【桜月 夜中】
[木の葉隠れの里 千手家]
「あら、面白い話をしているわね」
突然、俺たちしかいないはずの台所で、不意に
横から声をかけられた。
「お、大蛇丸さん!?」
「―――ッ!?」
振り向くと、大蛇丸さんがいつもの穏やかな笑
みを浮かべながら立っていた。
「な、なんでここに・・・・・・」
「あなたたち、なかなか戻ってこないものだから
様子を見に来たのよ」
そう言って肩をすくめる。
「そんなに驚くなんて失礼ね。みんな待っている
わよ」
「すみません。カガリ少し話し込んでしまって」
俺が頭を下げると、大蛇丸さんは気にした様子
もなく微笑んだ。
「ふふふっ、若いわね。・・・・・・それより――」
金色の瞳が俺を真っすぐ見据える。
「噂の"才牙"・・・・・・里では結構話題になっていた
のだけれど」
「……」
「よければ、私にも教えてもらえないかしら?」
研究者らしい好奇心に満ちた視線だった。
俺は小さく息を吐き、頷く。
「分かりました」
そして台所の扉へ向き直る。
「この話は長くなります。居間で皆さんも交えて
話しましょう」
「ええ、そのほうがよさそうね」
俺たちはそろって居間へ戻ることにした。
居間へ戻ると、皆の視線が一斉に俺たちへ向け
られた。
「お、やっと戻ってきたか」
姉さんが笑いながら声をかける。
俺は皆を見回し、一度深く息を吸った。
「皆さん。少し話したいことがあります」
その一言で、部屋の空気がわずかに引き締まる
すると縄樹が不思議そうに首を傾げた。
「りつ兄、まさか・・・・・・才牙のこと」
言いかけた瞬間、縄樹はハッとした。
「あっ・・・・・・しまった?」
箝口令のことを忘れていた縄樹は額に手を当て
て慌てふためく。
その様子を見た自来也が肩をすくめて笑った。
「はははっ。縄樹、人の口に戸は立てられんさ。
そんなに気にせんでいい」
自来也さんは肩をすくめ、こう言った。
「どれだけ秘密にしても、必要な時には誰かの耳
に入るもんだ」
そう言って俺へチラッと視線を向ける。
「そうですね、自来也さん。それに目の前にいる
大蛇丸なら隠してもいずれ勘づかれますし」
大蛇丸さんは小さく笑みを浮かべた。
「買いかぶりすぎよ、律樹」
金色の瞳が静かに俺を見据える。
「でも、興味があるのは事実ね」
そして、こう尋ねた。
「律樹。あなたの言う『才牙』とは、一体何なの
かしら?」
部屋が静まり返る。
俺は皆の顔を一人ずつ見回したあと、静かに口
を開いた。
「では、才牙についてお話しします」
俺は、自分が知るかぎりの才牙の概念について
語り始めた。
才牙とは、忍の魂そのものであり、その魂の力
を具現化した忍具である。
「理論上、才牙は誰でも会得可能です」
俺は、縄樹とのチャクラの共鳴をきっかけに
自分の心が少しずつ自身の魂へ近づいていく感覚
を覚えた。
そして、その距離は次第に縮まり、ついには魂
を掴み取ることに成功し、才牙を会得したのだと
さらに、その経験から導き出した一つの結論も
口にした。
「才牙を会得するには、子供のような純粋無垢の
心が必要だということです」
「そりゃまた、どうしてだ?」
自来也さんの問いに、俺は自分なりの考えを語
る。
「あくまで仮説ですが、魂に到達するには、清ら
かな心で悟りを開く必要があると思うんです」
「悟りを開く?」
「つまり、五感を超えた境地に至るということで
す」
一拍置いて、さらに続ける。
「文献を調べたところ、その境地は『阿頼耶識』
と呼ばれているそうです」
「阿頼耶識・・・・・・?」
その言葉に反応したのは、大蛇丸だった。
「なるほど。仏教における『八識』のことね」
穏やかな口調で説明を始める。
人の心は八つの階層――『八識』に分けられる
とされている。
眼・耳・鼻・舌・身の五感を司る『五識』。
それらを統合する『意識』。
そして自我への執着を司る『末那識』。
「阿頼耶識とは、そのさらに奥底にある第八の
識・・・・・・すべての根源とされる心よ」
居間が静まり返る。
大蛇丸は興味深そうに俺を見つめた。
「律樹・・・・・・あなた、聖人か何かかしら?」
冗談めかした口調だった。
「あなたのような聡明な人にそう言われると、光
栄ですよ」
「あらあら、心にもないことを言うのね」
大蛇丸さんは一拍置いて、さらに続ける。
「けど、それならば、あなたの考えは正しいわ」
俺を見据えて笑る大蛇丸さん。
「ふふふっ、あなたの説明でなんとなく全貌が
掴めたわ。ありがとうね、律樹」
大蛇丸さんの笑い声が居間に響き渡る
居間の空気を変えたのは、自来也さんだった
「なるほどなぁ・・・・・・」
腕を組みながら感心したように頷き、やがて
俺へ視線を向ける。
「そういや、一つ気になったことがある」
「何ですか?」
「お前と縄樹が才牙を使って兄弟試合をしたって
話を綱手から聞いた」
俺は静かに頷き、機密事項を簡単に話す姉さん
