【桜月 夕方】
[木の葉隠れの里 千手家]
「それでは、カガリの退院と嫁入りを祝して
――祝賀会を始める!」
居間に姉さんの豪快な開会宣言が響き渡る。
「さあ、みんな立ちな」
オレたちは一斉に立ち上がり、それぞれグラス
を掲げた。
「それじゃあ、乾杯!!!」
「「「乾杯!!」」」
姉ちゃんは特大サイズのジョッキのビールを豪
快にあおり、一気に飲み干す。
「プハッ!?美味い!!」
その豪快な飲みぶりに呆れた俺たちは座布団に
座り直し、俺が丹精込めて作った手料理を全員で
食べ始めた。
「いや~、いろいろとあったが、今日から家族
が一人増えた」
満足そうに息をつくと、姉ちゃんは上機嫌な笑
みを浮かべながら爆弾発言を投下した。
「そのうち、カガリがもっと家族を増やしてくれ
るだろ!」
あまりにも豪快すぎる一言に、俺たちはそろっ
て苦笑した。
「姉ちゃん、もう少し遠回しに言えよ」
「そうだよ。ほら、カガリの頭から煙が上がって
るよ〜」
プシューッ!!!?
カガリは耳まで真っ赤に染め、今にも湯気を噴
き出しそうな勢いで固まっていた。
一方の姉さんも、いつの間にか顔を真っ赤にし
左手に徳利を握ったまま豪快に笑っている。
「今日はめでたい日だ!そういう細かいことは抜
きだ!抜き!!」
「姉ちゃん、もうかなり酔ってるな・・・・・・」
「当たり前だ! 今日はカガリの退院と嫁入り祝
いだからな!」
そう言うなり、姉さんはカガリを勢いよく抱き
寄せる。
「きゃっ! つ、綱手姉!?」
「はっはっはっ!今日の主役なんだから、遠慮す
るな!」
カガリは真っ赤になって戸惑い、居間には笑い
声が響き渡った。
「カガリ、可哀想」
「つーか、りつ兄〜。見てないで助けてやれよ。
奥さんだろ」
オレはニヤニヤと笑いしながら、りつ兄をから
かった。
「・・・・・・恐ろしいからパス」
「ひでえ旦那だな」
その時だった。
玄関のほうから、遠慮という言葉を知らない声
が響く。
「お邪魔するわよ」
「邪魔するぞー」
返事を待つことなく、勝手に居間へ入ってきた
のは、大蛇丸さんと自来也さんだった。
「・・・・・・あ?」
その場にいた全員の視線が、一斉に二人へ向く
酒で頬を赤く染めた姉ちゃんは、ゆっくりと立
ち上がると、こめかみに青筋を浮かべた。
「おい、自来也!それと大蛇丸!」
怒気を孕んだ声が居間に響く。
「ひとん家に勝手に上がり込む奴があるか!」
姉ちゃんの一喝にも、自来也さんは悪びれた様
子もなく頭をかきた。
一方、大蛇丸さんはくすりと笑みを浮かべるだ
けだった。
「まあまあ、祝い事だと聞いてな」
「そうよ、綱手。細かいことは気にしないでちょ
うだい。お祝いを持ってきたのだから」
そう言って大蛇丸さんは手にした包みを軽く持
ち上げる。
だが、姉さんの怒りは収まらない。
「そういう問題じゃない!」
酔いも手伝って、姉ちゃんの怒号は家中に響き
渡った。
「まあまあ、落ち着けっての」
自来也さんは豪快に笑いながら、大きな風呂敷
包みを床へ置く。
「祝いの品も持ってきたぞ」
「祝いの品?」
オレが首を傾げると、大蛇丸さんが静かに上質
な木箱を差し出した。
「これは私からよ」
木箱を開けると、中には琥珀色に輝く液体の入
ったガラス瓶が収められていた。
「上質な蜂蜜酒よ。祝いの席にはちょうどいいで
しょう」
「おおっ!」
姉ちゃんは目を輝かせる。
「さすが大蛇丸! わかってるじゃないか!」
「・・・・・・だからって飲みすぎないでよ、姉さん」
俺が呆れたように呟く。
――それにしても、蜂蜜酒か。
大蛇丸さん、意外と律儀だな。
「なあ、大蛇丸さん」
「なにかしら、縄樹?」
「なんで祝いの品が蜂蜜酒なの?」
縄樹には、大蛇丸さんが祝いの品として蜂蜜酒
を持ってきたのか分からず、首を傾げた。
そこで俺は、その理由を説明する。
「縄樹。蜂蜜酒は、千手一族の祝い事には欠かせ
ない酒なんだ」
「え?」
蜂蜜酒は、森で暮らしていた千手一族が発見し
た酒だと伝えられている。
そのため、古くから祝いの席で振る舞われてき
たので、千手一族にとって縁起の良い酒なんだ。
「へぇ~、そうなんだ」
「お前な〜、それくらい知っとけよ」
自分の家の習わしを知らない縄樹に俺は呆れた
一方、自来也は風呂敷を勢いよく広げた。
「わしからはこれだ!」
中から次々と並べられたのは、旅先で集めた各
地の珍味だった。
「高級魚の干物に燻製、珍しい木の実の漬物、
それからイノシシや熊の干し肉!どれも酒に合
う逸品ばかりじゃ!」
「おおー!」
縄樹は目を輝かせ、居間は再び賑やかな空気に
包まれた。
しかし、俺とカガリの祝いだよな?
