宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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43.

 ダストスポット宙域。宇宙の墓場。

 企業に捨てられた資源衛星。

 老朽化して放棄された作業ステーション。

 戦争で破壊された軍艦の残骸。

 役目を終え、忘れ去られた無数の人工物が、静かな闇の中を漂っている。

 その死骸の海で、ジャークスピアのダートポッド部隊が、獲物を包囲しようとしていた。

 

『ヒャハハハ!!』

『逃げ場ねェぞォ!!』

『ライブも夢もここで終わりッス!!』

『アイドル差し出せやオラァ!!』

 

 下品なラップ口調の通信が回線を埋め尽くす。

 無数のスラスター光。

 ダートポッドの群れ。

 大型デブリの陰から次々と現れる敵機を見て、ジョンは露骨に顔をしかめた。

 

「クソッ……ゴキブリみてぇに湧いてきやがる……」

 

 ラクーン号操縦席のレーダーは、赤い反応で埋まりつつあった。

 しかもここは普通の戦場ではない。

 周囲には巨大デブリが無数に漂っている。

 少しでも操縦を誤れば衝突。

 だが動きを止めれば敵の的。

 宇宙そのものが牙を剥いているような場所だった。

 

「ジョン、船を止めるな」

 

 デュミナスが冷静に言う。

 

「停止した瞬間に包囲される」

「分かってる!」

 

 ジョンは操縦桿を握り直した。

 ラクーン号がゆっくり姿勢変更する。

 その横を、巨大な鉄骨フレームが高速回転しながら通過していった。

 警報音。

 接近デブリ。

 敵反応。

 狭い操縦席の空気が、どんどん張り詰めていく。

 その時だった。

 

「よっしゃ、そんじゃ行ってくるわ」

 

 軽い調子でシンヤが立ち上がる。

 

「おい」

 

 ジョンが振り返る。

 

「マジで出る気か?」

「逆に聞くけど、出ない理由ある?」

 

 シンヤは肩を竦めた。

 銀髪の長髪がふわりと揺れる。

 

「このまま囲まれてラクーン号ボコられる方が困るだろ」

「そりゃそうだが……」

「安心しなって」

 

 シンヤはニヤリと笑う。

 

「こういうグチャグチャした戦場、俺けっこう好きなんだよね」

 

 そう言うと彼は格納庫へ向かった。

 ゴートが静かに後を追う。

 

「無茶はするな」

「はいはい」

「聞いていないな」

「当然」

 

 サクラが溜め息をついた。

 

「本当に自由人ですわね……」

 

 数分後。

 ラクーン号下部格納ブロック。

 警告灯が赤く点滅していた。

 狭い格納庫内に収まる、白と青の流線型戦闘機――ビートアロウ。

 通常の軍用機より細身で、鋭いシルエット。

 宇宙戦闘だけでなく、大気圏内飛行まで想定した全領域対応機。

 機体表面へ、格納庫ライトが白く反射している。

 シンヤはコックピットへ飛び乗った。

 

『ピラー3、発進準備完了』

 

 通信が入る。

 操縦席でジョンが顔をしかめた。

 

「気軽に言うなぁ……」

『まあ見てなって』

 

 シンヤの声は楽しそうですらあった。

 

『すぐ片付けるからさ』

 

 格納庫ハッチ開放。

 重い金属音。

 宇宙の闇が広がる。

 その向こうには、ダートポッド部隊のスラスター光が無数に浮かんでいた。

 

『敵機接近!!』

『出てきやがったぞォ!!』

『戦闘機一機で何する気だァ!?』

 

 ジャークスピア側が騒ぎ始める。

 だが。

 シンヤはむしろ笑っていた。

 

『数だけ多いチンピラ共に、“本物”って奴を見せてやるよ』

 

 次の瞬間。

 ビートアロウのスラスターが爆発的な光を放つ。

 機体が一直線に宇宙へ飛び出した。

 加速。

 一瞬でラクーン号から離脱。

 その軌道は、まるで弾丸だった。

 

「うおっ……速ぇ……」

 

 ジョンが思わず呟く。

 ビートアロウは巨大デブリの隙間を縫うように飛行しながら、敵編隊へ突っ込んでいく。

 

『来やがった!!』

『囲め囲めェ!!』

『数で押し潰せば勝ちだァ!!』

 

