【桜月 早朝】
[木ノ葉隠れの里 アカデミー]
「先手は譲ってあげるわ、律樹くん」
校庭の真ん中で、俺と大蛇丸さんは向かい合っ
ていた。
「それはありがたい。助かります」
品定めだな。
俺が隠している力を見るつもりか。
「うふふ。お手並み拝見ね」
大蛇丸さんが楽しそうに笑う。
その様子を見て、俺は構えを取った。
――さて、どこまで見せるべきか。
そして、俺たちの少し離れた場所では。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
審判役を務める三代目だけが、額を手で押さえ
ていた。
そんな三代目に、大蛇丸さんが振り返る。
「三代目。始めてもらえるかしら?」
「・・・・・・大蛇丸」
三代目は深いため息を吐く。
「くれぐれも、やりすぎるなよ」
「あら、心配してくれ下さるの?」
大蛇丸さんは口元に笑みを浮かべた。
「安心して下さい。殺したりなんてしません」
そして、俺を見据える。
「そんなもったいないこと、するわけがないでし
ょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
やっぱり、怖い人だ。
三代目は頭を抱えながらも、審判としての役目
を果たす。
「――両者、構え!」
俺は静かに息を吸った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大蛇丸さんも構える。
「――始め!」
その瞬間。
俺は迷わず印を結んだ。
「水遁――」
チャクラを一気に練り上げる。
「水龍弾の術!」
口から大量の噴き出し、轟音とともに大量の水
が巻き上がり、巨大な水龍へと姿を変えた。
水龍は大蛇丸さん目掛けて、一直線に襲いかか
る。
「・・・・・・・・・・・・!」
三代目の目が見開かれた。
――いきなり水龍弾だと!?
しかも、水遁の練度が二代目様に匹敵する!
大蛇丸さんは迫り来る水龍を見つめながら、口
元をさらに吊り上げた。
「ふふ・・・・・・」
その瞳が、楽しそうに細められる。
「なるほど・・・・・・これが、律樹くんの力なのね」
大蛇丸さんは目にも止まらぬ速さで印を結ぶ。
「火遁――」
瞬時にチャクラを練り上げる。
「火龍弾の術!」
大蛇丸さんが口から放たれた火炎の龍と、俺の
水龍が正面から激突した。
――ジュアアアアッ!!
大量の水蒸気が、一気に周囲へと噴き上がる。
「・・・・・・やっぱり、そう簡単には通らないか」
俺は水蒸気の向こうにいる大蛇丸さんを見据え
る。
だが――。
「うふふ。まだ終わりではないでしょう?」
大蛇丸さんの声が響いた。
「当然です」
俺は一歩踏み込む。
瞬時、印を結ぶ。
「風遁――」
チャクラを風へと変換する。
「風刃の術!」
俺の手のひらから放たれた鋭い風の刃が、水蒸
気を切り裂きながら大蛇丸さんへと飛んでいく。
「まあ・・・・・・!」
大蛇丸さんの瞳が輝く。
すぐさま印を結び直した。
「風遁――」
チャクラを一気に練り上げる。
「大突波!」
大蛇丸さんの口から放たれた強烈な風圧が、正
面から風刃を迎え撃つ。
――ズガァン!!
二つの風遁が衝突し、校庭の砂が一斉に舞い上
がった。
「くっ・・・・・・!」
俺は腕で顔を庇う。
対する大蛇丸さんは、吹き荒れる風の中でも楽
しそうに笑っている。
「いいわ・・・・・・」
その声には、隠しきれない興奮が滲んでいた。
「もっと見せてちょうだい、律樹くん」
俺は静かに構え直す。
――どうやら大蛇丸さんは、本気で俺の力を見
極めるつもりらしい。
なら――。
「・・・・・・望むところです」
次の術へ向けて、俺は再び印を結んだ。
「雷遁――」
全身から雷のチャクラを一気に練り上げる。
バチッ――!
指先から青白い火花が弾けた。
「穿雷指の術!」
瞬間。
右手の五指から無数の雷の針が生み出され、一
斉に大蛇丸さんへと飛翔していった。
「ふふっ・・・・・・」
大蛇丸さんは迫り来る雷針を見ても、慌てる様
子はない。
むしろ――楽しそうに口元を吊り上げた。
「土遁――土流壁!」
大蛇丸さんが印を結び、手のひらを地面に押し
てけた。
ドゴォンッ!!
すると、地面が隆起し、巨大な土壁が一気にせ
り上がった。
その表面には、まるで大蛇が這うような蛇の紋
様が浮かび上がっている。
さらに土壁そのものが鱗のように幾重にも重な
り、まるで巨大な蛇の皮膚を思わせる異様な姿へ
と変貌していく。
直後――。
ババババババッ!!
