「私、今日は撮影の予定だけど九十九君は?」
「俺も、今日は外で仕事の予定だよ」
確か、担当がモデルの撮影現場を見学する許可を取ったとかでその撮影場所に向かうことになっている。
「じゃあさ、途中まで一緒に行こうよ」
「いいね、準備出来たら教えて」
俺があんまり外で仕事する機会がないのでこういうことは貴重だ。ペンタブとかしっかり準備しておかないと………そういや、今回取材させてもらえる雑誌の名前を聞いても当日のお楽しみにとしか教えてもらえなかったな…それでいいのか?担当?
「お待たせ、行こうか」
準備が出来たらしい芦花がこちらに声をかけた
「…芦花って変装でもお洒落だよね」
いつも見送るときにも思うが改めてばれないようにしている変装でさえ様になるのは流石の一言に尽きる
「急にどうしたの?」
「なんか、芦花って凄いなって思ってさ」
「まあ、これでご飯食べてますから」
「そう言えば、今日は何処まで?」
「俺は〇〇駅まで、芦花は?」
「私も同じ駅だ~」
あらら、それはまた奇遇だことで
「ここの建物が集合場所なんだけど…」
「あれ?私も同じところだ」
なんかすごい偶然だな…
「日ごろの行いがいいからかもね」
「なら、芦花のおかげだな」
そんな話をしながらスタジオに向かうが
「あれ?スタジオも同じだ」
「まさかね」
「あれ?先生、ROKAさんと一緒だったんですか?」
「出たな担当」
「担当に対して出たなって酷くないです?」
もしやと思ったがまさか今回、見学させてもらうのって
「はい、今日はROKAさんの撮影風景を見学させてもらうことになりました。」
うっそだろ!?芦花はそれ知ってたのか!?と思い芦花の方を向くと可愛らしくこちらにウインクをしてきた。知ってたんかい…冷静になれば当たり前か
「いや~~先生、学生の頃からROKAのファンだって話だったじゃないですか」
「黙ってて?」
本人横に居るし、なんなら今同棲してるからとは口が裂けても言えない…芦花のブランディングとかあるだろうし
「ダメ元でお願いしてみたらOK出ましたので、ただし隅っこの方でデッサンしたりくらいしか許可下りませんでしたけど」
「書いたものは私にも見せてくださいね」
芦花が仕事モードで俺に話しかけてきたので俺もスイッチを入れて対応した。
「こちらこそ、見学させていただくことになりありがとうございます。」
芦花の撮影が始まった。
「いいよ~~~、もっと笑顔で」
パシャパシャとカメラマンが芦花を撮っていく。それに抜群の表情で応える芦花は流石の一言に尽きる。
「クジュウ先生は、ROKAのファンだったんですよね?」
「そうですね、いまでもですけど」
本人には隠しているが俺の部屋には芦花が乗っている雑誌が保管されている。本人にはばれてないと思うけど
「どうですか?生ROKA、綺麗ですよね」
何当たり前のことを言ってるんだろうか?
「芦花はいつでも綺麗ですよ」
「………」
「なんすか?俺変なこと言いました?」
「いや、変わったな~~~と思って」
「あんたは俺の親父か何かか?」
「中学の時の新人賞からの付き合いですから。君のことは息子のように思ってますよ、うちの嫁も君に会いたがってる」
「そっすか、今度遊びに行くんで奥様によろしくいっといてください。」
お土産はいつも通り、いいとこのどら焼きでいいだろ。
「あと、出来たら君の彼女も連れてきてください」
「は!?」
なんで恋人がいることを知ってるんだろうか?相手が相手で関係が関係だけに知ってるのは、酒寄さんとかぐやちゃんと諌山さん一家くらいなもののはず
「言ったでしょ、君を息子の様に思ってるって。顔見たら分かります」
「そっすか、彼女に相談しておきます。断られたら諦めてくださいね」
「当たり前です」
これが大人の余裕かな?
「すいません、ちょっと先生にも手伝ってほしいことがありまして」
「はい?自分にですか?」
デッサンを進めていると今日の撮影の監督さんが俺に手伝ってほしいと言ってきた。別にこちらがお邪魔させてもらっている身であるためそれは全然かまわないが
「自分、そこまでイケメンとかではないですよ?」
「そう?君もなかなかイケメンだと思うけど?」
お世辞だとしても流石に芦花と比べたら画面負けするんじゃないだろうか?
