宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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44.

 ダストスポット宙域。

 無数の残骸が漂う闇の中。

 ガチノゲー改は、まるで古代の怪物のような威圧感を放っていた。

 全長四十メートル。

 巨大機動兵器。

 戦争時代の亡霊。

 その巨体がゆっくりと姿勢を変えるたび、周囲のデブリが重力に引かれるように軋みながら流れていく。

 赤いセンサー光が、獲物を探す肉食獣の目のように明滅していた。

 

『どうしたどうしたァ?』

 

 ロックスの声が通信へ響く。

 

『さっきまでの勢いはどこ行ったんだゾォ?』

 

 次の瞬間。

 ガチノゲー改前面のビーム砲が発光した。

 

『ッ!』

 

 シンヤが即座に機体をロールさせる。

 極太のビームが宇宙を焼き払った。

 轟音。

 閃光。

 熱量。

 ビームが通過した後方で、巨大デブリ群がまとめて蒸発する。

 ラクーン号操縦席でジョンが顔を引き攣らせた。

 

「冗談だろおい……」

 

 さっきまで相手にしていたダートポッドとは、次元が違う。

 火力が異常だった。

 まともに掠めただけでビートアロウですら終わる。

 

『ヒャハハハハ!!』

 

 ロックスが笑う。

 

『避けろ避けろォ!!踊れ踊れだゾォ!!』

 

 六門のビーム砲が連続発射される。

 光線が乱舞する。

 デブリ帯そのものが砕け散っていく。

 シンヤは歯を食いしばった。

 

『クソッ……!!』

 

 ビートアロウが急加速。

 巨大残骸の陰へ飛び込む。

 だが次の瞬間。

 ガチノゲー改のビームが残骸ごと貫通した。

 爆発。衝撃波。

 ビートアロウが吹き飛ばされる。

 

『ぐっ!?』

 

 警報。

 火花。

 コックピットが激しく揺れる。

 シンヤは無理やり機体を立て直した。

 

『マジかよ……火力おかしいだろ……!』

 

 額に汗が滲む。

 今までの余裕が薄れ始めていた。

 相手は巨大だ。

 鈍重にも見える。

 だが火力が違いすぎる。

 しかもデブリごと破壊してくるせいで、この宙域最大の利点である障害物利用が成立しない。

 隠れても消し飛ばされる。

 回避を続けるしかない。

 

『どうしたァ!?』

 

 ロックスの叫び。

 

『さっきみたいにヒョイヒョイ飛んでみろだゾ!!』

 

 ガチノゲー改が巨大クローを振るう。

 クローが大型デブリを掴み、そのまま投げつけてきた。

 

「うおっ!?」

 

 ジョンが叫ぶ。

 直径数十メートル級の残骸が高速回転しながら飛来する。

 シンヤは咄嗟に回避。

 だが、そこへビーム。

 

『ッ!?』

 

 爆発。

 ビートアロウが衝撃で横転した。

 警報音が鳴り響く。

 

『機体損傷警告』

『左翼被弾』

『姿勢制御低下』

「シンヤ!!」

 

 ジョンが叫ぶ。

 

『だ、大丈夫……!!』

 

 だが声に余裕は無かった。

 ビートアロウ左翼から火花が散っている。

 推進バランスが崩れ、機体が不安定に揺れていた。

 

『ヒヒヒ……』

 

 ロックスが笑う。

 

『逃げ回るだけじゃ勝てねぇだゾ?』

 

 ガチノゲー改がゆっくり前進する。

 巨大な鋼鉄の蟹が、宇宙の闇を這う。

 その威圧感は圧倒的だった。

 ビートアロウ一機では、火力差が大きすぎる。

 シンヤもそれを理解していた。

 

『……チッ』

 

 操縦桿を握る手へ力が入る。

 だが諦めるつもりは無い。

 ビートアロウが再加速。

 ガチノゲー改の死角へ回り込もうとする。

 しかし。

 

『見えてんだゾォ!!』

 

 巨大クローが振り下ろされた。

 

『うおっ!?』

 

 回避が間に合わない。

 クローがビートアロウを掠める。

 衝撃。機体が吹き飛んだ。

 ビートアロウが回転しながらデブリ群へ突っ込む。

 火花。装甲破片。警報音がさらに激しくなる。

 

『ぐ……っ!!』

 

 シンヤの表情が歪む。

 コックピットへ赤い警告灯が点滅していた。

 

『マズいなこれ……』

 

