宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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38.

 宇宙ステーション・フォックス外周宙域。

 無数の推進炎が、暗黒の宇宙に不気味な光を撒き散らしていた。

 武装化されたダートポッドの群れ。

 本来は宇宙作業用として使われるだけの小型ポッドに、無理矢理ビーム砲やミサイルランチャーを取り付けた粗雑な機体群である。

 しかし、その数だけは異常だった。

 三十。四十。いや、それ以上。

 統率など感じられない雑多な編隊が、まるでハエの群れのようにフォックスを包囲していた。

 

 その中心。

 大型スピーカーを外付けしたカスタム機――ダートポッド改のコクピットで、オッシー・カッツはガムを噛みながら退屈そうに爪を弄っていた。

 

『はいはーい、フォックスの皆さーん?』

 

 通信回線を通して、間延びした女の声が宇宙ステーション全域へ流れる。

 

『こっちはジャークスピアでーす♡』

 

 直後。

 背後のダートポッドがビームを発射した。

 光線がフォックス外壁を掠め、装甲の一部を爆散させる。

 警報灯が点滅する。

 ステーション内部で悲鳴が上がっているのが、通信越しにも伝わってきた。

 オッシーは楽しそうに笑った。

 

『ポッピー・ラビットを差し出してくれたら帰るよー?』

 

 また別の機体が発砲する。

 爆発。火花。

 宇宙空間へ飛び散る破片。

 

『でも拒否したらぁ――』

 

 彼女はわざとらしく言葉を区切った。

 

『この宇宙ステーション、壊しちゃおっかなぁ♡』

 

 ジャークスピア構成員達が歓声を上げる。

 

『ヒャッハー!恐怖でガタガタ震えな!』

『ライブは中止!夢ごと停止!』

『フォックス崩壊!気分は爽快!』

 

 宇宙海賊でもテロリストでもない。

 ただ、人を不愉快にさせる事を楽しむ最低最悪の連中。

 だからこそ厄介だった。

 合理性ではなく悪意で動く。

 相手が嫌がる事を、嬉々として実行する。

 オッシーは椅子へだらしなく背を預けながら、モニター越しのフォックスを眺めた。

 

『あたし悪くないもん』

 

 にやにや笑う。

 

『悪いのはポッピーだし?』

 

 その時だった。

 フォックスのハンガーゲートが開いた。

 

 太陽光に機体がキラリと反射し、白い閃光が飛び出す。

 流線型の白い機体。

 青いライン。

 鋭く伸びた機首。

 宇宙空間用戦闘機――ビートアロウ。

 その姿を見た瞬間、オッシーの笑みが少しだけ薄れた。

 

『……あ?』

 

 通信回線に、落ち着いた少女の声が響く。

 

『こちらスカイピラーズ、ピラー4』

 

 サクラだった。

 

『宇宙ステーション・フォックス周辺宙域における迷惑行為を確認しました』

 

 その声は穏やかだった。

 だが。

 逆にそれが不気味だった。

 

『速やかに武装解除し、投降してくださいまし』

 

 一拍。

 そして。

 ジャークスピア側が爆笑した。

 

『ハハッ!一機で来襲!?脳みそ故障!?』

『単騎で無双!?出来るわけねぇだろぉ!?』

『その白い機体!今から解体!』

 

 オッシーも鼻で笑う。

 

『へぇー』

 

 彼女は頬杖をつく。

 

『スカイピラーズって、もっといっぱい居るんじゃなかったっけ?』

『現在出撃しているのは、わたくし一機ですわ』

『一機で止める気?』

『ええ』

 

 サクラはさらりと言った。

 

『十分ですので』

 

 一瞬。

 ジャークスピア側の空気が止まった。

 そして次の瞬間、怒号が爆発する。

 

『ナメた態度!後悔確定!』

『ぶっ潰すッス!宇宙のクズッス!』

『よそ者風情!今から墓地!』

 

 オッシーはゲラゲラ笑いながら手を振った。

 

