木の葉の摩利支天と呼ばれた忍    作:rOOd

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№28 うちはの罪 

        【桜月 昼前】

 

   [木ノ葉隠れの里 うちはの集落]

 

「・・・・・・俺を利用して、うちはが里の実権を握る

 つもりですか?」

 

 ヒカクさんの真意を確かめるため、俺は静かに

問うと・・・・・・・・・。

 

「お前は、儂たちをそう見ているのか・・・・・・」

「・・・・・・・・・見当違いだと?」

「ふん! うちは一族などクソだ! この集落な

 ど・・・・・・肥溜めよ!!」

 

 ヒカクさんは、あまりにも過激な言葉を吐き捨

てた。

 予想外な行動で、俺は思わず眉をひそめる。

 

「・・・・・・ずいぶん過激な発言ですね」

「これは、儂一人の言葉ではない!」

 

 ヒカクさんは一拍置くと、鋭い眼光で俺を見据

えた。

 

「里に生きる、すべての一族の言葉よ!!」

 

 だが、そう叫んだ直後――。

 ヒカクさんは疲れ切ったように表情を曇らせ、

俺へ視線を向けた。

 

「・・・・・・・・・律樹よ。お前は、視野が広い」

 

 突然の言葉に、俺は眉を寄せる。

 褒められている――そう単純には思えない。

 むしろ、俺の考えを探られているような、嫌な

感覚があった。

 

「目の前のことだけではなく、その先にあるもの

 まで見ようとしている」

「・・・・・・それが、何か?」

 

 警戒を滲ませながら問い返す。

 ヒカクさんは、しばらく黙ったまま俺を見つめ

ていた。

 

「だからこそ、お前なら里とは・・・・・・火影とは何

 か理解しておるな」

「一体、何を言いたいんですか?」

 

 胸の奥で、嫌な予感が膨らんでいく。

 やがてヒカクさんは、静かに口を開いた。

 

「うちはの罪滅ぼしよ」

「罪滅ぼし?」

「この里に必要なのは、うちはだけを優遇する火

 影でもなければ、他の一族を切り捨てる火影で

 もない」

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

「すべての一族を見渡し、里全体のために決断で

 きる者だ」

 

 その言葉に、俺は息を呑んだ。

 ヒカクさんは、迷いのない声で言い切った。

 

「何度も言う。お前が火影となれ」

「・・・・・・・・・なぜ、俺にそこまでこだわるんです

 か?」 

 

 警戒を解かぬまま、俺は問いかける。

 ヒカクさんは、そんな俺を真っ直ぐに見据えた

 

「お前ならば、うちはのためではなく・・・・・・里の

 ために火影になれる。儂には、そう見える」

 

 静かな声だった。

 

「・・・・・・ヒカクさん」

「なんだ?」

「あなた――いや、あなたたち、うちはの高齢者

 は・・・・・・・・・将来、うちはマダラが復活すると

 思っているんですか?」

 

 その瞬間――。

 ヒカクさんの表情が、悲しげに曇った。

 

「・・・・・・・・・その通りだ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 俺とカガリは、ヒカクさんが冷静に言い切った

ので驚愕した。

 

「儂たちの世代は木の葉創立前から、あの方の部

 下だった・・・・・・だからこそ、あの方の考えを察

 することができる」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「律樹よ。お前の言う通り、柱間殿に敗れたマダ

 ラ様が、いずれは復活を遂げる・・・・・・・・・・・・ 

 うちはの老いぼれどもは、マダラ様が死んだ時

 から、そう思っておるよ」

 

 ヒカクさんの言葉に疑問を持った俺は尋ねた。

 

「そのために、あなたはタカ派として活動してい

 たと?」

「・・・・・・違う」

 

 ヒカクさんは、静かに首を横に振った。

 

「あれは・・・・・・・・・若気の至りというやつだ」

 

 そう言って、ヒカクさんは俯いた。

 

「確かに、タカ派の者たちは感情のままに二代目

 火影 扉間殿と対立したが・・・・・・・・・」

 

 やがて、ゆっくりと顔を上げる。

 

「だが、対立したからこそ・・・・・・気づいたのだ」

 

  ヒカクさんは、遠くを見るように窓の外へ視

線を向けた。

 

「二代目は・・・・・・千手扉間殿は、儂たちを憎んで

 いたわけではなかった」

 

 その声には、かつての自分たちに対する後悔が

滲んでいた。

 

「むしろ・・・・・・扉間殿はうちはの未来を考えてい

 たのだとな」

 

 そして、ヒカクさんは深く息を吐く。

 

「・・・・・・あの頃の儂たちには、それが分からなか

 った。いや・・・・・・誰一人理解しようとしなかっ

 たのだ」

 

 その言葉を最後に、客間には重い沈黙が落ちた

 

「それゆえに・・・・・・あの男に、ダンゾウに里の闇

 に背負わせてしまった」

 

 その言葉とともに、ヒカクさんはダンゾウの名

を口にする。

 

「三代目火影 ヒルゼンは柱間殿の後継者。当然

 誰かが里の闇を背負わなければならぬ」

「その役目を引き受けたのが、ダンゾウ・・・・・・」

「そうだ。ダンゾウは扉間殿のご意思を受け継ぎ

 闇を背負った」

 

 ヒカクさんは俺に悲しい視線を向けた。

 

「だがな。ダンゾウは、二代目と比べ――忍びの

 本質である『自己犠牲』に、あまりにも固執を

 している」

 

