【桜月 早朝】
[木の葉隠れの里 機密施設]
「・・・・・・・・・ここに、お婆さまが」
俺と縄樹、姉さんとカガリは、火影直轄の暗部
に案内され、うずまきミト・・・・・・お婆さまがいる
機密施設へと足を踏み入れた。
「……縄樹、いよいよだな」
「うん、りつ兄。やっと、ばあちゃんに会える」
生まれて初めて、お婆さまに会えることが嬉し
くて、俺と縄樹の胸は期待で高鳴っていた。
だが、その一方で姉さんだけは、信じられない
ものを見たような表情で肩を落としていた。
「・・・・・・まさか、お婆さまが、まだ生きていたと
は・・・・・・」
「綱手姉、しっかりして」
先頭を歩く暗部が、足を止めることなく静かに
口を開いた。
「皆さん、この先でミト様がお待ちです。私がご
案内します」
俺たちは無言で頷き、その後に続く。
施設の内部は、想像を絶するほど厳重だった。
壁や床、天井の至る所に複雑な結界術式が刻ま
れ、幾重もの結界がこの施設全体を覆っている。
一つひとつが高度な術式であり、並の忍どころ
か腕の立つ上忍ですら、存在に気づくことすら難
しいだろうな。
その圧倒的な警戒態勢から、この場所が木ノ葉
でも最高機密の施設であることが嫌でも伝わって
きた。
これは二代目火影の命により作られたな。
施設内を見回した俺は、小さく息をのんだ。
「・・・・・・さすが火影直轄の機密施設だ」
やはり、大叔父さまは優秀だった。
「これだけの結界を維持しているなんて・・・・・・」
思わず感嘆の声が漏れる。
その隣では、姉さんも驚きを隠せずに周囲を見
回していた。
「・・・・・・私ですら、こんな施設が木ノ葉にあるな
んて知らなかったよ」
姉さんその一言で、この場所が火影を含め、ご
く限られた者しか立ち入ることを許されない最高
機密の施設なのだと、改めて実感した。
縄樹は落ち着かない様子で辺りを見回しながら
小さな声で俺に尋ねた。
「・・・・・・りつ兄。ばあちゃん、本当にこんなとこ
ろにいるの?」
俺は静かにうなずく。
「ああ。この厳重な警備を見る限り、お婆さまは
木ノ葉にとって、それほど重要な存在か分かる
だろう」
縄樹は複雑そうな表情で、結界が張り巡らされ
た通路を見つめた。
「そうだね・・・・・・」
カガリは口を閉ざし、一緒に進む。
施設の最奥――。
幾重もの結界を抜けた先に、一つの静かな部屋
があった。
暗部が足を止め、静かに告げる。
「ミト様。綱手様と律樹殿、縄樹殿、そして律樹
殿の奥方、カガリ殿をお連れしました」
扉がゆっくりと開かれる。
部屋のベッドには、薄い赤い髪の老婦人が一人
静かに腰掛けていた。
その穏やかな瞳が、ゆっくりとこちらへ向けら
れる。
「・・・・・・綱手かい?」
その一言を耳にした瞬間だった。
「・・・・・・お婆さまッ!!」
綱手姉さんは堪えていた感情を抑えきれず、一
目散に駆け出した。
そして、そのままミトお婆さまへ強く抱きつく
「・・・・・・っ!」
次の瞬間、姉さんの瞳から大粒の涙があふれ落
ちた。
「お婆さま・・・・・・お婆さま・・・・・・!」
震える声で何度も名前を呼びながら、子供のよ
うに泣きじゃくる。
ミトお婆さまは何も言わず、優しく綱手の頭を
撫でた。
「・・・・・・よく来たね、綱手」
その穏やかな一言に、綱手の涙はますます止ま
らなくなる。
「会いたかった・・・・・・っ、本当に会いたかた・・・
・・・!」
長い年月を経て、ようやく果たされた祖母との
再会。
部屋は、静かな感動に包まれていた。
綱手を優しく抱きしめていたミトお婆さまは
ゆっくりと顔を上げた。
その穏やかな瞳が、律樹と縄樹、そしてカガリ
へ向けられる。
「・・・・・・あなたたちが、律樹と縄樹、それに律樹
の婚約者のカガリだね」
俺たちは姿勢を正し、深く頭を下げた。
「初めまして、ミトお婆さま。俺は千手律樹と申
します」
俺があいさつをすると、ミトお婆さまは柔らか
く微笑む。
「ふふっ、そんなに固くならなくていいのよ。
さあ、おいで」
その優しい声に促され、俺たちは静かに歩み寄
った。
ミトお婆さまは綱手からそっと手を離すと、両
腕を大きく広げた。
「みんな、よく来てくれたね」
その一言には、初めて会うとは思えないほど深
い慈愛が込められていた。
律樹、縄樹、カガリは顔を見合わせ、小さく頷
いた。
そして俺たちは、そろってミトお婆さまの胸へ
飛び込んだ。
「お婆さま・・・・・・!」
「ばあちゃん・・・・・・!」
「ミト様・・・・・・!」
ミトお婆さまは三人を優しく抱きしめ、一人ひ
とりの背中をゆっくりと撫でる。
「ありがとう。こうして会いに来てくれて、本当
にうれしいよ」
その温かなぬくもりに、縄樹は目を潤ませ、カ
ガリも胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた
俺もまた、その腕に宿る深い愛情を静かに受け
止めながら、穏やかな笑みを浮かべていた。
部屋は、家族が再び一つになった喜びと温もり
に、静かに満たされていった。
俺はカガリをお婆さまに改めて紹介した。
「お婆さま、俺の婚約者のカガリです」
「ミト様、うちは……カガリと申します」
「だから、そんなに固くならなくていいのよ」