「そもそも、やってほしいのはROKAに手を取られて走ってほしいんですよ」
「と言いますと?」
どうも、今回のテーマが恋人と走る夏らしく、夏らしい写真はいくつか取れたが恋人と過ごしている感がどうも薄いようでちょうど男性である自分もいることだし協力してもらおうとなったとの事
「自分は全然構いませんけど、ROKAはOK出してるんですか?」
「もちろん」
「ならいいですけど、その前にできれば一度ROKAと話させてもらえないですか?」
「いいですけど?どうしてですか?」
「モデルでもない男といきなり撮影だと言われても本人は何処か戸惑いとかもあるでしょうし軽く自己紹介だけでもさせてもらえないかと」
「分かりました。本人にも伝えておきます。」
そういって、監督さんは芦花にその話をしにいった。
「先生、ROKAの許可が下りましたので別室へどうぞ」
「分かりました」
そう言って別室に通された
「今回は急な話なのに引き受けてくれてありがとうございます」
「こちらこそ、自分の願いを聞いていただきありがとうございます」
つい、数時間前まで普通に話してたのにお互いに敬語でさも初対面かのように振舞ったが
「「っぷ、ははははははは」」
我慢できなくなって普通にお互い、笑い出した
「ごめんね九十九君、今日のこと知ってたのに黙ってて」
「本当にびっくりしたけど悪いのは俺に話してなかった担当じゃないかな?」
「にしても、お互いに敬語で話すのってなんか変な感じしたね」
「うん、知らない人と喋ってる気分だった。…ちょっと…………いやかなり寂しかった」
「…うん、私も九十九君が知らない人になったみたいで凄い寂しかった」
「同じだね」「うん、同じだ」
「ねえ、色々書いてたみたいだけど見せてもらえる?」
「いいよ、はい」
そう言って俺はスケッチブックを芦花に見せた
「凄いね…なんかほんとに凄い」
そう言って、芦花がパラパラとスケッチブックをめくっていく
「でも、芦花の魅力の3割もだせてないと思うんだよ」
「え?」
「俺はデッサンするときは見たものをそのまま書いてるんだけど、どうも納得できなくてさ」
なんでか、今日は芦花を書くことだけは上手くいかない。
「書きながらなんでかな?って考えてたら答えが分かった」
「答え?」
「だって、芦花の魅力は容姿だけじゃないからね」
「え!?//」
「芦花の一番の魅力は内面の美しさだと思うから」
「そ、そうなんだ//」
「うん」
そう言えば、そろそろ時間ではないだろうか?
「そろそろ戻ろうか。」
「…ちょっと待って…顔が戻らない//」
「…水取ってくるね」
少し小休止も兼ねて飲みものを取りに行った。
「はい、今日の撮影は以上です。お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。」
「先生もご協力ありがとうございました。」
「こちらこそ、見学させていただきありがとうございます。」
なんとか無事に撮影が終わり本日は解散となった。
お互いに立場があるため、わざと別で建物を出て別の場所に再集合した
「おつかれ、九十九君」
「お疲れ様、芦花。帰ろうか」
帰り道はいつもと同じように他愛もない話をしながら帰った
家に着いてから、担当に言われてたことを伝えた。
「そう言えば、担当が今度彼女連れて遊びに来いって言っててさ」
「担当さんって、あの人?」
「そうそう、俺が新人賞取ったときからの付き合いでさ…イラストの仕事との二足の草鞋を提案したのもその人なんだ」
「そうなんだ…私を連れてくの?」
「芦花が嫌なら連れて行かない。」
「何それ、九十九君はどうしたいの?」
「どうしたいって?」
「私を彼女として紹介したいの?したくないの?」
「本当は、胸張って彼女として紹介したい。」
高校の時の俺は、自信がなくて友達がいなくなるのが嫌で告白はしなかった。
同窓会で再会したときは、素敵な女性になっていた芦花にはきっと新しい出会いがあって俺の出る幕なんてないと思ってた。
大人になって再会して芦花と恋人(仮)みたいな関係になって今まで知らなかった芦花の新しい一面や可愛いところ、素敵なところをたくさん知った。さらに好きになった。
「正直、今日の撮影の内容を聞いて相手が俺でよかったって思った」
「何で?」
不思議そうに、何処か期待するように芦花が聞いてきた。
「俺は芦花がずっと好きだったんだ。好きな人が他の男の人と恋人らしいことをするのを目の前で見るなんて嫌だった」
顔も名前も知らないモデルさんに自分勝手に醜く嫉妬した。
「『好きだった』って、今は?今は私のことどう思ってるの?」
言い方が何処か過去形だったからか、芦花が不安そうに聞いてきた
「今は、好きじゃない」
恋人(仮)として過ごしていくうちに、芦花の新しい一面を知っていくうちに、可愛いところや素敵なところを一つ一つ知っていく度に気持ちが膨れ上がっていった。
「俺は、綾紬芦花が大好きだ。」
この気持ちは偽装でも嘘でもなんでもない俺の本心だ。
「…いつから好きだったの?」
「高校の時から、屋上で一緒にお弁当食べたりしてるうちに好きになった」
「…なんで、同窓会は先に帰っちゃったの?」
「本当は芦花と一緒に居たかった。でも、芦花に恋人がいるかもって考えたら怖くなった。俺がいることが原因で芦花が幸せになれないんじゃないかって思った」
「…私の気持ちは考えたことある?」
「そりゃ、今はこんなにアプローチされてるしね」
どこぞの鈍感主人公ではないので流石に腕組みされたり、キスされたり積極的な態度を取られたら誰だって気づく
「私もずっと好きだった…でも私も君と過ごすうちに気持ちが変化したんだよ」
「私も、三上九十九君が大好き」
こいつら、やっと自分の気持ちを相手に伝えたよ。