宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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14.

 朝の光が、乾いた大地を白く照らしていた。

 ウエスターシティ郊外――タンクバトル・コロシアム。

 前日とはまるで違う熱気が、すでに会場全体を覆っている。観客席は満員どころか、通路にまで人が溢れ、巨大スクリーンには「決勝戦」の文字が何度も映し出されていた。

 その中心。

 試合開始地点に、ジーヘッドは立っている。

 整備を終えたその機体は、前日の損傷をほぼ修復されていた。外装は再び取り付けられ、焼け焦げていた部分も補修されている。だが、完全な新品ではない。

 細部を見れば、急ごしらえの跡ははっきりと残っている。

 それでも――戦うには十分だった。

 

「……動くな」

 

 コクピットの中で、ジョンが小さく呟く。

 操縦桿を軽く動かす。

 応答は鋭い。

 昨日よりも明らかに良い。

 

『当たり前でしょ』

 

 通信回線越しに、ミューディの声が飛ぶ。

 少しだけ誇らしげで、少しだけ眠そうな声。

 

『ほぼ徹夜で仕上げたんだから。それで動かなかったら泣くわよ』

「泣くのか」

『殴る』

「怖いな」

 

 軽口。

 だが、その奥にある緊張は隠しきれない。

 

『……いい?無理だけはしないで』

 

 ミューディの声が少しだけ低くなる。

 

『相手、あれよ?』

 

 言われるまでもない。

 視線を上げる。

 コロシアムの反対側。

 そこに“それ”はあった。

 

 ギガンテス。

 

 巨大――という言葉では足りない。

 三階建ての建物に匹敵するその巨体は、もはや戦車というより「要塞」だった。分厚い装甲、幾重にも重なった砲塔、無数に並ぶ兵装。

 主砲――宇宙戦艦から流用されたビーム砲。

 副武装――ガトリング、ロケット、ミサイル。

 そのすべてが、“過剰”なまでに積み込まれている。

 ただ存在するだけで、圧力になる。

 それがゆっくりと動くだけで、大地が震える。

 

「……でかすぎだろ」

 

 ジョンは思わず呟いた。

 

『サイズ差、約三・八倍。装甲厚、推定で本機の六倍以上』

 

 セリアの声が冷静に響く。

 

『正面からの撃ち合いは非推奨』

「言われなくてもわかる」

 

 問題は――じゃあどうするか、だ。

 

「決勝戦、開始!」

 

 その瞬間。

 空気が裂けた。

 ――轟音。

 ギガンテスの主砲が、何の前触れもなく火を吹いた。

 ビーム。

 光の奔流が一直線に走る。

 

「いきなりかよッ!」

 

 ジーヘッドのスラスターが最大出力で噴射する。

 強引に横へ跳ぶ。

 直後、さっきまでいた地面が“消えた”。

 蒸発。

 砂も岩も関係ない。

 触れたものをそのまま焼き尽くし、一直線に抉り取る。

 余波だけで機体が揺れる。

 

「冗談だろ……!」

 

 距離があるのに、この威力。

 まともに食らえば、即終了だ。

 だが、攻撃はそれだけでは終わらない。

 次の瞬間。

 ガトリングが唸りを上げた。

 そして――ミサイル。

 

「全部乗せかよッ!」

 

 弾幕。

 もはや“回避する”というより、“生き残る”ための動き。

 ジーヘッドは全力で駆ける。

 跳ぶ。

 滑る。

 だが、追いつかれる。

 爆発が連続し、衝撃波が叩きつけられる。

 

「くっ……!」

 

 装甲に直撃。

 衝撃がコクピットに突き刺さる。

 

『ダメージ軽微。しかし蓄積は危険域へ』

「わかってる……!」

 

 だが――近づけない。

 圧倒的火力による面制圧。

 進もうとすれば、そこに弾幕が敷かれる。

 逃げれば、追ってくる。

 まるで戦場そのものを支配されているような感覚。

 