『はいはい皆頑張ってー♡』

『オッシーさん!指示くれッス!』

『あたし悪くないもん。勝手に暴れれば?』

『無責任!でも了解!』

『雇われ傭兵!態度は横柄!』

 

 文句は出る。

 だが誰も逆らわない。

 オッシーは外様だが、今この場で最も強い戦力を持っているからだ。

 そして何よりジャークスピアの連中は基本的に馬鹿だった。

 

『行け行けー♡』

 

 オッシーが笑う。

 

『たった一機なんだから余裕でしょ?』

 

 次の瞬間。

 十数機のダートポッドが一斉に加速した。

 粗雑な機体群がビートアロウへ襲いかかる。

 ビーム砲。

 ミサイル。

 機銃掃射。

 宇宙空間が光で埋まった。

 普通なら回避不能。

 だが白い機体は、その全てを掻い潜った。

 

「――っ!?」

 

 構成員の一人が目を見開く。

 ビートアロウが消えた。

 いや。

 速すぎて見失ったのだ。

 白い閃光が敵編隊の間を滑る。

 機首レーザーバルカン発射。

 正確無比。

 ダートポッドのセンサーを撃ち抜く。

 爆発。

 さらに旋回。

 別機体の推進部を破壊。

 姿勢制御を失ったダートポッドが味方へ衝突し、二機まとめて爆散した。

 

『はぁ!?何だこの速度!?』

『見えねぇ軌道!マジで異常!』

 

 サクラは淡々としていた。

 

『遅いですわね』

 

 その声には感情が無い。

 次の瞬間、ビートアロウ下部ハッチが展開。

 プロトンランチャー発射。

 青白い光弾が直進し、三機まとめて吹き飛ばした。

 爆炎が宇宙に咲く。

 ジャークスピア側の陣形が一気に乱れた。

 

『何だコイツ!?強すぎ注意!』

『一機で暴走!こっちは炎上!』

『聞いてねぇぞ!こんなの反則!』

 

 サクラは敵機の間を縫うように飛び続ける。

 無駄が無い。

 迷いが無い。

 まるで宇宙そのものを滑空しているようだった。

 

 

 ***

 

 

 フォックス内部。

 バーのモニター越しにその光景を見ていたジョンは、思わず呟く。

 

「……ゲームの仕返しどころじゃねぇなアレ」

「アンタ、本当に怒らせたわね」

 

 セリアも苦笑していた。

 

 

 ***

 

 

 宇宙空間に、ダートポッドの残骸が漂っていた。

 爆散した装甲片。

 千切れたアーム。

 火花を漏らしながら回転する推進ユニット。

 先程まで数でフォックスを包囲していたジャークスピアの群れは、今やほぼ壊滅状態だった。

 静かな宇宙に残っているのは。

 白いビートアロウと――たった一機のダートポッド改だけ。

 

『……は?』

 

 オッシー・カッツは呆然としていた。

 モニターに映るのは味方機のロスト表示ばかり。

 通信もほとんど途絶えている。

 

『え、ちょっと待って』

 

 引きつった笑み。

 

『全滅?』

 

 誰も答えない。

 代わりに聞こえるのは、機体警告音と、自分の荒い呼吸だけだった。

 白いビートアロウがゆっくりとこちらへ向き直る。

 その動きには余裕すらあった。

 まるで最初から“この程度”だと思っていたかのように。

 

『……マジかよ』

 

 オッシーの頬が引きつる。

 だが。

 すぐにその顔は怒りへ変わった。

 

『ふざけんな……』

 

 彼女は操縦桿を強く握り締める。

 

『ふざけんなよぉ!!』

 

 ダートポッド改が加速する。

 ミサイルランチャー展開。

 照準ロック。

 通信回線を無理矢理開きながら、オッシーは叫んだ。

 

『全部アイツが悪いんだよ!!』

 

 フォックス内部。

 モニター越しにその声を聞いていたポッピーが、小さく肩を震わせた。

 オッシーの声は憎悪で歪んでいた。

 