をジィーッと見る。
姉さんは目線を逸らし、俺はため息を吐く。
「ええ」
「あの時、お前たち途中で二人とも倒れたらしい
な」
「はい」
自来也さんは少し眉をひそめた。
「何で倒れたんだ?」
俺は少しだけ苦笑する。
「理由は単純です」
俺は自来也さんを見据えた。
「才牙には使用できる時間の限界があります」
「時間制限?」
「はい。魂の力を無理やり具現化している以上
永遠には維持できません」
俺はゆっくりと言葉を続けた。
「限界を迎えれば才牙は強制的に解除され、魂も
精神も極度に消耗します」
目を閉じて、こう続けた。
「だから俺も縄樹も、同時に限界を迎えて倒れま
した」
「なるほど・・・・・・そういうことか」
自来也は腕を組み直し、納得したように何度も
頷いた。
「まあ確かに、どれだけ強大な力でも、無制限に
使えるわけじゃねぇってことだな」
「ええ」
律樹は静かに肯定した。
「自来也さん、才牙は万能ではありません」
自来也さんを見据えて、こう言った。
「強力な力だからこそ、それに見合う代償を支払
う必要があります」
その言葉に、自来也は腕を組み、うーむと唸り
ながら考え込む。
「ちなみに、今のお前たちは才牙をどれくらい維
持できるんだ?」
「具現化できる限界時間は、俺も縄樹も六十秒で
す」
その答えを聞いた姉さんは、小さく息をついた
「なるほどね……。今のお前たちの課題は、才牙
そのものじゃない。その持続時間ってわけか」
俺は静かにうなずく。
「うん。カガリの時は制御不能で暴れ回っていた
から、超短期決戦に持ち込めた。
でも、あれは特殊な状況だよ 」
姉さんは腕を組み、苦笑した。
「確かにね」
姉さんは目を閉ざして考え込み、両眼を開け
俺に質問した。
「律樹。お前の感覚で、才牙の具現化の最長時間
は?」
「・・・・・・たぶん、三十分ぐらいかな」
俺の答えを聞いた姉さんは、小さく頷いた。
「やっぱりね。予想通りだ」
腕を組み、静かに続ける。
「今のお前に足りないのは、才牙そのものじゃな
い。精神力だ。
まずは精神修行を積んで、魂との繋がりをもっ
と深めることだな」
「やっぱり、そこか・・・・・・」
「焦る必要はないさ。力だけを求めても、才牙は
応えてくれない。
土台を固めれば、具現化時間も自然と伸びてい
くはずだ」
「うん」
姉さんは次にカガリをチラッと見て、声をかけ
た。
「カガリ」
「な、なに?」
「そう、怯えるな。お前、今の右眼の感じはど
うなんだ?」
「どうと言われても、あれから何もないけど・・・
・・・」
姉さんはカガリをじっと見つめ、静かに口を開
いた。
「推測だが、今のカガリは本能的に自分の力を封
印したんだと思う」
「力を封印・・・・・・?」
「そうだ。身体が強大すぎる力に耐えきれないと
本能が判断し、無意識のうちに力を封じたんだ
よ」
カガリは胸に手を当て、小さく息をついた。
「そ、そうなんだ・・・・・・」
張り詰めていた表情がわずかに和らぎ、安堵の
色が浮かぶ。
姉さんはカガリの表情をじっと見つめた。
「一つ聞くぞ、カガリ」
「・・・・・・はい」
「お前は、才牙が欲しいか?」
あまりにも真っ直ぐな問いだった。
カガリは目を丸くし、すぐには答えられない。
「わ、私が・・・・・・才牙を?」
綱手は静かに頷く。
「ああ。欲しいか欲しくないか、それだけを聞い
てる」
カガ リは少しだけ俯き、胸の前でそっと手を握
り締めた。
「・・・・・・欲しい」
小さな声だった。
だが、その瞳には迷いはなかった。
「律樹は言っていた。才牙は・・・・・・大切な人を守
る力だって」
一度だけ息を吸い、綱手をまっすぐ見つめる。
「だったら、私もその力が欲しい。みんなを・・・
・・・私の大切な人たちを守れるようになりたい
から」
カガリは一点の迷いもない瞳で、才牙を求めた
姉さんは静かに頷き、俺に視線を向けた。
「律樹、才牙を出しな」
「えっ?」
「余興だよ、余興!」
「あのさ〜、姉さん。そう人前でポンポンと出し
ていいものじゃないよ」
「うるさいよアンタ!?四の五の言わず、さっさ
とやりな!?」
姉さんの怒号に押され、俺はしぶしぶ立ち上が
った。
「・・・・・・それじゃ、いくよ」
俺は胸の前で両手を合わせる。
すると、その掌の間にチャクラの球体がゆっく
りと生まれた。
「万水を統べよ、『水波能売命』」
チャクラの球体は眩い蒼い光を放った。
光はゆっくりと形を変え、一振りの蒼い盾へと
姿を変えていく。
俺はその盾――『水波能売命』を静かに握り
皆へ向けて掲げた。
部屋は、一瞬で静寂に包まれる。
大蛇丸さんは細い瞳をわずかに見開き、自来也
さんも口を半開きにしたまま動けない。
流石の三忍でも、これには言葉が出ないか。
ーto be continuedー
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