 ダートポッド部隊が一斉に動いた。

 無数のレーザー。

 飛び交うミサイル。

 だが。

 

『遅い遅い』

 

 シンヤは笑う。

 ビートアロウが機体を捻る。

 レーザー回避。

 さらに急降下。

 そのまま目前へ漂っていた巨大輸送船残骸の内部へ飛び込んだ。

 

「はぁ!?」

 

 ジョンが目を剥く。

 残骸内部は崩壊している。

 狭い。

 障害物だらけ。

 しかも高速回転中。

 普通なら自殺行為だ。

 だがシンヤは躊躇しない。

 

『こういう所、ショートカットになるんだよ』

 

 ビートアロウが暗い船内通路を高速通過する。

 砕けた壁。

 漂う配線。

 散乱する金属片。

 その全てを紙一重で回避していく。

 追撃してきたダートポッド達が慌てて続いた。

 そして。

 一機目。側壁へ激突。

 爆発。

 二機目。回転していた大型配管へ衝突。

 機体真っ二つ。

 三機目。制御不能になり、そのまま別デブリへ突っ込む。

 

『ぎゃあああ!?』

『うわァァァ!!』

『止まれ止まれ止まれェ!!』

 

 火花と爆炎が連続する。

 その中をビートアロウだけが滑るように飛び抜けていった。

 

『あっははははは!!』

 

 シンヤの笑い声が通信へ響く。

 

『ヘッタクソだなぁお前ら!!』

 

 ジョンは半ば呆然としていた。

 技術が異常だった。

 空間把握能力。

 反応速度。

 機体制御。

 全てが桁違いだ。

 普通のパイロットなら数秒で死ぬ。

 だがシンヤは違う。

 むしろ、こういう狂った戦場ほど本領を発揮していた。

 

『右から来ますわ!』

 

 サクラの警告。

 大型デブリの陰から、新たなダートポッド部隊が飛び出す。

 

『今度こそ囲めェ!!』

『戦闘機一機で調子乗ってんじゃねェ!!』

『スクラップにしてやるゼェ!!』

 

 無数のレーザーが放たれた。

 だが。

 

『だから遅いって』

 

 ビートアロウ急旋回。

 レーザーの隙間を縫う。

 さらに機体を反転。

 今度は敵編隊の真下へ潜り込んだ。

 

『えっ――』

『下!?』

 

 レーザーバルカン連射。

 青白い閃光がダートポッドを貫く。

 一機爆散。

 二機目誘爆。

 三機目は破片を浴びて制御不能。

 さらに。

 

『ほい追加』

 

 プロトンランチャー発射。

 光の槍が敵編隊中央を吹き飛ばした。

 爆発。

 爆発。

 爆発。

 宇宙に火球が連続する。

 

『うわあああ!!』

『何なんだコイツ!?』

『速すぎるッス!!』

 

 ジャークスピア側の統制が崩れ始める。

 だがシンヤは止まらない。

 ビートアロウが加速。

 残骸の海を縫いながら、次々ダートポッドを撃墜していく。

 まるで。この狂った宙域そのものを、自分の武器として使っているようだった。

 

 無数のデブリが漂う闇の中で、爆炎が連続する。

 ジャークスピアのダートポッドが、次々と撃墜されていく。

 その中心に居るのは、たった一機のビートアロウだった。

 

『そらそらァ!!』

 

 シンヤの声が通信回線へ響く。

 ビートアロウが急旋回。

 直後、後方から迫っていたダートポッド二機が互いに衝突した。

 爆発。

 火花。

 飛び散る金属片。

 

『ぎゃあああ!?』

『避けろ避け――』

 

 叫びは爆音に掻き消えた。

 さらにシンヤは止まらない。

 ビートアロウが巨大デブリの陰へ滑り込む。

 追撃するジャークスピア機。

 だが次の瞬間、残骸裏側からビートアロウが飛び出した時には、既に敵の背後を取っていた。

 

『はい残念』

 

 レーザーバルカン連射。

 ダートポッド爆散。

 さらにその爆発へ別の機体が巻き込まれる。

 

『うおおお!?』

『どこから出てきやがった!?』

『速すぎッス!!』

 

 通信が混乱に染まっていく。

 操縦席でそれを見ていたジョンは、半ば呆然としていた。

 

「……何なんだアイツ」

 

 思わず漏れる。

 