無数の雷針が土流壁へと突き刺さった。
「――っ!」
雷針が土壁を削り、青白い電流が蛇紋を走り抜
ける。
だが――。
土流壁は崩れない。
「なるほど・・・・・・」
大蛇丸さんの声が、土壁の向こうから聞こえて
きた。
「雷遁も扱えるのね、律樹くん」
その声には、隠しきれない興味が滲んでいた。
俺は不敵な笑みを浮かべた。
「それだけではないです。もっと面白い術を披露
しますよ」
そう言って、俺は腰のポーチに手を突っ込んだ
「あら、今度はどんな術かしら?」
取り出したのは――手袋だった。
「? 何のマネ、それは?」
俺は手袋をはめ、大蛇丸に向けた。
「こうするんですよ」
指をこすり合わせた。
――パチッ。
摩擦によって、小さな火花が生まれる。
次の瞬間。
その火花が、大蛇丸さんへ向かって飛んでいっ
た。
「何? そんなもの――」
大蛇丸さんの表情が変わる。
「・・・・・・っ!? し、しまっ――」
察した瞬間。
――ドォンッ!!
大蛇丸さんの目の前で、大爆発が起きた。
突然の爆発音が、アカデミー中に響き渡った。
「うわぁっ!?」
「な、何だ!?」
「ば、爆発したぞ!」
見学していたアカデミー生たちが、一斉に騒ぎ
始める。
「みんな、落ち着いて!」
「先生の指示に従いなさい! 絶対に前へ出るな
!」
サトル先生たちが声を張り上げ、生徒たちを後
ろへ下がらせる。
やがて、爆発によって立ち込めた煙がゆっくり
と晴れていく。
「…………」
そこに立っていたのは――大蛇丸さんだった。
服についた埃を軽く払うと、何事もなかったか
のように涼しい顔をしている。
「ふふ・・・・・・こんな隠し玉を持っていたとは・・・
・・・本当に侮らない」
口元には、いつもの笑み。
さすが大蛇丸さんだ。
あれだけの爆発を受けても、まるで動じていな
い。
――ただし。
(・・・・・・・・・・・・・・・死ぬかと思ったわ)
その心の中では、冷や汗を流していた。
平常を装うのに必死な大蛇丸は、改めて律樹を
見つめる。
「今の術、水遁と雷遁の合成ってところかしら?」
「・・・・・・それだけではありません」
「ふふ、でしょうね」
大蛇丸は、楽しそうに目を細めた。
「最初から、すべてが布石だったのでしょう?」
「…・・・・・・・・・・・・」
律樹が黙っていると、大蛇丸は周囲を見渡した
「まず、風遁で大量の水蒸気を私の周囲へ送り込
んだ」
大蛇丸は、先ほどまで漂っていた白い霧を思い
返す。
「その水蒸気によって、私の周囲を水分で満たす
と、下準備完成」
そして――。
「次に雷遁」
大蛇丸の視線が、爆発の跡へ向けられる。
「地面や空気中に含まれている水分へ雷遁を広範
囲に流し、電気分解を起こした・・・・・・・・・」
大蛇丸の口元が、さらに吊り上がる。
「水を分解して、酸素を作り出したのね」
「・・・・・・・・・・・・正解です」
「そして、最後に――」
大蛇丸の視線が、律樹の手元へ移る。
「その手袋」
律樹の手には、術を発動するための手袋が装着
されていた。
「そこから火花を飛ばして、発生させた酸素に着
火した」
大蛇丸は、愉快そうに笑う。
「水を用意する」
「水蒸気を風遁で広げる」
「雷遁で水分を分解する」
「そして、酸素を作り出して――」
そこで、大蛇丸は一拍置いた。
「発火させる」
――ドンッ!!
先ほどの爆発を思い出したように、大蛇丸の瞳
が細められる。
「なるほど・・・・・・」
その声には、隠しきれない興味が滲んでいた。
「すべては、あの爆発を起こすための布石だった
のね」
律樹は小さく息を吐く。
「・・・・・・はい」
「ふふふ・・・・・・」
大蛇丸は笑った。
「面白い発想ね、律樹くん」
その声音には、先ほどまでとは明らかに違う熱
が宿っていた。
「忍術と科学的な発想を組み合わせるなんて・・・
・・・・・・」
大蛇丸は、律樹をじっと見つめる。
「ますます、あなたのことが知りたくなったわ」
審判役の三代目は、その光景を静かに見つめて
いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
その表情から、先ほどまでの余裕が消えている
――なんという術の使い方じゃ。
律樹が扱った忍術、その威力だけではない。
チャクラの練り上げ。
印を結ぶ速度。
術の発動までの無駄のなさ。
どれを取っても、ただの下忍が扱える水準では
なかった。
「・・・・・・驚いたのう」
三代目は思わず呟いた。
「律樹の実力が・・・・・・まさか、ここまでとは」
煙管を手にしたまま、三代目は土流壁へ視線を
向ける。
「もはや、下忍の域ではない」
その言葉に、周囲の忍たちも息を呑んだ。
「いや・・・・・・」
三代目は、さらに言葉を続ける。
「上忍であっても、これほどの術を自在に扱える
者が、里に何人いるか・・・・・・」
そして――。
三代目は、土流壁の向こうにいる律樹へ視線を
戻した。
「千手の血・・・・・・か」
その声には、驚きだけではない。
次代を担う忍を目の当たりにした者としての
確かな期待が込められていた。
ーto be continuedー
次回 才牙の弱点