宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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30.

 雪はさらに勢いを増していた。

 白い吹雪が、崩壊したT2Rコロニーを包み込んでいく。

 巨大植物に覆われた廃墟。倒壊した高層建築。ひび割れた道路。

 そこへ冷たい雪が降り積もり始めていた。

 気候制御システムによる急激な環境変化。

 コロニー全域の温度は急速に低下している。

 吐く息すら白く染まるほどだった。

 

 その白銀の世界の中心で、二体の怪獣が対峙していた。

 ソドム。そしてスキウラ。

 炎と深海。

 まるで相反する災害そのものだった。

 ソドムは倒れたミニソドムを庇うように立っている。

 全長四十五メートル。

 赤黒い鱗に覆われた筋骨隆々の巨体。

 額の巨大な角。

 鋭い牙。

 口元からは熱気混じりの白煙が漏れ出していた。

 一方。

 スキウラは巨大だった。

 全長二百メートルを超える白い肉塊。

 青い模様の浮かぶ不気味な身体。

 無数の巨大触手。

 そして雪の中でぬらぬらと光る吸盤。

 巨大な黄色い眼球がソドムをじっと見下ろしている。

 

 グォォォォォォ……。

 

 スキウラが低い唸り声を漏らした。

 その声は巨大水槽の底から響くような、不快で湿った音だった。

 対するソドムも唸る。

 

 グルルルルルル……!!

 

 雪を踏み砕きながら前傾姿勢になる。

 明らかな怒りだった。

 自分の子供を傷つけられた怒り。

 猛獣のような殺気が周囲へ広がっていく。

 ミニソドムは倒れたまま、苦しそうに小さく唸っていた。

 

 グゥ……

 

 ソドムは一瞬だけ視線を子供へ向ける。

 そして再びスキウラを睨みつけた。

 絶対に逃がさない。

 その意思が伝わってくる。

 吹雪が強まる。

 怪獣達の身体へ雪が降り積もる。

 だが両者とも微動だにしない。

 先に動いたのはスキウラだった。

 巨大触手が持ち上がる。

 

 ズルルルル……。

 

 雪を巻き込みながら蠢くその様は、巨大な蛇の群れのようだった。

 次の瞬間。

 

 バシュゥゥッ!!

 

 複数の触手が一斉に射出される。

 空気を裂きながらソドムへ襲いかかった。

 

 グォォォォォッ!!

 

 ソドムも咆哮を上げる。

 巨大な脚が地面を砕いた。

 

 ドゴォォンッ!!

 

 ソドムは真正面から突進する。

 雪煙が吹き飛ぶ。

 猛スピードで迫る巨大恐竜。

 それへ触手群が絡み付いた。

 

 ベチャァァッ!!

 

 巨大吸盤がソドムの身体へ張り付く。

 肩。

 胴体。

 脚。

 次々と触手が巻き付いていく。

 しかしソドムは止まらない。

 

 グォォォォォォッ!!

 

 そのままスキウラへ体当たりした。

 

 ドゴォォォォォンッ!!

 

 激突。

 凄まじい衝撃波が周囲へ炸裂した。

 雪が一気に吹き飛ぶ。

 崩れかけていたビル群がさらに崩壊する。

 道路が砕け、瓦礫が宙を舞った。

 

 

 コロニー全体が震える。

 地下整備ルートを走るジョン達の車両の中ですら、その揺れが伝わっていた。

 

「うおっ!?」

 

 ジョンがハンドルを取られる。

 

「な、何でござる今の!?」

「怪獣同士がぶつかったのよ!!」

「外、大変な事になってるのです……」

 

 セリアが叫ぶ。

 後部座席ではアリスが震えていた。

 

 

 その頃。

 地上では巨大怪獣同士の激闘が始まっていた。

 ソドムが牙を剥き、スキウラへ噛みつく。

 

 ガギィンッ!!

 

 だがスキウラの肉体は異様に柔軟だった。

 巨大な身体がぐにゃりと歪み、衝撃を受け流す。

 直後。

 大量の触手がソドムへ絡み付いた。

 

 ズルルルルルッ!!

 グォッ!?