 機体損傷率上昇。

 出力低下。

 このままでは次で終わる。

 だがロックスは容赦しない。

 

『終わりだァ!!』

 

 六門のビーム砲が、一斉にシンヤ機へ向けられた。

 逃げ場が無い。

 デブリ帯に追い込まれている。

 回避不能。

 ラクーン号操縦席で、ジョンが息を呑んだ。

 

「シンヤァ!!」

 

 その時だった。

 横合いから、青白い閃光が走る。

 レーザー。正確な射撃。

 ガチノゲー改のビーム砲一門へ直撃した。

 

『なァ!?』

 

 ロックスが叫ぶ。

 次の瞬間。

 白と青の機影が高速で飛び込んでくる。

 もう一機のビートアロウ。

 通信が開いた。

 

『……派手にやられているな』

 

 低く、落ち着いた声。

 ゴートだった。

 

『一人で格好をつけようとするからだ』

『ゴートぉ!!』

 

 シンヤの声が一気に明るくなる。

 ゴート機はシンヤ機の前へ出るように旋回した。

 まるで盾のように。

 そして。

 ガチノゲー改を真正面から睨み据える。

 

『ピラー2、戦闘参加する』

 

 静かな宣言。

 しかしその声には、鋼鉄のような重みがあった。

 

『ヒャハハハハ!!』

 

 ロックスの狂った笑い声が通信回線を震わせる。

 

『どうしたァ!? さっきまでの勢いがねぇじゃねぇかだゾォ!!』

 

 ガチノゲー改前面に並ぶ六門のビーム砲が赤熱した。

 次の瞬間。

 六本の極太ビームが宇宙を焼き払う。

 光。熱。爆発。

 デブリ帯そのものが蒸発していく。

 その光景を見て、ジョンは操縦席で思わず顔を引き攣らせた。

 

「ふざけた火力しやがる……!」

 

 巨大な輸送船残骸が、まるで紙細工のように吹き飛んでいく。

 まともに直撃すれば、ラクーン号など一瞬で消し炭だ。

 だが。

 二機のビートアロウは、その暴力的な砲火の中を縫うように飛翔していた。

 

『そっち行った!』

 

 シンヤ機が急旋回。

 巨大デブリの陰へ滑り込む。

 その直後、背後をビームが掠めた。

 爆発したデブリの破片が豪雨のように飛び散る。

 普通なら回避不能。

 だがシンヤは笑っていた。

 

『危なっ。今ちょっと焦げたんだけど!?』

『喋る余裕があるなら問題ない』

 

 ゴート機が反対側から飛来する。

 レーザーバルカン連射。

 ガチノゲー改の側面装甲へ火花が散った。

 

『チマチマうぜぇんだゾ!!』

 

 ロックスが吠える。

 巨大クローが横薙ぎに振るわれた。

 その一撃だけで、周囲のデブリがまとめて吹き飛ぶ。

 だが。

 二機は既にその場に居ない。

 シンヤ機が上。

 ゴート機が下。

 まるで獲物を翻弄する猛禽類のように、立体的に飛び回っていた。

 

「すげぇ……」

 

 ジョンは思わず呟く。

 連携が異常だった。

 どちらかが囮になれば、もう片方が死角へ入り込む。

 ロックスがシンヤを狙えば、ゴートが撃つ。

 ゴートへ砲口を向ければ、今度はシンヤが背後へ回り込む。

 しかも二人とも、デブリ帯を完全に利用していた。

 障害物だらけの空間を、まるで自分の庭のように飛び回っている。

 

『おらおらどうしたァ!?』

 

 シンヤ機がわざとガチノゲー改の正面を横切る。

 

『そのデカい図体飾りか!?』

『ガキが調子乗るんじゃねぇだゾォ!!』

 

 ロックスが完全に頭へ血を上らせる。

 ガチノゲー改が猛烈な勢いで追撃を開始した。

 巨大クローがデブリを粉砕しながら迫る。

 その光景はまるで、巨大な鋼鉄の怪物が宇宙そのものを喰い荒らしているようだった。

 シンヤ機はわざとギリギリの距離を保ちながら逃げ続ける。

 

『ほらほら、捕まえてみろって!』

『ぶっ潰してやるだゾォ!!』

 

 ジョンはそこで気づいた。

 

「……待て」

 

 レーダー。

 シンヤ機の進路。

 その先。

 大量の反応。

 

「まさか――」

 

 デュミナスが静かに言う。

 

「誘導している」

 