なんか、ただの酒盛りになってきた。
「まったく・・・・・・勝手に上がり込んだことは説教
だが、祝いの品はありがたく受け取ってやる」
綱手はそう言うと、にやりと笑った。
「よし! 今日はとことん飲むぞ!」
「姉さん、その台詞は誰も止められないからやめ
てくれ・・・・・・」
りつ兄が額に手を当てると、居間には再び笑い
声が響き渡った。
数十分後。
俺は酒盛りが盛り上がってきた頃を見計らい
大蛇丸の祝いの品だけを抱えて居間を出た。
「とりあえず、蜂蜜酒だけ暗所にしまっておくか
ら」
「こらぁ、律樹! 貴重な酒を持っていくな!」
姉ちゃんは自来也さんが持ってきたつまみをか
じりながら叫ぶ。
「いや、これは俺とカガリへの祝いの品だろ?」
俺は蜂蜜酒を抱えたまま、カガリへ視線を向け
た。
「カガリ、ちょっと手伝ってくれ」
「え? う、うん」
カガリは小さく頷き、蜂蜜酒を渡す。
俺は空になった皿を全てお盆にまとめて持つと
カガリと一緒に居間を出て、台所へ向かった。
台所に入ると、流し場に洗物を置き、戸を閉め
ると、居間で酒盛りをする賑やかな笑い声が少し
遠くなった。
「・・・・・・律樹」
カガリは俺をジッと見据えた。
「蜂蜜酒をしまうだけじゃないよね・・・・・・話があ
るんでしょ?」
俺は瓶を棚へ置き、真剣な表情でカガリを視線
を向けた。
「・・・・・・実は、忠告がある」
「忠告・・・・・・?」
カガリの表情が強張る。
俺はゆっくりと息を吐き、説明を始めた。
「カガリ。ここからは冗談抜きの話だ」
「・・・・・・うん」
俺は真っ直ぐカガリの目を見つめる。
「大蛇丸さんは、お前の身体を狙っている」
「――え・・・・・・?」
カガリの顔から血の気が引いた。
「正確には、お前の中に眠る力だ」
俺は表情を険しくする。
「だから、あの人がどれだけ味方のように振る舞
っていたとしてもだ。
決して、大蛇丸さんとは二人きりになるな」
俺は真剣な顔でカガリを見据えた。
「姉さんや自来也さん、俺がいない場所で、大蛇
丸と会うことだけは絶対に避けろ」
カガリは息を呑み、ゆっくりと頷いた。
「・・・・・・分かった。絶対にあいつとは会わない」
「それでいい。あの人は信用できる相手じゃない
利用価値があるから協力しているだけだ。
それだけは忘れるな」
カガリは胸の前で両手を握り締め、不安そうに
俺を見つめた。
「大蛇丸って人も、ダンゾウと同じなの?」
俺は静かに首を横へ振る。
「いや、同じじゃない」
「え・・・・・・?」
「確かに、ダンゾウもお前のことを狙っている。
だが、目的が違う」
俺は言葉を選びながら続けた。
「ダンゾウは、カガリを道具として利用しようと
考えていた」
一拍置き、低い声で言う。
「だが、大蛇丸さんが興味を持っているのは、お
前に宿る力だ」
あの人が研究熱心なのは、より強い力を求めて
いるからだ。
「 つまり、その力を宿す身体そのものの研究価値
なんだよ。危険な相手であることに変わりはな
いが、ダンゾウとは執着する理由が違う」
カガリは複雑そうな表情で俯く。
「・・・・・・どっちにしても、怖い人なんだね」
「ああ。だが、大蛇丸さんの本当に恐ろしいとこ
ろは、答えにたどり着く執念だ」
「答え・・・・・・?」
俺はカガリに才牙のことを聞いた。