 

 ソドムの動きが止まる。

 触手が身体を締め上げていた。

 巨大吸盤が鱗へ張り付き、ミシミシと嫌な音を立てる。

 ソドムが暴れる。

 だが外れない。

 一本や二本ではない。

 十数本もの触手が全身へ絡み付いているのだ。

 スキウラは知能が高い。

 真正面から力比べをする気はない。

 相手を拘束し、確実に仕留めようとしていた。

 

 グルルルルルッ!!

 

 ソドムが怒り狂ったように咆哮する。

 口から火炎を吐く。

 

 ゴォォォォッ!!

 

 至近距離で火炎を浴びた触手が焼け焦げる。

 しかし。

 それでもスキウラは離れない。

 むしろ触手の締め付けがさらに強くなる。

 

 ミシミシミシ……!!

 

 ソドムの身体から苦痛の唸り声が漏れた。

 雪の中で赤黒い巨体が拘束されていく。

 そして。

 スキウラの巨大な口腔部がゆっくり開いた。

 内部で何かが脈動している。

 次の瞬間。

 

 ブシュゥゥゥゥゥッ!!

 

 緑色のガスが噴出した。

 

 グォォォォォッ!?

 

 ソドムの顔面へ直撃する。

 毒ガスだった。

 至近距離から浴びせられた有毒ガスが、ソドムの視界と呼吸を奪う。

 ソドムが激しく暴れる。

 だが触手に拘束され、思うように動けない。

 雪の中で巨大怪獣が苦悶していた。

 スキウラの巨大な眼球が、じっとその様子を見下ろしている。

 まるで。

 勝利を確信しているかのように。

 

 グォォォォ……ッ!!

 

 巨大な身体へ無数の触手が巻き付いている。

 肩。胴体。脚。

 まるで巨大蛇の群れに拘束されているようだった。

 吸盤が鱗へ食い込み、ミシミシと嫌な音を立てる。

 さらに。

 スキウラの毒ガス。

 至近距離から浴びせられた緑色のガスがソドムの顔面を包み込み、呼吸を奪っていた。

 ソドムが苦しげに暴れる。

 だが動けない。

 火炎を吐こうにも、毒ガスによって狙いが定まらない。

 巨大怪獣の動きが徐々に鈍っていく。

 スキウラの巨大な眼球が、その様子を静かに見下ろしていた。

 獲物を仕留める寸前の捕食者。

 そんな冷たい視線だった。

 その時。

 瓦礫の向こうで、小さな影が動く。

 

 ……グル

 

 ミニソドムだった。

 全身傷だらけだった。

 鱗は割れ、身体のあちこちから血が滲んでいる。

 片脚も引きずっていた。

 それでも。

 ミニソドムは立ち上がる。

 雪へ爪を食い込ませながら、ふらつく身体を必死に支えた。

 目の前では、親が殺されようとしている。

 その光景を見ていられなかった。

 

 グルルルル……!!

 

 小さな喉が熱を帯びる。

 口の奥が赤く光り始めた。

 だが炎は弱い。

 未熟だ。

 ソドムほどの強力な火炎ではない。

 それでも。

 ミニソドムは息を吸い込んだ。

 そして。

 

 グォォォォォッ!!

 ゴォォォォォッ!!

 

 火炎放射。

 小さいながらも真っ直ぐ伸びた炎が、雪を吹き飛ばしながらスキウラへ向かう。

 狙いは。

 巨大な黄色い眼球。

 次の瞬間。

 

 ボォォンッ!!

 

 火炎がスキウラの目へ直撃した。

 

 ギュォォォォォォォォッ!!?

 

 絶叫。

 巨大ダコが激しくのたうち回る。

 目だった。

 唯一露出している感覚器官。

 そこへ直接火炎を浴びせられたのだ。

 スキウラの巨大触手が暴れ狂う。

 

 ベチャァァァッ!!

 

 建物を叩き壊しながら、苦悶するように身をよじる。

 そして……ソドムを拘束していた触手が緩んだ。

 

 グォォォォォッ!!

 

 ソドムの目が見開かれる。

 次の瞬間。

 赤黒い巨体が一気に起き上がった。

 

 ドゴォォンッ!!

 

 地面が陥没する。

 ソドムは怒っていた。

 自分だけではない。

 子供まで傷つけられた。

 その怒りが、巨大怪獣の全身から噴き出している。

 

 グォォォォォォォォォッ!!!