『あたしの推しアニメ!ずっと大好きだったの!』

 

 ミサイル発射。

 白煙を引きながら宇宙を裂く。

 だがビートアロウは軽々と回避する。

 

『なのにさぁ!意味分かんないアイドル声優ゴリ押しされてさぁ!!』

 

 オッシーは叫び続ける。

 

『作品ぶち壊されて!世界観壊されて!キャラまで汚されて!』

 

 ビーム砲発射。

 連射。

 しかし当たらない。

 

『分かる!?好きな作品をメチャクチャにされる気持ち!?』

 

 その声には、本気の怒りが滲んでいた。

 

『お前ら芸能人が軽い気持ちで入ってくるせいで、思い出壊される人がどれだけ居ると思ってんの!?』

 

 ダートポッド改が狂ったように乱射する。

 だが。

 白い機体には掠りもしない。

 サクラは静かだった。

 

『……成程』

 

 ビートアロウが滑るように旋回する。

 

『つまり』

 

 レーザーバルカン発射。

 オッシー機の装甲を掠める。

 

『ただの個人のワガママですわね』

『はぁ!?』

『アイドルにはアイドルの仕事があります』

 

 サクラの声は冷静だった。

 

『企業にも事情があります』

『だからって!』

『それを理由に無関係の人間を殺そうとするのは、ただの逆恨みですわ』

 

 オッシーの顔が歪む。

 

『逆恨みじゃない!!』

 

 叫びながら突撃。

 クローアームを展開する。

 

『あたし悪くないもん!!』

 

 サクラは小さく溜息を吐いた。

 

『そういう所ですわ』

 

 次の瞬間。

 ビートアロウが加速した。

 視界から消える。

 

『えっ』

 

 オッシーの声。

 直後。

 白い機体が背後へ回り込んでいた。

 

『――ッ!?』

 

 レーザーバルカン連射。

 ダートポッド改の左側ミサイルランチャー爆散。

 火花。警告音。

 

『うわぁぁ!?』

 

 慌てて旋回するオッシー。

 だが追いつけない。

 ビートアロウの機動は異常だった。

 宇宙空間を飛ぶというより、“支配している”ような動き。

 加速。反転。急制動。

 全てが滑らかすぎる。

 

『な、何なのコイツ……!?』

 

 恐怖が混じり始める。

 サクラは静かに言う。

 

『わたくし、ゲームは本気でやる主義ですの』

 

 プロトンランチャー展開。

 青白い光が収束する。

 オッシーの顔が青ざめた。

 

『ま、待っ――』

 

 発射。

 閃光。

 次の瞬間、ダートポッド改が大爆発した。

 機体各部が吹き飛び、制御を失いながら宇宙空間を転がっていく。

 辛うじてコクピット部分だけは残っていた。

 ビートアロウはその前で停止する。

 サクラは通信を開いた。

 

『撃墜確認』

 

 淡々と告げる。

 

『ですがコクピットは外しておりますのでご安心を』

『……っ』

 

 オッシーは呆然としていた。

 完敗だった。

 何も通じなかった。

 自分の怒りも。

 武装も。覚悟も。

 全部。

 白い機体に一方的に踏み潰された。

 

 そして。

 フォックス内部では歓声が爆発していた。

 

「うおおおおお!!」

「勝ったぁぁ!!」

「流石はスカイピラーズだ!!」

「サクラ様最高!!」

 

 バーの中では酒瓶が振り回され、荒くれ者達が肩を叩き合っている。

 ジョンも思わず口笛を吹いた。

 

「すげぇな……」

 

 セリアが腕を組む。

 

「そりゃあ傭兵部隊名乗るだけあるわよ」

 

 ポッピーは胸元で手を握り締めながら、モニターを見つめていた。

 その目には、はっきりと安堵が浮かんでいた。

 そして宇宙空間。

 ビートアロウは静かにフォックスへ帰投していく。

 白い機体の後ろ姿は、まるで戦場を駆ける一筋の流星のようだった。

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