 ヒカクさんは目を閉じ、小さく息を吐いた。 

 

「忍びが己のみを犠牲になるだけならば・・・・・・

 まだよい」

 

 一拍置いて続けた。

 

「だが・・・・・・今のダンゾウは木の葉の闇を背負う

 あまり、無関係の他者をも犠牲にすることすら

 必要であると考えるようになってしまった」

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

「ゆえに、誰もがダンゾウを嫌悪する・・・・・・・・・

 そして誰も奴の所業を否定できんのじゃ」

 

 そして、ヒカクさんが再び目を開く。

 

 その瞬間――。

 

 瞳が、万華鏡写輪眼へと変わった。

 だが、その瞳には後悔がにじみ出ていた。

 瞳の底から罪悪感が伝わってくる。

 うちはの誇りで里と対立し、その結果としてダ

ンゾウという闇を生み出した責任を感じているの

か?

 

「律樹よ」

 

 鋭い眼差しが、真っ直ぐに俺を射抜く。

 

「お前は・・・・・・ダンゾウを、どう見る?」

 

 突然の問いに、俺は少しだけ考える。

 そして、静かに答えた。

 

「・・・・・・虚無、でしょうか」

「・・・・・・・・・虚無か」

「はい。何かを守るために、自分を犠牲にする。

 それ自体は、必ずしも間違いではないと思いま

 す」

 

 俺はヒカクさんの瞳を見返した。

 

「でも・・・・・・犠牲になることそのものが目的にな

 ってしまえば、本末転倒・・・・・・最後には何も残

 らないでしょう」

「・・・・・・・・・・・・」

「だからこそ俺には、ダンゾウという人間の生き

 方が、どこか・・・・・・・・・空っぽに見えます」

 

 ヒカクさんは、しばらく黙って俺を見つめてい

た。

 やがて――ゆっくりと頷く。

 

「・・・・・・そうじゃ」

 

 その声には、深い悔恨が滲んでいた。

 

「ダンゾウは・・・・・・儂たちのせいで、己を捨てて

 しまった」

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 ヒカクさんは万華鏡写輪眼を元の瞳へ戻すと、

口元を手で覆う。

 

「だからこそ・・・・・・儂には分かる」

 

 その声は、先ほどまでよりも重かった。

 

「あの男は、いずれ・・・・・・己の信じる『正しさ』

 のために、忍びの世そのものを壊しかねん」

 

 ヒカクさんは、静かに窓の外へ視線を向ける。

 

「・・・・・・その前に、あの男を止めねばならん」

 

 その言葉に、俺は最悪の言葉を口に出した。

 

「つまり、ダンゾウを暗殺しろと」

 

 俺の言葉に、ヒカクさんは静かに頷いた。

 

「そういうことだ」

「もう、ダンゾウの暴走を誰も止めることはでき

 ないと思いますか?」

「止められぬ。ダンゾウは、もともとはヒルゼン

 同様、誠実で生真面目な男だ」

 

 ヒカクさんは、僅かに目を伏せる。

 

「・・・・・・そういう性格の者ほど、一度『正しさ』

 を見失えば、己の信じる道へと頑なに進み続け

 るもの・・・・・・・・・それが厄介なのだ」

「・・・・・・たしかに」

 

 一拍置いて、話を続けた。

 

「だが、ヒルゼンとダンゾウには決定的な違いが

 ある」

「決定的な違い?」

「それは、人を信じられるかどうかだ」

「人を・・・・・・・・・信じる?」

「人を信じられる者は、己自身をも信じられる。

 その懐の深さによりヒルゼンが火影となった」

 

 ヒカクさんは、窓から見える景色に視線を向け

ため息をつく。

 

「だが、ダンゾウは違う。あの男は・・・・・・己自身

 を信じられておらん」

「・・・・・・そうですね」

「そういう者は殺さぬ限り、止められぬ!」

 

 そう言うと、ヒカクさんは俺に視線を向けた。

 

「律樹、お前も人を信じることができる。その心

 の広さは、柱間殿にも通じるものがある」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「儂らが初代火影を決める際、柱間殿を選んだの

 も、その懐の深さゆえだ」

「・・・・・・・・・マダラは、それがなかったと?」

 

 俺が尋ねると、ヒカクさんは静かに首を横に振

った。 

 

「それは違う。マダラ様とて、気高きが懐の深い

 お方だった」

 

 ヒカクさんは、一度言葉を区切った。 

 

「ただ・・・・・・・・・柱間殿と比べれば、マダラ様が

 最後まで信じておられたのは、どうしても己の

 一族が中心だったのだ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「それに対して、柱間殿は自分の一族だけではな

 く、他の一族も、そして里に暮らすすべての人

 々を、その大きな心で包み込もうとした」

 

 ヒカクさんは、どこか遠くを見るような目をし

ながら、静かに言葉を続ける。

 

「・・・・・・・・・・・・偉大な御方だった」

 

 その言葉を聞きながら、俺は静かに息を吐いた

 ヒカクさんが何を伝えようとしているのか。  

 その意味が、少しだけ分かった気がした。

 

「ゆえに――柱間殿が愛した木ノ葉隠れの里を、

 ダンゾウの手によって滅ぼさせてはならぬ」

 

 その声には、これまで以上の強い決意が込めら

れていた。

 

 

ーto be continuedー

 

 




次回 千手カガリ
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