 

 咆哮。

 雪が吹き飛ぶ。

 ソドムは触手を掴んだ。

 両腕で。

 巨大な筋肉が膨れ上がる。

 そして。

 

 ブンッ!!

 

 スキウラの巨体を引きずる。

 

 ギュォォッ!?

 

 スキウラの身体がバランスを崩した。

 直後。

 

 ドゴォォォォォンッ!!

 

 ソドムはそのままスキウラを地面へ叩きつけた。

 コロニーが揺れる。

 道路が砕け、雪が吹き飛ぶ。

 さらに。

 

 ドゴォォンッ!!

 

 もう一度。

 そして。

 

 ドゴォォォンッ!!

 

 何度も。何度も。

 ソドムは巨大ダコを地面へ叩きつけた。

 スキウラの触手が暴れる。

 だが止まらない。

 怒り狂った怪獣の怪力が、巨大ダコを圧倒していた。

 

 グォォォォッ!!

 

 ソドムがさらに咆哮する。

 その姿はまるで暴君だった。

 スキウラはついに恐怖したのか、身体を引きずりながら地下へ逃げようとする。

 巨大な身体が崩れた道路の穴へ潜り込もうとした。

 だが。

 

 グルルルルルルッ!!

 

 ソドムが逃がさない。

 巨大な尾がスキウラの身体へ巻き付く。

 そして。

 

 ブンッ!!

 

 全長二百メートルの巨体を無理矢理引きずり出した。

 

 ギュォォォォォッ!?

 

 スキウラが悲鳴を上げる。

 次の瞬間。

 

 ドォォォォンッ!!

 

 ソドムはスキウラを投げ飛ばした。

 巨大ダコの身体が雪原を転がる。

 建物を巻き込みながら激突し、瓦礫の山へ突っ込んだ。

 もはや満身創痍だった。

 触手は焼け焦げ。

 身体は裂け。

 黄色い目は半分潰れている。

 それでもスキウラはなお動こうとした。

 だが。

 

 その前へ。

 ソドムとミニソドムが並ぶ。

 親子怪獣。

 二体は同時に口を開いた。

 喉の奥が赤熱する。

 吹雪の中。

 二つの炎が灯る。

 そして。

 

 グォォォォォォォォォッ!!!

 グルルルルルッ!!

 ゴォォォォォォォォォォッッッ!!!

 

 親子同時の火炎放射。

 巨大な炎の奔流がスキウラを呑み込む。

 爆炎。熱風。

 白い雪が一瞬で蒸発する。

 スキウラは絶叫した。

 

 ギュォォォォォォォォォォッ!!!

 

 その巨体が炎へ包まれる。

 そして。

 ついに動かなくなった。

 白い巨体が崩れ落ちる。

 

 ドォォォォォン……。

 

 巨大ダコ怪獣スキウラ。

 その命は、雪降るT2Rコロニーの中で尽きた。

 

 

 ***

 

 

 一方その頃。

 地下整備ルートを走っていた整備車両は、ようやく宇宙港へ到着していた。

 

 ゴゴゴゴゴ……!!

 

 シャッターを抜ける。

 そこには。

 

「……ラクーン号!」

 

 ジョンが叫ぶ。

 薄暗い宇宙港の中。

 ボロボロながらも見慣れた宇宙船が停泊していた。

 ラクーン号。ジョン達の家であり、仕事場であり、帰る場所。

 

「帰ってこれた……」

 

 セリアが安堵したように息を吐く。

 ジョンは急ブレーキをかけた。

 

「急げ!!」

 

 一同は車両から飛び降りる。

 ネドリーがアリスを支え、スケイルはモラゴへ肩を貸す。

 ジョンはラクーン号のハッチを開いた。

 

「全員乗れ!!」

 

 吹雪が宇宙港へ吹き込む。

 遠くではまだ怪獣達の咆哮が響いていた。

 だがもう時間はない。

 一同は急いで船内へ駆け込む。

 最後にジョンが操縦席へ飛び乗った。

 エンジン始動。

 ラクーン号が振動する。

 

「頼むぜポンコツ……!」

 

 ブォォォォォンッ!!

 エンジン点火。

 宇宙港の床へ蒼い噴射炎が走る。

 そして。

 ラクーン号は雪降るT2Rコロニーから、宇宙へ向けて飛び立った。

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