「カガリ、才牙は理論上、誰でも会得できると
前に話したろ?」
「う、うん」
「だが、それには一つ条件がある」
「条件?」
「実は、『才牙』は子供の頃にしか会得できない」
「え?」
俺の言葉に、カガリは呆然と目を見開いた。
「正確に言えば、『才牙』は、大人になってから
会得しようとしても、そこへたどり着ける可能
性は極めて低い」
「ど、どうして?」
「ここからは俺の体験談だ」
俺は、自分が才牙へ至った経緯を語り始めた。
「最初は俺一人で修行していた。忍術をもっと簡
単に、もっと自在に扱えないかと試行錯誤して
いたんだ」
カガリは静かに耳を傾ける。
「その途中から縄樹も加わり、一緒に修行するよ
うになった」
俺は目を閉じて当時を振り返る。
「二人での修行中、俺は縄樹とお互いのチャクラ
を共鳴することができないかと考えた」
「チャクラの共鳴?」
俺は当時を思い返しながら続ける。
「チャクラを共鳴させれば、忍術の質を高められ
るんじゃないかと思い、それから二人でチャク
ラを共鳴する修行に明け暮れた」
カガリは黙って俺の話に耳を傾ける。
「縄樹と何年も手を合わせ、共鳴の修行を積み重
ねていた日々だった」
俺は目を開け、こう語った。
「ある日を境に、俺たちは互いの魂の存在を感じ
取れるようになった」
そう、あれは理屈では説明できない境地に足を
踏み入れた。
「俺たちは、次第に自分の心が自身の魂へと近づ
いていく感覚をつかんだ」
俺は再び、目を閉じた。
「そして、ついに心が魂へとたどり着き、その魂
の力を具現化させることに成功した」
「・・・・・・それが才牙?」
カガリが聞き返すと、俺は静かに頷いた。
「ああ。その感覚は、人間の五感を超えたものだ
と気づいた俺は、文献を調べた」
俺は目を開け、続ける。
「そこで、その感覚が仏教の概念でいう
『阿頼耶識』に近いものだと分かった」
「・・・・・・阿頼耶識?」
「俺も完全には理解してないが、簡単に言えば、
あらゆる生命の意識が繋がる世界だ」
それを聞いたカガリは困惑したように固まって
しまう。
「理解してないと言っただろ。だが、そこへたど
り着いた俺たちだからこそ、一つだけわかった
ことがある」
一度言葉を切り、静かに続けた。
「それは、子供のような純粋無垢な心があって初
めて会得できる力だということだ。だから、成
熟した大人では決してたどり着けない」
カガリは驚いたように目を見開いた。
「そんな条件が・・・・・・」
「ああ。だから、俺の予想だと俺が発見した才牙
会得の修行方法を多くの大人に伝授しても、ほ
とんどの人は途中で諦めるよ。
だが――大蛇丸さんだけは違う!」
俺は静かに息を吐いた。
「あの人は常識に縛られず、何十年でも研究を続
ける人だ。どれほど遠回りになろうと、わずか
な可能性でも追い続ける」
俺は一拍置いて、こう断言した。
「そして最後には、『子供にしか会得できない』
という結論を導き出し、そこから独自の理論を
構築し、自分の才牙へとたどり着く」
カガリは思わず息をのむ。
俺はカガリの肩にそっと手を置いた。
「だから警戒だけは絶対に怠るな。それが、自分
自身を守る一番の近道だ」
俺の忠告に、カガリは静かに頷く。
ーto be continuedー
次回 才牙の制限