 その声は落ち着いていた。

 最初から分かっていたように。

 ガチノゲー改はシンヤ機を追い、デブリ帯奥深くへ突っ込んでいく。

 そこには。

 宇宙機雷。

 ジャークスピアが仕掛けていた罠が、そのまま残されていた。

 無数。しかも高密度。

 

『ロックスさん前ェ!!』

 

 残存していたジャークスピア構成員の絶叫が通信へ響く。

 

『あァ!?』

 

 ロックスが前を見る。

 その瞬間。

 シンヤ機急上昇。

 ゴート機離脱。

 二機のビートアロウが左右へ散開した。

 そして。

 巨大なガチノゲー改だけが、そのまま機雷原へ突っ込む。

 

『しま――』

 

 閃光。

 轟音。

 爆発。

 爆発。

 爆発。

 宇宙機雷が連鎖誘爆を始めた。

 凄まじい火球が宇宙を埋め尽くす。

 ガチノゲー改の巨体が爆炎に飲まれた。

 

『ぐおおおおおおお!?』

 

 ロックスの悲鳴。

 右脚部爆散。左クロー損傷。前面装甲亀裂。

 巨大な鋼鉄の蟹が、内部から引き裂かれていく。

 誘爆は止まらない。

 次々と機雷が爆発し、ガチノゲー改の装甲を剥ぎ取っていく。

 ジョンは息を呑んだ。

 

「うわ……」

 

 戦艦クラスの機動兵器が、火炎の中でのたうち回っている。

 その光景は、獣が群れの軍隊アリに食い荒らされているかのようですらあった。

 

『クソがァァァ!!』

 

 ロックスが絶叫する。

 

『こんな卑怯な真似しやがってェ!!』

『卑怯?』

 

 シンヤが笑う。

 

『チンピラに言われたくねーなぁ』

『戦場に正々堂々なんて無い』

 

 ゴートが静かに続ける。

 

『終わりだ』

 

 二機のビートアロウが並ぶ。

 白と青の機体。

 その下部装甲が展開する。

 プロトンランチャー。高出力粒子砲。

 砲口が赤熱する。

 ロックスが目を見開いた。

 

『待――』

『遅い』

 

 二機同時発射。

 青白い奔流が宇宙を貫いた。

 プロトンランチャーが、機雷爆発で損傷したガチノゲー改中央部へ直撃する。

 一瞬。

 沈黙。

 次の瞬間。

 ガチノゲー改内部から、膨れ上がるように光が漏れ出した。

 

『あ……?』

 

 ロックスの間抜けな声。

 そして。

 大爆発。

 轟音が宇宙を震わせる。

 巨大機動兵器が内側から吹き飛んだ。

 クローが千切れ飛ぶ。

 脚部が砕け散る。

 六門のビーム砲がバラバラに爆散する。

 最後に中央胴体が崩壊し、巨大な火球が宇宙空間へ広がった。

 その光は、一瞬だけダストスポットを昼のように照らした。

 やがて。

 残ったのは、燃えながら漂う鋼鉄の破片だけだった。

 

『ロックスさんがやられたァ!?』

『撤退だ撤退ィ!!』

『無理無理無理!!』

『逃げるッス!!』

 

 残っていたジャークスピア機が一斉に逃走を始める。

 スラスター光が蜘蛛の子を散らすようにデブリ帯奥へ消えていった。

 

『……逃げ足だけは速ぇな』

 

 シンヤが呆れたように言う。

 

「追いますか?」

 

 サクラが尋ねる。

 

「不要だ」

 

 デュミナスが即答した。

 

「我々な目的はラクーン号の護衛だ。余計な戦闘は避ける」

 

 その間にも、セリアとサクラは残存機雷の除去作業を続けていた。

 

「右側ルート安全確認ー」

「こちらも除去完了ですわ」

 

 宇宙機雷が次々と爆破されていく。

 やがて。

 ラクーン号前方航路から脅威反応が消失した。

 ジョンは深く息を吐く。

 

「……生きた心地しなかったぞ」

「まだダストスポットを抜けた訳ではない」

 

 デュミナスが静かに言った。

 

「気を抜くな」

「へいへい……」

 

 ラクーン号がゆっくり前進を再開する。

 その左右へ、二機のビートアロウが並んだ。

 白と青の戦闘機が護衛するように飛行する。

 漂うデブリ。

 燃え尽きた残骸。

 そして静かな宇宙。

 激戦を終えたラクーン号は、再びダストスポットの外へ向けて進み始めた。

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