満面の笑みを浮かべたお婆さまは、カガリの手
を優しく包み込むように握った。
「事情はヒルゼンから聞いているよ。カガミと朔
夜の娘だそうだね」
「はい・・・・・・」
「私はね、あなたのご両親とは昔から顔なじみな
んだよ」
「えっ?」
「柱間が生きていた頃、あの二人が言い合いをし
ているところを、よく見かけたものさ」
そう言われて、カガリは頬を真っ赤に染めなが
ら尋ねた。
「は、柱間様も・・・・・・両親のけんかをご覧になっ
ていたのですか?」
「ええ。開校したばかりの学び舎によく足を運ん
で、子どもたちの成長を見守っていたものさ。
その頃、あなたの両親ともよく顔を合わせてい
たからね」
お婆さまは懐かしそうに目を細めた。
「正直に言えばね・・・・・・私は、あの二人が結ばれ
ることはないと思っていたんだよ」
「えっ・・・・・・?」
「千手とうちは。あの頃は今よりもずっと一族同
士の溝が深かった。
互いに惹かれ合っていても、周囲が許さないだ
ろうと思っていたのさ」
カガリは黙って耳を傾ける。
「けれど、あの時はダンゾウが二人を庇ってくれ
たんだよ」
「えっ、ダ、ダンゾウが・・・・・・!?」
「ええ、周囲の反対を抑え、『二人の意思を尊重す
べきだ』と動いてくれてね。そのおかげで、カ
ガミと朔夜は夫婦になることができたんだよ」
「うそ、信じられない・・・・・・?」
「人は一面だけでは語れないものさ。あの男にも
あの頃は仲間の未来を思って手を差し伸べるだ
けの心の余裕があったということだよ」
カガリは驚いた表情のまま、小さく頷いた。
「いつの間にか、ダンゾウは心の余裕をなくして
親友のヒルゼンにすら、心を閉ざしてしまった
・・・・・・・・・」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
「だから、カガリ。あなたはほんの少しいいから
心に余裕を持って生きるんだよ」
お婆さまはそう言って、カガリの頬を撫でた。
「はい、肝に銘じておきます」
しばらく穏やかな時間が流れたあと、俺はお婆
さまをまっすぐ見つめ、静かに口を開いた。
「お婆さま。一つ、お聞きしてもよろしいでしょ
うか?」
お婆さまは優しく微笑み、小さく頷く。
「なんだい、律樹」
俺は一度言葉を選ぶように間を置いてから、慎
重に尋ねた。
「お婆さまは・・・・・・今も九尾の人柱力なのですか
?」
その問いに、部屋の空気がわずかに張り詰める
綱手も縄樹もカガリも、静かにお婆さまへ視線
を向けた。
お婆さまは驚いた様子も見せず、穏やかな表情
のまま律樹を見つめ返す。
「・・・・・・なんで、そんなことを聞くんだい?」
その声は静かだったが、俺の真意を確かめよう
とする優しさが込められていた。
俺はお婆さまの瞳をまっすぐ見つめ、静かに答
えた。
「・・・・・・俺たちは今、木の葉隠れの里では特別な
存在なのです」
一拍置き、ゆっくりと言葉を続ける。
「カガリは万華鏡写輪眼に開眼しました。
そして、俺と縄樹は才牙という特殊な忍具を具
現化できます」
その場にいた全員が、俺の言葉へ耳を傾ける。
「どちらも常識では考えられないほど特別な力で
す。だからこそ、俺は思ったんです」
俺は真剣な表情のまま、ミトへ視線を向けた。
「もし九尾が世代交代する時が来たなら、その器
に選ばれるのは、普通の忍ではないかもしれな
いと」
綱手の表情がわずかに引き締まる。
「人柱力には強い生命力や莫大なチャクラが必要
だと聞いています」
俺は静かに続けた。
「ですが、それだけではなく、九尾を抑え込める
資質も必要なのではないでしょうか」
俺はカガリ、縄樹を順に見つめる。
「特別な俺たち三人の誰かが、次の九尾の人柱力
候補となる可能性があるのではないか、と」
その言葉に、部屋は静まり返った。
姉さんも縄樹もカガリも、息を呑んでお婆さま
の返答を待つ。
お婆さまは律樹を静かに見つめ、その瞳にわず
かな驚きと感心を浮かべながら、ゆっくりと口を
開いた。
「・・・・・・いいや、それはないよ」
その一言で、俺は確信した。
「では、やはり、次の人柱力は、お婆さまの故郷
――渦潮隠れの里から選出なのですね」
お婆さまは静かにうなずく。
「律樹、渦潮隠れの里を知っているのかい?」
「はい。千手一族について調べていた時に、その
存在を知りました」
「そうかい」
俺はさらに問いかける。
「その候補者は、お爺さま――初代火影の血筋で
すか?」
「・・・・・・そこまで見抜くとは。律樹、ヒルゼンの
言う通り、本当に末恐ろしい子だね」
お婆さまは目を見開き、小さく息を漏らした。
「お婆さま、九尾の件を決めたのは大叔父様です
か?」
俺はお婆さまに質問を続けた。
「ええ、その通りだよ、律樹」
やっぱり、予想通りだ。
なら、大叔父様はマダラが復活するのも視野に
入れていたのか?
いや、その辺はたぶん、勘で察知していたか。
真剣な顔に変わった俺は、お婆さまに問いた。
「お婆さま、あなたはどこまで知っているのです
か?」
「何のことだい?」
「誤魔化さないで下さい。うちはマダラが、数十
年後に生き返ることです」
その言葉に、悲しい表情に変わったミトは静か
に頷いた。
ーto be continuedー
次回 うちはマダラ