『フハハハハ!』

 

 スピーカー越しに、ドン・ジーツーの笑い声が響く。

 低く、重く、耳障りな笑い。

 

『どうした小僧!それが限界か!?』

 

 さらに主砲が向けられる。

 狙われる。

 撃たれる。

 また回避。だが、次は――

 

「間に合わな――」

 

 閃光。

 避けきれない。衝撃。

 ジーヘッドの右脚部が弾かれる。

 バランスが崩れる。

 地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

 

 視界が揺れる。

 警告音が一気に増える。

 

『右脚部、出力低下。機動力低下』

「最悪だ……!」

 

 起き上がろうとする。

 だが、その隙を逃す相手ではない。

 ギガンテスの砲塔が一斉にこちらを向く。

 すべてが照準。

 すべてが火力。

 

『逃げ場はないぞ』

 

 低い声。

 

『貴様はここで終わりだ』

 

 その言葉と同時に。

 再び、全武装が火を吹いた。

 空が埋まる。

 弾と光で。

 逃げ場はない。

 覆い尽くされる。

 ジョンは歯を食いしばる。

 

「……まだだろ」

 

 低く呟く。

 視線は、まだ死んでいない。

 

「こんなもんじゃ――終わらねえ」

 

 ジーヘッドの駆動音が、再び唸りを上げる。

 視界が白で埋まる。

 爆発。 衝撃。

 弾幕が空間そのものを押し潰すように降り注ぎ、ジーヘッドの装甲を容赦なく叩きつける。

 逃げ場はない。回避の余地もない。

 それでも――

 

「……まだだ!」

 

 ジョンは叫んだ。

 倒れたままでは終わる。

 それだけはわかっている。

 

「セリア!」

『はい』

 

 即座に返る声。

 今度は、はっきりと“彼女の声”だった。

 

「脚、動かせるか!」

『出力低下中ですが、強制駆動なら可能です』

「やれ!」

 

 次の瞬間。

 ジーヘッドの右脚部が軋みを上げながら動く。

 無理やり、立ち上がる。

 爆風の中で。

 弾幕の中で。

 

「……よし」

 

 立てる。

 なら、まだ終わってない。

 

『……無意味だな』

 

 ドン・ジーツーの声が響く。

 どこまでも余裕に満ちた声。

 

『貴様の機体では、我がギガンテスの装甲は抜けん。逃げ回るだけで終わりだ』

 

 事実だった。

 正面から撃っても、通らない。

 さっきの一撃で、それはもう理解している。

 だから――

 

「正面からはやらねえよ」

 

 ジョンは低く呟いた。

 視線を上げる。

 ギガンテス。

 巨大。圧倒的。だが――

 

「でかすぎるんだよ」

 

 その一言に、すべてが詰まっていた。

 巨大であることは強みだ。

 だが同時に、それは“制御の粗さ”と“死角の多さ”を生む。

 

「セリア、敵機の関節部、駆動系、全部洗い出せ」

『解析中――完了。脚部付け根、第二関節。装甲接合部に構造的弱点あり』

 

 来た。

 ほんのわずかな“綻び”。

 

「そこだな」

 

 だが問題は――どうやってそこに行くか。

 次の瞬間。再び主砲が向く。

 撃たれる。避ける。

 だが今度は、ただ逃げるだけじゃない。

 

「前に出る!」

 

 ジーヘッドが踏み込む。

 弾幕の中へ。

 

『自殺行為だ!』

 

 ドン・ジーツーの声が笑う。

 だが、ジョンは止まらない。

 爆発の合間を縫う。

 ギリギリでかわす。

 直撃は避ける。

 それでも被弾はする。

 装甲が削れる。

 警告音が鳴る。

 

「関係ねえ!」

 

 さらに踏み込む。

 距離が縮まる。

 中距離。

 まだ遠い。

 だが――確実に近づいている。

 

