いしたいんです」

 

 三代目はしばらく無言のまま律樹を見つめてい

た。

 やがて深く息を吐き、苦笑を浮かべる。

 

「・・・・・・そこまで見抜いておったか」

 

 その声に、先ほどまでの探るような鋭さはなか

った。

 

「九尾の封印先からミト様のご存命を推測すると

 は・・・・・・。お主、本当に末恐ろしいのう」

 

 三代目は感心したように小さく笑い、ゆっくり

と頷く。

 

「そこまでの覚悟を持って会いたいと言うのなら

 止める理由はあるまい」

 

 そして静かに告げた。

 

「よかろう。ミト様との謁見を許可する」

 

 その言葉に、執務室を包んでいた重苦しい空気

がわずかに和らいだ。

 

ーto be continuedー

 

 




次回 才牙の習得
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