「強ぇとかそういうレベルじゃねぇぞ……」

 

 戦闘機動が異常だった。

 普通なら死角になるデブリ帯。

 普通なら突っ込めない残骸内部。

 普通なら回避不能な障害物群。

 シンヤはそれら全てを利用していた。

 戦場に存在する“危険”そのものを、自分だけの地形として使っている。

 

「すごい……」

 

 ポッピーも息を呑んでいた。

 戦闘知識など無い彼女ですら分かる。

 あれは別格だ。

 

「右から二機」

 

 デュミナスが静かに言う。

 その瞬間、ビートアロウが機体を反転。

 レーザー回避。

 さらに急加速。

 すれ違いざまに放たれたバルカンが、敵機のコックピット部分を正確に撃ち抜いた。

 

『うわァァァ!?』

『またやられ――』

 

 爆発。

 火球が宇宙に広がる。

 シンヤは笑っていた。

 

『いやぁ、今日は調子良いな俺!』

「アイツ絶対楽しんでるだろ……」

 

 ジョンは頭を抱えた。

 戦場だというのに、シンヤには妙な余裕がある。

 だが、その余裕を裏付けるだけの実力が確かにあった。

 ビートアロウがさらに加速。

 デブリの間を縫いながら敵機を追い詰める。

 ジャークスピア側は完全にパニック状態だった。

 

『逃げろ逃げろォ!!』

『無理無理無理!!』

『コイツ人間じゃねェ!!』

『化け物ッス!!』

 

 そして。

 数分後。

 宇宙に漂うのは、燃え尽きたダートポッドの残骸ばかりだった。

 生き残った機体は蜘蛛の子を散らすように撤退していく。

 その光景を見ながら、シンヤは満足げに鼻を鳴らす。

 

『よーし、大体片付いたかな』

 

 ビートアロウがゆっくり旋回した。

 

『どうよジョン? 俺カッコよくなかった?』

「いやまあ、強いのは認めるけどよ……」

 

 ジョンは苦笑する。

 

「何つーか、人間業に見えねぇんだよ」

『褒め言葉として受け取っとく』

 

 シンヤは得意げだった。

 その時だった。

 操縦席の警報が鳴り響く。

 

『高エネルギー反応接近』

「……何?」

 

 ジョンが眉をひそめる。

 レーダー画面へ、新たな反応が映し出された。

 巨大。

 ダートポッドなど比較にならないサイズ。

 しかも高速接近中。

 

「この反応……デカいぞ」

 

 ジョンの表情が変わる。

 デュミナスも仮面の奥で目を細めた。

 

「来るか」

『ん?』

 

 シンヤが周囲を見回す。

 

『まだ居たの?』

 

 その瞬間だった。

 闇を裂くように、極太のビームが飛来する。

 

『ッ!?』

 

 シンヤが反射的に回避。

 ビートアロウの横を、巨大な光線が通過した。

 直後。

 背後の大型デブリが蒸発する。

 

「うおぉっ!?」

 

 ジョンが叫ぶ。

 爆発。

 衝撃。

 巨大な残骸が真っ二つに吹き飛んだ。

 

『何だ今の!?』

 

 シンヤが急上昇する。

 そして。

 見上げた。

 巨大デブリ群の向こう側。

 そこに、“それ”は居た。

 巨大な鋼鉄の怪物。

 ワタリガニのような異形のシルエット。

 全長四十メートル級。

 機械化された巨大クロー。

 装甲の隙間から漏れる赤い駆動光。

 そして機体前面へ並ぶ、六門のビーム砲。

 

「馬鹿な!?ガチノゲーだと!?」

 

 ジョンが驚愕し、その名を叫ぶ。

 ガチノゲー改。

 宇宙戦争時代の遺物を、ジャークスピアが改修した巨大機動兵器だった。

 その巨体が。まるで宙域そのものへ君臨するように、デブリ帯の上へ鎮座していた。

 通信が開く。

 

『ヒヒヒ……』

 

 ノイズ混じりの笑い声。

 

『派手に暴れてくれたじゃねぇかだゾ……』

 

 丸いサングラス。

 坊主頭。

 モニターへ映る男の顔。

 ジャークスピア幹部――ロックス・ローズ。

 

『でもよォ……』

 

 巨大クローがゆっくり開く。

 

『ここからが本番だゾ?』

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