『迎撃強化』

 

 セリアの声。

 その直後、弾幕がさらに濃くなる。

 だが同時に。

 

「セリア」

『はい』

「今、ちゃんといるな」

 

 一瞬の沈黙。

 そして。

 

「……ええ、いるわよ」

 

 少しだけ笑った声。

 昨日の夜と同じ、“人間らしい”響き。

 それだけで十分だった。

 

「なら行ける」

 

 ジョンはアクセルを踏み込む。

 最後の加速。

 スラスター全開。

 機体が悲鳴を上げる。

 距離――ゼロへ。

 

「入ったァッ!!」

 

 ギガンテスの懐。

 至近距離。

 砲塔が追いつかない距離。

 巨大すぎるがゆえの死角。

 

『なっ――!?』

 

 初めて、ドン・ジーツーの声が揺れた。

 

「遅いんだよ!」

 

 ジーヘッドが滑り込む。

 脚部の付け根。

 巨大な装甲の継ぎ目。

 そこへ――

 

「叩き込む!」

 

 作業用アームが振り抜かれる。

 衝撃。

 装甲が軋む。

 完全には壊れない。

 だが、歪む。

 

『損傷確認。しかし軽微――』

「まだだ!」

 

 至近距離から主砲を構える。

 レールガン。

 逃げ場はない。

 撃つ。閃光。

 今度は違う。

 装甲の“内側”へ食い込む。

 貫通には至らない。

 だが――

 

「ひびは入った」

 

 その瞬間。

 ギガンテスが強引に後退する。

 踏み潰そうとする。

 だが――

 

「逃がすかよ!」

 

 ジーヘッドがしがみつく。

 作業用アームで装甲に食い込み、強引に体勢を維持する。

 巨体が揺れる。

 バランスが崩れる。

 

『離れろォ!!』

 

 全武装が至近距離で起動する。

 だが、それは同時に――

 

「自分の足元も巻き込むだろ!」

 

 爆発。

 至近距離での自爆的攻撃。

 衝撃が双方を揺らす。

 だが、ジーヘッドは耐える。

 そして。

 

「セリア!」

『ええ!』

 

 今度は完全に“彼女”だった。

 迷いのない声。

 

「出力、全部回せ!」

『了解!制限解除!』

 

 ジーヘッドが唸る。

 限界を超えた駆動。

 全エネルギーを一点に。

 

「これで――終わりだ!!」

 

 ゼロ距離。同じ場所へ。もう一度。

 レールガン。閃光。

 今度は、貫いた。

 装甲を。フレームを。内部構造を。

 一瞬の静寂。

 そして――爆発。

 内部から吹き上がる炎。

 ギガンテスの巨体が、大きく傾く。

 

『ば……かな……』

 

 ドン・ジーツーの声が途切れる。

 そのまま。

 巨体はゆっくりと。だが確実に。

 崩れ落ちた。

 大地が揺れる。

 砂煙が舞い上がる。

 すべてが静止する。

 

 そして――爆発的な歓声。

 コロシアムが揺れる。

 勝敗は、明らかだった。

 ジョンはしばらく動かなかった。

 呼吸を整える。

 ようやく、力を抜く。

 

「……終わったな」

『ええ』

 

 セリアの声。

 穏やかな響き。

 

「ちゃんと、いたな」

「ええ。最後までね」

 

 少しだけ、誇らしげに。

 そのとき、通信が入る。

 

『……やったじゃない!』

 

 ミューディの声。

 弾んでいる。

 

『あんた、ほんとに勝つとか……最高!』

「約束だからな」

 

 ジョンは小さく笑った。

 視線の先には、倒れたギガンテス。

 そして、その向こうに広がる未来。

 借金も。

 工場も。

 全部まとめて――

 

「これで、なんとかなるか」

 

 ジーヘッドは静かに立っていた。

 傷だらけのまま。

 それでも、確かに勝者として。

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